同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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 懇親会も終わり、演習試合のイベントはつつがなく終了となった。神奈川第一鎮守府の艦娘たちとのお別れの時。様々な思いをいだきつつ、それぞれ帰路につく。


一日の終わり

 懇親会は1時間ほどでお開きとなった。

「えー、ご歓談中であると思いますが、このへんで一度お開きとさせていただきます。この後のスケジュールですが、神奈川第一の皆様は帰られるということなので、支度のほど我々もお手伝いし、お見送りさせていただきます。今回弊局に見学しにきてくださった皆様は、ここで自由解散とします。知り合いの艦娘と引き続き敷地内を見学なさっても結構です。本館内は1階のみ自由に居てくださってかまいません。それから……」

 提督の案内に皆思い思いに相槌を打ち、この後の予定と行動をどうするか考え始める。その一方で神奈川第一の艦娘達は西脇提督の案内の後、鹿島を中心に集まって合図の元に帰り支度を始めた。

 

 那珂たちは彼女らの艤装をトラックに積み込むのを手伝うため、神奈川第一の艦娘の後をついていくことにした。そんな鎮守府Aの艦娘の後ろを見学者たちがついていくという、いわゆるカルガモの親子の引っ越し状態が出来上がっていた。

 

 

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 工廠前に停められたトラックに神奈川第一の艦娘達の艤装を積み込む。その作業は本来であれば運搬用のリフトを使い技師達が行うことになっていたのだが、那珂達はせっかくということでそれを自分達が代わりにすることにした。

 作業に真っ先に加わったのは那珂達川内型だ。三人はもっとも外装が少なく、コアユニットのみの装備であっという間に地上でも艦娘になることができたためだ。外装の多い五十鈴達や時雨たちは明石に頼んで取り外せる外装は全て外してもらい、限界まで軽装化してから積み込み作業に臨むことにした。

 程度の差はあれどどの少女も、地上であるために移動は海上のようにいかないながらも腕力や身のこなしは海上で発揮するのと同じ力量を簡単に発揮できる状態になって、神奈川第一の艦娘達の艤装を持ち運び始めた。

 

「申し訳ございません皆さん。手伝ってもらってしまって。」

 鹿島が前の前で自身らの艤装が運ばれる様子を申し訳なさそうに見て言った。那珂は試合の疲れを感じさせぬ溌剌とした声で受け答えをする。それに川内が続く。

「いーえいーえお気になさらずに! だって手伝いたかったんですもん。ね、みんな?」

「はい!これくらい朝飯前ですよ!」

「(コクリ)」

 神通は不知火と一緒に運んでいたことと、特に反応を示す必要もないだろうと判断したため、無言で頷くに留めた。それを見て不知火も同じく首を縦に振って返事とした。鎮守府Aの他のメンツはやや離れたところから那珂の言葉に賛同を示しあった。

 

 艦娘とはいえ見た目普通の少女であるクラスメートがいかにも重そうな機材を運ぶ光景を目の当たりにした和子ら高校生、五月雨達の同級生たる中学生たちは我が目を疑う。そしてそんな光景をネットテレビ局の取材クルーが引き続き撮影していた。途中、同学校からの生徒に艦娘の艤装を試しに持ってもらい自身らと対比し、それをネットテレビ局に撮影してもらうという余興を挟んで艦娘の陸上での実情をアピールすることも忘れない。

 そして神奈川第一のトラック車に艤装を全て積み込み終わった。

 

 

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 先にトラック車に出発させ、残る神奈川第一の艦娘らを送り出すことになった。那珂たちは工廠前から移動し、本館前の正門に戻ってきた。神奈川第一の艦娘達が乗り込むマイクロバスを車道脇に停め、那珂たちと鹿島や天龍らは向かい合って立ち並んだ。

 

「それでは皆さん、これで失礼させていただきます。」

「この度は演習してくださり誠にありがとうございました。またよろしくお願いいたします。」

「ウフフ。こちらこそありがとうございます。」

「道中お気をつけて。」

 鹿島と挨拶を交わす提督はやや頬に熱を保ちドギマギしながら鹿島の言葉に頷きそして互いに手を前に差し出し握手をしあう。そんな管理者二人の周りで那珂たちもまた揃って別れの挨拶を口にしあっていた。

 

「天龍ちゃん、霧島さん、それから鳥海さん。この度はホントーにありがとうございました!」

「おう!今回は那珂さんにやられたけど、次は負けねーからな。」

「私も結構油断があったから反省してるわ。あなた達との戦い、勉強になるものがあったわ。やっぱり他の鎮守府の艦娘との演習はいいものね。」

「うん。あたしたちもためになったよ。鳥海さんも……あ。」

 

 那珂が天龍・霧島から視線を鳥海に移すと、彼女は車に詰め込んだ荷物の確認をしている婚約者の男性と寄り添っていた。しかし那珂からの視線を感じて向き直して那珂らに近寄ってきた。

「艦娘生活最後にあなたのような強い人と出会えて本当によかったと思います。もっと早くこちらの鎮守府との演習試合が実現していれば良い交流ができたんでしょうけれど。」

「エヘヘ。私もそー思います。」

「今回私が得た経験はしっかりとうちの艦娘達に教え伝えます。そこまでが私の仕事でしょうから。そして次に千葉第二と演習試合するときは圧勝してみせます。覚悟してください。」

 鳥海の口調は優しげだが厳とした鋭さもあった。那珂はたじろぐものの笑顔を絶やさずに接した。

 

 

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 那珂たちが言葉を交わす一方で、川内もまた仲良くなった神奈川第一の艦娘たちと別れの挨拶をかわしていた。

「じゃあね、暁、響、雷、電。直接戦えたわけじゃないけど、初めての演習試合なんだかんだで楽しかったよ。」

「お互い前半戦でやられちゃったものね。でも私も楽しかったし勉強になったわ。川内が言ってた通り、那珂さんはほんっとに強いのね。あの鳥海さんをあそこまで追い詰めるなんて。すごいわ!」

 暁がそう口にすると響がコクンと頷き、そして雷と電が言葉で反応を返した。

「うちにも軽巡洋艦那珂が着任したらああいう感じの人になるのかしら?」

「強い人だといいのです。」

 

「アハハ。あんな人がこの世の中に2人もいたら周りは疲れるってば。あたしとしては一人いてくれりゃ十分だけどさ。」

 川内の言い返しに暁たちは苦笑する。

「な、なんにせよそう思える人がいるっていいわね~。」と暁。

「そう、だね。」

 響が小さく言葉で同意すると、川内が尋ねた。

「そっちにだっていれば安心って人いるでしょ?」

「うーん、あんまりそういうの意識したことないわ。電はどう?」

「えぇと。私からしてみると、むしろ軽巡や重巡の人達みんなそうなのです。」

 雷が尋ねると電は当たり障りのない無難な答えを口にする。それは素直な気持ちと理解していたのか、雷も暁・響も強く頷いて同意を示すのだった。

 

「演習試合もそうだけど、私達は有る種目的を果たせたから満足ね。」

 いきなり方向性の違う事を言い出す雷。それに電と暁そして響は頭にクエスチョンマークを浮かべて呆ける。が、雷から耳打ちされてすぐに理解で表情を明るくしかしニヤケ顔にする。

「川内が気になって仕方ない西脇提督を見られたんですもの。」と雷。

「うえっ!?」

「そ、そういえばそうだったわね。うちのパパ司令官より若くて頼りなさげだったけど、ちゃんとリーダーしてて結構かっこいい人だったじゃないの。うん。川内ってばああいう人がタイプなのね~。」

暁が達観したように頷きながら言う。

「はわわ……。」

「ちょ!ちょ! そんなんじゃないっての! 単にぃ~、兄貴的な感じで……そこまでいえば大体わかるでしょ!?ホラホラそういう話はもういいから!」

 雷の茶化しに暁が乗り、電が顔を真赤にしてうつむき、響が視線を若干そらして口に手を当てて方を小刻みに揺らして耐える。川内は4人のそれぞれを受けて頬を赤らめてアタフタと取り繕った。

 暁達4人が顔を寄せ合ってヒソヒソ話をしている中、その輪に入り込めぬ川内はバツが悪そうに頭を乱暴にかきむしって明後日の方向を見て、その輪が解けるのを待っていた。

 

 

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 神通は五月雨、そして神奈川第一の隼鷹・飛鷹とともに別れの挨拶をかわし合っていた。

「お二人の艦載機、とってもすごかったです!私達ずーっと苦戦してましたもん。」

「あなた達こそ中々手強かったよ。色々考えさせられたな~って思ったもの。」

 五月雨の純度100%の感想に飛鷹が返した。

「そっちにも早く空母の艦娘が着任するといいわね。その時また再戦願いたいわ。もちろんあなたの偵察機の操作テクもなかなか良かったわよ。」

「うぅ……恐縮、です。」

 隼鷹が神通を評価すると、神通は恐縮しペコペコした。

 

「ところで……神通さん。その後身体の調子は大丈夫?」

「あ、はい。もう大丈夫です。なんだかんだで……着任当初から体力づくりは欠かしてませんから。」

「フフッ。あまり無理しないでね。」

 隼鷹の心配に神通はペコペコしながらも強気で返す。そんな神通を隼鷹は微笑み返して労うのだった。

 

「じゃ、またね。」と飛鷹。

「それじゃあね。」隼鷹も続けて口にした。

「「はい。お気をつけて。」」

 神通と五月雨は揃って晴れやかな笑顔で二人に返すのだった。

 

 

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 それぞれの挨拶が終わり、やがて鹿島を除く神奈川第一の艦娘全員がマイクロバスに乗り終わった。鹿島はバスの乗車口前に立ち、代表して最後の挨拶を述べる。

「それでは西脇提督、それに皆さん、失礼致します。」

「本日はご足労いただきありがとうございます。道中お気をつけて。のちほどメールでも連絡差し上げますが、村瀬提督にもよろしく伝えておいてください。」

「ウフフ。はい。それでは……。」

 

 鹿島が乗り込み、バスの扉がプシューという音とともに閉まった。そしてやがてゆっくりと速度を上げて那珂達から遠ざかっていく。西脇提督と那珂達鎮守府Aの面々は神奈川第一の艦娘達の乗せたバスが見えなくなるまで手を振り続けるのだった。

 

 

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「さてと。皆、今日はご苦労様! これで本日のイベントは終わりです。この後は後片付けだけど、那珂達はなにかあるのかい?」

 提督がそう尋ねると、那珂は川内と神通そして阿賀奈を呼び寄せて話を確認し合った。

「見学会としては一通り皆に見てもらえたから、あたし達はそろそろ皆と一緒に帰ろうかなって思ってるよ。あとはうちの学校内の連絡とかあるからちょっとだけ場所貸して。」

「あぁいいよ。会議室を使うといい。」

 

 提督がそう促すと、那珂は同高校の皆に合図を出し会議室へと向かうことにした。同じく五月雨達は自分の中学校から見学に来た生徒達、不知火も少ないながらも同級生達と場所を変えて小打ち合わせに臨んでいった。残る提督や妙高・明石ら大人勢は片付けおよびネットテレビ局の撮影の締めのため、少女たちに続いて本館へと入っていった。

 

 会議室に集まった那珂たち同高校のメンツは、見学会の締めとして連絡会を行っていた。

「鎮守府公式の演習試合のイベントも終わって、あたし達の見学会としてもスケジュールは全て終了しました。皆さん色々感想を持っていただけたかと思いますが、それをぜひSNSや学校のホームページで感想を述べて情報共有していただけると艦娘部として助かります。」

「そ~ですよ~皆さんの自主的な情報共有は大事ですよ~! ちなみに艦娘部の三人はレポート提出必須ですからね~。来週までにまとめてくださいね~。」

 那珂の言葉の勢いに乗って阿賀奈が言う。部活動の範疇としてしっかり釘を差された形の那珂ら三人はほんわか顧問のセリフに“えぇ~~!”という本気半分冗談半分のリアクションを取る。生徒達や他の教師はその光景を見てクスクスと笑いを漏らした。

 

「それからメディア部の井上さん、今回色々撮ってもらったと思うけどどうでした?」

 那珂が尋ねると、井上はカメラとタブレットの操作を一旦止めて視線を那珂たちに向けた。

「えぇ。えぇ。とりあえず撮りまくってマイク集音最大で皆さんの意外な会話もしっかり動画撮影しておきましたので、いかようにでも編集することはできます。我がメディア部からの記事にも期待していただけると幸いです~。」

 試合以外大したことしてないし、変な内容の記事が書かれることはないだろうと判断した那珂は井上の発言に言葉なくコクンと頷いて相槌を打ち、引き続きの確認・編集作業に没頭してもらうことにした。

 

 その後見学会に参加した生徒達から自由な意見を集めたところ、工廠で整備をする技師に惹かれたのか、艦娘とまではいかないが技師として那珂ら同高校からの艦娘を支えたいという申し入れがあった。

「おぉ~! それは嬉しいなぁ~! ○○くんと○○くんに△△さんね? うんうん。そういう形での艤装装着者制度への参加も是非お願いしますって提督も明石さんも前々から言ってたんだよね~。だからこのことはしっかり伝えておくよ。もしなんだったら別日程で工廠の見学を明石さんにお願いするし。君たちの意思が固いんだったら艦娘部としてもあたしと四ツ原先生が入部を認めます。いいですよね、先生!」

「えぇ!もちろんです! 青春ね~~。部活動に生徒が集まってくるなんて。先生顧問冥利につきちゃうわ~。」

 その後の阿賀奈の妙な悶え方は無視することにして、那珂は話を締める方向へと進めた。

 

「それじゃー連絡事項はこれで終わりです。皆さん今日はお疲れ様でしたー! 最後は提督にお別れの挨拶して帰りましょ。」

 那珂の音頭に生徒達は異なる温度差ながらも賛同しあうのだった。

 

 会議室を出た那珂たちは、まだロビーで片付けをしていた提督にひと声かけた。

「提督。会議室使い終わったよ。」

「お。もう帰るかい?」

「うん。皆を送った後片付け参加するから待ってて。」

 那珂のセリフに神通が強く頷き、川内が渋々そうに頷く。そんな三人を見て提督は笑って返した。

「いやいやあともう少しだし今日はいいよ、そのまま帰って。」

「そーお?それじゃあお言葉に甘えちゃうよ。後でやっぱ手伝ってーっていってももう家にいるかもしれないよ。」

「はいはい。大丈夫だって。安心して帰宅しなさい。」

「よーっし、提督からあたし達も帰っていい指示が出たから一緒に帰るよ川内ちゃん、神通ちゃん!」

「おー!やったぁ!もうヘトヘトだったんだぁー!」

「(コクコク)」

 

 その後、提督は那珂たちに続いて挨拶のため前に出てきた阿賀奈ら高校教師達と社交辞令的な会話をしあう。先に本館を出た那珂ら生徒達は教師達が提督・妙高を伴って出てきたのを確認した後、一礼して歩みを鎮守府外へと向けて再開しだした。

 

 

 


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