Fate/zeroニンジャもの   作:ふにゃ子

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その18

 

 

 時間は若干前後する!

 

 

 

 

 

 

 時臣の私室とは別の、遠坂邸の一室でオチョコを傾ける金色のサーヴァントの姿があった。

 綺礼の部屋から無断でかっぱらったオーガニック・サケを呷りつつ、フユキの空を包む陰鬱な雲と冷たい夜雨を眺めながら、オハギなどをつまんでいる。

 サケのボトルを傾け、それが空であることに気付き、無造作に背後へと放り捨てる。

 サーヴァント空間認識能力によるものか、空きビンは華麗な放物線を描き、置かれていたバイオ屑籠に吸い込まれた。

 

 手持ちのサケが切れたためか、不満気なアトモスフィアを漂わせつつ英雄王はごろりとソファへ横になる。

 

 

「返り討ち、か。実際順当ではあるが……」

 

 

 窓越しに見える夜雨を通して思い出しているのは、空に広がる陰鬱な雲めいた表情の青年だ。

 彼は今日の昼頃にニンジャ相手に返り討ちにあい、今は病院で寝ておりこの場にはいない。

 

 モータルがニンジャに負ける。これは良い、実際普通の成り行きだ。

 天に唾しても己の身を汚すのみ、太陽に蝋の翼で近づこうと試みてもイカロスめいて地に落ちるのみ。

 モータルがニンジャに挑むというのは、そういう事なのだ。

 

 だが、生きているのが若干解せない。

 ギルガメッシュの予想ではネギトロにされる辺りが順当だと思われたのだが。

 

 

「ま、全て我の予想通りでは、それこそつまらんか」

 

 

 そう言いながら退屈げなアトモスフィアを全開に大あくび。

 昼下がりの動物園のライオンめいてのん気な風情だ。まるでやる気がない。

 

 

「ここにニンジャでも襲ってでも来れば多少は退屈も晴れようが……あやつめ、いつまで穴熊を決め込むつもりなのやら」

 

 

 心底退屈そうに綺礼が自室に残していった最後のオハギを口へと放り込み、合法カキノタネを噛み砕く。

 だがつまみだけではどうにも口さみしい。

 また奴の部屋にサケでも取りに行くか、と立ち上がった英雄王の目に、なにやらサカナめいた影が映った。

 フユキの空を飛ぶ市警航空隊のパトロール飛空艇、マグロ・ツェッペリンだ。

 

 マグロに似た機影が、じょじょに遠坂邸へと近づいてきている。

 その上部甲板に立つ、二つの人影を見止め、ギルガメッシュの口許にサツバツめいた笑みが浮かんだ。

 

 

「────フ、なかなか感心な雑種ではないか。我の無聊を慰めに、己の命を捧げに来るとは」

 

 

 英雄王のサーヴァント視力は、この暗いフユキの夜空にあっても実際鋭く人影の正体を見抜いていた。

 上部甲板に屈み込み、何やら黒い葉脈めいたものを伸ばしてマグロ・ツェッペリンを支配しているらしい黒鎧。サーヴァントめいたアトモスフィアだ。

 そしてその隣に腕組みして立つ、メンポを身につけたフード付きパーカーの男。

 その姿は、あからさまにニンジャだった!

 

 一直線に突撃してくるマグロ・ツェッペリンに、英雄王は不動!

 当然である! この世の全てを支配した王が、たかがマグロに動じるわけがあろうか!

 その傲岸不遜な視線と、ニンジャの狂気に満ちたヘドロめいた眼光の目線が空中で刹那の交差!

 

 KRAAAAAAAASH!!

 

 そして視線の交差が切れるとほぼ同時に、爆弾めいた轟音と共に飛空艇が遠坂邸に墜落した!

 マグロ・ツェッペリンの断末魔めいた轟音をそよ風めいて聞き流しつつ、笑みすら浮かべて最後の合法カキノタネを噛み砕く英雄王! なんたる余裕か!

 

 アーチャーは不意に首を傾け、猛烈な速度で飛来した何かを回避する。フクスケだ。壁に激突し、諸共に砕け散った。

 降り注いだマグロの破片で戦場跡めいて破壊された庭を見下ろし、マグマめいた怒りの炎を宿した眼光で下手人を睨みつけた。

 

 

「この我に向かってガラクタ人形を投げ放つとは……その無礼な振る舞いは万死に値するぞ」

 

 

 おお、見よ!

 遠坂邸の庭、マグロの残骸の合間に立つ、黒い靄めいた何かをまとった漆黒の騎士の姿を!

 何かを投げ放ったかのような、投球後のザンシンめいた姿勢を取っている! 先ほどのフクスケは、この漆黒の騎士が投擲したものに違いない!

 

 得物を手に取り構える狂戦士! 右手にはサイバーサスマタ! 左手には電磁シナイ!

 腰には二丁のマッポガン! 背には数本のバイオバンブー竹ヤリまでも!

 手にした得物は黒い葉脈めいた何かに覆われ宝具化している! コワイ!

 

 黒騎士は黄金の英雄王を見上げ、底知れぬ殺意を漲らせ、吠えた!

 

 

「■■■■■■──────ッ!!」

 

「喧しいぞ、狂犬めが」

 

 

 言うが早いかギルガメッシュの背後の空間がぐにゃりと歪み、凶悪な神秘を篭めた神代の武具が無数に顔を覗かせる。

 これは紛れもなく"王の財宝/ゲート・オブ・バビロン"の発動した証!

 虚空から突き出たヤリやドッコ、錫杖スタッフの穂先から数十条のイカヅチが迸る!

 

 

「■■■■────ッ!」

 

 

 KABOOOOOM!!

 

 文字通りの意味で雷速で迫る光条へと、咆哮する狂戦士は目にも留まらぬ速度でサスマタを投擲!

 サスマタへと収束した雷撃は大爆発!

 

 だがしかし、英雄王の攻勢はそれだけに留まらない!

 

 マグマめいた真紅の魔剣から火炎が!

 ツンドラめいた蒼白の魔槍から吹雪が!

 春風めいた緑青の魔杖からカマイタチが飛ぶ!

 

 KRA-TOOOOOOM!!

 

 次々に炸裂!

 だがしかし殺到する実体なきエネルギー攻撃の絨毯爆撃を、右手の電磁シナイをイナヅマめいて振るって斬り払い、あるいは側転し、バックステップ!

 見事な連続回避ムーブメントで避ける狂戦士! タツジン!

 斬り払いの反動で電磁シナイの刀身にクラックが発生! それを英雄王へと躊躇なく投擲する狂戦士!

 

 

「つまらぬ攻め手だな、狂犬」

 

 

 吐き捨てるような声と共に展開された大盾がシナイをブロック!

 宝具化電磁シナイがプラズマ化して大爆発! しかし大盾は無傷!

 

 続いて狂戦士はマッポガンを構える!

 しかし鼻で笑う英雄王!

 

 BLAM! BLAM! BLAM! BLAM!

 

 鳴り響く銃声! 凄まじい勢いで吐き出される三十八口径フルメタルジャケット弾!

 だがしかし!

 

 

「つまらぬと言ったぞ」

 

 

 英雄王の背後から湧きだしたドーナツめいた黄金の輪が分裂増殖しつつ王の前面へと展開!

 空間を埋め尽くし、銃弾を一つ残らず叩き落とす! これは一体なんだ!?

 

 この場にニンジャ的神話知識を有する者が居れば理解できたであろう!

 英雄王の集めた財とは、すなわちこの世にある全ての英雄、英霊の宝具の原型!

 すなわち神々の時代より連綿と積み重ねられた闘争を打ち破ってきた英雄の装備に相応しいだけの機能を備えているのだ!

 それらによる防御はまさにゴールドキャッスル・アイアンウォール!

 いかに宝具化した近代兵器と言えども、神話級の幻想種やニンジャすら時には退けたそれらを打破することは実際困難!

 

 戦闘開始時から一歩すら動かず腕組みしたままの姿勢で、遠坂邸のバルコニーより傲然と狂戦士を見下ろす英雄王。

 眼下の黒鎧の騎士が、手にした物を己の宝具と出来ることは英雄王のサーヴァント観察力が既に看破している。

 武器本体を射出せずとも効果を発揮する宝具だけで攻めれば掠め取られることもあり得ないのだ!

 これはまさに英雄王の、己の所蔵する財を把握し使いこなすワザマエの為せる所業か! タツジン! 命名するならば古代ウルクカラテか!?

 

 英雄王の背後に浮かぶ、弓やスリング、クロスボウめいた宝具の群れ!

 ナムサン! 発射されるのが矢弾ではキャッチングしても反撃には不向きか!

 轟音と共に無数の宝具が火を噴く!

 

 

「■■■■────ッ!」

 

 

 連続側転回避! 一瞬前まで狂戦士が存在した空間を焼き払う炎弾!

 ブリッジ! 胸部装甲をかすめたカマイタチが背後の立ち木を切断破砕!

 連続バク転! 続けざまに地面へと突き刺さるトゥララめいた氷刃を置き去りに回避!

 ワーム・ムーブメント! 地面を転がることで落雷を周囲の残骸に誤爆させ回避!

 

 あらゆる回避アクションを駆使して弾幕をすり抜ける狂戦士! タツジン! なんたる回避技術か!

 そしてその手に握られたバイオバンブー竹ヤリが、回避しきれなかった矢弾をも叩き落とす!

 

 なんたるワザマエか! 射撃宝具の弾幕をただの一撃も受けずに凌ぎきるとは!

 なんたる得物か! 鋼鉄の四倍の強度を誇るバイオバンブーの竹ヤリは、神代の宝具による攻撃を受けてなお、傷こそあれど健在!

 バイオ・ハイ・テックと"ナイト・オブ・オーナー"の圧倒的ケミストリー!

 漆黒の葉脈めいたオーラに包まれたバイオバンブー竹槍を手に、英雄王を見上げる狂戦士!

 

 

「農兵めいた粗末な得物で、随分とよくやる」

 

 

 口許に傲慢な笑みを浮かべ、狂戦士を見下ろす英雄王。

 その背後には数十の宝具が浮かび、その矛先を狂戦士へと向けている。

 確かにバーサーカーは善戦している。

 だがしかし、ギルガメッシュが不用意に宝具を打ち出さぬ限り、バーサーカーの火力は現地調達したツールを基準としたものに留まる。

 それでは"ナイト・オブ・オーナー"による宝具化を行っても実際限度があるのだ!

 

 次々に降り注ぐグミ撃ちめいた弾幕を回避し、マグロ・ツェッペリンの残骸を盾に隠れる狂戦士。

 砕けて落ちたシェルターめいた外郭の一部が漆黒の葉脈に覆われ宝具化。これを盾にするつもりであろうか?

 

 

「フーリンカザン気取りか? くだらぬ戦術よ、少しは意表をついてみせよ」

 

 

 嘲笑いつつ雷撃を、炎弾を、氷刃を降り注がせる英雄王!

 

 KABOOOOOM!!

 

 宝具化したナノカーボン装甲がトーフめいて粉砕される!

 その後ろで、なにやら巨大な筒めいた器物に取り付いている黒鎧のサーヴァント。

 盾としていた外郭装甲が粉砕されるや、大筒が火を噴く!

 

 BLATATATATATATATATATA!!

 

 ナムサン! これはマグロ・ツェッペリンに搭載されていた対地掃討用二十ミリ機関砲だ!

 落雷めいた轟音が連続して鳴り響き、大口径の機関砲弾が発射される!

 

 

「雑種の得物にしてはなかなか派手ではないか!」

 

 

 食物連鎖の頂点に位置する猛獣めいた笑みを浮かべ、英雄王は防衛宝具を連続展開!

 飛び道具の威力を削り落とす風の結界が張り巡らされ減速防御!

 薄ガラスめいた積層防御結界が射撃を阻み、砕かれつつも連続再展開し継続防御!

 そして琥珀色の球状バリアー盾が機関砲弾を弾き散らす!

 

 沢山撃つと実際当たりやすいとはいうものの、防衛宝具の多重同時展開の前では当たっても無意味! これではダメだ!

 左手で機関砲を操作したまま、狂戦士が足元へと手を伸ばす。

 手に取ったのは棒状のなにか。細いスティック状の持ち手の先に、メイスの先端めいた塊状のパーツが取り付けられているようだ。

 

 おお、ブッダよ! これはパンツァーファウストではないか!

 これはツェッペリンに積まれていた犯罪者からの押収品だ! 装甲車両の破壊に用いられるありふれた近代兵器! 実際アブナイ!

 古式ゆかしいシンプルな伝統的発射機構が作動し、凶悪な破壊力を秘めた成形炸薬弾が撃ちだされた!

 

 KRA-TOOOOOOM!!

 

 だがしかし、発射された弾頭は黄金のサーヴァントへと到達することなく空中で爆発四散!

 一体何が起こったというのか!

 

 この場にニンジャ動体視力を有する者が居れば気付けただろう!

 英雄王が打ち出したヤリめいた宝具が、あたかもブッダハンドでの誘導を受けているかのように弾頭へと直撃し、撃ち落としたのだ!

 必中の概念を持つ宝具を迎撃に応用したことに疑いの余地はない! タツジン!

 

 爆発で生じた煙幕めいて濃い煙が二騎のサーヴァントの間を満たし、視界を遮る。

 感心したようなアトモスフィアを表情に浮かべる英雄王。

 

 

「ふむ……なるほど。狂犬にしては、見事なフーリンカザンだ。狂犬にしては、だが」

 

 

 そう言いつつ、無造作に頭を右に傾ける。

 一瞬前まで頭部が存在した空間を通過するバイオバンブー竹ヤリ!

 煙で視界を塞ぎ、目眩ましにしてのアンブッシュ竹ヤリ投擲だ!

 

 回避と同時に、背後から引っ張りだした巨大なウチワめいた宝具を振るう英雄王!

 ハリケーンめいた突風が爆煙を吹き散らし、第二射投擲の構えを取っていた狂戦士をよろめかせる!

 咄嗟に手にしたバイオバンブー竹ヤリを地面に突き立ててこらえる漆黒の騎士!

 

 奇しくも、最初に対峙しあったのとほぼ同じ位置で睨み合う形となる両者。

 先ほどとの違いはバーサーカーが装備の大半を失い、残っているのは数本のバイオバンブー竹ヤリだけであることだった。

 

 

「■■■■────……ッ」

 

 

 唸り声と共に竹ヤリを隙なく構え、英雄王へと殺気を叩きつける!

 その殺気を平然と受け止め、傲然と腕組みしたまま、余裕めいたアトモスフィアを崩さぬ英雄王!

 

 この傲岸不遜な王ならば、誰の許しを得て我を見ているなどと言いそうなものであるが、今の彼に不快の色はない。

 単にタイクツを持て余しているところへやってきた玩具を喜んでいるということもあるが、それだけではない。

 

 眼下の狂戦士が手にする武器が、他ならぬバイオバンブー竹ヤリであることを評価しているのだ。

 

 竹ヤリとは、古事記にもあるように神話の時代から多くのモータルやニンジャが用いてきた伝統的武器だ。

 ただのハンティングからイッキ・レジスタンスの武器、あるいは貧乏国家の支給装備として幅広い実績がある。

 かの神話級ニンジャであるハガネ・ニンジャにトドメを刺したのも、一説によれば一人のモータルの狩人が手にした竹ヤリであったという。

 神の如き存在に立ち向かう時、人が最後に頼る、最も原始的で最も伝統ある武器……。

 それが竹ヤリなのだ!

 

 この世の全ての財を有する世界最古の英雄王に立ち向かうことは、まさにロウソク・ビフォア・ザ・ウィンド。

 ニンジャにモータルが立ち向かうが如き、自殺めいた無謀なイクサだ。

 

 そのような無謀なイクサに臨む戦士が振るうに相応しい武器は、星の鍛えた聖剣か? 無毀なる宝剣か? 一投必殺の真紅の魔槍か?

 そういった武器を手に立ち向かう英雄達もいただろう。

 だがしかし、そんな神造兵器めいた武具を手に入れられなかったモータルは、そこで抗うことを止めただろうか?

 失禁し、怯え竦み、ただ神やブッダに祈りを乞うだけであっただろうか?

 

 そんなことはない。

 断じて、ない。

 

 神話級の幻想種やニンジャを前にしても、命がけで竹ヤリを手に立ち向かう者が、必ず存在したのだ。どれほど少なくとも、勝つことは出来ずとも。

 古事記にもそう書いてある! そして世界最古の英雄王は、それを知っている!

 

 かつて英雄王がただ一人の友を連れ、天の雄牛を打倒しに向かった時もそうだった。

 我が物顔で暴れまわる雄牛の蹄に踏み潰され、原型すら留めぬネギトロめいた有様ではあったが、竹ヤリを手に立ち向かったモータル達の骸がそこにはあったのだ。

 家族か、故郷か、それともそれ以外の何かに殉じたのか、それは英雄王ですらわからぬ。

 一つだけ確かなことは、天の雄牛とのイクサにおいて、ギルガメッシュの親友が振るった得物が神代の武具ではなく、その場に遺されていたただ一振りの竹ヤリであったという事だけだ。

 

 無力なモータルがどうにもならぬ絶対強者に立ち向かう時、追い詰められた彼らが最後の最後に手にした武器は竹ヤリだった!

 古代ウルク、メソポタミア文明の時代に於いてもだ! 

 平安時代出身の剣士にして哲学者の英霊、ミヤモト・マサシも言っている!

 環境に文句を言う奴に晴れ舞台は一生来ない!

 

 何の変哲もないバイオバンブー竹ヤリを宝具化し、理性を捨てて尚も健在なる絶世の武技を以て振るう漆黒の狂戦士の暴力的アトモスフィアに目を細める英雄王。

 

 

「見事なイクサ振りと褒めてやるぞ、狂犬。さあ、我をもっと興じさせてみよ!」

 

「■■■■────ッ!」

 

 

 竹ヤリをしごきつつバーサーカーは正面突撃!

 黒鉄のグリーブが大地を蹴り砕き、カタパルトめいた速度で猛然と突進した!

 無謀にも思える攻め手だが、竹ヤリ投擲で英雄王のガードを突破出来ぬ以上これしかないのだ。

 

 英雄王は右手に三叉のヤリを召喚。

 切っ先を疾走する狂戦士へと向け、突き出す。

 

 

「イヤーッ!」

 

 

 おお、見よ! ヤリの先端からレーザーめいて打ち出される水圧カッター!

 ナムサン! 今度は水を操る宝具か!

 ブルーラクーンのフォーディメンション・ポケットめいた芸の幅広さ! 実際何でもありなのか!?

 

 ZAP! ZAP! ZAP!

 

 

「■■■■────ッ!」

 

 

 バーサーカーは一本目のレーザーを前方ダイブで飛び越え回避!

 続いて迫る二本目のレーザーもスライディングでくぐり抜け回避! タツジン!

 しかし三本目のレーザーは回避しきれず、竹ヤリで打ち払う!

 

 キャバァーン!

 

 竹ヤリの穂先がレーザーと相殺しあい粉砕消滅!

 次の竹ヤリを手に取るも状況はジリー・プアー! 鋼の四倍の強度を誇るバイオバンブーを、こうも容易く砕くとは!

 武器破壊に優れた宝具らしい! 見事な状況判断!

 

 ZAP! ZAP! ZAP!

 

 さらにレーザー弾幕は続く! 狂戦士は周囲の残骸を宝具化して使い捨ての盾にしつつ回避に専念!

 弾速の速さと威力の高さを両立しつつ、キャッチングによる武器の補給を果たさせない絶妙な宝具チョイス!

 距離を詰められない! 攻めあぐねる狂戦士!

 

 

「ゴジュッポ=ヒャッポか。埒が明かぬな」

 

 

 やや苛立たしげに表情を歪め、攻撃的アトモスフィアを漂わせる英雄王。

 サウザンド・デイ・ウォーズめいた膠着状況だ。

 新たな攻撃用宝具を展開しかけて中断し、その美貌を苛立たしげに歪める。

 

 己の手のひらを見つめ、舌打ちする英雄王。どうしたというのだろうか。

 

 

「魔力の供給が途絶えかけている……? フン、時臣め。あのニンジャに遅れを取ったか」

 

 

 想像以上に愉しめたバーサーカーとのイクサを中断させたのは、己のマスターの不調。

 魔力供給が途切れ、リンクも寸断しかかり、サーヴァント感知力でも邸内でのイクサが時臣不利で進んでいることを感じられる。

 

 とはいえ、英雄王の表情に怒りの色は薄い。

 いかに魔術師とはいえ、モータルがニンジャに勝てるはずなどないのだから。

 押し寄せる溶岩流を土のうで押し留めようとして果たせなかった者に、無謀だと説教することはあろう。だが失敗したことを怒る者など居ようはずもないのだ。

 いかに暴君でもその程度のナサケはある。

 

 ちらりと狂戦士を見下ろす。

 英雄王からの攻勢が緩んだ好機であるというのに、まるで攻めてこない狂戦士。実際不可解な。

 よくよく見てみると、庭に立つバーサーカーは何かに気を取られたように遠坂邸の敷地外へと視線を向けているようだ。

 こちらへの警戒は無意識めいてかろうじて維持されているが、今まさに戦っている相手から目を逸らすなど実際キチガイめいた振る舞いだ。逆に狂戦士らしいとも言えるが。

 

 彼の視線の先にあるのは、流れ弾で破壊されたバイオ石塀の亀裂。

 そこから覗く二つの人影。通りすがりのペケロッパ・カルティストか?

 

 いや、違う。ギルガメッシュのサーヴァント視力は、それが現代人でないことを見極めていた。

 金の髪と銀の髪。一方は英霊、一方は人間モドキ。あからさまにサーヴァントとマスターだ。

 

 だがしかし、さしたる興味もその瞳に浮かべず、視線を狂戦士へと戻す英雄王。

 眼下の漆黒の騎士は、未だに注意を英雄王へと戻すことなく闖入者を気にしている。

 王との戦いよりも無礼な覗き魔に興味を向けるなど、無礼も無礼。万死に値するほどの実際シツレイな行為だ。

 

 英雄王への魔力供給が途絶えかけている事を嗅ぎとった上で万全な状態の新たな敵を警戒しているのであれば、むしろ名狩猟犬めいたサーヴァント直感だといえるが、まあ違うだろう。

 理性を失った狂戦士が、そこまで考えて行動するとは思えない。

 

 英雄王が座するバルコニーに背を向け、竹ヤリを手に闖入者へと向き直る狂戦士。

 

 

「……A……Ar……」

 

 

 唸り声を上げつつ、幽鬼めいた足取りでバイオ石塀の亀裂へと近づいていく漆黒の騎士。

 とてもではないが正気には見えない。キチガイめいている。

 

 

「なかなかのイクサぶりだったが、所詮は狂犬か」

 

 

 呆れ混ざりのアトモスフィアでその背を見送り、踵を返す黄金のサーヴァント。

 隙だらけの背中を撃つことは実際容易かったが、それは王の中の王がすべき戦い方ではない。王には王のカラテ作法があるのだ。

 誰だかわからぬ第三サーヴァントに返り討ちにされるなら、所詮はそこまでの雑種。

 もう一度出てきたならば、その時こそ狂犬駆除と洒落込めばよい。

 そのように軽く流して済ませた。

 

 英雄王は戦闘の余波で壁や棚が粉砕され、随分と風通しの良くなった邸内を進む。

 目指す先は、あのニンジャめいた風体の敵と交戦中と思われる己のマスターの居場所である。

 

 

「ニンジャ、か……。現代のニンジャとやら、どの程度のものか」

 

 

 独りごちつつクーガーめいて獰猛な笑みを浮かべ、決断的速度の早歩きで進む英雄王。

 邪魔なオーガニックカドマツや剥がれ落ちたカケジクを適当に蹴り飛ばしてどかし、壊れかけのフスマを蹴り倒して進む。実際乱暴な。

 途中、無造作なムーブメントで背後に手を伸ばし、宝物庫から一振りのヤリを取り出した。

 

 デカイ! あまりにもデカイ!

 その全長、およそ一〇フィート! 穂先は長さ三フィートはあろうかという四角錐型で、神秘的なルーンカタカナがびっしりと刻み込まれている。

 これもまた、ギルガメッシュよりも後の時代を生きた英霊が用いた宝具の原型の一つだ。

 

 英雄王はサーヴァント筋力で超重量の剛鉄槍を手に取りつつ、眼前の壁へとケリ・キック!

 

 KRAAAASH!

 

 砕けた壁の向こうにいたのは……おお、ナムサン!

 片腕を失い全身ボロ雑巾めいてズタズタの遠坂時臣と、彼にトドメを刺さんと禍々しき殺意と共に足を振り上げた間桐雁夜の姿!

 

 

「イヤーッ!」

 

 

 英雄王は間髪入れずに剛鉄槍を投擲!

 

 

「グワーッ!?」

 

 

 横合いからのインタラプト! 雁夜の脚が時臣の頭に到達する寸前で木っ端微塵に吹き飛ぶ!

 衝撃で体もノックバック!

 石突きに連結された鎖を引き、剛鉄槍を手元へ引き戻しつつ英雄王が接近!

 雁夜はジツを全開発動! 吹き飛んだ脚の切断面からミミズめいた蟲を無数に湧き出させ、脚を再構築して立ち上がる!

 

 だがしかし、おお、見よ!

 英雄王がいつの間にやら手にしていた節くれだったオーガニック・ウッドスタッフを一振りするや、床板から伸びたツタがその全身を絡めとる!

 これは木製のオーガニック床板を触媒めいて利用した、植物操作の宝具による拘束だ!

 ニンジャは脱出を試みてもがくも、神秘で強化された超硬カーボンワイヤーめいた強度のツタは容易には千切れぬ!

 

 

「時臣=サンのサー……ヴァント、か! 邪魔を、すルな!」

 

 

 醜く焼き潰された顔面から聞き取り難い声音を発しつつ、その右手を肘あたりから丸太めいて太い巨大ムカデに変じさせる異形のニンジャ!

 

 

「イヤーッ!」

 

「誰に向かって命じている? 身の程をわきまえよ」

 

 

 気合の声と共に黄金のサーヴァントめがけて突貫する巨大ムカデ!

 英雄王は慌ても動揺もせず、剛鉄槍を振りかぶって叩きつける!

 

 

「イヤーッ!」

 

 

 ナムサン! 正面から剛鉄槍と激突したムカデはあまりの衝撃にネギトロめいて粉砕!

 蟲の体液と肉片が飛び散り、衝撃でニンジャの右肩が付け根から吹き飛ぶ!

 

 

「グワーッ!」

 

 

 無事な左手で傷口を押さえ、膝をつき苦しむ! 身を捩るも拘束重点のツタは緩みもしない!

 体内から伸びたミミズめいた無数の蟲が寄り集まって腕を再構築していくが、呼吸は荒く、ダメージは実際深そうだ。

 冷たい目でその醜態を見下ろし、鼻で笑う英雄王。

 

 

「ニンジャはニンジャでも、ジツ頼りのサンシタとはな。拍子抜けもよいところだ」

 

「サ……サンシタ、だと!」

 

 

 憎悪のこもった目で英雄王を見上げるニンジャ。

 押しつぶすような威圧的アトモスフィアでその視線に応じるギルガメッシュ。ニンジャ威圧感をも塗りつぶすほどの迫力!

 黄金のグリーブに包まれたつま先が、ニンジャの顎を蹴り上げた!

 

 

「グワーッ!」

 

 

 ハンマー車の一撃めいた衝撃! しかしツタに縛られたニンジャはその場から逃れることすらできず被弾!

 修復途中の焼けただれた顔面が再崩壊! 蟲が飛び散る!

 

 

「その有様で、己がサンシタではないとでも言うつもりか?

 カラテの欠片も貴様の五体には染み付いておらぬ。

 せめて何がしかのドーの一つでも極めてからニンジャを名乗るがいい」

 

 

 失望の色を隠そうともせぬアトモスフィアで、ヤリを振り上げる英雄王。

 ツタに縛られた今のニンジャに回避の術はない。

 悪あがきめいて様々な種類の蟲を大量に生み出して展開し、バリケードめいてその一撃を受け止めようと試みる。

 だがしかし、英雄王の宝物庫に相応しき最上大業物を受け止めるには、それはあまりにも不足!

 

 

「イヤーッ!」

 

「グワーッ!」

 

 

 ゴウランガ!

 蟲の盾をショウジ戸めいて貫いた剛槍がニンジャの腹部に命中し、その体を真っ二つに両断!

 

 だが……おお、見よ!

 吹き飛んだ上半身には未だ反撃の意識あり!

 ムカデめいた異形と化した脊椎が天井の梁に食いついて体を支え、背中から伸びるカマキリめいた二本のブレードで攻撃!

 

 

「イヤーッ!」

 

 

 英雄王の頸部目掛けて迫るブレード! アブナイ!

 だがしかし、ギルガメッシュの背後の空間がぐにゃりと歪むや、無数の宝具が姿を見せ、ブレードが通過しようとした空間を埋め尽くしインタラプト!

 

 

「フン、カラテも知らぬ雑種めいたサンシタ風情がこの我に刃を向けるか」

 

 

 嘲笑と共に発射される無数の宝具!

 受け止めたブレードを粉砕しつつ神秘の結晶めいたヤリが、マサカリが、コペシュが飛ぶ!

 防御のための展開ではない、攻撃のための展開でもない! 攻防一体の"王の財宝/ゲート・オブ・バビロン"の使いこなし! タツジン!

 切り札めいたブレードまで失ったニンジャに、イナヅマめいた速度で飛来する宝具の制圧射撃を防ぐ術はもはや無し!

 

 

「グワーッ!」

 

 

 受け止めようとした腕が炎の魔剣で切断され炎上炭化!

 再生成されかけたカマキリ状のブレードが雷をまとったメイスで打ち砕かれ感電発火!

 胸に炸裂した氷の魔槍の冷気が、無数のミミズ状に分裂しかけた体を封じ込めつつ凍結破砕! 

 

 

「グワーッ! グワーッ! グワアーッ!」

 

「耳障りだぞ、疾く消えて失せよ」

 

 

 身動きすらまともに取れぬほどに五体を破壊され、苦悶の声をあげるニンジャ!

 そしてそのメンポに包まれた顔面に、英雄王の手から放たれたヤリが炸裂する!

 

 

「イヤーッ!」

 

「アバーッ!」

 

 

 ナムサン!

 ニンジャの頭部は剛槍の直撃を受け木っ端微塵に粉砕!

 クズ肉と化したニンジャの残骸が巨大ヤリの穂先にまとわりつくばかり。もはや生気の欠片もない。

 

 苛立たしげに鼻を鳴らし、鎖を引いてヤリを引き戻す英雄王。期待はずれのサンシタニンジャのブザマなイクサぶりに実際不満なようだ。

 

 相次ぐ戦闘の余波で戦場跡めいて破壊された室内を進み、横たわる時臣へと近づく。

 反応はない。死んでこそいないが昏倒しているようだ。

 その姿は、全身ネギトロ一歩手前といった有様でズタボロ。息があるだけでも奇跡めいていた。

 

 

「情けない、我のマスターを気取るならばもう少し粘りを見せるべきであろうが。

 ……ま、ニンジャ相手に多少なりとも粘れるだけ、こやつはマシな部類か」

 

 

 そう言いつつ、背後へと手を伸ばし、蔵からねじれた一角獣のツノめいたボーを引っ張りだす。

 無造作にかざしたその先端から陽光めいた光の触手が溢れ、時臣の体へとアンコクトンめいて侵入していく。

 光に欠損を埋められた内臓に生気が戻り、裂けた血管が繋がりあい、息を吹き返す。治癒の宝具か。

 臣下へ褒美を下賜する王のアトモスフィア。

 

 だがしかし、完治には程遠い。傷が実際深すぎるのだ。

 それでも若干は効いたようで、途絶えていた意識を取り戻す時臣。

 うっすらと目を開いた。

 ひゅうひゅうと笛めいて喉を鳴らし、英雄王へと話しかけようとし、血の塊を吐く。

 

 

「ゴボッ! ゴボボッ!」

 

「貧弱な。カラテが足らぬからそうなるのだ」

 

 

 呆れ混じりで時臣を見、こき下ろす英雄王。

 限りなく死人に近い相手に対して、労りの欠片もない言い様だ。さすがは世界最古の暴君である。

 

 

「…………王、よ。申しわけ……」

 

「無様を見せてくれたな、時臣。しばらくそのまま転がっておれ」

 

 

 意識がまだ朦朧としているようではあるものの、いささかたどたどしい口調で臣下の礼を見せる時臣。

 貴族めいて優雅たれという家訓が、文字通り骨身に染み付いているのだろう。

 これほどの深手を受けても尚、常と同じ振る舞いを見せようとしている。

 そんな時臣に向けて鼻を鳴らすギルガメッシュ。

 

 一〇フィートほど離れた位置に転がっていたレイジュ・タトゥーの刻まれた手首に目を留め、そちらに歩き出す。

 魔力供給が途絶えても単独行動スキルを有する英雄王の現界にただちに影響はないが、放っておけば消滅確定だ。

 さすがにそれは実際つまらない。

 

 というわけで英雄王が落ちている手首を拾い上げようと身をかがめた、その時である!

 ギルガメッシュのサーヴァント感覚が、ニンジャソウルの気配に気づいた!

 階下だ!

 

 

「イヤーッ!」

 

 

 咄嗟に宝物庫から建造物破壊用の宝具を取り出す!

 その形状はマトック! これはギルガメッシュが生前登ったとある塔で愛用したツールだ!

 

 CRASH!

 

 

「グワーッ!」

 

 

 ショウジ戸めいて床板を粉砕したマトックが、その下に張り付いていた人影をも貫いた!

 砕けた床板の破片と共に飛び散ったのは……おお、ブッダよ!

 おぞましい蟲の群れで肉体を構築したニンジャ、間桐雁夜の姿だ! まだ生きていたのか!?

 手首を拾いに近づいた無防備なところをアンブッシュすることを狙っていたのか!

 ミミズめいた蟲が筋肉繊維めいて寄り集まったその姿は、バイオニンジャですら及ばぬほどに人間離れしている!

 

 

「サンシタの分際で、なんともしぶとい。腐ってもニンジャか」

 

 

 マトックを仕舞いこみつつ忌々しげに吐き捨てたギルガメッシュは、転がっていたはずの下半身がどこかへ消えていたことに今更ながらに気付く。ウカツ!

 時臣の治療などにかまけている時間を利用し逃れていたのか!

 

 ブッダシット! 間の悪い事にこの部屋の真下は厨房だ!

 ギルガメッシュの為に取り寄せられていた最上級オーガニック・トロマグロ・スシが満載された重箱が食い荒らされているのが見える!

 完全栄養食であるスシを取り込めばごく短時間で回復しても不思議はないが、これほど劇的な効果があるものだろうか?

 

 説明しよう!

 

 今の間桐雁夜は、己のユニーク・ジツで血中カラテを消費して蟲を生み出すことができる。

 そして生み出された蟲は間桐雁夜自身の肉体としても機能する! ニンジャであると同時に蟲でもあるのだ!

 スシの摂取により血中カラテを補充し、補充された血中カラテで蟲を生産し、破壊された肉体を修復するネズミ車めいた再生プロセス!

 

 懸命なるニンジャ研究者ならば気付けるであろうが、これは彼が幼少期より間近で見続けてきた間桐の怪翁、間桐臓硯の魔術をジツで模したものだ。

 蟲の群体が人間めいて振舞っていたあの老人を参考に、己のユニーク・ジツを無意識に応用した結果が、今の惨状である。

 呪わしき血筋の呪縛は、たとえその要となる臓硯が果てても断ち切ることはできないということなのであろうか。

 

 階下のニンジャへと威圧的アトモスフィアに満ちた視線を向けたまま、足元に落ちていたレイジュ・タトゥーつきの手首を時臣へと蹴り飛ばす英雄王。

 放物線軌道を描いて飛んだ手首が正確に時臣の顔面に命中。ポイント倍点!

 さすがに物言いたげな視線を送ってくる瀕死の魔術師に、振り向くことなく声をかけるギルガメッシュ。

 

 

「さっさと繋ぎ合わせよ。あの死に損ないを始末せねばならんからな」

 

 

 自分を魔力タンクめいたものとしてしか見ていないと言わんばかりの、なんとも傲慢極まりない一方的宣言。

 とはいえ、言っていること自体は実際正しい。魔力供給をまともに行うことは難しいだろうが、それでも無供給よりはマシであることは時臣もわかっている。

 体に残留している癒しの宝具からもたらされた奇っ怪なオーラを利用し、治癒魔術と並行運用。切断された腕の接合に取り掛かった。

 死の寸前まで傷めつけられた体のあちらこちらが痛むが、このビハインド・ウォーターめいた状況で贅沢を言ってはいられない。

 

 そんな己のマスターの苦労を尻目に、受けたダメージをじわじわと回復させつつあるニンジャに侮蔑的な眼光を向けるギルガメッシュ。

 

 

「下郎ごときが、なんとも生き汚い事よ。すぐにでも引導を────」

 

 

 と、そこまで言葉を発しつつ踏み出しかけたところで、不意に言葉を止める英雄王。

 

 次の瞬間である!

 天井の裂け目から次々に飛来する銀光!

 ギルガメッシュのサーヴァント動体視力が捉えたその正体は……スリケン!

 ペンシルめいたスリケン・スティック!

 

 

「グワーッ!?」

 

 

 決断的速度で迫り来るスリケンを回避しきれず雁夜は被弾!

 カブーム! 命中するやスリケンが次々と爆発!

 ジゴクめいた火炎が厨房内を蹂躙! サラマンダーの舌で舐め尽くすがごとき大火力! アツイ!

 激しい炎がニンジャの体をも包む!

 

 

「グワーッ!」

 

「イヤーッ!」

 

 

 スリケンが飛来した天井の裂け目から体を丸めての回転ジャンプでエントリーする影あり!

 そのまま降下し、全身を焼かれてのたうち回るニンジャの頭部へと重力加速を乗せたケリ・キック!

 

 

「グワーッ!」

 

 

 決断的速度でのシューティングスター・キック!

 ナムサン! 間桐雁夜の首が吹き飛んだ! しかしミミズめいた蟲が首の断面から伸び上がり蹴り足の拘束を試みる!

 

 

「イヤーッ!」

 

 

 蹴り足を横に薙ぎ払い触手めいたワーム・ホールドを断ち切り逃れ、回転しつつ逆の足でさらにケリ・キック!

 

 

「グワーッ!」

 

 

 胸に受けたケリ・キックで雁夜は炎の中に蹴り込まれた! アツイ!

 謎の影は反動でギルガメッシュと時臣の居る上層階へと飛び上がった!

 

 

「ほほう、見事なカラテだ」

 

 

 この傲岸不遜な王にしては実際珍しいことに、感嘆の色すら瞳に浮かべている。

 謎のアンブッシュ者の正体を、英雄王のサーヴァント観察力はすでに看破しているのか!

 

 

「だ……誰だーッ!?」

 

 

 炎に焼かれた外皮を切り離して再生させつつ、謎のアンブッシュ者を誰何する雁夜!

 謎の影はジゴクの焔めいた眼光で雁夜を威圧的に見下ろしつつ、頭を下げてオジギ。

 

 

「ドーモ、はじめまして。メイガススレイヤーです」

 

 

 ニンジャのアイサツ!

 メイガススレイヤーのエントリーだ!

 

 

「ド……ドーモ、間桐雁夜です」

 

 

 アイサツを受けたならばアイサツを返さねばならない!

 これは古事記にも記された神話的裏付けもあるイクサのレイギサホー!

 間桐雁夜に憑依したニンジャソウルがもたらすニンジャ本能が、メイガススレイヤーと名乗ったニンジャのアイサツに応じさせたのだ!

 

 

「我が名はギルガメッシュ。我が名乗りを受ける栄誉を許すぞ」

 

 

 何故かギルガメッシュもアイサツ。

 神話的レイギサホーが古代シュメール文明の時代にも既に存在していたのは、賢明なるニンジャ研究者諸兄ならば周知の事実であろう。

 世界最古の英雄王がそれに通じていないわけなどない。

 無論、彼はニンジャではない為に自分から名乗りをあげることはないが、サンシタではないニンジャからの名乗りを受ければそれに答礼する程度の寛容さは、この暴君にもあった。

 

 時臣はダメージで朦朧としている為にか、三人のアイサツに応じる余裕すらないようだ。彼からのアイサツはなかった。

 

 

「メイガススレイヤー……? 一体、あんたは」

 

「イヤーッ!」

 

 

 間桐雁夜の疑問の問い掛けを無視してスリケン投擲! 実際情け容赦が微塵もない!

 雁夜の眉間、心臓、股間にスリケンが突き刺さる!

 カブーム!

 

 

「グワーッ!」

 

 

 炸裂スリケンが爆発!

 焼き千切れた体が飛び散り四散! ムゴイ!

 だがしかし、今の間桐雁夜は蟲の群体めいた肉体で活動するニンジャ。体を削られる程度のダメージでは致命傷に実際程遠い!

 この打たれ強さは間桐臓硯に酷似している!

 

 見覚えのある再生プロセスをジゴクめいた眼光で見つめ、メイガススレイヤーが威圧的アトモスフィアに満ちた言葉を発した。

 

 

「やはり間桐とやらの残党魔術師ニンジャか」

 

 

 その言葉に戸惑う雁夜。

 魔術というのは軽々しく外に広めたりするような類のものではなく、間桐家伝の魔術について外部の人間がその内容を知っていることなど実際ありえない。

 遠坂や言峰といった、このフユキをホームグラウンドとして裏の世界に関わっている者たちであっても詳しくは知らないはずだ。

 だというのに、このニンジャは何を以て雁夜が間桐の魔術師であると断じたのか?

 

 

「……? なぜ間桐の魔術師だと思うんだ、メイガススレイヤー=サン」

 

「僕が殺した魔術師だ。そしてお前も殺す」

 

「なん……だと!?」

 

 

 目を剥く雁夜。

 今このニンジャは何と言った。

 

 何百時間も砂漠を歩き続けた遭難者めいてひりつく舌を動かし、問い掛ける雁夜。

 

 

「……メイガススレイヤー=サン。いったいあんたは、誰を殺したんだ……?

 間桐臓硯か? 間桐鶴夜か? それとも……」

 

「老人めいた蟲の群体。そして、その分身体を心臓に潜ませた娘だ」

 

 

 断定的口調での肯定を受け、雁夜の視界がぐにゃりと歪む。

 違法薬物のオーバードーズめいた吐き気。ニューロン内にコダマ・ボイスめいて響くニンジャの言葉。

 怒りで視界が狭まり、目の前のニンジャ以外が追い出されてゆく。

 

 

「お前が────お前が、お前が桜ちゃんを!」

 

 

 怒りのシャウト!

 もはや今の雁夜には、上の階で楽しげな表情で見物を決め込んでいる英雄王も、転がり呻いている時臣も見えていない!

 

 

「魔術師みな殺すべし……慈悲はない」

 

 

 雁夜の狂気めいた殺意を正面から受け止め、ジゴクめいた眼光で見返すメイガススレイヤー!

 刺し貫くほどの物理的威圧感を篭めたアトモスフィアが激突し合う!

 

 

「ほう? 何やら因縁持ちか」

 

 

 上層階から腕組みして二人のニンジャを見下ろす英雄王。

 鎖付き巨大ヤリを床に突き立てて杖めいてよりかかり、もはや完全に観戦客めいたアトモスフィアを醸し出している。

 椅子があれば腰掛けていたかもしれず、よく冷えたエールジョッキがあれば手にとっていたかもしれぬ。実際のん気な。

 とはいえ、これは英雄王の慢心を示す事例であるとは、必ずしも言えない。

 

 こういった決闘めいた戦いに横槍を入れるのは実際奥ゆかしくないとされる。どちらに肩入れする理由もないのならば、尚更だ。

 仮に今、横合いから第三ニンジャがアンブッシュしたとしてもギルガメッシュは責めはしないが、自分からアンブッシュすることはない。

 日本におけるワビ・サビに近いレイギサホーめいた、ギルガメッシュの古代シュメール式配慮であった。

 

 時臣はまだ治療中だ。瀕死の体で悪戦苦闘しているが、英雄王は背後に一瞥すらくれない。実際無慈悲な。

 

 そんな階上の二人など、もはや目にも入らぬ様子で吠える間桐雁夜!

 

 

「殺してやる、殺してやるぞメイガススレイヤー!

 インガオホーだ! 桜ちゃんの仇だ!」

 

「殺すのは僕で、死ぬのはオヌシだ。魔術師殺すべし」

 

 

 溢れる殺意を言葉に乗せて吠える間桐雁夜に、ツンドラめいて冷たい語調で返すメイガススレイヤー。

 

 

「イヤーッ!」

 

 

 雁夜の右腕を構成するミミズめいた蟲が寄り集まり、その形状を武器めいて変化させかける!

 しかし!

 

 

「イヤーッ!」

 

 

 メイガススレイヤーの手から放たれた炸裂スリケンが、目にも留まらぬイナヅマめいた速度で連続飛来!

 未だ変化途中の右腕に次々と命中!

 カブーム!

 

 

「グワーッ!」

 

 

 雁夜の腕が吹き飛んだ! 腕を構成する蟲は変化を中断させられ、クズ肉と化して飛び散る!

 メイガススレイヤーは情け容赦なく決断的速度で接近!

 苦し紛れに雁夜は左腕で反撃を敢行! 前腕部にカマキリ状ブレードを生成しようと試みる!

 

 

「イヤーッ!」

 

「グワーッ!」

 

 

 メイガススレイヤーのカラテチョップが変化途中の腕を切断! ちぎれ飛び宙を舞う腕へとノールック炸裂スリケン投擲で追撃!

 カブーム! 腕を構成していた蟲は全死滅!

 雁夜は後退して逃れようとするも、メイガススレイヤーの接近速度は彼のバック走より遥かにハヤイ! ハヤイすぎる!

 

 

「イヤーッ!」

 

「グワーッ!」

 

 

 メイガススレイヤーのヤリめいたサイドキックが蟲で構成された雁夜の体に喰い込む!

 雁夜はノックバックを利用して後退……できない!

 なんたることか! 体に喰い込ませたつま先を支点に、メイガススレイヤーは二段蹴り!

 

 

「イヤーッ!」

 

「グワーッ!」

 

 

 ブッダミット! 雁夜の首が吹き飛んだ! 恐るべきカラテの冴え!

 だがしかし、間桐臓硯がそうであったように今の雁夜にとって頭部破壊は致命傷には成り得ない!

 首なしニンジャの体を内側から突き破り、クワガタめいたブレードが顔を覗かせる! だがしかし!

 

 

「イヤーッ!」

 

「グワーッ!」

 

 

 ナムサン! 展開されかけた瞬間にメイガススレイヤーの体が二倍速めいたスピードへと瞬時加速!

 クワガタブレードをカラテチョップで粉砕! タツジン!

 いかに自己再生能力と急所が存在しない群体ニンジャのタフさで粘れても、反撃に移れないのでは無意味! 実際これはジリー・プアー!

 

 欠損部位を生やしつつワーム・ムーブメントで転がり逃れようとする雁夜! しかし一回転も出来ぬうちに地面へと腕を縫い付けるスリケンで強引に制止!

 メイガススレイヤーのインタラプト!

 

 

「イヤーッ!」

 

「グワーッ!」

 

 

 メイガススレイヤーの猛牛めいた破壊的ストンピングが炸裂!

 雁夜の腰骨が粉砕!

 ダメージに苦しみつつも間桐雁夜はさらに再生と離脱を試みる!

 その為に選んだ手段は、地面を這うように広がる蜘蛛糸めいた粘着ストリングス! これは高圧をかけて放出される、空気に触れることで糸状に固定化される体液だ!

 完全に展開され、一度捕らわれてしまえばニンジャ筋力でも脱出は困難!

 相手の動きを止めて、その隙に回復しようという戦術は間違っていない。しかし!

 

 

「イヤーッ!」

 

「グワーッ!」

 

 

 ALAS! 粘着ストリングス発射の瞬間に発射管をことごとくスリケンが撃ち抜き阻止! どんなジツも発動できなければ実際無意味!

 メイガススレイヤーの猛牛めいた破壊的ストンピングが続けて炸裂!

 雁夜の左胸が粉砕!

 物理的ダメージだけではなかなか殺しきれぬゴムチューブめいた柔軟性を有する蟲も、ニンジャ脚力でのストンピングには耐え切れない! 千切れ潰れて大量死!

 

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

 

 カラテチョップで腕が飛ぶ! カラテキックで足が飛ぶ! ほつれ砕けた蟲の死骸が乱れ飛ぶ!

 壊滅的威力のカラテを受け流すために蟲を犠牲にせざるを得ず、しかしその結果蟲が減少しまともに動けなくなる悪循環!

 

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

 

 ワキザシダガーのイアイ・スラッシュで生えたばかりの首が飛ぶ! ニードルクナイが股間を貫く!

 それでも何とか離れようとする雁夜をフックつきロープで拘束して引き寄せチョップ突き! 鋼鉄すら砕く指先が雁夜の喉を突き破る!

 何たるソリティアめいた惨状か! 実際一方的すぎる! ダイヤグラムをつけるならば9-1か!

 メイガススレイヤーはひたすら距離を詰め、雁夜が周囲へと広げようとする蟲を全て出掛かりで殲滅し、同時に雁夜本体への攻撃を加え続けている!

 このままジリー・プアーが続けば血中カラテが完全に枯渇して蟲への変化を保てなくなり、ついには完全に死亡しネギトロになるのは必至!

 

 反撃や脱出を試みては阻止され、ロングコートニンジャのカラテで滅多打ちにされている群体ニンジャ。

 強力なユニーク・ジツも、発揮するだけの暇が無ければ実際無意味なのだ。

 

 

「もはや勝負は決したか。カラテの差がありすぎたようだな」

 

 

 と感想を漏らしつつ、白けた表情で大ヤリから伸びる鎖を手持ち無沙汰めいていじる英雄王。

 古人曰くノーカラテ・ノーニンジャ。

 ニンジャのイクサにおいて最重要となるのは、カラテ。今も昔もニンジャのイクサはカラテを極めた奴が上に行く。

 ドヒョウ前に犬死にのコトワザそのままに、カラテ不足のニンジャがイクサに勝てる道理もなし。

 ギルガメッシュのサーヴァント眼力から見て、もはや完全に群体ニンジャは詰んでいた。

 

 そんな古代ローマカラテの殺人修練場たるコロッセウムめいた有様のバトルフィールドから、一番離れたところで自己治癒を地道に続ける時臣。

 失血と痛みで朦朧としつつも、集中力をかき集めて魔術を行使している。

 と、その彼の近くに転がっていた、英雄王の巨大ヤリの一撃で砕かれた雁夜の足の一部が、もぞりと動いた。

 

 

 

 


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