同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

150 / 213
 その日、長良と名取の着任式が行われた。同級生が同型艦・姉妹艦になれたとあって五十鈴の表情は柔らかくそして決意の固さが垣間見える。その日、脇役な川内型の三人は目の前の新人の着任式に様々な思いを馳せた。


長良型の着任

 艦隊運動の訓練を始めてから数日後、長良と名取の着任式が開催された。

 自身の姉妹艦にリアル友人の二人が同調に合格し着任するとあって、五十鈴は試験後から二人のサポートに右往左往していた。

 五十鈴は訓練には参加できない日が続いたが那珂および神通と時雨がこまめな連絡を入れたおかげで、練度は別として訓練の構築に関わる状況は知識としてほぼリアルタイムで共有できていた。

 

 着任式は正午手前に開催となった。その日の訓練は自動的に午前なしである。

 そのために那珂は、着任式が始まる時間の1時間ほど前に鎮守府へと入った。もちろん川内と神通三人揃ってのんびりとした鎮守府入りだ。

 待機室に行くと、そこには自分らが知らぬ(人物としてはすでに知っている)姿の二人がいた。プラス、その二人から数歩離れた場所には五十鈴がいる。

 そんな三人の回りを五月雨たち駆逐艦らが囲んでワイワイとはしゃいでいた。

 

「あ、那珂さ~ん!川内さん、神通さん!見てくださいよ~!」

 待機室に那珂たちが姿を表すと、すぐさま五月雨が声をかけてくる。彼女が指し示したい存在はすぐにわかるが、念のため尋ねてみた。

「ん、どーしたのかな、五月雨ちゃん?」

「じゃ~ん!黒田さんと副島さんの、ついに艦娘の制服バージョンですよ!すごいですね~。」

 両手で二人を指し示し、誇らしげな表情を浮かべる五月雨。なんで君が自慢げなの……とツッコミたかったがそれは野暮だろうと、ツッコミ魂を飲み込んで五月雨の言葉を素直に受け入れることにした。

「お~~!りょーちゃん!みやちゃん!凛花ちゃんとおそろ~!」

「アハハ~ありがとーなみえちゃん!」

「あ、ありがとうございます、なみえさん。」

 那珂は二人に駆け寄り、両手を合わせあって喜び合う。良と宮子は那珂に向かって本名で呼んで柔らかい感謝を示す。

 そんな先輩の姿を目の当たりにした川内と神通は、いつのまに五十鈴の友達と仲良くなったのだろうと首を傾げる。

 

 そんな後輩二人の目の前で那珂は五十鈴・長良・名取ら三人と同学年同士でしばらく雑談していた。

 しばらくして五十鈴たち三人と五月雨・時雨は提督に呼ばれて待機室を出て行った。そろそろ着任式が近い。そう感じたのは呼ばれて出て行った主役の二人+一人以外も同じだ。

 

 

--

 

 川内と神通は五十鈴に率いられて出て行く長良と名取の後ろ姿をボーッと眺めていた。その背中、そして立場。つい1ヶ月程前は自分たちだった。自分たちこそが主役で、誰からも注目される期待の星だと高揚感を感じていたあの時。

「あの……川内さん。」

「なぁに?」

「なんか……不思議な感じ、しませんか?」

「ん~、やっぱ神通も?」

「もってことは、川内さんも感じていたんですか?」

 川内は神通からの問いかけに鼻を鳴らしながらエヘヘと微笑して答えた。

「うん。ちょっと前はさ、鎮守府に着任した新人はあたしたち二人で、注目されるある意味スターとかアイドルだったじゃん。それが今や次の新人さんを迎え入れる立場なんだよね。なんていうんだっけ、こういう時にふさわしい言い方。」

「感慨深いとか、です。」

「そうそう、それそれ。なんかさ、あたしたちまだまともに戦えないのに、新人来ちゃっていいのかねぇって、そう思わない?」

 そう言って川内は今まで扉に向けていた視線を始めて自身の隣にいた神通に向ける。その視線の移動にすぐに気づいた神通は川内をやや見上げる形で視線を絡めて返した。

「はい、うかうかしてると、長良さんたちに、追いぬかれちゃいそうです。」

「そーそー。それが不安なんだよね。しかもあの二人那美恵さんや凛花さんと同じ学年じゃん。先輩だよ先輩。余計な気苦労増えるの嫌なんだよね~。」

 そう川内が言うと、神通がその言い方がツボに入ったのか、クスッと笑みをこぼした。意図せず神通の笑いを誘い、笑顔を生み出すことに成功した川内はつられて笑顔で返した。

 

 クスクスと笑い合っていると、遠巻きに夕立が自身を見ていることに川内は気づいた。そして当然の反応として、夕立が声を上げて駆け寄ってきた。

「あ~、川内さんの笑い顔ひっさしぶりに見たっぽいー!」

「うおっ、なにさ?」

 自身の意図せぬ面に変なタイミングで話題に触れられるのが苦手な川内は焦りを見せる。そんな川内の行動のタイミングなぞ気にしない夕立はすぐに言葉を続けた。

「だってさ~、ちょっと前まで川内さんってば、朝は無表情かちょっと変な笑った顔、夜はしかめっ面だったっぽい。見てて面白かったけど、あたしとしてはなんかヤだな~って思ってたの。でも今日は朝からニコニコであたしもなんか嬉しいの!」

「うあ~、夕立ちゃんってば意外と人見てるなぁ~。恥ずかしいけど、なんかありがとね。」

「エヘヘ~なんかわからないけど、どーいたしまして~!」

 夕立の言の捉えどころがわからず苦笑しつつ首をかしげる川内。しかし自身をよく見てくれ、それなりに心配してくれている人が(那珂や神通以外に)いたことに心の中でホッとし、恥ずかしげながらもカラッと明るく返すのだった。

 五十鈴ら長良型の3人が出て行った後の待機室、那珂たちはその後内線で提督と五月雨から呼ばれるまでおしゃべりを楽しんだ。

 

 

--

 

 そして着任式が開かれた。その場所は川内・那珂・神通、そして時雨たち既存の艦娘たちなら誰もが経験済みの場所、本館のロビーである。

 提督が挨拶と儀礼的な言葉を長良となる黒田良、名取となる副島宮子に投げかける。二人の間には五十鈴こと五十嵐凛花が立っている。その構図は那珂たちと全く同じである。つい1ヶ月近く前はあの場に自分たちが立っていて、鎮守府Aの皆に迎え入れられていた。そんな自分たちが今度は新たな艦娘を迎え入れる立場になっている。

 

 那珂はそれが面白おかしく、そして人のつながりが増えることに心躍る思いで眺める。

 

 川内は気楽にやれた新人としての自分の存在が薄く弱くなっていくことに恐々としていた。社交的な性格ではあるが、那珂ほど誰とでも仲良くなることができる質ではなく、人の好き嫌いが激しい川内は、新たな艦娘を100%の喜びで迎え入れられない。

 

 そして神通は、先ほど川内が言った“(学年的な)先輩が増える・余計な気苦労が多くなる”言葉を思い浮かべ、それを先ほどよりも現実味ある感情として抱く。しかし新たな出会いが全てが全て不安というわけではない。艦娘にならなければ、おそらく今頃は唯一の友人、毛内和子と密やかに遊ぶ程度が自身の社交性の限界であった。そんな仮定と比べると、今のなんと世界観の広いことか。

 自分が変わったという見方では自身が持てないが、周りが変化していくことで、自身が変わったような錯覚を得る。それは満足できる錯覚だ。

 

 不思議な感覚が取れない。面白い。

 

 神通は自然と両手を胸のあたりに出し、パチパチと手の平同士をぶつけて賞賛の音を発し始めていた。その時は提督のいつものキメ台詞が決まり、長良と名取となる少女らを一同が迎え入れるアクションを取るまさにそのタイミングだった。

 結果的に、神通は誰よりも早く率先して拍手を投げかけていた。

 

 神通に続き、那珂が拍手する。神通の率先した拍手に驚いた川内は他の艦娘たちが拍手し始めてからようやく続く流れとなった。

 パチパチと四方八方から歓迎の音が響き渡るロビーの間で、既存の艦娘らの輪の中にいた三人が意気込みを述べた。

「ありがとー!皆さん!あ、先輩か。先輩方~!長良としてあたしがんばりまーす!」

「あの!あの!名取として頑張ります。皆さんの足を引っ張らないよう努力します!よろしくお願いしますー!」

「皆、私の親友であり、姉妹艦であるこの二人を、どうかよろしくお願いします。」

 

【挿絵表示】

 

 最後に言葉を締めたのは五十鈴だった。二人のしゃべりの至らなさをかばうようにしゃべるその様は、真面目な彼女らしい。

 さすがの那珂もこの場では軽口を叩いて茶化すようなことはせず、その代わりニンマリとした含みのある笑顔で五十鈴を見るに留めた。

 

 

--

 

 ロビーでの着任式が拍手喝采のうちに締まり、本館内はいつもの静けさを取り戻した。今回は取り立てて特別な意味を持たない通常の着任として提督が捉えていたため、前回川内たちがもてなされたような食事会としての懇親会はなかった。

 それでは当事者に悪いと感じたのか、提督は五十鈴ら三人を呼び寄せ、夕食の約束をとりつけて三人を喜ばせた。

 もちろん那珂たちはあずかり知らぬ話である。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。