同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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作戦開始

 偵察機を飛ばして周辺の様子を確認しようと、那珂は開始直前の最終打ち合わせで提案した。しかし隣艦隊の天龍と龍田は持ってきていないし、そんなもの必要ないという。万が一の備蓄として東京都職員が持ってきていたので、那珂はそれを使わせてもらうことにした。

 

 

 艦娘が使用する艦載機の元になったドローンは、出始めた50~60年前には巨大なものであり、玩具だった。世界中の企業により改良が進み、軍事、政治運用が世界中で定着していった。そして20xx年では超小型の装置になっており、何か別のものに取り付けることでそれを即時にドローン化できるものが主流になっている。それをドローンナイズチップと呼ぶ。

 艦娘の使う艦載機、偵察機もそのドローン化装置、ドローンナイズチップにより、様々なものに取り付けてある程度自由に運用することができる。

 また、空母艦娘たちが使う艦載機と、それ以外の艦娘が使う艦載機は構成が異なっている。後者のほうが簡素な作りなのだ。

 

 

 今回那珂が東京都職員から借りた偵察機は、その装置を取り付けた、はたから見れば玩具同然の飛行機だ。調査用のためドローン化装置とカメラユニットがついているのが特徴だ。都の調査用のもののため、有効範囲は10kmほどしかない。高機能な物の場合は現代の無線通信規格が指し示す限界値の25kmという離れた場所にも飛ばせるようになっている。

 また、ドローン化装置は有効範囲の限界の4~5mにまで達したら、強制的に帰還するようになっている。それを超えると操作が効かなくなるための保護機能だ。

 

【挿絵表示】

 

 那珂は艦娘の艦載機、偵察機の運用方法を教科書と提督から借りた本数冊を読んだだけでまだ使ったことはなかったが、だいたい理解していた。それを艦娘用のスマートウォッチで認証し、情報を同期したあとその偵察機を飛ばした。

 

 偵察機から届く映像を那珂のスマートウォッチにつないだ透過モニターごしに見る那珂自身と五月雨、そして天龍・龍田。10kmより4~5m手前までの範囲では深海凄艦の影は見当たらない。

 方向を変えて10kmギリギリまで再び飛ばす。それでも見えない。

 

 三度飛ばす。三度目の正直という言葉通り、那珂は違和感のある影を見つけた。護衛艦のある位置から3~4km行ったあたりだ。日中なのと接続している外部モニタは小型かつ透過しているので見づらいが、深海凄艦特有の光る目をどうにか確認できた。それも複数ある。

 

「ここから南南東の方角かなぁ。かなりの浅いところにいるのかな?浅瀬になっているのかも。」

 那珂が確認した状況に予想を交えて言うと、天龍が反応した。

「よっしゃ!ここまではっきり場所がわかったんならあたしたちが確実に仕留められるな。よし龍田。うちのやつらに出撃準備させようぜ。」

 確かに出撃の頃合いである。那珂もそれに賛成した。隣艦隊の天龍と龍田はメンバーのところに戻っていった。

 

「那珂さん。私達も準備したほうがいいですよね。」と五月雨は那珂に同意を求める。

 それに対して那珂はコクンと頷き、那珂たちも仲間のところへ戻ることにした。

 

 

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 隣艦隊の6人が護衛艦から身を乗り出して、海面へと降りていく様子を甲板で見届ける6人。艤装と同調を始めて海上に出た隣艦隊の6人はほどなくしてスピードに乗りあっというまに護衛艦から離れていく。大体100~110mくらい離れたタイミングで、那珂たちも艤装の同調を開始し護衛艦から降りて海上へと出て行った。

 

 何もない海上で那珂たちからは隣艦隊の6人はかろうじて黒い点で目視出来る程度。やや曇ってきている。

「なんだか雨降りそうですね。天気の悪い日の戦いって初めて……」

 と五月雨が心配を口にする。那珂や五十鈴たちもそれに頷いた。

 

 

 目的のポイントに隣艦隊の6人が到着した模様。深海凄艦が出てきたのか、戦闘が始まった様子が伺えた。敵の集団は駆逐艦級x3、軽巡級x2、重巡級x1と、隣艦隊の戦力と同種類(実際には様々な生物の寄せ集めなのであくまで想定される戦闘能力の種類による分類)だ。

 

 五月雨は全員に合図し、予定通り3人ずつの分隊に分かれることにした。

 自信家でプライドの高そうな隣艦隊の天龍のことである。もし支援と称して目的のポイントでの戦闘に加わりに行ったら怒る可能性がある。そうすることで隣艦隊の和を乱す可能性があるので、那珂は五月雨に気になったとしても絶対に前に出るなと忠告して分かれた。

 

 隣艦隊の戦闘開始から十数分経った。まだ終わっていない。そこで隣艦隊の天龍から通信が入った。自分たちの艦隊の羽黒が攻撃を受け、艤装が大破したという。戦線離脱させるために護衛として迎えに来て欲しいとのこと。

 通信を受けた旗艦である五月雨は那珂にもその通信を転送し、どちらの分隊が行くかを相談した。那珂は五月雨らに行ってくれとお願いとも取れる、実質的には指示を出して五月雨たちの方の分隊を隣艦隊の側に行かせた。

 

 五十鈴、五月雨、村雨は距離を詰めて隣艦隊の戦闘海域まで近づく。向こうからは吹雪に連れられて羽黒が近寄ってきた。隣艦隊の羽黒は聞くところによると、今回が初出撃で練度が一番低い艦娘とのこと。

 

「すみません鎮守府Aの五月雨さん、うちの羽黒の護衛よろしくお願いします。」

 そう一言お願いして、隣艦隊の吹雪は戦線に戻っていった。

 

 羽黒は艤装が大破し、同調率が著しく下がっていて海上で浮かぶのがやっとの状態だった。そのため五月雨と村雨は彼女を両脇から支えて浮かぶのを手伝う。

 艤装の同調が安定していれば装着者の腕力や耐久力が向上するので、100kg程度の重さの物であれば、二人がかりでなら問題なく支え持って海上を移動することができる。

 

 一人欠けた状態で隣艦隊がやりきれるかどうか、五月雨は五十鈴に不安をもらす。彼女らが吹雪から聞いた戦況だと、出撃前の嫌味ではないが後方支援でもっと近づいて援護しなければ多分厳しいだろうと五十鈴は想像した内容を語った。

 

 

 羽黒の護衛と護衛艦への連れ戻しは村雨一人が引き受けることになり、五十鈴と五月雨は那珂たちと分かれたポイントまで戻ってきた。那珂たちはあれから隣艦隊のとの距離をやや詰めている。

 五月雨は那珂たちに通信し羽黒を護衛艦まで連れ戻したことと戦況を伝えると、那珂は後方支援のためもう少しだけ距離を詰めようと持ちかけてきた。五十鈴と五月雨もそれに賛成して左右横幅を保ったまま隣艦隊に近づく5人。

 

 

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 近づいていったその時、隣艦隊の5人の後方、鎮守府Aの5人の前方から新たに4体の深海凄艦が海中から浮上してきた。それをまっさきに確認した五十鈴と五月雨。

 

「背後から深海凄艦!?隣の鎮守府の人たち気づいてないわ!行くわよ、五月雨!」

「はい!頑張ります!」

 五十鈴が五月雨に合図する。一方離れた位置にいる那珂たちも深海凄艦に気づき、時雨と夕立に合図をした。

「あいつらをやっつけるよ。二人とも、準備はいいかな?」

「はい!やれるだけやります!」

「はーい!ワクワクするね!」

 時雨と夕立は違う反応を見せるが、戦いに対する意欲は同じだ。

 

 まだ村雨が戻ってきてない五十鈴では戦力的に不利と判断し、那珂は自分らが隣艦隊と距離を詰めて新手の深海凄艦と隣艦隊の間に入るようにすると指示を出す。時雨と夕立はそれに頷き、3人は速度を上げて進む。

 那珂からその旨通信を受けた五月雨は了解し、五十鈴に話して深海凄艦の集団の真後ろに来るように針路を横に向けつつ移動することにした。そのうち後方から村雨が戻ってきたのを確認した五月雨と五十鈴は3人に戻ったところで、改めて速度を上げて深海凄艦、そして那珂たちとの距離を詰めていく。

 

 五月雨から通信を受けていた隣艦隊の天龍は、自分らの戦況が好転していないからそちらは任せるとし、新手の深海凄艦の撃破は鎮守府Aの6人の任務とするように指示を出していた。

 

 

 

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 新手の深海凄艦は重巡級x1, 軽巡級x3と、数は少ないが那珂たちにとってはやや重量的に上の相手である。いずれも各部位が巨大化しており魚やカニの奇形、砲の発射管のようなものが融合されている個体もいる。

 

 

 深海凄艦はちょっとやそっとの銃撃や爆発を怖がらないタイプが多い。そして巨体に似合わず異常に小回りが効く動きをするため、普通の護衛艦の射撃や軍艦からの砲雷撃では当たらない。そして同調をした上での砲雷撃しか効果は望めない。同じように小回りが効く艦娘の武装でやっと対応ができる。しかし護衛艦などの普通の砲撃よりも艦娘の扱う砲弾や魚雷は小さく(圧縮技術により同程度の威力になるとはいえ)威力は低いため、数人の艦娘でそれ以下の数の深海凄艦を撃破するのが常となっている。

 

 深海凄艦の行動パターンは大体が体当たりや体液を放出して艦娘の服や艤装を溶かしたり破壊してくる。鎮守府Aのメンツも隣艦隊の者たちもまだ遭遇したことはないが、激戦の海域では人型の個体もかなり前から確認されてきている。人型は、どこかから奪ってきたとされる銃や砲筒を持っている。見た目がただ人に近いというだけで、明確な理性はなく人語をしゃべらないので紛らわしい。見た目を気にして人型の個体への攻撃をためらう艦娘も多い。

 

 

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 新手の4体を挟み撃ちの形で囲んで距離を詰めていく6人。横から大きく回りこんでいたので那珂たちはすでに深海凄艦に気づかれていた。那珂たちめがけて4体の深海凄艦が泳いで突撃していく。それをまずは単装砲、連装砲で威嚇射撃するように打ち込む那珂、時雨、夕立。

 向かいから進んできた五月雨たちは威嚇射撃の邪魔にならないよう、スピードを落として一定の距離を保つ。

 

「個体の戦力的にあたしたちのほうが不利だから集中して各個撃破狙うよ、いい?」と那珂は時雨たちに指示を出した。

 五月雨たちに対しては通信で自分らの行動方針を伝えるのみ。

「……ということだから、そっちも無理しないで確実な撃破を狙ってね。五月雨ちゃんの判断に任せるよ?五十鈴ちゃんは彼女の判断を助けてあげてね。」

「わかったわ。任せて。」と五十鈴。

 

 4体の深海凄艦は那珂たちのほうに向いていて五月雨たちのほうにはまだ気づいてない。五月雨は自分たちはどう行動するか悩んだ。未だ少ないが重要な経験を思い出し落ち着いて考えた結果、五十鈴のアドバイスもあり、那珂たちと同様に各個撃破を狙うことにした。まずは軽巡級。五月雨たちも1体の軽巡級めがけて威嚇射撃を行ない注意を引きつけた。

 その間、那珂たちはすでに軽巡級と戦っていた。

 

 

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 軽巡級の1匹が夕立めがけて突進してくる。

 今まで戦った駆逐艦級とは体の大きさが異なっていたため夕立は一瞬腰が引きかけたが、相手をよく見てかわした。突進してきた軽巡級が通り過ぎたのを時雨と那珂は確認してその個体に少し近寄って互いの単装砲と連装砲で狙う。鋼鉄のように硬い鱗がカツンカツンと砲弾を弾く音を響かせる。普通に砲撃したのではほとんどダメージを与えられそうにない個体だ。

 

「夕立ちゃん、雷撃を低めにお願い!」

 那珂が指示を与える。

「低めってどういうことぉ?あたしよくわかってないっぽい~!」

「夕立ちゃんの装備してる魚雷発射管なら、足はちょっと濡れるかもだけど、しゃがんで発射管を海面ギリギリにして撃つの。こうすることでエネルギー弾の魚雷はほとんど海中に潜らずに進むから相手を狙いやすくなるはず。

 こういう撃ち方は夕立ちゃんや時雨ちゃん、村雨ちゃんしかできないからお願い!」

「わかった。やってみるー!」

 

【挿絵表示】

 

 那珂の指示通り、夕立はふとももに装着している魚雷発射管を前方に向けつつしゃがむ。しゃがみすぎると艤装の浮力が効かない体勢になってしまうため片膝立ちが限界だ。立たせてるほうの足を伸ばして斜めになるようにし( /z のような体勢)、伸ばした方の足の魚雷発射管から魚雷を発射した。

 

 夕立が発射した魚雷は那珂のもくろみどおり、海面に非常に近い浅さの海中をさきほどの軽巡級めがけて進んだ。海中に深く沈むタイムラグがない分、スピードを出して軽巡級がそれに気づいてかわすよりも早く命中し大爆発を起こした。なお浅めで撃っていたため、爆発時におこる水しぶきは軽くて大量のしぶきが深海凄艦の方向に巻き起こっていた。

 その軽巡級のバラバラになった破片を確認すると、3人は那珂の周辺をうろうろしていた軽巡級にターゲットを切り替えた。

 

 五月雨たちも軽巡級の装甲に苦戦していた。しかし硬いところばかり思われた皮膚の隙間に柔らかい部分があるのを発見したのでそこを集中的に狙ってもだえ苦しませて弱らせたあと、五十鈴と村雨のW雷撃で無事に仕留めていた。

 

 一方で隣艦隊のほうの戦況は駆逐艦級は倒していたが、やはり相当硬い重巡級と軽巡級に苦戦していた。新手と彼女らが戦っている数合わせて、残り5体。重巡級x2, 軽巡級x3。

 

 

 そのとき、戦闘海域に雨が降り始めた。

 


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