同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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雷撃訓練続き

 工廠に入り、自身の艤装を出してもらった那珂たちはさっそく屋内の出撃用水路から発進していった。午前中と同様に那珂は的と訓練用の魚雷を詰め込んだボートを手にしての発進である。

 午前中最後にある程度の魚雷を生成してもらっていたが、3人加わったのでそれでは足りないため、那珂は全員が装填できる分を新たに生成してもらっていた。

 

 午前中と同じ海上のポイントに集まった3人+3人は那珂の音頭の下、魚雷を充填したり的を適当な距離に置いて準備を始めた。

「それじゃあみんなちゅうもーく。人数的にちょうど良いので、二人一組で一つの的を扱ってもらいます。」

 那珂が全員に指示を出すと、川内たちはすぐに組みたい相手と話し始める。

 

「よっし、じゃあ夕立ちゃん、あたしと一緒に組もう?」

「うん、川内さんとやりたいっぽい!」

 昼間から決めていたためか、川内と夕立はお互いノリ良くハイタッチし合ってすぐに組みを決定した。

 

 一方の神通はいつの間にか自身の後ろに来ていた不知火から服の袖を引っ張られて振り向いた。

「……(クイッ)」

「……え?」

 すると不知火は目で訴えてきていた。神通自身もまんざらではなかったため、はにかみながら組むのを願い入れる。

「あ……はい。それでは不知火さん、私と……一緒に組んでください。」

「了解致しました。」

 不知火はそれに対して落ち着いた口調で静かに素早く返事を返した。

 

 那珂は五十鈴の側にスゥっと移動して側で声をかけた。

「それじゃあ五十鈴ちゃん、やろ?」

「えぇいいわよ。」

 

 

--

 

 那珂の指示で、まずは片方が少し離れたところから的の動きを見、魚雷の進路の指示を出してサポートし、もう片方が雷撃するという流れですることになった。役割を交代してもう一回行い、それが魚雷がなくなるまで行う。的は午前中のような位置固定モードではなく、浮かべたポイントからランダムに数m半径範囲内で動き回る動作モードに設定された。さらに的には自身の周囲1~2mに衝撃や光が発生すると、それを感知して逆方向に動く特性がオプションで設定されることとなった。そのため3組の的と雷撃する範囲は、午前中の訓練よりも距離を開けて行うことになった。

 

 

--

 

 那珂が開始を宣言すると、すぐに飛び出して行動し始めたのは川内・夕立ペアだった。

「よっし!まずはあたしが撃つよ!夕立ちゃん、的の誘導お願いね。」

「はーい。ガンガン行こー!」

 

 その言葉のあと、川内はその場で雷撃の準備をし始めた。右腰にある魚雷発射管を前方に回転させ、スイッチに手を乗せて雷撃の軌道を頭の中でシミュレートし始める。一方で夕立は60mほど離れた場所でちょこまか動き回る的に向かって単装砲で砲撃した。もちろん当てるつもりはなく、誘導目的の射撃である。

「てーい!!」

 

ボフン!!

 

 的の右側を単装砲の砲弾が通り過ぎるが、的は逆方向へ避けようとしない。的が避けると判断すべき距離と衝撃の強さに達していなかったためであるが砲撃した本人にはそれがわかっていない。

「あれ?避けないっぽい。なんで!?」

「夕立ちゃん。もう一発お願い。」

「りょーかい。……そりゃーー!」

 

ボフン!

 

 再びの夕立の砲撃は的の頭にあたる部分上方をかすめた。すると的はその場でググッと海中に沈もうとし始める。しかし的は必要以上に沈まないよう浮力が調整されているため、沈む勢いがすぐに鈍り始め、的は反動でプルプルと震えて今にも弾き飛びそうな雰囲気だった。

 そこで川内はタイミングを掴んだのか、魚雷発射管の1番目のスイッチを勢い良く押した。

 

「行っけぇー!」

 

ドシュ……サブン!

シューーーーーー……

 

ズバアァン!!!!

 

 的の後方で爆発し、的は前方つまり川内たちのほうへと吹き飛んできて着水した。その後的はだるまのように海面でクルクルとのたうち回る。ほどなくして動作の中心点が定まったのか、その場で再び半径数mを動き始めた。

 

「うわぁ~かすっただけかぁ。ダメだ。もう一回。」

 川内はこめかみあたりをポリポリ掻きながら悔しがる。もう一回やろうと意気込むが、それに夕立が口を挟んだ。

「ねぇねぇ!次はあたしにやらせてよぉ~あたしも魚雷撃ちたいっぽい!」

「うん、いいよ。それじゃあ次はあたしがサポートするよ。」

「よぉ~~~~っし。あたしも行っくぞ~~~!」

 

 今度はサポートする側に回った川内。夕立の行動や性格をまだ把握していないため彼女がどういう癖のある撃ち方をするかわからない。そのためとりあえず的が左右に動きまわらないよう、まずは的の左手方向に砲撃する。

 

ボフン!

 

 川内の砲撃はまだ精度が高いとは決していえないものだが、的は川内の威嚇射撃を認識し逆方向へと跳ねた。その直後川内は今度は的が跳ねて着水しようとするあたりへ向かって砲撃を繰り返す。すると的は空中で反応し、逆方向へ跳ねようとするがそれは空中では意図したとおりには動作せず、最初に跳ねた勢いを完全に殺すこととなり真下に落下した。

「あそこだよ、夕立ちゃん!」

「わかった!うーーーーりゃーーー!!」

 川内が指差すと、夕立は右足を前に突き出し、後方に置いた左足に体重をかけてしゃがみ込み、右足ふとももにつけた魚雷発射管の1つ目のスイッチを押した。

 

ドシュ……サブン!

シューーーーー……

 

バーーン!!!

 

 夕立の放った魚雷は浅く沈んだため浮上にエネルギーを割くことなく素早く的めがけて進んでいった。軌道がほぼ直線だったのは、夕立は軌道をイメージするのが苦手だったため、常にとにかくまっすぐという心情なためである。だが今回は夕立と的の位置関係と跳ねていた的が着水するまでの時間を踏まえると、ちょうどよいタイミングと向きであった。

 的は着水した部分つまり尻に相当する付近から綺麗に爆散した。

 

「やったぁ~~~!!あたしの魚雷のほうがきれーにめいちゅーっぽい!!」

 その場でジャンプして水しぶきを周りに散らしながら喜ぶ夕立。支援の位置から夕立の側に戻ってきた川内はその歓喜される様子に苛立ちと悔しさをにじむどころがモロにむき出している。

「くっそ~~夕立ちゃんに先越されたぁ。さすが先輩艦娘なだけあるわぁ。」

「よろしかったら教えてあげないこともなくてよ、川内ちゃんさん?」

 誰の真似なのか不自然な丁寧さで川内に向かって言い放つ夕立。調子に乗ってるのが誰に目にもわかった。

「く~~。中坊に負けてたまるかぁ!よっし夕立ちゃん、今度はあたしが撃つからね!」

「アハハハ~。それじゃあ先輩のあたしがサポートしてあげるっぽい~~」

 

 その後川内と夕立は再び役割交代して雷撃訓練を進めた。なお二人は探し方が下手のため、爆散した的のパーツをかき集めるのに時間がかかった。

 

 

--

 

 那珂の開始の合図を受けて、神通と不知火は静かに自分らの的の側に行き設定をどうするか相談し始めた。那珂の指示ではちょこまか動くモードなのだが、不知火にコソッと神通が打ち明けた不安により、無理せずモードを変えようということになっていた。

 

「私……まだ動く的に当てるなんてこと、絶対無理です。……不知火さんは……大丈夫?」

「神通さんの……優先すべきかと。」

「私の自由に、していいんですね?」

 不知火は神通自身の気持ちと技量を優先すべきだと暗に示してきた。頭の中で補完し念のため確認すると、不知火はコクリと頷く。そのため神通はホッと安堵の息をついて的のモード設定を変えることにした。

 神通と不知火の扱う的は移動量が最低限に設定された、ランダム移動の動作モードに落ち着いた。位置固定モードにしなかったのは、せめてものわずかな向上心による判断であった。

 

 二人はどちらが先に撃つかを決めることになり、話し合いという名の見つめ合いが続いた。このままでは埒が明かないと感じ、艦娘としては後輩だが高校生という上の学年である自分が先陣を切らないとという使命感が神通に湧き上がった。

 しかし勇気を出して年上っぽい発言をしようとして実際に出てきた言葉が次のものだった。

 

「あ、あの……不知火さんのお手本が……見たいです。」

 

 神通は目の前の少女が年下にもかかわらずうつむきがちに頼みこむ発言をした。自信の無さが滲み溢れている。ここで相手が那珂・川内や夕立であれば何かしら一言茶化しかいらぬ鼓舞が飛んでくることが予想されたが、不知火はそれらを一切しない。神通にとっては非常にありがたい反応をした。

 

「了解致しました。」

 

 落ち着いた小声でビシっと答える不知火。返事をした後不知火は的から離れるため海上を移動し始めた。神通もその後に続く。的から45mほど離れたポイントで不知火は立ち止まった。後を追っていた神通は雷撃の邪魔にならないよう、その3~4mほど不知火の左手前方で止まって不知火のこれからの動きを観察し始めた。

 

 駆逐艦不知火の艤装は夕立など白露型と似て背面に背負う形状である。しかし似ているのはそこまでで、一回り小型化しており、3本の全方向稼働可能なアームがついている。3本のアームの先には自由に主砲や副砲・魚雷発射管を装着することができる。それぞれ取り付けた後は、手袋に直接縫い付けられているコントローラたるボタンでアームを好きな角度に動かして砲撃・雷撃することができる。設計思想としては川内型のグローブ、五月雨・涼風の艤装のグローブと同様のものである。また、各パーツを手で動かしたり、備わっている本来のトリガー・スイッチで撃つことも可能である。

 艤装の形状が示すとおり、白露型のそれよりも装着者自身にアナログ的な技量必要とせずコントローラで扱うだけ済む。とはいえ不知火つまり陽炎型の艤装を取り扱う者はコントローラに頼り過ぎないよう他の艦種と同程度のアナログ操作の訓練が求められる。不知火こと智田知子も例外ではなく、コントローラによる遠隔操作・手動操作の両方学んだ艦娘である。

 

「不知火さんの、面白い形の艤装ですね。それ……どうやって使うんですか?」

 神通が尋ねると、不知火は右手の手の平を神通に向かって突き出し、手袋につけたコントローラを示した。神通はその動作が一瞬理解できず呆けたが、不知火の手にスイッチの集合体たる装置がついているのに気づいて、神通は口を僅かに開けて納得したという表情になった。自分の艤装のグローブとスイッチに似ていることがわかったからだ。

 

「撃ちます。」

 

 そう一言言って不知火は右手を下ろし、肘から曲げてくびれ付近に手の平が来る、いわゆる構えの体勢になった。視線もすでに的の方へと向いている。そして右手を握りこぶしにし、しきりに動かすのを神通は見逃さない。不知火が右手拳を動かすと同時に彼女の背面の艤装から伸びた一本のアームがウィーンという音を鳴らして動き、不知火の左脇腹に沿うように魚雷発射管が姿を現した。神通の位置からは、後頭部にわずかに見えていた魚雷発射管の影が消えたと思ったら脇腹からひょこっと出てきたように見えた。

 

 不知火は目を閉じて深く深呼吸をした。彼女がまぶたを開けた時、的は彼女が深呼吸をする前の位置から50cm程度しか動いていない。その後も半径50cmの範囲をゆっくりと移動している。離れて立っている神通は両手をへそのあたりで組んで見守っている。

 的が自身と直前上で結ばれたタイミングでコントローラのスイッチを押し、不知火は1番目の魚雷を発射した。腰の高さに浮いていた魚雷発射管から1本の魚雷が放出され、海面と平行になって宙を進み、程なくして弧を描いて海面に着水、海中へと没した。海中に潜った魚雷は化学反応を起こしエネルギー波を噴射させ、海中を進んでいく。

 そして……

 

 

 的はどれだけ待っても爆発はおろか衝撃等で揺れることすらなく平然と不知火と神通の視線の先にあった。雷撃を外したのだと二人のどちらも気づいたが、神通は気まずさのため黙りこみ、不知火本人は恥ずかしさのため普段の無口とポーカーフェイスを保つのを貫き通している。

 数秒後離れたところでザパーン!と音が響き渡ったのをきっかけとしてお互いようやく目を合わせて会話をする気になった。

 

「あ、あの……不知火さん?その……まだありますし、次行きましょう。」

 

 神通がそうっと近寄って不知火に声をかけると、不知火は普段よりもぎこちない動きでゆっくりとコクリと頷く。その表情の示す意味を完全に察することは神通にはできなかったが、多分悔しいのかもと想像するに留めてそれ以上声をかけるのをやめた。

 神通は海面を小走りして先ほどいた位置に戻り、再び不知火の方を向いて声をかけた。

 

「ほら!もう一回やってみましょう。ね?」

 神通の珍しく声量を張った言葉は不知火の内に届いたのか、数秒して不知火は深呼吸をし、一発目と同じ体勢になって身構えた。的は先ほどと同じ動きをしている。

 

 不知火は思案し始めた。

 さっきは自分と一直線になったときに撃ちだした。あれでは駄目、遅すぎた。予想して撃たなければ。かっこいいお手本を見せることはできない。

 

 無口で口下手、感情表現が苦手で糞真面目な不知火は心の中でも基本は真面目だったが、気になる人にはかっこいいところを見せて尊敬されたいというわずかな見栄や欲は人並みに持ち合わせていた。それと同時に集中し始めれば一切他人に影響されない、中学生にしては強靭な精神力も持ち合わせていた。

 的が中心から何度か離れるのを見て、不知火は的の移動速度と魚雷の速度をシミュレーションし始めた。とはいえ深く考えてイメージできるほど頭の中にデータがあるわけではない。それでも五月雨の次に長い先輩艦娘としての意地のため、数少ない経験を思い出して撃ち方のイメージを集中して固めていく。

 不知火は着任当時、訓練を提督に指導してもらいながら進めた。魚雷を撃つときは魚雷の進行方向や速度を教えこむようにイメージして撃てと提督が言っていたのを思い出す。艦娘の艤装は単なる機械の武装ではない。人の考えを理解して動いてくれるものだと。

 那珂が教わったことと大体似たような艤装の仕様のポイントを不知火も教わっていたのだ。それは一般的な艦娘の艤装の仕様ではあるが、当時の提督が特に強調して教授してきたのは、鎮守府Aに配備される艤装には特殊な仕様があるという内容だった。ただ細かいことについて不知火はわからなかったし当時さほど興味がなかったため、今までそれをなんとなく記憶の隅に追いやっていた。数少ない実際の戦闘経験ではそれを実践できていなかったことをも不知火は思い出す。

 自身の訓練当時のことを思い出しわずかな感傷に浸った後、不知火は手の平の内のコントローラーで魚雷発射管のスイッチを押し2本目の魚雷を発射させた。

 

ドシュ……サブン!

シューーーーーー……

 

 不知火はわざと魚雷が大きく迂回するようなコースを思い描いていた。そのため海中に没した魚雷はわずかな浮上とともに神通とは逆方向に向かって進み出した。彼女が思い描いたよりも浅い角度で弧を描き、的の正面ほぼ右前方斜めの角度から的へと迫っていく。

 そして……

 

 

ズガアァーーン!!

ザッパーン!!

 

 右斜め前から魚雷に襲われた的はその角度の部位から激しく爆散した。不知火は、初めて意識的に魚雷を軌道調整し、撃てたことを内心ガッツポーズをして密やかに喜ぶ。側に神通が立って見ていたことが彼女にとって良い刺激と効果になった。

 不知火によって爆散した的を離れたところで見ていた神通はその光景に息を飲んで見入り、そしてパチパチと軽い拍手を送る。

「すごいです……!不知火さん。2回目で……当てるなんて。」

 神通からの賞賛の拍手に不知火はやはりポーカーフェイスを保っているがわずかに頬が赤らみ、自慢気な表情を顔に浮かべていた。

「……いえ。神通さんも。」

 不知火は一言ぼそっと口にした後、神通に視線を向ける。高校1年の神通と中学2年の不知火この二人は体格的にそれほど差はないため、不知火の目線は極端な上目遣いなどにはならずほぼ垂直に神通の顔に向かう。

 無表情に戻っていた不知火のやや鋭い目線が物々しく感じられるが、言葉には柔らかさがある。そのため神通は不知火を見た目ではなく、彼女が発する少ない言葉から感じられる感情の色を見て判断しようという思いを抱いた。不知火の言葉を受けてゆっくりと噛み砕いた後決意を現した。

 

 

--

 

 二人は爆散した的の場所に行って部位をかき集めて元に戻し、再び雷撃する位置に戻った。今度は神通が撃ち不知火が見守る役目となる。

 神通は左腰の魚雷発射管を回し前方斜め下の水平にやや近い角度になるように手で回転させた。自身の艤装の魚雷発射管と不知火の艤装のそれを思い出して比べて思いに浸り始める。

 ロボットのアームのようなものに取り付けられていた魚雷発射管は装着者たる不知火がどんな体勢でも雷撃できるよう設計されたものだろう。自分らのグローブの主砲パーツ等と設計思想的には似ているのだろうか。ただ魚雷発射管だけを見ると位置が腰回りで固定されている自分たちのほうが撃ち方に技術と練習を要するのは想像に難くない。自分では相当練習しないとまともに当てるなんて無理だ。那珂さんと川内さんはやはりすごい。運動神経やゲーム等の経験と知識は伊達じゃないということなのだろうか。

 

 思いが広がり始めた神通は頭をブンブンと振り思考をリセットする。チラリと不知火に視線を向けた。不知火はじっと神通を見ていたため視線と視線が絡みあったのにお互い気づいた。神通がすぐに下を向いて視線を逸らしたのに対し不知火は目や頭を動かすことなくジッと見続けている。神通にとってはその糞真面目なまでの彼女の姿勢がプレッシャーになって仕方がなかった。が、それを指摘できるほどの度胸はまだない。そのため神通は仕方なく顔を上げ、離れたところでウロウロしている的をジッと見ることにした。

 

 神通はスイッチに指を当てながら、午前中の雷撃訓練と同じようにコースを思い描く。午前中と違うのは、的が半径50cm以内をゆっくりとしたスピードで動き回っていることだ。止まっていても当てられないのに果たして自分が無事当てられるのだろうか。再び思いを巡らせそうになる。

 こうなってしまったからには覚悟を決めなければ。どのみち当たらずに恥ずかしい思いをするなら早いほうがいい。前方斜めにいるあの少女ならきっと茶化したり笑ったりはしない。

 神通はそう巡らせて本当に負の方向に妄想することをストップし、残りの思考をコースの想像に割り当てた。

 

 魚雷が着水して海中に没っした後の進むコースを決めた神通は腰を下げ体勢を低くし魚雷発射管のスイッチを押した。

 

 

ドシュ……サブン!

シューーーーーー……

 

 最初は神通の真っ正面を進んでいた魚雷はわずかに右に逸れ、それから浅い角度で弧を描いてゆるやかに方向を左に戻し的に迫っていく。しかし魚雷はそのまま的の右斜め前方を素通りしてそのまま海の彼方へと消えていった。

 今度は自身が恥ずかしさで気まずくなる。神通が顔をあげることができないでいると、右前方から声が聞こえてきた。

 

「もう、一度。前の角度を……もうちょっとだけ後でずらすイメージ。」

 言葉足らずな相変わらずの不知火のセリフだったが、神通はその言葉のポイントの的確さを理解した。自身は前の動きをまったく参考にしていなかった。とにかく魚雷を放って当てることだけ考えていた。

 神通は今さっきの雷撃のコースと角度を全体的に少しだけ右寄りにして撃つことを決めた。

 

「……はい。アドバイス、ありがとう……ね。」

 

 一瞬不知火に向けた視線をすぐまっすぐ向かいに離れたところにいる的に向けた神通は、再び雷撃の姿勢を取り始めた。

 

 

--

 

 合図をしたあと、那珂は五十鈴とどちらが先に撃つか相談していた。

「さ~て、どちらから撃ちましょ~かね~、五十鈴ちゃんや。」

「そうねぇ。私からやらせて。」

「おぉ!?五十鈴ちゃんやる気みなぎってる!」

 那珂が姿勢を低くして五十鈴の顔を下から覗き込むように見る。自身がやると宣言した五十鈴は那珂の顔を気にせず奮起した勢いで那珂を見下ろしながら提案する。

「ねぇ、どうせなら的の動作モードをもっとレベルあげましょうよ。」

「ん?最高レベルっていうと?」

 姿勢を戻した那珂が確認すると、五十鈴は言葉を発する前に川内や神通たちのほうをチラリと視線を向け、すぐに戻して口を開いた。

「私たちは仮にも高可用性の軽巡洋艦なんだし、合同任務も経験してるんだし普通に動くだけの的では不足だと思うの。どうせだから応戦モードにしましょう。」

 

 そういって的に近づいていく五十鈴と後からついていく那珂。五十鈴が提案したのは、的の動作モードの一つである応戦モードであった。位置固定モード、ランダム移動モードとあり、その最高レベルである。そのモードに設定された的は事前撮影した相手を敵と認識し、海水を利用して水鉄砲の原理でその相手を狙ってくる。なおかつ一定の距離を保って相手をつかず離れずで追い回す。

「へぇ~この的そんなモードあったんだぁ。あたしはランダムな移動するモードのエリアを拡大することまでしか知らなかったよ。」

「私もついこの前知ったんだけどね。どうやら明石さんたちが改良したらしいわよ。」

「へぇ~~、そんなことできるならもっと早く改良してほしかったなぁ~。」

 

 不満で頬を軽くふくらませておどける那珂をよそ目に五十鈴は的の設定を切り替えた。そのさなか、那珂が提案した。

「ねぇ!的の認識する敵さ、あたしも撮影させてよ。」

「え?……でもそれだとあたしの番は……。」

「雷撃するのは五十鈴ちゃん。あたしは逃げるだけ。だ~から、五十鈴ちゃん、あたしを守って~お・ね・が・い!」

 ウィンクしながらクネクネと身体をよじらせてポーズを取り、ふざけきった動きで頼みごとをする那珂。五十鈴は目の前のうっとおしい動きをする少女を見てハァ……と溜息一つついたあと、仕方ないといった表情でその案を承諾した。

「わかったわ。けどそれだと的と私達にはもうちょっと広いスペースが必要よね。川内たちからもう少し離れましょうか。」

 

 そう言って五十鈴は的の設定を一度中断し、的をガシっと掴んで沖に向かって移動し始めた。那珂もそれに続く。

「ねぇ五十鈴ちゃん。あまり沖に出るとあっちの企業の工場とかの船の航路に入っちゃわない?この辺でやめとこー。」

「そうね。このあたりにしましょうか。」

 那珂の心配を受けて五十鈴は移動をやめ、ここと決めた場所に的を放り投げて浮かべた。そして的の設定を再開し起動した。すると的はヴゥンという鈍い音をさせた後、慣らし運転のためゆっくりとその場を回りだし、次第にその範囲を拡大していった。

 

「那珂。準備して。そろそろ動き出すわよ。」

「りょーかい。」

 

 的が完全に起動し終わるのを待つ前に五十鈴と那珂が一定距離あけるために的から急いで遠ざかった。

 

 

--

 

 五十鈴と那珂は横に並んで立っていた。的からは50mほど離れたポイントである。的は完全に起動が終わったのか、ゆっくりと前に進み二人に近づいてきた。ほどなくして的は急激にスピードを上げて二人に迫ってきた。

 

「くるわよ!那珂は右に避けて!」

 五十鈴は自身の身を左に傾け旋回していく。的と五十鈴は3~4m間隔を開けてすれ違った。五十鈴はその後さらに左、10~11時の方向に進み丸を描くように大きく右手に旋回していき的の後ろに回りこむ。的は小刻みに減速を繰り返し方向を調整して那珂に迫ってくる。

 その那珂は的に迫られていたが至って平然としている。スケートを滑るように海上を右手に進み、大きく緩やかに左手に弧を描いて的の後ろに回りこんだ。ほどなくして五十鈴とすれ違い彼女の背後にいる位置となった。的は標的たる二人を前方の視界から失い、一旦停止した後その場で回転し始めた。艦娘たちの足の艤装パーツと違い、的の底面はその場で回転して方向転換できるようになっている。そのため五十鈴と那珂は先ほど的が通った進路を再び通る的を見ることになった。

 五十鈴の魚雷発射管は、自身の腰回りの大型の艤装パーツから鉄管をつたって足の付根~ふともものあたりにあり真横を向いている。移動しつつ彼女は魚雷発射管の表面をそっと撫でた。まだ撃つつもりはない。

 五十鈴の艤装だと横を向かないとまともに雷撃できない。正面を向いていても撃つこと自体は可能ではあるが、放った魚雷を前方にいる敵に当てるためには、コースをより明確にイメージして魚雷発射管の脳波制御装置を伝って魚雷にインプットしなければならない。甘いイメージだと魚雷は角度浅く進み、狙った方向に行く頃には魚雷のエネルギーをその急旋回や狙ったコースの実現に大きく使ってしまい、結果として威力と飛距離が落ちてしまう。

 そのため五十鈴は落ち着いて真横を向いて撃てる状況か、動きまわる自身と的との移動の流れとタイミングを見計らって発射するしかない。

 

 直進してくる的。旋回し終わって減速していた五十鈴は再び速度をあげ、少しの距離直進した後、再び10~11時の方角に向かうため体重のかける方向を変える。今度は7~8m開けて的とすれ違った。一方の那珂は五十鈴とすれ違って彼女の背後にいる位置になった後そのまま右手へ進み、向かってくる的の左手側にいる位置になっていた。進む際、わざとジャンプをして空中でくるっと横に一回転して着水し、的の背後に回る。

 再び的が旋回するために止まるタイミングを、五十鈴は見逃さない。右腰~ふとももに位置する魚雷発射管は彼女の移動の向きのため、すでに的の方を向いている。五十鈴は急激に減速し、身をかがめて中腰になり、そして魚雷発射管の4つのスイッチのうち、2つに指を当ててイメージしたコースをインプットし、カチリとスイッチを押した。

 

ドシュドシュ……サブン!

シューーーーーー……

 

 放たれて海中に没した魚雷2本は1本は右手に浅く弧を描くように進み、もう一本は左手に弧を描くように進んだ。魚雷2本が迫り来る状況を的が検知して反応する前に、魚雷は後半急激にスピードを上げて的から向って2時と10時の方向から襲いかかった。そして……

 

 

ズガッズガアァァーーン!!!

ザッパーーーーーン!!!

 

 2発の魚雷を食らって的は激しく爆散することとなった。

 爆発を左手に見ていた那珂は僅かに減速と蛇行して進行方向を調整し五十鈴の正面で停まった。

「やったね~五十鈴ちゃん!だいしょうり~!」

 那珂はハイタッチをしようとすると、五十鈴はやや恥ずかしげに何も持っていない左手だけを目の高さにまであげて応対した。

「はいはい。次はあんたの番よ。さっさと的戻しに行くわよ。」

「むー、五十鈴ちゃんクールだなぁ~。」

 表面上は喜びもせず至って冷静を装う五十鈴に那珂はわざとらしく不満をぶつけつつ、彼女の後を追って的が爆散したポイントまで行った。二人は的のパーツをかき集めて戻し、選手交代とした。

 

 

--

 

「それじゃあ次はあたしの番ね。あたしが雷撃で、五十鈴ちゃんが逃げまわる番。おっけぃ?」

「えぇ。」

「それでね、あたしちょっと前々から考えてた攻撃の仕方あるんだけど、それ試したいんだ。」

「へぇ~。どういうの?」

 興味ありげに五十鈴は尋ねる。

「うん。あたし前に魚雷手に持って投げたじゃん。それをもっと自分のものにしてみたいんだ。」

「魚雷の投擲ってことね。もはや普通の対艦ミサイル状態だけど……まぁあんたらしくていいとは思う。具体的には?」

 五十鈴が再び尋ねると、那珂は手に魚雷を持ったフリをしてアクションを交えて説明し始めた。その説明に五十鈴はあっけにとられてマヌケな一言で聞き返す。

 

「……は?」

 

「だからぁ~。ジャンプして的を上空から狙うの。」

 那珂の説明を聞いた五十鈴は呆然としていた。なんだこの少女の思考はと、呆れてものが言えないという状態だった。

「いえ……別にいいけど、それもう海行く艦の娘じゃなくて空飛ぶ娘じゃないの!空娘(そらむす)とか造語できちゃうわよ。」

「おぅ?五十鈴ちゃん例え上手いなぁ~座布団あげちゃう!」

「なんの脈絡もなく座布団なんていらないわよ……。」

 五十鈴が例えた言葉を那珂は拍手をしながら冗談交じりに褒める。しかしながら那珂の褒め方がこの時代にそぐわない古い言い方のため、理解が追いつかない五十鈴はそれを真面目に捉えて普通に拒否して流した。

 改めて那珂は五十鈴に自身がしようとしている雷撃方法を説明する。

 

「まぁでも、そういう突飛なアイデアはあんたらしいわ。以前の合同任務の時戦った深海棲艦にやったことをやるのよね?」

「うん。」

「あの時は夜だったし私達もちゃんと見られなかったから、ぜひ見たいわね。」

「よっし。それじゃあ那珂ちゃんはりきっちゃおーっと。」

 五十鈴の期待を込めた言葉を受けて那珂はガッツポーズをして気合を入れて雷撃の準備をし始めた。

 

 

--

 

 那珂の指示で、五十鈴は的に設定をしに行った。那珂はここと決めたポイントで構えている。的からは30mほど離れた位置だった。

「これから起動するわよー!」五十鈴が声を張りながら手を振って合図をする。

「はーーい!」那珂は一言返した。

 

 電源を入れた五十鈴はすぐさま的から離れて那珂のいる付近まで戻ってきた。

「いくよ~。先手必勝っていう四文字熟語があるよーにあたしは速攻で行くから、五十鈴ちゃんは後方で待機ね。」

「はいはい。邪魔にならないようにしておくわ。」

 

 と五十鈴が言うがはやいか那珂は返事をすることなく姿勢を低くしながらのダッシュで一気に前方へと進み始めた。猛スピードで進みながら那珂は右腰の魚雷発射管から1本魚雷を手動で抜き出し手に握る。まだ海水に浸けていないのでただのアルミで出来た魚の骨状態である。もう片方の手では手の平を海水に浸け、一掴み海水をすくい上げる。当然海水は手から大量にこぼれ落ちるが、撃ち方には海水のしずく一滴でもあれば十分だ。

 両手に必要な物を手にした那珂は両足の間隔を縦に開ける。右足は思い切り前にして膝を曲げ、左足はピンと後方に伸ばして上がったかかとのためにつま先の艤装のパーツをかろうじて海面に浸けて艤装の自動調整の浮力を保っている状態である。

 針路はまっすぐ、ほどなくして的もまっすぐ迫っているのに気づいた。このままぶつかる気はさらさらなく、那珂は右足に最大限に力を入れた。

 

 次の瞬間、那珂が元いた場所付近で見ていた五十鈴は、那珂の身体が5~6mはあろうかという宙にあるのを目の当たりにした。

 当の那珂は下を見下ろすと、タイミングをしくじったことに気づいた。的がすでに自身を通りすぎようとしている。否、自身の前に進むスピードと勢いがありすぎてが自身が的を通りすぎようとしていたのだ。このまま目的通りに投げても失敗すると悟った那珂は魚雷投擲を諦めて空中で足を前方に出し、着水の準備をした。

 

((ヤッバ!駄目だ駄目だ!やり直し~))

 

 心の中ではほのかに焦りを感じたがすぐに冷静さで薄めて消した。なお、スカートが思い切りめくれ上がっていたが、この場には女しかいないので気にしないでそのままにしていた。

 

 海面が迫ってくる。前方斜めにつきだした両足で着水した那珂は落下の勢いによる水没を避けるために着水してすぐに両足を軸にして体重を前方にかけて前傾姿勢になる。そして浮かした右足を前に出して、再び水上を滑るように移動しはじめた。

 五十鈴からは何もせずに宙を舞って的を飛び越えたように見えた。勢いは一旦死んだように見えたが、那珂は着水したあとすぐには旋回せずに速度を落とさず直進し、ほどなくして反時計回りに大きく円を描くように旋回して向きを的へと順調に戻していく。

 的はある程度過ぎた後で停止しその場で方向転換して来た針路を同じコースで戻り始めた。それと同時に那珂もほぼ直進コースを進み始める。再び直線上で結ばれた形になった。

 那珂は再び姿勢を限界まで低くし、前に出して膝を曲げている右足に思い切り力を入れる。艤装の浮力調整のせいもあって水面に沈まず反発し、進んでいるにもかかわらずプルプルと足が小刻みに震えだす。うっかり気を抜いて足を左右にわずかでも動かしてしまえば溜まった反発力で身体が横にふっとばされてしまいそうだが、那珂はその足に意識を集中させてなんとか耐えた。

 そして再び宙を舞うべくその足で思い切り海面を蹴り、合わせて身体を上やや斜めへとつきだした。

 

 

 那珂の身体は先程よりも高く上がり、10mはあろうかという高さにまで到達した。そして引力に従って身体はゆっくり、次第に速度を高めて落ちていく。那珂の落ちると思われるポイントには、的が直前まで迫っていた。

 タイミングが合った。

 

「そりゃ!! うぅ~~~~~~~りゃ!」

 

 那珂は振りかぶらずに右手に持った魚雷を手首のスナップだけで放って落とし、その後左腕は思い切り振りかぶって手に僅かに残っていた海水を投げた。それらはほんの僅かな時間差で右手→左手の順に行われたため、那珂の目の前で落ちる途中の魚雷に海水がかかり、魚雷の先端の突起部分の裏から噴射のエネルギー波が出力し始めた。那珂はすかさず左腕で顔を隠し、エネルギー波による自爆を防ぐ。

 

シュバッ!

 

 鋭い音を立てて加速して落ちていく魚雷、魚雷の脳波制御装置は手に持った状態のためすでに働かず、ただ投擲の方向に沿って落ちていったため那珂の考えは混じっていない。それでも魚雷は那珂がタイミングを合わせて狙ったとおりのコースで落ち、目的のポイントにたどり着かんとする的めがけて勢い良く迫る。

 そして魚雷は的の頭上部分に炸裂した。

 

 

ズガアアアァァン!!!

 

 

 爆風が的の横だけでなく上空にも広がる。那珂は爆風に煽られてバランスを崩して残りの高さを降りてきたが、海面ギリギリでバランスを取り戻してどうにか着水することに成功する。ただし着水の衝撃で一旦は膝まで沈み足の艤装はもちろんのこと靴下までを完全に濡らしてしまった。

 濡らした感触に一瞬嫌な感覚を覚えたがそれ以上は気にせず、足の艤装の浮力調整を最大まで高めて一気に海上へと飛び上がる。

 

「うっひぃ~真夏とはいえつっめた~~!でもバッチリめいちゅ~!撃破撃破~!」

 

 ガッツポーズをしながら海上を蛇行して五十鈴のところに戻る那珂。そんな那珂をその場所から見ていた五十鈴は本当に那珂がした行動に唖然としていた。以前合同任務の際に那珂がした同一の行動は那珂が手に持っていた探照灯が一部を照らしていただけで誰の目にも直接的にはほとんど見えなかった。後に記録用に持っていたカメラでどうにか確認できたのみである。

 当時五十鈴は空でクルクル回転する探照灯と、落ちていくエネルギー波、そして双頭の重巡級の深海棲艦が大爆発を起こすそれぞれ断続的な光景しか目の当たりにしていない。本人が説明したとはいえ本当にそんなことがという思いを少なからず抱いていたが、その疑念はこの瞬間完全に消滅した。目の前に近づいてくるあの少女は本当に近い将来とんでもない艦娘になれるのでは?と希望と羨望、そして一種の不安がないまぜになった思いを五十鈴は持った。

 

「どぉどぉ五十鈴ちゃん?あのときはたまたまふっ飛ばされてやったけど、タイミングさえきちんと合わせればあたしこの攻撃方法イケると思うの。那珂ちゃんミラクル空中雷撃とか、そんなとこ?」

「……。」

 

 突飛な発想力とそれを実現させるバランス感覚と身体能力はすごいが、ネーミングセンスにはやや欠けるなと五十鈴は那珂の評価にオチをつけた。

 

 

--

 

「なに……あれ?なにあれ今の!?」

 自身の雷撃訓練と的もそっちのけで離れたところで起きた光景に唖然とする川内。彼女の問いかけに答えようとした夕立も珍しく呆気にとられていた。

「う……す、すごいっぽい。那珂さんホントにあんなことできたんだぁ……。」

 

 川内は夕立の方を向いて再確認する。

「ねぇねぇ夕立ちゃん。那珂さんがあんなことできるって知ってた!?」

「う、うん。前の合同任務の時に聞いたけど、あたし護衛艦で待機してたからあんなすごかったなんて初めて。なんかもうだつぼーっぽい……。」

 ただただ驚くことしかできないでいる二人。ただ川内の心の中では、単なる驚き以上に尊敬の念、ゲームや運動に自信があるがゆえに自身も真似してみたいという欲が湧き上がり始めていた。

 

 

--

 

 さらに離れたところにいた神通と不知火も那珂たちが訓練していた場所で起きた突然の激しいアクションを呆然と見ていた。神通が見たことがないのはもちろん、不知火も話にすら聞いたことがない那珂の突飛な行動に無表情ながらも口をパクパクさせて驚きを表していた。

「す、すごい……。那珂さんのあれ……。」

「……(コクコク)」

「不知火さんは……見たことは?」

「……(ブンブン)」

「あんな戦い方するなんて、私じゃとても追いつけません……。」

「私も。無理。」

 ようやく不知火がひねり出したその一言。神通は激しく同意の意味を込めて連続で頷くのみだった。

 

 

--

 

 自身の編み出した雷撃方法を再び試そうとする那珂は、それを五十鈴に止められた。

「ちょっと待って。もうそれやらないほうがいいわ。」

「えっ?なになになんで?」

「あれ見てみなさいな。」

 五十鈴が指し示した方向に視線を向けると、その方向では川内たち、神通たちが遠くはなれた場所からジーっと見ている。

「正直、あの子たちには刺激や影響力が高すぎるやり方よ。あんなすごいの見せつけられたらやる気に影響出しかねないわ。」

「うー、そっかなぁ? あたしは自分のベストを見せていろいろ感じ取ってもらいたいんだけどなぁ。」

「……あんたそれ今考えたでしょ?」

「エヘヘ。バレた?アドリブでぇ、口にしちゃいました!」

 五十鈴は那珂のそれらしい発言を見破った。当の那珂はごまかすことすらせずケラケラ笑っている。

「ハァ……。少なくとも今日はそれもうやめなさいよ。ああして集中力の欠如を招いてるのは確かだから。」

「まぁそれもそうだね。おーーーーい!みんなぁーーー!」

 

 那珂は五十鈴のアドバイスを受け入れ、自分らのほうを眺めていた川内たちに向って大声で語りかけた。

「あたしたちのぉーーーことはぁーーーー!気にしないでーーー。自分たちのぉーーー訓練に集中しなさーーい!」

 そんなこと言われても無理だっつうの……川内と神通は那珂からの指示を受けてすぐさまそう思ったが、あえて言うことでもないので離れた場所からなので両手で○を作ったりして同意を示した。

 指示し終わった那珂は五十鈴の方へと向き直して指をパチンと弾いて合図をする。

「そんじゃまぁ、あと2本くらいは普通に撃って終わりますかね。五十鈴ちゃんや。」

「あんたの側にいると疲れるわ……。次は私にやらせてよね。」

「はーいはい。」

 

 五十鈴のため息はこの後数回は続く羽目になった。

 


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