同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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 那珂らの高校で高まった艦娘熱は、鎮守府の見学会を少女たちに計画さす。そして一方の鎮守府では、とある重大イベントのニュースがもたらされる!


鎮守府にもたらされたニュース

 那美恵たちの学校が艦娘熱で盛り上がり、見学会が計画され始めた頃、鎮守府Aでは提督がある知らせを受け取っていた。

 と同時に、夕方に中学校から出勤してきた五月雨も出勤早々異なる知らせを受け取った。

 

「……はい。えぇ、那珂たちからそれとなく伺っておりました。あ、そちらも? はい、はい。あ~、それじゃあ本当にやりますか。」

 

 提督が電話に出ている最中、五月雨も別の電話で応対していた。

「はい。こちら深海棲艦対策局千葉第二支局です。え? え~っと……」

(チラリ)

「う……えっとですね、ていと、西脇から伺っております。え、代わって……すみません。別件で電話の最中なんです。あ、はい。了解です。それじゃメールでお願いします。え、私ですか? 五月雨って言います。よろしくお願いします!」

 

 数分後、執務室では二つ同時にため息が吐かれた。

 

 

--

 

 翌日、那美恵達は学校帰り三人揃って鎮守府に出勤した。着替えて艦娘になり、挨拶のため執務室に顔を出した。

 するとそこには提督と五月雨の他に妙高、そして不知火と見知らぬ少女がいた。

 

「こんにちは。ていと……あ。」

「お、那珂に川内、神通か。ご苦労様。今日はどうした?」

 

 那珂は意外に人が多いことに驚いたが、状況が割りと静かそうだと判断すると、すぐに知らせを口にした。

「うん。うちの学校からのお知らせと言うか、提案があるんだけど、今時間いい?」

「あ~、ちょっと待っててくれないか。今不知火の同級生の娘たちの話が大詰めでね、すぐに済むから、待っててくれ。」

「あ、はーい。」

 

 那珂は素直に返事をし、川内たちに手招きをして促し一旦部屋の外に出た。それからほどなくして、妙高が扉を開けそして不知火と二人の少女が出てきた。

 不知火たちが会釈をしてきたので那珂たちも彼女らに会釈をし返す。三人の背中を少しだけ見送っていると、妙高に促されたので執務室に入って改めて話を始めた。

 

「お待たせ。俺からも実は伝えたい事があるんだが、お先にどうぞ。」

「うん。実はね、うちの学校で鎮守府の見学会をしようって話が上がってるの。」

「うん、なるほど。」

「それとうちのメディア部がね、あたしたち艦娘部にインタビューをしたいっていうの。どうせやるなら見学会とインタビューを同時にやれないかなって思って、日程が決まったらその日、鎮守府の各場所を使わせてほしいの。許可してもらえる?」

「全然かまわないよ。いつにするんだい?」

「えーっとね。鎮守府を自由に使わせてくれる日ならいつでもいいよ。うちの生徒は、まず告知してもどれだけ来るかわからないし。」

「そうか。だったら今週の金と来週の土曜は外してほしいかな。それ以外だったらいいぞ。」

 

 提督は何気なく予定をほのめかして那珂に言った。すると気になった那珂はすぐに尋ねる。

「金曜と土曜に何かあるの?」

「ん? それじゃあここからは俺が伝えたいこと。これは以前言ったかと思うけど、評価シートのシステム開発の打ち合わせで金曜日にうちの会社の人間が来るんだ。その時は那珂にも参加してもらいたい。というわけでそれら以外の日だったらOKだよ。」

「あ、そーなんだ。あれ?でもじゃあ来週土曜日は? 何か他にあるの?」

 

 那珂のその確認に提督はわずかに溜めを持ち、若干のドヤ顔でもって言い放った。

「フッフッフ。聞いて驚け。実はな、来週土曜日に神奈川第一鎮守府の艦娘達と演習試合が決まったぞ。しかもうちに来てくれるそうだ!」

「「えぇ~~!!」」

「……!!」

 那珂と川内は声を出してのけぞって驚きを示し、神通は声には出なかったがリアクションは二人並に身をビクッとさせてその知らせに仰天した。

 

 

「す、すごいすごい! この前天龍ちゃんたちとやりたいねって話してて間もないのに、もう決まったの!?」

「うわぁ~! あたしも暁たちと話しててそれっきりだったのに、どうしてどうして!?」

「まぁ、提督同士、色々話は入ってくるのさ。」

 那珂と川内の反応は歓喜の混じった驚きをするのとは対照的に、幸は憂鬱そうに暗い表情だ。

「普段の勉強に艦娘部の見学会、それから演習試合となるともしかして……ふぅ……。」

「ん?どーしたの神通ちゃん。」

「いえ。あの……正直言って、手一杯になりそうかなと。」

 そう言って神通は目下自分たちがやるべきことを恐恐と挙げた。それは自身の学校のためだけでなく、全体的な意味での指摘だった。

 那珂は楽観的に考えていたが、神通が真面目に心配を口にして訴えかけてきたので、しばらく目をつむり思案した。

「ふむふむ……ふむ。あれがこーしてこれがああなって……。」

 

 少々の身振り手振りと独り言とともに那珂は何かをシミュレートし始める。隣で薄気味悪く蠢く先輩を見て不安がもたげてきた川内は那珂の肩を突っついて正気に戻した。

「ち、ちょっとちょっと那珂さんどうしたの!? 急に怖いですよ~!」

「(コクコク)」

 川内のセリフに神通は口をつぐんだまま頷いて同意を示す。

「あ、ゴメンゴメン。ちょっと思いついたことがあるの。」

 那珂の一言に両隣の川内と神通はもちろん、提督たちも?を顔に浮かべて待った。

 

「見学会と神奈川第一との演習試合を一緒にやっちゃえばいいんだよ! そーすればあたしたちは演習試合に参加してよその艦娘のこと知ることができるし、学校の皆に艦娘のことたっくさん見せてあげられるよ。そしてインタビューにも格好の材料が揃う、と。どうどう?」

「……やっぱり。那珂さんなら、そう言うと思ってました。」

「おぅ! さすが神通ちゃん。あたしの考えだんだん見通せるようになってきたのね。那珂ちゃん恥ずかしい~けど頼もしくなって嬉しい~!」

 神通は提督が知らせを告げた時、那珂ならこう考えるだろうと予測がついていた。

 そんな神通の言葉を受けておどける那珂に川内は目に見えて反発する。

「えぇ~~!!余計忙しくなるじゃん! 一石二鳥けどさぁ……。」

「ちょっと忙しくなるのは覚悟がひつよーだけど、盛り上がった熱を冷めさせないうちに良い物を見てもらって、話題を継続させるのは大事なのですよ、川内ちゃん。」

「川内さん。予想の範疇でしたし、多分私たちに拒否権はないかと。」

 神通の言葉に川内は引きつった笑顔を浮かべるのみ。さり気なくツッコミを入れられたと捉えた那珂がすかさず言い返した。

「アハハ。神通ちゃんにはもうなんか色々お見通しって感じぃ? それから拒否権とか言い過ぎ~。別に二人がこうしたいっていうなら別の案出してもらっていいんだよ。」

 

 那珂が二人の眼前で指を振る。もちろん茶化していることはさすがの川内も察しがついていたので、苦笑を浮かべて反応する。

「いや、アハハ。まぁ、那珂さんの考えたことやったほうが面白そうですし、あたしは那珂さんに賛成です。大変っていうのは、う~ん……皆に手伝ってもらえばいいのかなぁって。」

「私も、那珂さんと川内さんに、従います。」

 

「うー、二人ともあたしに遠慮してない?」

 自分の意見への反発が触り程度ですぐになくなってしまったことに張り合いがないと感じた那珂は、二人の態度に釈然としないものがあった。

「いやいや。素直に面白そうって思ったから賛成したまでですよ。ね、神通?」

「……私は、冷静に機会が良いという点で同意することにしました。ですから、遠慮というわけではありません。」

 二人の反応は渋々とも取れたが、余計な追求でかかる時間と目的達成を天秤にかけ、ひとまず良しと判断して話を進めることにした。

 

 那珂たちの様子を眺めていた提督が問いかける。

「考えはまとまったかな?」

「うん。あたしたちの学校にとっては、神奈川第一との演習はまさにうってつけなんだよね。だからね、……というわけで。」

 那珂は提督に三人の考え(実際には那珂発案のアイデアだが)をプレゼンし続けた。提督はおおよそ理解を示し那珂の意見を受け入れた。

 

「そうか。うん、わかった。君たちの学校からどれだけ来るのか教えてくれ。それによってうちとしても準備があるからさ。」

「あぅ~ゴメン。まだ全然わかんない。前日までに伝えればいい?」

 提督はやや顔を渋めて頭をひねらせて思案した後答えた。

「大体でもいいからわかると嬉しいんだけど、なるべく早めに頼むよ。他との都合もつけないといけないからさ。」

「おっけぃ。わかってるって。」

 

 提督ないし鎮守府との話を付けた那珂は川内と神通に、明日からやることを簡単にまとめて改めて伝えた。

 神奈川第一鎮守府との演習まで後一週間と数日。那珂たちは、普段の訓練と合わせ、自身の高校艦娘部として、学校と鎮守府の交渉役を務めることになった。

 

 翌日以降、那美恵は流留と幸に役割と言い渡し、自分としては二人がまず苦手そうな教師などへの交渉役を率先して担当した。那美恵の作業はすぐにかたが付き、校外施設への生徒の誘導および集会の許可を得ることができた。

 一方の流留と幸は、鎮守府見学会の設計に数日は四苦八苦することになる。

 

 

--

 

 ある日の休み時間、和子は後ろの席から極々小さな声でウンウン発せられる唸り声を耳にした。後ろは幸の席だ。和子が気になって振り返り見てみると、幸は授業のものではないノートに書き物をしていた。

「さっちゃん、何書いてるんですか?」

「……こ、今度の見学会の、計画。那美恵さんから、内田さんと私の二人でって任されたの。」

「そういえばそんなこと話してましたね。結構大変?」

「考えるのはいいんだけど……、私の考えた内容が他の人に影響するとなると、責任重大すぎて気落ちしちゃいそう。」

「でも学校の皆に対してだから、気楽になんじゃないですか?」

 和子のこの問いかけに、幸からの返事は数秒遅れる。ポロリと出た一言は間違いない本音だった。

「なんだか、うちの鎮守府の皆との方が気楽になってるかも。あとは……戦ったり訓練してるときのほうがマシかな。」

「うわぁ~。さっちゃんからそんなセリフ聞くなんてすごく意外。」

「え? え? え?」

「ウフフ。やっぱりさっちゃんは見違えるように成長しましたね。艦娘になって正解なんじゃないですか?」

 和子から笑われたことを幸は冷笑と捉えてしまいうろたえるも、友人のその見立て自体は嬉しかったため、やや頬に熱を持ちながらも静かにゆっくりと頷いて肯定するのだった。

 その後、休み時間の度に蚊の鳴くような唸り声を上げて計画を練っている幸の姿と、その悩める友人の姿を間近で温かく見守る和子の姿+時々和子の友人の絡みが繰り返されていた。

 

 

--

 

 一方で流留は何もできずにいた。否、自分の教室では何もやるつもりがなかった。それは、校内では生徒会メンバーと艦娘部メンバーとしか会話するつもりがないことと、普段自分がやらぬことをやれば同性の女子からまた誤解の目で見られるかもという強迫観念があるためだった。

 同性で同学年の、すっかり気を許して付き合える仲になった幸に会いに行くというのは普通の女子であれば他愛もないことであろうが、流留にとっては極大に大きく重い一歩だった。そんなことをすれば今まで同性と付き合いのない流留がどうして?と思われてしまうのは明白だ。

 

 自身は艦娘部に入って神先幸と仲良くしてるなぞ、誰にも明かしたことはないのだから。

 

 せっかく友達になれた幸に迷惑が及ぶのは心苦しいので、流留はそういう思いの面でも動けずにいた。

 

 ただ、放課後になってしまえば別である。やる気に満ちているときの素早さには自信がある流留は、帰りのホームルームの終わりのチャイムがなってすぐ飛び出し、幸のクラスへと向かう。帰りがけの混乱の中、幸の教室にスタスタ入って紛れ込んだ流留は、幸とその前方の和子に話しかけた。

 校内での部室代わりの生徒会室へ早く行こうとせがむと、それは幸に止められた。

「え、なんでよ?那美恵さんもいるんだよ?」

「そもそも、生徒会室は私達の部室ではありません。那美恵さんが生徒会長であることのご厚意でいさせてもらっているだけなんですよ。」

「え~、別にいいじゃん。ねぇ、毛内さん?」

「え? あ、はぁ。仕事がないときは別に構いませんが。」

 和子の言葉を裏切りと捉えた幸はわずかに泣きそうな表情を浮かべて反論する。

「和子ちゃんそんなぁ……。いくら和子ちゃんたちが良くても、私たちは……そろそろけじめをつけるべきです。内田さん。作業なら鎮守府へ行ってやるべきかと。」

 幸の言葉は流留に確かに響く。正論と捉えたので流留はぐうの音も出なかった。が、せめて言い返そうと付け足した。

「ん。まぁ……そうかもしんないけど、面倒くさいじゃん。あそこ行くまでに30分くらいかかるもん」

「……それは、私達○○高校の宿命です。」

「うわぁ~さっちゃんなんか中二っぽいこと言ってる。すげー意外だ。」

「さっちゃん、ホント随分変わりましたね。」

 何気なく言った一言に、流留と和子が驚きを隠せないでいる。まさか親友からも呆気にとられるとは思わなかった幸は再びうろたえて泣きそうになってしまった。

 

 明らかにしょげた幸を流留と和子は背中や肩をさするなどして慰めた。優しくしたところで改めて生徒会室へ行こうと持ちかけたが幸に頑なに断れ、今度は流留が悄気げるハメになる。

 結局幸に根負けをして、流留と幸は一旦生徒会室に寄って那美恵に一言伝え、学校を後にした。


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