同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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 緊急出撃後の鎮守府。急を要した戦いを経て、提督も那珂たち艦娘も、教育・訓練の大事さをひしひしと感じた。次なる戦いに備えるべく、教育体制強化を模索し始める。

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鎮守府の日々3
出撃以後


 緊急の出撃任務が終わり、那珂たちは早朝の5時ごろようやく布団に入り安眠を得ていた。前日布団に入って寝ようとしていた頃の眠気や感覚よりも、遥かに気持ちが良い眠りとなっていた。それは那珂だけでなく川内や五十鈴、五月雨ら7人も同じだ。誰もが一仕事終えた後の心身の疲れの癒やしを改めて実感できる一時である。

 

 そんな中、提督や明石・妙高は少女たちの出撃任務の事後作業を行っていた。時間にして10時すぎ、少女たちはまだ深い眠りについていた頃、提督は隣の鎮守府の提督、つまり深海棲艦対策局および艤装装着者管理署の神奈川第一支局長から先の非常事態についてビデオ電話越しではあるが謝罪と説明を聞いていた。

 非常にダンディな声と佇まいで何度も平謝りする隣の鎮守府の提督の言葉と姿に、西脇提督は逆に申し訳ないと萎縮していた。正直な所、日曜の朝から自分より年上のおっさんの姿なんか見たくねぇよと心の中では愚痴っていたが、これも艦娘制度内つまり国の仕事の一環なので我慢して聞く。今回は隣の鎮守府が全面的に悪いことがわかっていたので少しだけ妙な優越感に浸りながら西脇提督はその時間をやり過ごす。

 

 2080年代ともなると、ビデオ電話はただ相手の映像を見合って会話するのではなく、実用化されて久しい3D空間カメラでスキャンした相手の映像を自分側の電話の先の任意の位置に投影して、あたかも対面している可能に会話ができる仕組みが完全に一般化されていた。ただそれでも本来いない相手とのホログラム越しの会話に嫌悪感を抱く人が少なくないため、旧式の電話もまだまだ根強く一般市民の生活に残っている。

 相手の提督は四十代後半だが、技術には偏見がなく慣れも早い人物のためホログラム式のビデオ電話を同鎮守府で完全採用していた。一方の西脇提督は三十代前半とはいえまだまだ現代っ子気分、かつガジェットオタクでもあるのでこの手の製品は慣れたものである。

 

「……それでは、改めてそちらに伺って謝罪を述べさせていただきます。」

「いえいえ、ご足労いただくなんてなんか申し訳ありません。うちとしては艦娘たちの良い経験になったので結果的には良かったと思います。そうそう、うちの那珂が話していましたけど、そちらの天龍担当の娘とはかなり息が合うそうで、そちらと演習したいと申しておりました。」

「はは。それはいいですな。ま、諸々の話は直接会った時にでも致しましょう。」

「はい。その際はよろしくお願い致します。」

 

 その後2~3世間話をした西脇提督はビデオ電話の通信を切断し、文字通り誰もいなくなった執務室でため息一つついて椅子の背もたれにおもいきり身体を預けた。

 この日も朝から猛暑日。エアコンのドライでほんのりと冷やした執務室で提督は夜通し起きて艦娘たちの無事の帰還と報告をまとめていたため、うつらうつらとし始める。

 

 

--

 

 ようやく目が覚めた那珂は部屋の中を見渡すと、川内・五月雨・夕立そして明石がまだ眠っていた。寝た時には明石はいなかったことから、おそらく早朝かついさっき布団に入ってきたのだろうと想像し、皆を起こさぬようそうっと布団を抜け部屋を出た。

 

「うわっ……あっつ。」

 

 和室はエアコンが弱めに効いており肌に当たる優しい冷房の風が心地よかったが、本館の廊下は出た途端ムワッとするような蒸し暑さでめまいがする。那珂はパジャマのままパタパタと階段を降り1階へ行き、洗面室で顔を水で洗って気分を一新させた。その足で1階の窓のいくつかを開けて網戸にして空気を換気させていく。無風の気候だったため体感する暑さはまったく変わらないことが容易に想像つくが、こもった空気を入れ替えて皆を起こしたいと思っていた。

 1階のあとは2階、そして3階と開けていく。そうして那珂はある部屋の前で立ち止まる。

 執務室である。入って挨拶をしようかどうか一瞬迷ったが、らしくないと感じて思い切って扉をノックする。

 

「はい。起きてま~す。」

 やや間の抜けた声が部屋の中から聞こえてきた。声には眠気が混じっていたが、どうやら起きていることがわかったので那珂は扉を開けて執務室に入った。

「失礼します。」

 

 提督は椅子の背もたれから頭だけを起き上がらせ、入って来た那珂を見た。那珂は若干照れながら部屋の中を数歩歩いていく。

「お、おはよ。提督。」

「あぁ、おはよう。よく眠れたかな?」

「うん。一仕事終えた後惰眠をむさぼるのはひっじょ~~~に気持ちよかったよ!あと冷房ありがとね。お布団入ったらすぐ寝ちゃったからお礼言えなかったよ。」

 那珂は横髪を右手でくるくると弄りながら頷いて言う。

「いやいやどういたしまして。俺にできるのは戦いから帰ってきた君たちをどうやって癒やしてあげるかだからね。ところで他のみんなは?」

「まだ寝てるよ。さすがにみんな朝5時寝だから目開けらんないんじゃないかなぁ~?」

「ハハッ。無理ないな。」

 提督の笑いにつられて那珂も顔をほころばせた。

 

 

--

 

 会話が途切れる。那珂は手持ち無沙汰に部屋の中をゆっくりと、しかし歩幅は大きめにして歩く。提督はそんな那珂の行先をジロジロとではなく、なんとなしに横目で送る。沈黙に耐えられず先に音を上げたのは提督のほうだった。

「そういえば、那珂は普段そういうパジャマ着てるんだなぁ。」

「へっ!? あ……う、うああぁぁ~~!! ちょっとやだ~!見ないでよぉ~!」

 

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「え?あ~いや。ゴ、ゴメン!」

 これまで全く意識せず、というよりも忘れていたため、話題に触れられて那珂は途端に焦って身悶えし始めた。一方で提督は女子高生への話題の出し方、失敗した!?という焦りを抱く。艦娘と上司という関係とはいえ一般的にはアラサー男性と女子高生という、普通に生活していれば滅多に発生せぬ組み合わせなのだ。お互い素に戻ってしまうと途端に話せなくなってしまう。

 特に那珂は相手が酔っていたとはいえ、気持ちを知ってしまった翌日の朝。

 一方で提督は酔っていた間に口にした言葉で何が目の前の少女を怒らせてしまったのか、正直わからずじまい聞けずじまいでこの時間まで迎えてしまっていた。

 お互いあえて話題を掘り返して相手の気分を損ねてしまうのを恐れて言い出せないでいる。そんな二人の空気を助けたのは、妙高からの電話だった。

 

プルルルル!

 

 二人揃ってビクッとして慌てふためく。

「うわっととと!電話電話。」

「て、提督、はい、取っていいよ~!」

 

「は、はい。こちら深海棲艦対策局○○支局執務室です。あ、妙高さん。え、皆?いえ、那珂以外はまだ起きてないです。」

 

 提督が妙高と話している間、那珂は再び部屋の中をボーっとしてウロウロ歩きまわり始める。提督のいる席の後ろの窓際まで来て、そこから見える鎮守府Aの地元の海を見渡す。 午前10時を過ぎて日差しが照りつける、真夏の海がそこにあった。自分たちが守る海、終わりが本当にあるのかわからない戦いに身を投じた一般人たる自分たち。

 

 深海棲艦が現れ始めてから、人々は漁業など海の仕事をする職業以外、あるいは限られた海域以外では海にほとんど立ち入らなくなった。海洋調査すら危ないため、深海棲艦出現以後の海洋生物の調査も滞っていた。

 海水浴場など民間に目を向けると 安全を定期的に確認された一部以外は大半が閉鎖された。30年も経つと海水浴という行為は那珂はもちろんのこと提督や妙高の年代ですら、幼少~少年期に海水浴をしたかどうか怪しいものに成りかけていた。

 実際海に入ることは問題ないのだが、各国や国連の関連機関が全面的に禁止・制限をしている以上、勝手に入って勝手に深海棲艦に襲われて被害を受けてしまうと保険や諸々の補償は一切効かない。保険会社も、深海棲艦出没初期に大量に発生した処理しきれぬ被害案件による、キャパシティを超えた保険の適用や駆け込み加入の事態を受けて、正当な理由があってやむを得ず海に立ち入り、結果として深海棲艦の襲撃にあって事故に巻き込まれる以外は保険を適用しない取り決めを国や国際機関と取り決めて現在に至っている。もちろん漁業関係者、艦娘・艤装装着者として従事する者にはまっとうな保険がついてその身が保障される。

 

 那珂は以前ある任務で怪我をした際に、鎮守府Aのある町に設立されている海浜病院に連れて行かれた。その際の治療費の支払いをせずに帰ってきたことがある。那珂がしたことといえば、国から発行された艤装装着者の証明証と高校の学生証を提示したくらいである。全部保険から落ちたのだ。以前の合同任務で一番怪我をした時雨はもちろん、他の艦娘も同様である。

 

 今回の一番の負傷者である川内はおそらく検査のため海浜病院へと連れて行かれるだろう。

 もし五十鈴ではなく自分が一緒だったら、肩代わりをしてあげられたただろうか?

 別に五十鈴の落ち度を指摘したいわけではない。帰ってきてともに報告をしたあの時、五十鈴は非常に悔しそうな表情を浮かべていた。それを目の当たりにしてしまうととても五十鈴のせいにできない。状況次第では自分が同じ艦隊にいても、同じことになったかもしれない。逆に神通の場合も、五十鈴が代わりにいても同じことになったかもしれない。

 そう考えると、あの夜に天龍から言われた言葉がグサリと那珂の心に突き刺さってくる。

 自分ができる・動けるから、初陣の二人のことを本当に考えていなかったかもしれない。あの夜、二人の意志をもっと確認して鎮守府に残していたらもっと違う良い結果が待っていたかもしれない。

 悔しい。

 だが今回のことは訓練に大きく反映させることができそうだと、教育の面が那珂の頭の中にあった。同じ失敗を二度とせぬよう、これから入ってくる新たな艦娘のためにも訓練体制を充実させなければならない。

 だがそのためには、学生である自分たち、生徒会に属して生徒たちを導く生徒会長である自分ですら役不足かもしれない。ここは教育のプロフェッショナルたる人物が艦娘あるいは鎮守府に勤務してくれるのがが心強い。

 そう考え始める那珂だった。

 

 

--

 

 結局那珂以外の少女たちが起きてきたのは11時すぎとなった。全員朝食と昼食が一緒になってしまうためどうしようかと話し合っていたところ、少女たちを労うために再びやってきた妙高と話を聞きつけた大鳥夫人が昼食としておにぎりとおかずの詰まった重箱を持ってきた。

 1階の会議室を食堂代わりにしておしゃべりをしながら朝昼一緒の食事を楽しむ一同。そんな雰囲気の折、提督が今後のことについて全員に説明し始めた。

 

「みんな、食べながらでいいから聞いて欲しい。今後の予定について簡単に触れておきたいんだ。」

 提督の言葉に那珂と五十鈴が率先して返事をして意識を向け、言葉の続きを促す。提督は二人のスムーズな仕切りに目配せをして感謝を示し、続けた。

 

「まず川内と神通の訓練だけど、昨日で完全に締めとしたい。緊急とはいえ実戦を経験してもらったので、俺としては全訓練課程修了ということで認定をするつもりだ。もちろんこれまでの手当や修了の証明は後で渡すよ。」

「えっ?デモ戦闘とかいうのはないの?」

 川内が口をモゴモゴさせながら問いかける。

「あぁ。省略する。だけど二人がデモ戦闘をやりたい、こういう訓練をしたいというのであれば、今後は五月雨たちと一緒の立場で全員揃ってやってほしいんだ。」

「それって……つまり、どういうことなのでしょう?」

 神通が恐る恐る尋ねると、提督は神通に視線を向けて頷いた後、全員を見渡して言った。

「つまり俺としては二人を一人前の艦娘として認めるので、気兼ねなく思う存分自分を鍛えていってほしいということさ。だから明日からは基本訓練とは関係なく、普段の訓練として取り組んでくれ。みんなでアイデア出し合って、効果的な訓練を編み出してほしい。」

 

 提督の言葉に不満気に口を開いたのは川内だった。

「な~んか、一人前に認められるタイミングというかシチュが微妙な感じだなぁ。あたしとしては○○っていうゲームみたいに、師匠と戦って勝利して晴れ晴れとした気持ちで一人前の称号ゲット!ってしたかったんだよなぁ~。ねぇ提督ならこの気持ちわかるでしょ?」

「うん。ああいう展開をしたいっていう気持ちはわからないでもないけどさ。言葉悪くて申し訳ないけど、俺としてはさっさと基本訓練修了と認定して、1日でも早くいつでも通常の出撃や警備任務を任せられるようにしたいんだ。ゲームやアニメ的な展開は俺も嫌いじゃないけど時と場合を考えたい。だからこれは君たちの上司としての命令だ。」

 

 命令という、普通に生活していたら聞き慣れぬ発言を聞いて川内は強張った表情を浮かべ、物言いの勢いを抑えた。それは了解の意味がこもっていた。

 そんな川内とは違い、提督の言葉に最初から賛同の意を示していた那珂は先刻より頭の中にあった考えを良い機会として口にすることにした。

「あたしは提督に賛成。ねぇ提督。今回の緊急出撃を経験してさ、もっと実戦に役立つ訓練をみんなでしたいって思ってるの。ただそれには高校生のあたしたちや中学生の五月雨ちゃんたちだけじゃ知識も経験も足りないかもしれない。普段の訓練としてはあたしや五十鈴ちゃんで音頭を取って皆で提案しあってやってみるけど、一つお願いがあるの。」

「言ってごらん。」

「教育のプロの人をさ、艦娘でも何か事務職的な役職でもいいから鎮守府に置いてくれないかな?」

「教育のプロ?」

 提督だけでなく、その場にいた全員が聞き返す。

 

「うん。いくら艦娘として働いていても、所詮あたしたちは学生という立場の存在でしかないよね。戦うための教育なんてもしかしたら自衛隊とか米軍の協力とか必要になっちゃうかも。そうなると権威的なものも多分予算も必要になっちゃうだろうし無理かもしれない。だからせめて教育のイロハをある程度わかってる人が、あたしたちの立てる訓練や作戦をレビューしてほしいなって。なんて言うんだろ、スケールに合わせた教育の仕方と人材を集めたいって思うんだ。」

「なるほど……なんとなくあなたの言いたいことわかるわ。つまり先生がいればいいのよね?」

 五十鈴が具体例の職業を挙げて確認すると那珂は頷いた。

「うん、そんなところかな。あたしたちに身近な存在っていったらうちの四ツ原先生とか五月雨ちゃんの学校の……誰って言ったっけ?」

「黒崎先生です。」と五月雨。

「そうそう。その黒崎先せ……ん? あれ……妙高さんと同じ名字?」

 発言しながら同じ名字の違和感に気づいて妙高に視線を向ける那珂。その問いかけに答えたのは同じ名字の人物だった。

「えぇ。私の従妹の黒崎理沙です。私も後から知ったのですけど、理沙が教鞭をとっているのは五月雨さんたちの中学校だそうです。それから私はこちらの鎮守府には旧姓で在籍してるのですけど、今の名字は藤沢妙子と言います。」

「ほえぇ~~~そういう繋がりだったんだ。あ、それはわかったとして、その黒崎先生とうちの四ツ原先生がうちに着任してくれるだけでもだいぶ違うと思うの。」

 妙高からの告白を聞いて思わぬ関係性に驚くもすぐに冷静さを取り戻して話を続ける那珂。

 そこまで黙って聞いていた提督が口を開く。

 

「なるほどね。君たちは忘れているかと思うけど、提携している学校の艦娘部の顧問の先生は、別に着任していなくても、うちに普通に入ってきていいんだよ。着任していないとはいえそれぞれの学校の大切な生徒さんをうちに預けてくれている重要な関係者だし。もちろん艦娘部の部員の生徒さんもね。」

「へぇ~そうだったんだ。それなら話は手っ取り早くていいかな。夏休みの間一度先生たちに来てもらおうよ。」

「じゃあ私、黒崎先生に連絡してみます!」

 那珂の話に快く承諾した五月雨が元気よくビシっと手を伸ばして宣言する。

「うん、五月雨ちゃんお願いね。」

「来てもらうのはいいけど、まだ着任していない訓練もしていないお二人がいきなり私たちの訓練のレビューとかできるのかしら?現場経験をしている私たちとはどうしても差があるわ。」

 五十鈴の心配はもっともだった。那珂はその心配をどう解消しようか考え言い淀む。途端に行き詰まりそうになる問題に妙高が解消の道筋を指し示した。

 

「あの、よろしいですか? それは追々でいいのではないでしょうか。理沙やそちらの四ツ原先生も仮にも教育学を学んできているでしょうし、訓練に参加できなくても、二人とも実際の授業やカリキュラムに置き換えて見るくらいの器量はあるかと思います。多分那珂さんが仰りたいのは、艦娘の訓練自体を見てもらうのではなくて教育・訓練の手順や方法を見て助けてもらいたいということですよね?」

「そうそう、そーなんです! あたしもいきなり先生方に見て色々指摘してもらえるとは思ってないです。だからこそまずは戦えるようになったあたしたちの普段の活動を生で見てもらってからでもいいかなって。」

 共感を得られたため那珂は妙高の言葉に頷いた。

 続いて賛同を示したのは神通だった。賛同の意を示すためにしゃべろうとするも、まだ食事のおかずを片手の箸で掴みもう片方で手皿を作り、頭は村雨に目をつけられたためにヘアセットアップをなすがままにされている少しシュールな状態で口を開いたため、一身に皆の注目を集める。照れを手で隠そうにも両手がふさがっているため、モロに赤らめた頬を晒しつつ開いた口をそのままで言葉を発する。

「私は……那珂さんの考えに賛成です。先生が側にいてくれると……安心できます。」

 その言葉に冗談半分本気半分で反論したのは川内だ。

「え~~!?あがっちゃんが安心できるとホントに思ってる?あのあがっちゃんだよぉ!?」

 顔を思いっきり神通に近づけて言い放つ川内。神通はあまりにも近くに寄られたのでのけぞるが、村雨に頭を押さえつけられていたためそのままの姿勢で上半身だけピクッとさせて反応を返す。

 

「私は……別になんとも。それに、私みたいな目立たない生徒の名前を……ちゃんと覚えていてくれたので、私はあの先生を信じられます。」

「え~~?うー……。神通がそう言うんだったらいいけど。でも先生が鎮守府にいるってなるとなぁ。なんか落ち着かなくなりそうで嫌な感じ。」

 納得いかない様子でそう愚痴る川内。それに夕立が続く。

「あたしもあたしも!先生いないほうが楽しいっぽい!」

「「ね~~!」」

 少し離れた場所にいながらも川内と夕立は顔を見合わせて仲良く頷き合った。

「私は黒崎先生いてくれるのに賛成。私達が一番知ってる大人が身近にいてくれる方が安心できますしぃ。」

「私もです。時雨ちゃんもいたら多分同じこと言うと思います。」

 神通のヘアセットを続けながら村雨も自分の意見を発すると、五月雨も友人の意見に賛成した。

 

 那珂は別に多数決を取りたいわけではないため、それぞれの意見に返事をして意見を取りなす。

 具体的に二人の教師あるいはそれに準ずる立場の人物をどうするか具体的な内容は一切決まっていないが、声を掛けてみることにした。

 

 

--

 

 その後提督は次の連絡事項を口にした。

「それから今回の緊急出動について、神奈川第一鎮守府の提督が明日か明後日参られて報告がある。五月雨は連絡メール等確認しておいてくれ。」

「はい。わかりました。」と五月雨。

 

「あと今週末はいよいよ艦娘の採用試験が開かれます。試験会場の準備があるのでもし都合が合う人は協力してほしい。」

「私は良たちが来るので最初から全面的に協力するつもりよ。」

「ありがとう。会場の設営や案内は五十鈴に全権委任するつもりだ。一応バイトは何人か雇うつもりだけど他のみんなも都合がよかったら頼むよ。」

 五十鈴が言葉を返すと、提督は頷いて他のメンツにもサッと視線を送って暗に願い入れた。

 

 

 最後に提督は川内に検査と治療のため病院へと行くよう伝える。

「それから川内は今週中に病院に行って検査してもらうこと。市との提携で一番近くの海浜病院に話が通ってるから。」

「えぇ~!病院行かなきゃいけないの?あたしもう別になんともないんだけどなぁ。」

「君が今回一番被害を被ってるんだからちゃんと行きなさい。妙高さん、付き添いお願いできますか?」

「はい。かしこまりました。」

 病院と聞いて妙にソワソワして渋る川内に、逃げ道を塞ぐべく提督は妙高に頼み込む。川内は後日病院へと行くことになった。

 

 提督からの連絡事項が終わると一同は再び食事とおしゃべりを再開した。その日は日曜日ということで各々艦娘の仕事とは離れたかったのか、先に村雨・夕立・不知火が、次に那珂たち3人と五十鈴が帰った。明石は工廠の戸締まりをしてそのまま帰り、妙高と五月雨は秘書艦の仕事の整理のため二人で少し作業してから親子よろしく揃って本館を後にした。

 最後に残った西脇提督は怒涛の土日の出来事にようやく心安らげる喜びを胸に秘めて本館の施錠をして帰路についたのだった。

 


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