同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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幕間:お昼時の艦娘たちと提督

「あれ~提督。どーしたの?待機室にいるなんて。」

 那珂たちが昼休憩のため本館へと戻ると、待機室には五月雨となぜか提督がいた。提督と五月雨は待機室にある冷蔵庫から何かを出したり棚から盆などの道具を出している。

「あぁ那珂たちか。ちょうどよかった。ちょっと五月雨に手伝ってやってほしいんだ。」

「ん?なになに?」

 那珂が聞き返すと、提督は焦った口調から落ち着いた口調に戻り那珂らに説明をし始める。

「大工さんたち作業してる人たちにお茶を出してきて欲しいんだ。」

「すみません。私一人だと持ちきれなくて。」申し訳無さそうにペコリと軽く頭を下げる五月雨。

「あーなるほどね。うんいいよ。あたし手伝うよ。」

「それじゃあ私も行くわ。」

 那珂と五十鈴は名乗りを挙げて協力する意思を真っ先に示した。先輩のその行為に焦りを感じた川内と神通も協力しようと言葉を出すが、3人で十分だとして提督からやんわりと断られた。

 

「……申し訳、ございません。すぐにお手伝いを申し上げられなくて。」

 飲み物を乗せた盆を持った那珂たち3人の後ろ姿を見送り、部屋から見えなくなった途端にペコリと頭を下げる神通。提督はそれを遮ろうと片手を眼前に出して振る。

「いやいや、気にしなくていい。二人が残ってくれて別の意味で助かるよ。二人とも、これまでの訓練はどうかな?監督役のあの二人に言えないことも少しくらいなら聞くぞ?」

「えー、提督ってばやっさしいなぁ~。でも告げ口みたいになっちゃうし下手なこと言えないね。」

「おいおい、川内は何か不満があるのか?お兄さんになんでも言ってご覧なさい?」

「え~、じゃあにいやんに言っちゃうよ、いいの?」

 川内は前かがみになり、やや目を細めてジト目で提督を見上げて言う。すると提督は冗談めかした口調で手招きも交えて川内に囁く。その年上の異性に懐かしさを覚えた川内は口を大きく開けて笑いながら語り始めた。

 

「それじゃあ遠慮なくぶちまけちゃお。聞いてよ聞いてよにいやん!あの時ね……」

 その内容は訓練中の自分の感じ方や不意な失敗の愚痴である。川内は口調軽やかに、かつての身内に話すように親愛の表現を交えてあけっぴろげに愚痴り続ける。

「でさぁ~~その時さぁ、その拍子に転んでお尻濡らしちゃったんだよぉ~~!」

「ハハっ、運動神経のいい川内でもそういう失敗するんだな。どれ、お兄さんに見せてみなさい~。」

「や~だ!にいやんのエッチ!」

「ハハ、冗談だy」

 提督と川内はじゃれあうように身振り手振りを交えながらまるで兄妹のようにおしゃべりをし続ける。間に入れない神通がそれをジーっと眺めていたのに二人が気づいたのは数十秒経ってからだった。

「うっ!?」

「じ、神通……アハハ。俺としたことが、やっべぇやべぇ。女子高生相手に何言ってんでしょうね~?いやいや神通さん、そんな目で見ないでくれよ……。」

 若干軽蔑の色を見せていた神通の目は提督から川内に移る。川内は顔を真赤にして照れて反対側を向く。再び提督に軽蔑の視線を向けようと思った神通だったが、以前川内が語った思いをふと思い出した。この場には自分たち+提督しかいない。隠す必要もないだろうと判断して、神通は一言だけ言って提督を諌めることにした。

「あの……、お二人とも慕い合うのはかまいませんけど……そういうのはせめてこの3人の間だけに、してくださいね。」

「う……肝に銘じます。」

「アハハ……ありがとね。ねぇねぇ神通。今のあたしと提督、どういうふうに見えた?」

「どう……と言われても。……どちらかというとお兄さんと妹という感じでした。」

「そ、そっか。うん。」

 川内から印象を聞かれた神通は一瞬頭をかしげるも、川内がかねてから打ち明けていた事を思い出し、それを交えて配慮の言葉を口にした。その返しに川内は安堵の表情を浮かべて胸の前で指で器械体操するようにモジモジ動かす。

 物静かで冷静に人を見る神通の配慮。提督はその少女に頭が上がらないなと冗談めかして悄気げ、川内はある意味頼れる同僚がいるという事実を改めて感じ、乾いた笑いを発した。

 

 その後提督は少しだけ真面目な表情に戻る。

「コホン。まぁ艦娘は海上で行動する以上どこかしら濡らしてしまうものです。二人とも海上ですっ転ばないようにな? そうそう、今度設備には工廠にあるような業務用の瞬間乾燥機じゃなくて、衣類向けのきちんとした乾燥機と洗濯機を隣に置けるようにするから、今後任務で服を汚しても大丈夫なようにしてあげるぞ。だからガンガン……というのも変だけど、服の汚れとか濡らしてしまうこととか気にせず任務に励んでもらえればいいな。」

「うん、ありがとーね。ホラホラ神通、あんたも喜ぼうよ!安心して訓練できるよね!!」

 川内は喜びのその勢いを神通に向けて、さきほどまで白い目で自身を見ていた神通に強引にご機嫌取りする。川内の遠慮のなさはこれまで共にしていて大体理解できていた神通はやや鈍い反応ながらも、言葉なく笑顔でコクコクと頷いて相槌を打つのみにしておいた。

 その後那珂たちが帰ってくるまでの数分間ひたすら提督に愚痴や趣味の話を語り続けた川内は大満足して満面の笑みになっていた。その間提督は何度か神通にも訓練の感想を求めたが、その都度途中で川内が話に割り込みその主導権を奪って会話を自分好みの趣味の話題にすりかえていた。

 

 

--

 

 那珂と五十鈴・五月雨が待機室に戻ると、川内と神通は座席に座って提督と会話している最中だった。

「おまたせー。お茶出してきたよぉ。」

「あぁ、ありがとう3人とも。五月雨はうっかり飲み物落としたりしなかったかい?」

 左腕をスッと挙げて那珂たちに感謝を示す提督。ついでに五月雨をネタに場を和ませる。

「も~、提督ってば……私そんなにドジじゃありませんよぅ……。」

「コラ~提督!いい大人が五月雨ちゃんをいじめないでよぉ!」

「ははっ。ゴメンゴメン。心配しただけだって。」

 提督のツッコミに五月雨は顔をやや赤らめてシュンと頭を下げ、上目遣いになり、口を尖らせてスネた表情を見せた。そこにすかさず那珂は五月雨に加わって提督にツッコミ返す。

 

「ほーんとかなぁ~~?まぁいいや。これからあたしたちもお昼行くつもりなんだけど、提督と五月雨ちゃんはどーするの?」

 ジト目をしていた那珂だったがすぐに切り替えて本来尋ねようとしていた話題に戻す。

「あ~そうだ。那珂たちも昼食一緒にどうかな?奢るよ。」

「えっ!マジで!?やったーー!提督ってば太っ腹!奢り!おごり!」

「提督、いいのかしら?」

 真っ先に口を開いてノったのは川内。続いて真逆の反応をして遠慮がちに確認したのは五十鈴だった。それに対し提督が回答する前に代わりに那珂が回答した。

「いいのいいの。こうやって若い子と触れ合えるのは提督の特権だもんね~、ね?」ウィンクをする那珂。

「ハ……はは。さすがお見通しなようで。」

 こめかみを掻いて照れる提督。

「両手に花どころか花に囲まれてるもんね~。と・く・に!大輪の花なのがこの那珂ちゃんだけどね~。まったくぅ。ハーレムなんだから全員等しく愛して奢ってよね~提督?」

 普段通りの茶化し魂がすでに心の中で動き回っていた那珂は提督に向けて冗談を言い肘でわざとらしいツッコミを提督の脇腹に入れる。提督も普段の那珂の茶化しだとわかりきっていたが、それを事前にわかっていようが不意打ちをつかれようが、どのみち那珂の行動全てに対処できるほど若い娘のテンション慣れはしていない。そんな提督のフォローをして那珂を注意するのは同学年の五十鈴の役目となる光景もすでに馴染んできていた。

「まったくあんたは!普通に話題を締めることできないの?提督困ってるじゃないの。皆あんたのテンションにはついていくのやっとなのよ。」

「ぶー。五十鈴ちゃんはそんなカッタカタな頭とノリだからダメなんだよぉ~~。」

 口撃にカチンとキた五十鈴だったが、ここでまた反論して那珂に食ってかかれば相手の術中にはまると気付き、ハァ…と溜息をついて強制的に話題をそらすことにした。

 

「ところで本当にいいんですか?この人数ってお昼でも結構多いわよね?」

「あ~、五十鈴にはあまりご飯ごちそうしたことなかったな。俺としたことが、ゴメンな?」

「いえ、そんな……。私は別に提督にねだろうなんて。私は西脇さんに変に甘えたりできない……です。」

 五十鈴はやや俯いて遠慮がちにつぶやいた。

「五十鈴ちゃんはそーいう遠慮しちゃうところあるんだねぇ。もっとグイグイいかないと損じゃない?」

「あんたと川内が気にしなさすぎなのよ。フン。」

「ま、まぁまぁ。二人とも。せっかく提督が奢ってくれるって言ってんだもん。皆で甘えちゃいましょうよ?提督も言ってくれてるんですし……ねぇ神通?」

「ええと……私は那珂さんたちにお任せします。」

 呆気にとられつつも那珂と五十鈴を仲裁するために間に入る川内と、そこまでの度胸はなくとりあえず相槌を打って話の流れを戻そうと焦る神通。その間、五月雨はさらに呆気にとられて高校生組の様子をボーッと見ていることしかできないでいた。

「と、とりあえず行こうかみんな?ホラホラ五十鈴も機嫌直してな?」

 一番うろたえていたのは提督だ。なんとか雰囲気と話の流れを戻そうと五十鈴を宥め、那珂を軽く諭し、その場をやり過ごすのだった。

 普段よく利用するファミリーレストランまでの道中、やはり那珂と川内の茶化しはしゃぎっぷりに五十鈴がツッコみ、それを神通と五月雨が呆気にとられて苦笑いしながら見つめる構図があった。提督はさりげなく自分が話題に取り上げられることについていけず、ただひたすら相槌を打って少女たちの間を取り持つだけだった。

 

 

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 昼食中は思い思いの話題で会話を交えて箸を進める一行。普段の落ち着いた状態に戻っていた那珂は川内たちの訓練内容の進捗について弾んだ口調で提督に語る。

「……ってところかなぁ。」

「そうか。もうすぐ2週間だけど、そこまで進められればあとは大丈夫そうだな。といってももうデモ戦闘と自由演習しかないからギリギリピッタリ2週間ってところか。うん。わかった。詳しくはあとでレポートにまとめて提出してくれ。」

 那珂と五十鈴は揃って返事をした。

「ねぇねぇ提督。あたしたち訓練終わったらいつ出撃とか依頼任務参加できるの?」と川内。

「うーん、今のところは月一の定期巡回任務くらいか。五月雨、今依頼ってどこかから来てたっけ?」

「えぇと……手元に何もないのですぐには。戻ったら確認しますね。」

「できればこの4人で一緒に任務行ければいいんだけどね。二人の初陣をしっかり見守りたいなぁ。」

 提督と五月雨の言葉を聞き、那珂は川内と神通に視線を向けて一言柔らかく言葉をかけた。

「私も同じ思いよ。ここまで付き合ったのだもの。後学のためにも訓練の監督役はやりきりたいわ。」

 暖かく言葉を掛けあう那珂たち4人のその光景に、提督は那珂以来久々に入った艦娘二人の、回りを巻き込んだ成長っぷりを微笑ましく眺めるのだった。

 


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