同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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 支援艦隊として務めていた五十鈴らを襲う敵機。対空慣れしていない彼女らの結末は・・・。


支援艦隊の防衛戦

 神通の行動に疑問をいだいたのは霧島達だけではなかった。監督役および見学側として堤防沿いに観客とともにその場にいた提督や、不知火の治療開始を見届けてから戻ってきた川内もその行為を目の当たりにした。

 

「いや~お待たせ~。後は技師の○○さんたちが病院に連れて行くってさ。ねぇねぇ提督。戦況はどう?」

「あぁ川内か。神通と五月雨すごいよ。二人だけの雷撃で戦艦霧島と軽空母飛鷹を倒したよ。」

「マジで!? う……なんかあたし神通にあっという間に追い越されそう。」

「ハハッ。あの娘は順調に経験を積んでるな。あながち現実になるんじゃないか?」

「うー。提督の意地悪!」

「ゴメンゴメン。でも成長の度合いなんて人それぞれだから、気にすんな。君は別のやり方で活躍してくれればいいんだよ。」

「まぁ……わかるけどさぁ……。」

 口をとがらせ不安を湧き上がらせる川内を提督はカラッとした笑いでからかいつつ最後は励まして落ち着かせた。

 

「ところで……神通と五月雨ちゃん、なんで隼鷹に近づかないだろうね?」

「間合いとかタイミングとか図ってるんじゃないか?」

 

 提督と川内、そして周りの観客が見ている中、神通と五月雨は隼鷹に追い打ちをかけるどころか、逆の方向つまり那珂と鳥海の戦いの方向へと向かうべく動き出そうとしていた。

 

「えっ? 神通ってばどっち行くのさ!? まだあの隼鷹ってやつ轟沈してないでしょ?」

 川内の言葉に反応して会話に入り込んできたのは、タブレットと実際の光景を交互に見て確認していた明石だ。

「そ~ですねぇ。まだ隼鷹さんは轟沈していません。それに艤装の健康状態は○○%です。中破までは後少しですが行動に支障はありませんね。」

「敵の艤装の健康状態なんて読み取れないし、距離あるとまた艦載機の餌食になるの多分わかってないぞ。何考えてんだ二人は。」と提督。

 

「神通ってば……大丈夫かなぁ。教えたいけど、口出ししちゃダメなんでしょ?」

 提督と明石は同時に頷いた。

 川内はたった今明石から聞いた敵の状態を伝えたかったが、提督と明石に釘を刺されたため眉をひそめ腕組みして見守るしかなかった。

 

 

--

 

 そんな堤防沿いからの懸念にも気づくことなく、神通達は前進していた。移動しながら主砲の砲身の向きを調整する。前方の戦いにすぐ対処できるよう、ペイント弾の装填をステータスアプリの更新ボタン連打で急がせつつ。

 前方では激しい戦いが続くと思いきや、静かに対峙する那珂と鳥海がいた。今のうちなら通信しても問題ないと踏み那珂に通信を試みた。

 

「那珂さん、こちらは戦艦を倒しました。」

「神通ちゃん? やったね~。こっちはなかなか切り抜けられそうにないよ。参った参った~。」

 那珂は台詞の最後に苦笑を交えて愚痴る。しかしそれほど苦戦しているように感じられない口ぶりだ。

「私も加勢します。挟み撃ちにして雷撃をしましょう。」

 神通は那珂に提案してみた。那珂からの返事は数秒経った後聞こえてきた。

「あー無理。タイミングがもう図れないんだよね。思った以上に駆逐艦の動きがいい仕事してるし。」

「それではその駆逐艦達を先に倒すように狙いましょうか?」

「うーん、それもどうかな。鳥海さんが妙にかばってる素振りしてるからなぁ~。狙いの精度や回避力が上がってて、敵も本気出してきたわ~って感じ。」

 那珂の言は歯切れ悪く聞こえた。食い下がって神通は提案を続けたが、那珂からは想定せぬ返しを受けてしまった。

「……では、今のこの距離で私達がそうっと最大速の雷撃するか、五十鈴さんたちに支援砲撃を頼みましょうか?」

「うーんとね、そっちはそっちで最後まで倒してね。まだ一人轟沈判定上がってない人いるでしょ。」

「え? あぁ、隼鷹さんですね。あの雷撃で生き残ったのは意外でしたが、きっと彼女は中破しているかと。となると艦載機が使えないはずですので、危険度は低いかと。」

 神通がやや自信ありげに自信に関わる先程までの戦況を説明すると、那珂はそれに喜ぶ声色を示さず、静かに返してきた。

「……神通ちゃん、その判断は危険かなぁ。」

「え?」

「そういうの慢心って言うんだよ。今あたし鳥海さんから目離せないからそっちを構えないから、一度状況を確認してね。あたしとしては鳥海さんとの戦いに集中したいんだよね。だからそっちには後方の安全を任せたよ~。」

「わ、わかりましt

 

 神通が那珂に返事をし終わるが早いか、五月雨が叫んだ。

「神通さん!! 何か飛んできます!!」

「えっ!?」

 那珂の不安、五月雨の不安は現実のものになった。

 真っ先に気づいた五月雨が追加情報を急いで口にした。

「160度の方向、えとえっと私の右後ろです!!」

 五月雨の急いた指摘を耳にした神通は素早くその方向に視線を向けた。目を細めて凝視する必要もなくすぐにその物体がわかった。

 

 

ブーン……

 

シュバッ!!

 

 

「きゃっ!」

「きゃあ!」

 

 

 高速の攻撃機は神通達スレスレで上空に旋回し急上昇して飛び去る。二人は突然の攻撃機の襲来にバランスを崩し、まっすぐの前進をやめて蛇行し、ぐるりと反時計回りに旋回して脅威から逃れる移動を続けた。

 急上昇した攻撃機は大きく縦回転をして再び海面へと降下していく。

 そして海面スレスレを風圧により水しぶきを巻き上げながら神通達めがけて直進しながらエネルギー弾をボトボトと海中に落とした。

 それらは、青白い光を尾のように残しながらやがてスピードを攻撃機よりも上げて海中を進みだした。

 

「危ない! 右10度にずれて避けます!」

「はい!!」

 

 神通は素早く指示を口にして行動に移す。五月雨はそれに続いて移動し、攻撃機からの雷撃をかろうじてかわした。二人ともスピードに乗り始めていたためかわすのは問題なかったが、同時に敵攻撃機を見逃してしまった。

 時計回りに回頭し続けていざ攻撃機を見据えようとしたとき、それはすでに自身らの射程距離を抜けて遠く離れていた。

 

((まずい。向こうには五十鈴さんたちが……!))

 

 

 対空用意に遅れた神通が見た時は、敵攻撃機は神通たちを抜け那珂と鳥海たちを超えた先へと飛び去っていた。標的が五十鈴達に向いていることは火を見るより明らかだ。

 神通は慌てて通信する。

 

「五十鈴さん! そちらに攻撃機が向かってます!」

「……わかってるわよ!」

 

 五十鈴はなぜか若干の苛立ちを交えながらそれ以上の言葉を返さず、神通との通信をブチリと切った。

 

 

--

 

 自身らを追い回していた敵航空機が急に墜落していった。五十鈴たちはようやく空襲の恐怖から開放された。と同時に幸運の発表を聞いた。

 霧島・飛鷹の轟沈である。

 その前に轟いた雷撃の炸裂音がその全てを物語っていた。

 

「ふぅ……。やっと攻撃が止んだわ。どうやら神通達がやってくれたのね。」

「えぇそのようですね。これで私達も本分を果たせそうです。」と妙高。

 

 五十鈴が顔のこわばりを緩めて妙高の言に頷いて同意を示していると、隣にいた名取が駆け寄って来た。

 

「ふぇ~んりんちゃぁ~ん! 怖かった~! 生き残れたよぅ~!」

「ちょっ、名取!?」

 ガシッと効果音がせんばかりに抱きついてきた名取に五十鈴は驚いて裏声になりかけた。おとなしい名取こと宮子が感情的に抱きつくなどあり得なかったからだ。友人の珍しい一面に若干感動を覚えた五十鈴だが、すぐに彼女を引き剥がした。

 

「ホラ離れて! 戦場で抱きつかないの!危ないわよ。」

「あ、うん。」五十鈴に怒鳴られても名取は笑みを保って返事をした。

 

 二人の掛け合いを見て微笑んでいた妙高はタイミングを図り終えたのか、二人に言った。

「それでは二人とも被害状況等を報告してください。」

 その指示に五十鈴は目視およびスマートウォッチのステータスアプリで確認する。同じ手順を名取にもすぐに教えて同じようにさせた。

「五十鈴、外装に故障はありません。ただし耐久度が5%減です。」

「私はどこも問題ありませ~ん。あ、えっと。ステータスは……です。」

 五十鈴の報告に、自身のステータスをすべて読み上げての名取の報告が続く。妙高はそれを受けて体勢を立て直す作戦を言い渡した。

「改めて砲撃支援に移ります。五十鈴さんは念のため引き続き対空の警戒を、名取さんは流れ弾や魚雷があると危険なので周囲の警戒にあたってください。」

「了解。」「り、了解しましたぁ。」

 

 五十鈴と名取は眼前の様子を改めて見た。

 那珂と鳥海たちは五十鈴たちが空襲に悩まされていた一方で砲撃し、回避し、時々雷撃を撃ち、それを爆破処理して戦場たる海域に2~3mの水柱を立てたりし、それらの繰り返しをしていた。五十鈴達が落ち着いて観察できるようになったこの時遠目でその様子を見ても、那珂と時雨は鳥海達に決定打を与えているとは言い難い。

 

「まずいわね……さすがの那珂も切り抜けるのに苦戦してるわ。あの鳥海って人、一筋縄では行かないわ。」

「や、やっぱり早く助けたほうがいいよね……? ここから私たち砲撃する?」

 五十鈴の苦虫を噛み潰したような表情で行った洞察の一言に名取は不安げながらも助ける意思を示す。その言葉に頷くが、五十鈴は素直に同意しきれなかった。

「小説やドラマの世界だと隙がないとか良く言われるけど、正直どういう感覚なのかわからなかったわ。けどなるほど、現実にはこういうことを言うのね。」

「りんちゃん?」

 五十鈴は観察してはみたものの、砲撃をして当てられる自信が湧き上がらない。外野が砲撃をするのを許す空気を鳥海は纏っていない。なんとなくゾワリと身体が震える。それが感じ取れた。

 

 つまり鳥海には隙がない。

 

 五十鈴はテレビなどの物語でしか聞いたことが無い”隙がない”という状態を現実に初めて感じ取ることができた。腕が上がらない。鳥海を狙うべく睨みつけても、妙な覇気を察知してすぐに視線をそらしたくなる。臆病風に吹かれでもしたのかと自分を揶揄したくなってくる。

 

 そんな臆病めいた自分にバチがあったかのような事態が通信で伝わってきた。というよりも鳥海から外した視線の先に異変があるのに気づいたのだ。

 

「五十鈴さん! そちらに攻撃機が向かってます!」

「……わかってるわよ!」

 

 神通からの通信。五十鈴の視界の先で神通と五月雨が急に動き激しく何かをかわすのが見えた。そして小さく聞こえるプロペラ音。さきほどまで苦しめられていた存在だ。

 隼鷹の艦載機が飛んできたのだ。

 五十鈴は自分への腹立たしさをこちらの心境など知らぬ神通にぶつけて彼女からの通信をブチリと切り、妙高と名取に報告した。

「航空機が一機。いえ……その先に……もう二機!? 飛んできます! 妙高さん、対空準備しますから、回避運動の指示お願いします!」

「えぇ、このまま停止していたら危険ですしね。速力スクーターで発進。五十鈴さんを先頭、名取さんは私の後ろについてください。」

「「はい!」」

 妙高は素早く返事をし、そして指示を出して3人だけの支援艦隊を再起動させた。

 

 ほどなくして隼鷹の航空機がやってきた。その後ろからもう二機も迫って合流しようとしている。

 先頭を任された五十鈴はその後の妙高の指示どおり、大きく8の字を描くようにその場の海域を動き先導する。最初の1機目が後の2機と合流すべく速度を落とした。1機目をあっという間に追い抜いた後の2機が交差して弧を描いて再びの合流ポイントを五十鈴達の上空に定めた。

 そして……

 

 

バババババ!!!

 

 

 機銃掃射を五十鈴は左20度に針路をずらしてかわす。交差し終わって通り過ぎた攻撃機2機は大きく旋回して再び五十鈴たちを視界に収めた。同時に最初の1機が飛行速度遅めに飛んできたせいでようやく五十鈴たちを射程距離に収める位置についた。

 

 

ヒュー……

 

 

バシュ!バシュ!ザッパーーーン!

 

シュー……

 

 それは重みを感じさせるエネルギー弾を次々と落下させ海面に水柱を立てる。いくつかは海中に没した後、五十鈴達の方向に向かって進みだした。さすがに学習していた五十鈴はその光景を目にするや否や素早く妙高に判断を仰いだ。

 

「今度は誤らないわ。妙高さん、回避指示を!」

「はい。全員速力車で大きく時計回りに回頭!その後速力バイクにやや減速!」

「「はい!」」妙高の指示に急いた返事をする五十鈴と名取。

 五十鈴の意図を察した妙高は彼女の意を汲んで回避のための速力と方向を指示した。向かってくる数本の航跡を引く魚雷は五十鈴達の位置を予測していたかのように若干角度を変えて向かってきた。それでも通常の速力より約2倍の速力バイクで直進やがて右に角度をずらつつ進む五十鈴達を追いかけきれなかったのか、それらは五十鈴達が通り過ぎた後ろ20m位置を直進してやがて何も誰もいない海域で爆発した。

 回頭し終えて前方に3機を視界に収めた五十鈴は、即座にその位置関係を分析した。

 

 近い距離に最初の1機、やや離れて旋回し終えて合流し向かってこようとしている後の2機。いずれもそのまままっすぐ飛んでくれば合流して3機になり、広範囲攻撃でもしてきそうな予感が五十鈴の頭をよぎった。そうなると多少横に針路をずらしてもかわしきれない。

 たった3機、されど3機。

 撃ち落とすか? しかしまだ距離がある。射撃のプロでもないのでさすがに距離あるうちに撃ち落とすのは無理だ。近づけばいいことだがリスクがある。

 それ以上の思案を敵機は許してくれなかった。

 

 前方の1機がやや速度を落として後からの2機と合流した。想定通り3機の編隊だ。五十鈴が妙高に指示を仰ぐ前に妙高が叫んだ。

「速力はこのまま、5~6秒後に左10度で!」

「はい!」

 五十鈴は妙高の指示どおり左に針路をずらした。5秒も進むと敵機も目前に迫っていたが、始まった射撃をギリギリでかわすことに成功した。妙高の判断と指示は的確だった。

 敵機と通り過ぎた五十鈴は今度は左に旋回し続ける。反時計回りに海上を進み、同じく反時計回りに旋回してきた敵機を三度視界に収めた。

 その敵機は再び二手に分かれていた。完全に旋回し終えて五十鈴達の正面に2機、右舷に1機と迫ってくる。

 

「挟まれる! 妙高さん!!」

「えぇっと……右45度に突っ切って!」

 

 前と右から迫ってくる敵機の隙間を妙高は狙った。五十鈴は返事をする間も惜しんですぐに体と意識を指示通りに傾け、姿勢をやや屈めながら海上を右ななめに爆進し始めた。右に激しい波しぶきと航跡が描かれる。

 迫る前方の敵機、右の敵機をやり過ごしたが、五十鈴達の動きは読まれていた。

 

「「「えっ!?」」」

 

 五十鈴、妙高、名取はすでに通り過ぎたと思っていた先程まで前方の敵機2機のうち、1機が自身らにまっすぐ向かってくるのを視界の端に収めた。“その攻撃機”はまとっているホログラムとエネルギー波をまるで炎が激しく燃えがるように発して突っ込んできた。

 同時に燃え上がる攻撃機は広がったエネルギーから無数の爆撃と雷撃、射撃用のエネルギー弾を撒き散らして五十鈴たちに向けて急降下して迫る。

 

「かわせn……!」

 

 五十鈴が叫びかけるが、その言葉の残りを言い切ることができなかった。

 

 

ヒュー……

 

バババババババ!

バシャバシャ!バシャバシャ……

シュー……

 

 

 展開された弾幕と乱暴に放たれた爆撃用のエネルギー弾が先に五十鈴達に豪雨のように降り注いで着弾し、遅れて攻撃機本体が五十鈴の背面の艤装に命中し衝撃で彼女を無理な大勢で転ばす。そしてトドメは海中から襲いかかる無数の一撃必殺の槍たる魚雷であった。

 

ズザバアァァァ!!バシャッ!バッシャーン!

ズガアァーーーン!!

ザッパーーーン!!

 

 

--

 

「千葉第二、軽巡洋艦五十鈴、重巡洋艦妙高、轟沈」

 

 明石による発表が放送された。

 

 当の本人たちは爆撃雷撃の衝撃で天海逆転しながら転げ回って海中に沈み、浮き上がって顔を出したときに現実のものとして知ることとなった。

 

「ぷはっ! ……はぁ、はぁ。くっ……まだやれr……えっ!?」

「ぷっはぁ~……けほっケホッ。え、りんちゃん轟沈?」

 五十鈴と名取は顔を見合わせ、そして同時に仰天の声を上げた。そんな少女達のそばに浮かんできた妙高もまたすぐに自身の結末を知った。

 

「妙高さんも轟沈……。」五十鈴が言い淀む。

「申し訳ございません二人とも。私の判断ミスで思い切り被害を受けてしまいました。」

「いえ、気になさらないでください。急に曲がって特攻してくるなんて……あれをかわすなんて超人的なこと絶対できませんし。」

 海面に浮かび姿勢を整える三人。五十鈴と妙高の視線は自然と名取に向く。

「それにしても……まさかあんたが生き残るなんて思いもよらなかったわ。」

「あ、え……うん。私もびっくり。どうしよう~一人でなんて何もできないよぉ。」

 不安で表情と姿勢を包み込んで示す名取に五十鈴は自身の額を抑えてため息をついた。呆れる五十鈴と異なり、妙高は至って冷静に尋ねる。

「名取さん、ステータスはどうなっていますか?」

「はい。……○○%です。」

 名取から耐久度の数値を聞いた五十鈴と妙高は顔を見合わせて状況を認識した。

「名取さんは大破の一歩手前といったところでしょうか。」

「正直、まだ基本訓練終えていないあんたがそんな状態で残ったってどうしようもないんだけど。」

「うぅ……ゴメンね~生き残っちゃってぇ……。」

 申し訳なさそうに悄気ながら謝る名取に本気でツッコんでやり込める気はない五十鈴は、訓練の中の身の彼女ができそうな水準での行動指針を考えそして口に出した。

 

「生き残ったんならせめて一矢報いてみなさい。私たちが離れて動き出したらまだ飛んでる攻撃機爆撃機が確実にあんたを狙ってくるでしょうね。だからその前に対空射撃しまくるか、あっちに向かってダメもとで砲撃か雷撃して今のこの戦況を掻き乱すのよ。」

 そう言いながら五十鈴が指し示したのは鳥海たちの方向だ。結局まともに支援攻撃をできなかったため、後のすべてを名取のビギナーズラックに託すつもりなのである。

「うぅ~……できるかなぁ?」

 五十鈴は弱音を吐く名取の肩に手を当てて釘を差した。

「できるかじゃない。やるのよ。どうせ死にはしないんだしうちの学校からは誰も来てないんだから、こんなときくらい思い切りはっちゃけなさいな。」

 五十鈴は退場のため彼女からゆっくりと離れた。妙高も合わせて離れ始める。

「やられる前にやるのよ。ほんっとに気をつけてよ。いいわね?」

「う、うん。怖いけどなんとかしてみるね。」

 弱々しい決意の声を聞いた五十鈴は一抹の不安を拭い去りきれず後ろ髪を引かれる思いで退場者の待機先である堤防へと向かっていった。

 

 


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