同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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 それぞれの半日が終わり、宿でくつろぐ那珂達。残るは夜の館山湾の哨戒任務だ。それに参加する川内・時雨・夕立・村雨・不知火は館山基地にて神奈川第一鎮守府の艦娘と出会い、6人で夜の海へと消えていく。


夜間の哨戒任務

 体験入隊・訓練組、観艦式の練習組全員戻ってきたこと確認し、提督代理の妙高は号令をかけて一路この日の宿へと向かうことにした。

 ただ川内を始め一部のメンバーはこの日哨戒任務があるため、午後10時までには館山基地の本部庁舎前に集合する予定となっている。

 

 基地に近いとはいえ歩きではそれなりに掛かる距離に位置する宿に泊まるため、特別に基地から送迎の車が用意された。

 那珂たちが泊まる宿はなぎさラインから一本路地に入ったところにある民宿である。二階から館山湾が広く見渡せるその宿の中に案内された那珂たちは、希望通り二階の広間客室で荷物をおろし、腰をおろしてのんびりと寛ぎ始めた。

 

「はぁ~~。練習疲れたぁ~。ね、五月雨ちゃん!」

「エヘヘ~はい!なんだかクッタクタです。でも楽しかったですよ。」

 疲れが見えるのににこやかな笑顔を見せる五月雨に、夕立たちが絡む。

「ほぅ~。落ち着いたことだし、詳しく聞かせてもらうよぉ~。さみのことだから、ドジして神奈川第一の人たちに迷惑かけたっぽい?」

「もう~ゆうちゃん!私そんなにドジじゃないもん!」

「そうだよ、さすがにお隣の鎮守府の人との場でなんて。……本当に大丈夫だったよね、さみ?」

「……時雨、ちゃん。やっぱり時雨ちゃんも、そう思ってたんだ……。」

「あ、いや、その……なんというか、ゴメン。」

 夕立の軽口を叱りつつも、実は心配だったので確認する時雨。そんな時雨の余計な一言の心配で、五月雨はしょんぼりとしてしまった。

 

 ワイワイとする中学生組のそばで那珂は彼女らに話題を振るだけ振って机に突っ伏していた。そして会話相手は川内へと向く。

「どーだった、そっちは?」

「うん。結構楽しかったし充実してましたよ。なんといっても、ヘリに乗せてもらったのが一番ですね。」

「ほぉ~~~そりゃいい体験だぁ。空を自由にぃ~とーびた~いなぁ~。」

「ハハ。なんすかそれ。」

 那珂が昔どこかで流行ったか祖母から聞いたかもしれないフレーズを口ずさむと、川内はいかにも適当といった口ぶりで笑いながら反応する。二人ともつまりは真面目に会話する気がないダレた状態であった。

 

 仕事とはいえ今まで来たことがない地での宿泊は少女たちの心に高揚感を抱かせた。

 風呂は温泉ではないが、いつもと違う環境ということで多少狭くてものんびりと浸かり、食事は海の幸を堪能できて心身ともに癒やし、少女たちはしばしのどかな時間を過ごす。

 哨戒任務に携わる川内・夕立を始めとする艦娘たちは、来る仕事に備えて仮眠を促されるが、そんなことなぞ聞く耳持たんとばかりに約二名は時間ギリギリまで遊びに興じていた。

 

 

--

 

 集合時間間近になり、哨戒任務をする川内・夕立・時雨・村雨そして不知火は残る那珂たちに挨拶をして宿の外に出た。9時40分、辺りは完全に夜の帳が降り、小さな街灯が闇に光を照らす。時々なぎさラインを車が通り過ぎる音がブロロと響かせるのみの静けさだ。

 

「よっしゃ!夜だ!ついにあたしの艦娘の能力、スペシャルスキルを発揮するときがきた!」

「スペシャルスキルっぽい!あたしもあたしも!」

「それじゃあ、行ってきます。」

「行ってきまぁ~す。」

「(コクリ)行って、来ます。」

 興奮する川内と夕立を抑えながら時雨・村雨そして不知火が静かに挨拶をすると、那珂が一言プラスして返した。

「うん。頑張ってね。時雨ちゃん、村雨ちゃん、不知火ちゃん。川内ちゃんのおもりお願いね?」

「ちょっとおぉ!何言ってるんですか那珂さん!旗艦はあたしでしょ!?」

 憤る川内のツッコミを、ケラケラ笑いながら那珂はヒラリヒラリとかわしまくる。五月雨や時雨たちはそれを見て微笑み、これから出動する自身の緊張を解きほぐした。

 

「それじゃあ川内さんたちを送ってきますから、待っていてくださいね。理沙、二人のことお願いしますよ。」

「うん、わかった。おねえ……姉さんも皆さんも気をつけて。」

「「いってらっしゃーい。」」

 子どもたちの夜道の安全のため妙高付き添いのもと、川内たちは館山基地へと向かった。

 

 

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 基地に到着した川内たち5人は昼間に接した人見二尉、そして神奈川第一鎮守府の村瀬提督と出会った。彼らは一人の少女を脇に控えさせ、本部庁舎のロビーにいた。

 彼らは妙高の姿を確認すると、ゆっくりと歩みを進めて近寄ってきた。川内たちが反応するより先に妙高が話しかけて挨拶をする。

「お待たせしてしまい申し訳ございません。ただいま参りました。千葉第二局長代理の重巡洋艦艦娘、妙高です。」

「よろしくお願い致します。」

「よろしくお願い致します。」

 村瀬提督続けざまに人見二尉が妙高に挨拶を返す。語勢そのままに村瀬提督が続ける。

「そちらの五名が夜間の哨戒任務につく娘たちですか。こちらからはこの駆逐艦暁を協力させたいと存じます。ホラ暁、ご挨拶をなさい。」

 そう言って村瀬提督が少女の背中をポンと押すと、その少女はやや嫌がった素振りで一歩前に出てきた。

 

「んもう司令官! 言われなくても今挨拶しようと思ってたんだからね! あ、えと……初めまして。神奈川第一鎮守府所属、駆逐艦暁です。よろしくね!」

 

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 と見るからに無理して張り切って意気込むその少女は、初対面の川内たちに対しても臆することなくまっすぐ視線を送る。

 その体格たるや、鎮守府Aのメンツの中で一番小柄と思われる五月雨よりも小さい。川内以外は真っ先に頭の中で比較して心の中で苦笑いするだけにした。

 そんな脇で、ある意味夕立の上位互換たる川内はズバリ言ってのけた。

「うわっ、なに?ちっさ。小学生?」

 

 川内の声が響き渡り、シーンと辺りが静まり返る。言われた本人はポカーンとするが、すぐにワナワナと震える。顔は誰がどの位置から見ても真っ赤だ。

「な、なんてこと言うのよー! あたしは艦娘になって今年で2年目なんだから、経験豊富なのよ。それに中3なんだから。来年高校生よ、高校生! あんたこそ誰よぉ!!」

「暁。落ち着きなさい。お姉さんがはしたないぞ。」

「う……だってだってぇ!」

 川内に突っかかろうとする暁を落ち着けるべく村瀬提督は少女の肩に手をかけてやさしめに諭した。向かい側では妙高が川内の肩に手を置いて母親のように厳しく叱る姿があった。

「川内さん、あなたはこの中で一番のお姉さんでしょ? 相手の体格等の特徴を真っ先に口にするのは感心しませんよ? 暁さんに謝りなさい。」

「え……あ、はい。」

 普段優しい笑顔と雰囲気しか見せたことがない妙高が笑顔50%マイナスで川内に注意を促す。川内はお艦の怖い一面を見て軽く身震いし、すぐに態度を変えた。

「ゴ、ゴメン。いきなり変なこと言って悪かったよ。あたしは軽巡洋艦川内。リアルじゃ高校一年。よろしく、ね。」

「き、気にしてなんか!! う……まぁ、私も大人気なかったわ……って、あんた高校生なの!年上!?」

 暁は受け答えする感情をコロコロ変えて反応し、川内が年上と分かるや更に態度を変化させ、しまいにはモジモジと悶えおとなしくなってしまった。

 それを見た川内は自分の言ったことをまだ気にしているんだな、としか思わずにいた。さっさと自分が失態の話題から離れるべく、大人達に話題を譲るため妙高を急かした。

 

「そ、それじゃあさ、早く任務の話!しましょうよ!」

「んもぅ川内さんったら……。仕方ない人ですね。」

 

 挨拶もほどほどに一行は本部庁舎を後にした。

 

 

--

 

 人見二尉に案内され一行は艤装を保管してある施設に立ち寄り、各自の艤装を装備して自衛隊堤防に足を踏み入れた。

 そこで人見二尉が皆に促した。

「ここから先は艦娘制度上の話になるので、細かい調整はそちらにお任せしますが、海自からは私が通信の責任者となります。旗艦の川内さんは、通信機およびアプリは大丈夫ですか?」

「もちろん。大丈夫です!」

「定時連絡を忘れないよう、お願いします。」

 

 その次に村瀬提督が説明をし始めた。

「改めて。君たちと行動をともにしてもらうのは暁です。館山基地の周辺哨戒を受けたのは一応うちということになっているから、形としてうちの艦娘にいてもらわないと後の監査等で面倒なのでね。彼女は出撃経験が多くて戦績も安定している。上手く使ってくれれば幸いだ。」

「もう司令官!使ってくれって何よぅ。艦娘としては私が一番のお姉さんなのよぉ。」

「はいはい。……ということだから。少し我慢してくれ、な?」

「そ、そういうことなのね。うん、だったら仕方ないわ。なんたって私が一番経験年数上なんだものね。」

 村瀬提督は小声で暁に何かを言うと、暁はやや得意げな表情を作り、納得した様子を見せておとなしくなった。

 川内たちはやや釈然としないながらも、暁のことは気にせず話を聞き続けることにした。村瀬提督から哨戒の詳細が紹介された。

 

 

「哨戒はこの館山湾全域をお願いしたい。館山湾は対深海棲艦用の海中の網が敷かれているため、網の内と外、二つの海域が対象だ。」

「あ~あの遠くでピカピカ光ってるやつが金網があるところなんすか?」

 と川内が夜目を利かせて確かめると、村瀬提督はコクンと頷いて続ける。

「あぁ、そうだよ。それで今回は0時まで2時間やってもらうことになる。それ以上は艤装装着者制度といえど労基法にひっかかる。」

「労基法って?」

「なにっぽい?」

 川内と夕立の示し合わせたような質問の仕方に一同は苦笑する。それに最初に答えたのは時雨だ。

「はぁ……二人ったら。労働基準法のことだよ。あれ、でも……僕ら未成年は夜10時までしかダメなのでは……?」

 自分で答えておきながら疑問を感じた時雨は視線を妙高と村瀬提督らに向ける。やや特殊な事情が含まれるため人見二尉は口をつぐんだままでおり、村瀬提督が説明を加えた。

 

「君たちが細かく知らないのも無理はない。労働基準法で18歳未満は10時以降は働かせられないのが通常だが、艤装装着者制度の特別法で、制度上の各地方局の管理者つまり提督の許可がある場合、就労に携わる集団の上長つまり旗艦が16歳以上の場合、上長含めその集団の構成員は年齢問わず0時までの緊急の就労が可能。該当の時間以降は未成年は禁止と決められている。だから今回はそちらの川内担当の君が16歳ということがわかっているから、0時まで可能ということになる。あとは当初の予定どおり、レーダーやソナーによる館山基地からの自動警備体制に切り替える。そこまで、西脇君と話をすりあわせて決めている。」

 

 聞いてもよくわからんという顔をする川内と夕立は放っておき、時雨や村雨らは自分たちだけでもしっかりせねばと使命感を感じ、村瀬提督の説明をしっかりと心に留めて相槌を打った。

 

 

--

 

 一通り必要な説明が終わり、最後に妙高が5人に優しく声をかけてきた。

 

「それでは皆さん。西脇提督の代わりに、私から一言。気をつけて行ってきてくださいね。みんなの任務が終わるまで、私も本部庁舎で待ってますから。」

「いえいえ。妙高さん、あなたは宿に戻ってくださっても結構です。私が責任持ってそちらの艦娘たちを見送りますので。」

「いえ……提督から代理を仰せつかっている身としては、子どもたちを残して私だけ帰るのも……。」

 妙高が言い渋ると、目の前の夫人を気にかけた村瀬提督と人見二尉が食い下がろうとする。大人のかけ合いが始まったが、心配の大元たる川内たちは大人のすることなぞ我関せずと言った様子で、これから任務を開始する上での心の準備を互いにし合っている。

 

 譲り合い・気に掛け合いが終わらなそうと分かるや、業を煮やした川内が一言挟んだ。

「あぁもう!妙高さんそんなに心配しないでいいってば!あたしたちちゃんとやって無事に帰ってくるからさ。あたしと夕立ちゃんがいれば、深海棲艦だってバッチリ見えるんだからさ。」

 そう言う川内のセリフを聞いてもまだ不安と責任感で釈然としない妙高だが、これ以上の問答は子どもたちのやる気を削ぐかもと察し、ひとまず引いた。

「はぁ……。それでは信じてますよ。暁の水平線に勝利を。」

「はい。」

 川内たちは出撃時に聞くいつもの掛け声を妙高から聞いてそれを胸にしかと刻み込む。その脇で「えっ、なに呼んだ?」「気にせず控えてなさい……。」というやり取りがあったが、気分が乗っていた鎮守府Aの面々は気にしてしまうという無粋なことはしなかった。

 そして夜もふけきった館山の海にさっそうと飛び込んでいく。妙高らは、彼女らの存在を示す艤装のLED点灯が闇夜に完全に溶け込んで見えなくなるまで眺めて見送った。

 

 

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 川内が先頭を進み、残り5人が後を進む。他の鎮守府の艦娘が一人混ざっているため、自分のところの速力区分や航行の号令は使えないと判断した川内は、とりあえず旗艦の自分の数歩分後を保って来いと指示を簡単に出すのみにしておいた。

 とはいえ、時々各自のスマートウォッチを確認させることも忘れない。ことゲームにおいて、ステータス画面を見て自分の強さに惚れ惚れするもとい認識しておくのは重要だと、川内は普段のゲーム経験でわかっているためだ。

 

 自衛隊堤防からしばらく進んだ後、川内は合図をして一旦停止した。

「よっし。網の内と外やらなきゃいけないみたいだから、二手に分かれよう。異存はない?」

「はーい。大丈夫っぽい!」

「はい、問題ないです。」

 夕立と時雨に続き、村雨たちも返事をする。

 

「それじゃあ、旗艦のあたしは網の外だ。んで、夕立ちゃんと時雨ちゃん、ついてきて。」

「わーい!川内さんと一緒!一緒!」

「え。(ますみちゃん、ちょっと……)」

「はぁ……ちょっと、待ってもらえますかぁ?」

 

 川内の指示に飛び上がるほど喜ぶ夕立とは対称的に、時雨は首を傾げて村雨に小声で何かを言うと、村雨が口を挟んだ。

「ん、なによ村雨ちゃん。」

 自分の指示に文句があるのかと、やや不満げにぶっきらぼうに村雨に迫る。しかし村雨は一切臆さずに答えた。

「あのですね、川内さんとゆうは、暗くても深海棲艦が見える能力ありますよね。その二人が同じチームになったら、残りのチームは実質的には哨戒は無理です。どちらかには別チームに移ってもらわないと。」

「それは、確かにそうだね。」

 と示し合わせたように間髪をいれず相槌を打つ時雨。

 

 村雨の説明を聞いてしばらく頭を悩ませたが、ハッとして気づいたのか、川内は訂正した。

「あ、そっか。そうだよね。ゴメンゴメン。あたしついついゲームのノリでさ。同じチームに同じスキル持つメンバー入れて効果2倍!ってな感じで。だって主人公は強くなきゃいけないじゃん?」

「はぁ……川内さん。真面目にやってくださいよぉ。現実なんですから。」

「だからゴメンってば村雨ちゃん。それじゃあ夕立ちゃんは村雨ちゃんと不知火ちゃんとでお願いね。あたしは時雨ちゃんと暁で組むわ。」

「了解致しました。」と不知火。

 

「ふえぇ!?あ、あたしはあんたとなのぉ!?」

 鎮守府Aの面々の輪に入れずにまごついていた暁がアタフタと反応する。

「えぇそうよ。なんか文句でも?」

「う……別に、ないけどぉ。」

 モジモジとする暁の反応を川内はもはや気にせず、全員に合図をした。

 

 

「よっし、それじゃあ改めて。あたしたちは網の外を行くから、夕立ちゃんたちは網の内をお願いね。今からえ~っと、20分くらいしたらそこにあるライトに一旦集まろう。」

 そう言いながら川内が指し示したのは、深海棲艦対策用の海中網と探知機のある位置を示す警戒灯が埋め込まれたブイだった。指示された全員はスマートウォッチで現在位置を確認し合う。

 川内隊と夕立隊は分かれ、それぞれの海域を哨戒し始めた。

 

 

--

 

 10分ほど、網の外側を自由気ままなコースで動いていた川内は、すでに飽きていた。川内は後半になると、移動しながらあくびをしたり、肩や首をコキコキとならして見るからにあからさまな態度になっていた。

 時雨と暁は一応旗艦は川内なため、一定間隔空けて川内の後ろに付き従って移動していたが、さすがに川内の態度が気になってきた。

 

「ちょっと川内。真面目にしなさいよね。それでも高校生なの?」

 そう暁が不満げな口調で文句を言うと、川内は上半身だけ後ろに向けながら言い返した。

「はぁ? あんた何言ってんのよ。今この仕事と高校生は関係ないでしょ。」

「高校生ってもっとしっかりしてるのかと思ったのよ。あんたは反面教師だわ。」

「イラッとするなぁこのガキ。小学生!」

「あ~!また言ったぁ! ムカつく!あんたと一つしか違わないでしょぉ!」

 

 すでにこれまでの航行速度から大分落ち、非常にゆるかな速度で激しく言い合う川内と暁。残された時雨は物理的にも頭を悩ませていた。

 この二人のお子様をどうなだめて任務に戻ろうか?

 仮にも年上の二人、片方はよその鎮守府の艦娘、さすがの時雨でも条件が厳しいだけに頭が痛くないわけがなかった。

 

 

--

 

「どうだったそっちは?」

 20分経ち、一回目の集合で6人はそれぞれ報告しあっていた。川内が尋ねると、夕立たちはサラリと答えた。

 

「えぇ、問題ありませんでしたぁ。」

「うん。おっけーっぽい。」

「敵影は認められませんでした。」

 

「こっちもまぁ大丈夫だったよ。ね、二人とも。」

「はい。特には。」

「問題なかったけど、旗艦には問題アリアリだったわ。」

 

 最後に一言述べた暁の言い方にカチンときた川内は飛びかからんばかりにすぐさま暁に言い返す。

「あんた一言多いのよ。だからガキなんだってば。」

「ムッカァ~! 問題あったのは事実じゃないのよぉ! 艦娘歴が1年越えてるあたしから言わせてもらえばね、あんなの哨戒でもなんでもないわよ。単なるお散歩、お遊びよ。」

 キャリアとそれなりの口ぶりをちらつかされると、言い返せない川内はわずかに食い下がる力を弱めて反論した。

「そ、それじゃあホントの哨戒ってのどうやるか、教えなさいよ。ぶっちゃけね、あたしは今月基本訓練終えたばっかの軽巡なの。この新人に教えてほしいもんだね。経験豊かなお姉さんなら説明できるんでしょ?」

「あんた新人だったの!? 態度でっかい新人ね……。まぁいいわ。そういうことなら、キャリアでは一番のお姉さんのあたしがあなたたちを指導してあげるわ。ぜひとも頼っていいのよ。」

 

 暁が胸元に手を当ててやや胸を張りながら言うと、川内は嘲笑の意味を込めて軽く拍手をしてこれから語られる説明を待ち望んだ。

 しかし目の前の暁は川内の態度の裏を微塵も疑っていない。

 いざ暁が説明を始めようとした手前、夕立がいきなり叫んだ。

 

「あー!なんかいるっぽい!川内さん、あそこあそこ!」

「えっ、どこ!?」

 

 夕立が気づき指し示した先は、網の向こう側のはるか先だった。当然、川内と二人しか見えないので時雨たちは二人の反応を固唾を呑んで見守るしかできない。

「うーん、かすかに、緑黒っぽく見えるね。かなり小さいから、結構遠いんじゃない?」

「確かにそうっぽい。あたし見えるけどどんくらい離れてるとかさっぱり。ねぇねぇ、時雨たちは?」

「いや……僕らはそもそも見えないから。」

「緑黒っぽい光でしょ?まったくよ。」

「不知火も。見えません。」

 

 鎮守府Aの面々が語り合っていると、一人前提すらわからない暁が話に割り込もうとして川内に邪険にあしらわれた。

「ちょっとちょっと何よ! あなた達何言ってるの?あたしがこれから哨戒の正しいやりかたを

「あぁうるさい。ちょっと黙っててよあんたは。」

 

 唖然とする暁をよそに川内たちは、見えたはいいが距離や方角等、どう確かめて行ってみるかを話し合うことにした。

 一人仲間はずれになった暁はワナワナと身体を震わせ、なんとか話の輪に入れてもらおうと忙しなく5人の周りを行ったり来たりし始める。

「ねー、ねー!どういうことなのよぉ~。あたしにも教えてよぉ! 今は同じ艦隊の僚艦でしょぉ! あたしだけ仲間はずれなんて、あとで司令官に言いつけてやるんだからね!?」

 

 小さい子がママ(パパ)に言いつけてやる、と駄々をこね暴れるその様を想像したのは川内だけでなく時雨たちもだった。

「わーったよ。話してあげるからしつこく聞かないでよねガキ。」

「ムッカァ! またガキって言ったぁ!」

「はぁ……川内さん。いい加減にしてください。話進めましょう。」

 時雨のため息混じりのツッコミが響いた後、ようやく真面目な打ち合わせが始まった。


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