同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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出港

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 護衛艦の中では基本的にはそれぞれの鎮守府のメンバーで固まって過ごす。合同の任務のため作戦会議がある際は鎮守府Aからは旗艦五月雨と那珂が、相手からは旗艦天龍と龍田がその場に集まった。

 今回の任務はあくまで隣の鎮守府が主体なので、相手の天龍から作戦の説明があり、たまに補足として東京都の職員が口をはさむ程度であった。なお相手の龍田はまったく口を開かない。

 

 事前に東京都の調査により、深海凄艦が集結しているとされるポイントは大体絞りこまれていた。そのため単純にそこに向けて隣の鎮守府の艦隊6人(以後「隣艦隊」)で進撃、彼女らから離れて鎮守府Aのメンツがついてくるという作戦で行くという。順当にいって彼女らが深海凄艦を撃破すれば、鎮守府Aの一同が活躍する出番はなく終わる。

 

 

 相手の進め方を聞く。五月雨は那珂に耳打ちしアドバイスを求める。那珂がアドバイスしたとおり鎮守府Aの艦隊の作戦中の動き方を説明した。相手の出方を聞いて那珂が瞬時に思って五月雨に伝えたのは次の行動だった。

 

 隣艦隊から離れて追従する際、真後ろではなく、左右に3人ずつ分かれて従う。

 那珂の目的は、隣艦隊が撃破しそこねた深海凄艦を片方ずつで撃破、あるいは左右挟み撃ちで撃破するというものであった。もちろん那珂は相手の性格や様子を伺うため、目的の真意までは五月雨に言わせなかった。

 

 しかし相手側はあまり鎮守府Aのことには興味がない様子を見せる。隣艦隊の天龍は相当自信があるようで、自分らが全部撃破するから現場でのその他の行動は全部任せると言う。一方の龍田は那珂たちを見ようともしない。大人しい人なのか、天龍と同じく那珂たちに興味がないのか、その程度しか判別つかない。

 

 

 那珂や提督からあなた(君)は鎮守府の別の顔だから売り込んでおけと言われていた五月雨は、なんとか自分らを意識してもらおうと食い下がって自分たちの考えた作戦行動をもう一度説明しようとする。

 

「あの……!でも!もしそちらが撃ち漏らしたら大変ですし。こうすることで私達もやっと支援できますので!」

 

 

 だが彼女が発したこの一言が、相手の気に触れてしまった。

 隣艦隊の天龍は机をバン!と叩き、五月雨に対して威嚇するように怒りを込めて反論した。

 

「おい、あんたさ。あたしらが責任持って撃退するって言ってんだよ。それが信用出来ないってのかよ!?見たとこあんた中学生だろ? あたしは高校生、年上! それに艦娘としても練度たけーんだよ。

 経験少ねぇ駆逐艦が旗艦の鎮守府はこれだから……どーせ提督もたかが知れてるんだろうな。こっちこそあんたらを信頼できなくなるってんだ!そもそも支援ってのは……」

 

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 さらに続けようとする天龍のスカートをクイッとひっぱり、龍田が何か耳打ちして止めた。荒ぶろうとしていた天龍がピタリと止まる。天龍はチッと舌打ちして苦々しい顔をするがもう度が過ぎる反論をする気はなかった。

 打ち合わせは終わりとして早々に部屋を出て行く天龍。無言で五月雨と那珂に謝罪の意味を込めたお辞儀をして静かに部屋を出て行く龍田。そんな二人を見届けた五月雨と那珂は数秒前まで作戦室だった、護衛艦のその部屋に取り残された。

 

 その直後、五月雨はぐすっと鼻をすすり涙声になって那珂の胸に飛び込んだ。これまで人に怒鳴られたことがなかった彼女にとっては、相手の気に触るような発言をしてしまったとはいえ、突然相手に怒鳴られてやり込められて相当ショックだった。

 

「よしよし。落ち着いてー。もう大丈夫だからね~。何もあんなに怒鳴ることないのにねー。」

 那珂は五月雨の頭を撫でて慰める。その心中では、天龍がちらりと言った「提督もたかが知れてる」の発言に怒りを覚えていたが、表面には出さなかった。

 

 

 

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 作戦室だった部屋を出て鎮守府Aの他のメンバーが待機している部屋に戻ってきた二人は、作戦の全体と自分らのすべき行動を残りの4人に伝えて確認し合った。

 特に問題ないので全員賛成で内部の打ち合わせは終わった。なお、実行時の分隊のメンバーは次のようになった。

 

・左:五十鈴、五月雨、村雨

・右:那珂、時雨、夕立

 分離するタイミングは隣艦隊の6人が進んだ後、旗艦五月雨の判断に一任された。

 

 時雨はふと、五月雨の目尻が赤くなっていることに気づいた。

「ねぇさみ。目がちょっと赤いけど何かあったの?」

「え?うー、えーっとね。」

 

 五月雨が言おうかどうか迷っていると、那珂がフォローに入って代わりに説明した。

「ちょっとね。あたしのサポートが足りなくて、相手の天龍さんに怒鳴られちゃったんだ。五月雨ちゃん、びっくりしちゃったよね。ゴメンね~」

「そうなんだ。あの天龍さん見るからに怖そうだったもんね。さみ大丈夫?」

「……うん。もともと私の不注意だったんだし、でも那珂さんがいたからもう大丈夫!これもお仕事だもんね。」

 明らかに空元気のガッツポーズをする友人を見て時雨は思うところはあるが見守ることにした。

 

 あとで一部始終を那珂から聞いた五十鈴は、やはり仲間思いの部分があるのか、ひっそりと提督の悪口を言われたからなのか。だったらガンガン撃破しそこねてもらって、ぐうの音も出ないほど自分らがきっちり後始末してあとで嫌味を言ってやろうじゃないの、と言った。同じ気持だったのか、那珂もそれに賛成して首を縦に振った。

 


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