同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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 仲間を助ける出撃から一夜明けた。朝早く起きていた川内は柄にもなく物思いに耽っていた。那珂はそんな彼女の心の内を知る。続いて起きた神通と三人揃って互いを鼓舞し互いの成長を認め合う。


幕間:川内型は想う

 翌日。ふと目を覚ました那珂は、隣に寝ていたはずの川内がいないことに気づき、部屋を見渡した。神通はもちろん五十鈴、妙高ら全員まだ寝入っている。ゆっくりと顔を横に向けて携帯電話の画面を付ける。まだ目覚めきってない目には鈍い光であっても鋭く刺さって眩しい。時間は午前4時すぎだった。

 川内は障子を軽く閉めたその先、海沿いを一望できる窓際の広縁の椅子に浴衣姿で座っていた。

 

「川内ちゃん?」

「ん? あぁ、那珂さん。起きちゃいました?」

「どーしたのさ?まさか本当に痛すぎて寝られなかった?」

 那珂がのそっとした動きで布団の間をすり抜けて椅子に座ると、川内はそのタイミングで再び口を開いた。

「まぁそれもあるんですけど、あたし的に今回のイベントでは思うところがあったんで、柄にもなくボーッと考えてました。」

「うんうん。言ってごらんよ。」

「……茶化したりしないんですね。」

「え?茶化さないよぉ~だって可愛い後輩が考え込んでるんだもの。できる先輩は聞き上手でもあるんだヨ? ホラホラおねぃさんに何でも言ってごらんよ~~?」

 那珂は両手を前に出して手のひらを上に向け、指を何度も折り曲げてカモ~ンと急かすように促した。川内はその仕草を見て、あぁやっぱりいつもの先輩だったと安堵する。そして口の重みがなくなったので打ち明け始めた。

「皆で帰ってくるときに、あたしあっちの鎮守府のやつらと一緒だったじゃないですか?」

 那珂はコクリと頷く。

「その時さ、霧島ってやつとお互いの提督の話になってですね、あっちの村瀬提督の話聞かされて、じゃあうちの西脇提督は何なんだろうって思ったんです。」

 川内から提督の話題が出た。那珂はわずかに姿勢を正して聞き続ける。

「あっちの提督がヤレ元自衛官だのヤレ自分で全部決めてるだの言ってきて、なんか気に入らなかった。そもそもあたしはあの村瀬提督がなんか好きになれない。だから良いところだどーのこーの言われたってピンとこなかった。けれど、西脇提督のことを思ったら、同じようなことを、霧島ってやつや暁たちみたいに自信を持って言えるのかなって、悩ましくなってきました。ねぇ那珂さん。西脇提督って、すごいのかな? すごくないのかな?」

「へ? な、なぁにその聞き方は~?うー」

 那珂は腕を組んで頭をクルクル回し小さく唸る。答え方に困る。この後輩はこの後輩なりに、真面目な話をよその艦娘と交わしていたのか。

 成長を喜ぶ一方で、質問にどう答えようか悩む頭がある。

 

「うーんうーん。あたしとしてはすごいって無条件に評価してあげたいんだけど、残念ながら彼はふつーの人です。茶化しとか冗談は抜きでね。それでも年の功というのかな。あたしたちの2倍近くは生きてるんだし、普通に頼れるところはあるけれど、その……村瀬提督が元自衛官とか言われちゃうと、確かにどうしても比べちゃいたくはなるね。」

「でしょ~!? んであたしが何気なく言ったら、霧島ってば西脇提督のこと、何もできない人なの?って。ひどくない!?うちの事知らないくせに知ったように言いやがってさぁ。まぁあたしもまだ1ヶ月だからぶっちゃけ人のこと言えないんだけどさ。」

 川内は怒りをぶり返したのか、興奮気味に喋り散らかす。那珂はどぉどぉと軽く宥めて落ち着かせた。

「まぁ、人ってよそのことは基本的に興味ないものだからね。仕方ないよ。今だって川内ちゃんは村瀬提督のことスパッと評価しちゃってるでしょ。結局お互い様なんだと思うよ。」

 那珂の言葉に一理あると感じたのか、川内は勢いを押し殺して口をつぐむ。ただし頬はわずかに膨らんでいる。明らかにまだ不満といった様子だ。

「でもだからってうちらの提督のことテキトーに言われて黙っているなんて、あたしにだってできないよ。」

 那珂がそう口にすると、川内が身を乗り出して期待の眼差しを向けた。那珂はその勢いにわずかに圧倒されてのけぞりながらも続ける。

 

「でもだから今までとは違うことをしようとは思わないかな。あたしとしてはこれまで通り、運用を作るお手伝いをこなして助けるだけ。それ以上特別なことはしないつもり。今はそれが鎮守府のためだし、なにより提督が……あたしに望んで任せてくれてることだから、ね。」

「今まで通り……。でもそれじゃあ、提督自身が何もやってないことに変わりなくないですか? 霧島たち神奈川第一のやつらに言われっ放しな気がしてスッキリしません。」

「んおおぅ。鋭いな川内ちゃん。」

「それに……あたしは、あたしはどうすれば、提督の役に立てるの? 那珂さんも神通もずるいよ……。いつのまにか訓練の指導役になったり、提督と話すこと多かったりさぁ。あたしだって……何か役に立ちたいんですよ。」

 普段の強気で勢いある彼女の口調とは打って変わって弱々しく、ひねり出すような声で懇願を口にしてきた。那珂はそれを目の当たりにしてキュンとして心臓が突かれたような感覚を覚える。

 

 この娘も、意外と萌える仕草できるじゃん。侮れねぇ~

 

 そんな心の中の思いをなんとか押しとどめて真面目に返した。

「川内ちゃん……。それは趣味以外でってことでいいのかな?」

「はい。もちろん。」

 川内のまっすぐな視線と返事。那珂はしばし沈黙して考えたことを口にした。

「まず提督が何もしてないんじゃないって点。それは気にしなくていいと思う。あの人があたしたちに任せてくれたのは、艦娘であるあたしたち自身ができる範囲での運用だから。事務とか交渉とか採用とかそういうあたしたちじゃ社会的権利的にもできない部分は今も昔もこれからも提督がしてくれる。だから、西脇提督は何もしてないわけじゃないよ。だからよその人に何言われたってガン無視でいい。」

「で、でも……」

 言い終わる前に那珂はテーブルの上にある川内の手に自身の手を添えて続けた。

「らしくないよそんな弱気。いつもの(ノーテンキで)強気な川内ちゃんのほうが、提督だって……。ともかく、信じてあげなさい。」

「……はい。」

 

 

「次に川内ちゃんが何をしたらいいかって点。これに関してはあたしもちょっと反省してるところがあるんだ。」

 那珂がそう話題の切り出しをすると川内はキョトンとする。

「ぶっちゃけて言っちゃうね。今訓練の指導役を手伝ってもらってる神通ちゃんと時雨ちゃんはさ、きちんと考えてくれるの。とにかくマメで、真剣に取り組んで物事を捉えて分析してくれる。だからあたしは頼ってるの。対して川内ちゃんはどう?」

 

 川内はコクンと頷いてゆっくり答える。

「う……わ、わかってます。そーいうの苦手、ですから、無理。そこは神通には勝てない。」

 那珂は頷きも頭を横にも振らずに言葉を返す。

「分かってるならよろし。でもあたしのそーいう先入観というか捉え方で二人に差をつけていたのは、マズったって今わかった。だから今後は、川内ちゃんにも何か役割を担ってもらおーと思うよ。」

「え、それって……?」

 期待の視線とうっすらニヤケ顔を向けてきた川内に、那珂は頭を横に振りながら答える。

「まだノープランです。帰ったら提督に相談してみる。だから

「その話し合い、あたしも参加させて!!」

「え!?」

「そーいうちょっとした話し合いとか、那珂さんだけ思いついたらすぐしに行くってズルい。あたしが望むのは、そういう場にいさせて欲しいことなの。」

「気持ちはわかるけど、焦らないでよ。提督の都合だってあるし、まだあくまであたしの思いつきでしかないから。ちゃんと打ち合わせに参加させてあげられるようになったら教えるから。いい?」

「んー、まぁ、わかりました。じゃあいいです。待ってます。」

 言葉では了解しているが、川内の態度や表情には不服な様がハッキリ表れていた。那珂はあえてそれを見過ごして話を進めることにした。

 

「今回を経て、川内ちゃんの意識が変わったのはいいことだと思う。あたしは今のあなたを評価したい。今あたしに話してくれたように、提督にぶつける機会を作ってあげる。あなたの気持ちを知ったら、きっと提督だって成長を喜んでくれるよ。」

「そ、そうですかねぇ~?」

「うん。(さすが、提督が好きな娘だけある。二人はちゃんと見合えば、どこまでも気が合うよ、きっと……)」

「エヘヘ~。ん? な、なんで那珂さんそんな妙な顔なんですか?」

「え!?」

 川内の指摘に那珂はギョッとした。

 那珂は慌てて頬を抑えてさすった。ふと、目元を指で触る。ほんのり湿っている。なるほど。笑いながら泣くなんてなんて器用なんだ自分。そしてなんで妙なタイミングでこんなに鋭いんだこの後輩は。

 慌てて取り繕う。

「なんでもないよぉ~アハハ! こ、後輩の成長っぷりがさ、嬉しいの。素直に成長してくれてる神通ちゃんとは違ってさ、川内ちゃんは一癖も二癖もあるからさ~~。」

「むー? あたし馬鹿にされてません?」

「してないしてない。てかあたしがしてる評価でしかないんだから、異議があればドシドシ言ってよ。」

 那珂の取り繕いに川内はそのまま受け取り、再び頬を膨らませる。

 その時、第三の声がした。

「んん……誰?」

 

 

--

 

 モゾモゾと掛け布団をズラしながら那珂たちに声を掛けてきたのは、神通だった。

「あ、神通ちゃん。ゴメンゴメン。起こしちゃった?」

「那珂……さんと、川内……さん?」

「うん。ゴメン神通。那珂さんとちょっと話してたからさ。まだあたしたちも眠いから寝るy

「……お手洗ぃ。」

「「お、おぅ?」」

 

 寝床から完全に出た神通は那珂たちの直後の反応を無視してトイレに向かっていった。しばらくして戻ってきた神通は、目が冴えたのか、那珂たちのいる広縁にのそのそと近寄ってきた。

「何を、話されていたのですか?」

「ん~、大したことじゃないよ。あたしが先に起きててさ、那珂さんも起きてきたから、ちょっとね。」

「そう、ですか。」

 

 言葉が途切れた。時計だけがチクチクと針を刻む音で静寂を僅かに破っており、起きている三人はその流れになかなか乗らない。

 やがて那珂が口火を切った。

「そだ。海見に行かない?」

「え、こんな早くから?」

「??」

「それがいいんじゃないの! 昨日なんてあたし同じくらいに起きて一人でお散歩行ったよ。」

「あたしは話すこと話したし寝たいんですけど……まぁいいや。せっかくだし付き合います。神通も行く?」

「はい。それでは。」

 

 川内は頭をポリポリ掻いてめんどくさそうに反応するが、ケロリと態度を改めて返事をする。神通はまだ目覚めきってないまどろんだ様子だが、快い返事をする。二人の同意を得られた那珂は小さくガッツポーズを二人に見せる。

 そして三人はまだ寝ている面々を起こさぬよう、部屋を忍び足でそうっと出て行った。

 

 

--

 

 宿を出てなぎさラインを横切る。那珂は昨日と同じ漁港付近に二人を連れてきた。しかし昨日と同じ海岸線ではなく、海に突き出た波止場近くに向けて北西に針路を取って歩く。三人は漁港近くの区画の角にある公園にやってきた。

「うぅ~~~ん!! 気持ちいいねぇ~早朝は。」

「はい。まだ暑くないから快適だぁ。」

「(コクリ)」

 時間帯もあってか、三人以外に人はいない。そのためそれぞれ比較的大きめの声とともに伸びをして体を解きほぐす。

 

「ケホケホ。あ、ダメだ。あたし変に体動かしたら痛いんだったわ。」

「川内ちゃんは無理に伸ばさないでいいよ。早朝の気持ち良い空気だけ味わえ~。」

「アハハ。はーい。」

「本当に、無理しないで、くださいね?」

「ん。ありがとね、神通。」

 

 しばらく三人は会話無く散歩したり体操をしたり(那珂と神通だけ)、他愛もない日常話をして時間を過ごす。そのうち再び訪れた沈黙の時、珍しく神通がその空気を最初に破った。

「あの……那珂さん、川内さん。」

「ん、なぁに?」「どうしたの?」

 モジモジしながら神通は上目遣いで二人を見て言う。

「助けていただいて、本当にありがとうございます。」

「それはもういいって。ねぇ川内ちゃん?」

「ん?そうだよ。結局トドメ刺したのあんただし。」

「うんうん。結局あたしも川内ちゃんも神通ちゃんの勇ましい姿を見られなかったし。今回はそれだけが心残りかなぁ~。」

「あたしこそありがとうだよ。昨日の夜五十鈴さんから聞いたよ。あたしのために怒ったからあぁしたんだって?激怒なんて神通らしくないと思ってたけど……でも嬉しい。あたしのかたき取ってくれたなんて。」

「川内ちゃんは神通ちゃんにもう頭上がらないんじゃない? 神通ちゃんは昨日は丸一日戦ってたっていうし、経験的にも上になっちゃった感じぃ?」

 那珂は上半身をかがめて神通と川内を下から見上げる。すでにスイッチは茶化し方面に切り替わっているのに二人とも気づいた。

 

「い、五十鈴さんから実地で色々教わりました。落ち着いて戦えるシーンなら、私自信あります。」

「おぉ~~言うよーになったね!那珂ちゃんうれしー!」

「うえぇ!? いやいや、まだあたしのほうが!」

「アハハ、川内ちゃんだってちゃんと成長できてるよ。ゴメンゴメン。ただ川内ちゃんは、本物の軍艦の方の川内みたいに夜戦ばっかになってるから、日中の戦いをちゃんと経験しないとね。あたしがうまく任務もらってあげるから、一緒にいこ?」

「那珂さん……ありがとうございます! てか那珂さんちゃんと軍艦のこと勉強したんすね?」

「もち!川内ちゃんに負けてらんないからね~。」

「よかった、ですね。がんばってください。」

 那珂と川内の激しいリアクションの応酬に、ついていくのがやっとな神通が励ますために川内に優しく言葉をかけたことで、空気が和やかに戻る。

 しかし川内はまた別のところに噛み付き、神通と那珂を困らせ空気をかき乱す。とはいえ傍から見れば、女子高生の早朝イチャつきにしか見えない事実がそこにあるのだった。

 

 

--

 

「あ~お腹すいた。目も完全に覚めちゃったし、朝ごはん待ち遠しい~。最終日はせめて遊んで帰りたいなぁ~」

「お~い。川内ちゃんたちは昨日遊ぶ時間あったんでしょ~?あたしこそ今日は遊んで帰りたいよぅ!」

「アハハ!」「クスクス」

 ダラダラと歩いて公園の出入り口に向かう三人。川内と那珂が喋っていると、二人の後ろに付いて歩いていた神通がポツリと言葉を漏らす。

「お二人が、羨ましいです。」

「おぅ? 神通ちゃんどーしたの?」

 那珂が振り向いて尋ねると、神通は小さく何度か頷いてから答えた。

「知らない場所で知らない人たちと交流できて。私、やっぱり今回のイベントに参加しておけばかったのかなって。」

「そーはいうけどさ、神通ちゃんがいなかったら、名取ちゃんは水上航行できないままだったんでしょ? 自分が選んだ道で関係する人に成果を出してあげられたなら、その道を後から悔やむのはダメだと思うよ。名取ちゃんに失礼。」

「あ……すみません。」

「あたしに謝っても仕方ないでしょ。それにさ、神奈川第一の神通さんとお話できたんでしょ? 知らない場所で知らない人と交流、できてるじゃん。同じ艦担当の人と会って交流できたというのは、ものすごく大きな出会いだと思うよ。」

 神通は悄気げながらもハッキリと頷く。表情が見えないので理解してくれたものとして那珂は話を進める。

 

「何をやるのも焦る必要なーし。少しずつでいいんだよ。また神通さんに会えるといいよね、千葉神通ちゃん?」

「あ……そ、その呼び方は……やめて、ください。」

「アハハ。いいね~千葉神通。その人ネーミングセンス、誰かさん並だよね?」

 那珂と川内の茶化しに神通は顔を赤らめて二人の腕を指で突いた。川内は神通を茶化しながらも、その誰かさんに視線を向けて冷やかす。

「おぅ! 視線がこっち向いてるよ川内ちゃん! 先輩をからかうなんてひでー後輩ぃ!」

「悔しかったらネーミングセンス磨いてくださいね~、あたしたちのアイドルさ~ん!」

「コラー!」

 タッと駆け出す川内。那珂は彼女を追いかけるべく早歩き~駆け出した。一人置いてけぼりになった神通は溜息を吐いた後クスリと微笑み、二人に合わせて軽めに駆け出す。

 

【挿絵表示】

 

 そんな神通は頭の中で、那珂の言葉を自身の反省としてゆっくりともみほぐし、脳裏に染み込ませようとしていた。

 


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