東方仮装戦場 〜Phantom of Battle Field〜   作:徒然ノ厭離

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#2 新参者と古参兵

わたしは、やっぱりイケナイ子だ。

 

おねえさまの言いつけをまたやぶってしまった。

 

でも、しかたのなかったことだ。

彼らを先にコロさなければ、きっとわたしが死んでいた。

 

たおれたムクロたちからは、鮮血がしたたっている。みずたまりは、どんどん大きくなっていく。

 

わたしの両手には、まだケムリが上がる機関銃。

からだじゅうに、アイツラの血がついている。

 

...しにぞこなった1人が、わたしに助けを求めてきた。

カワいたハッポウオンが、あたりに響いた。

 

 

_______わたしはそんな中で、1人。せせら笑っている。

 

せせら笑って、おねえさまを待っている。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの...すみません!」

 

「...?」

 

 

俺はこの殺伐としたゲームに、こんなに似つかわしくない可愛い女の子を見たのは初めてだ。しかもなんだ、俺は今、口元にバンダナ巻いて、若干血のついたジャケットを着ている。つまるところ、見た目が完全に人を殺して歩いてそうな感じの装備をしている。そんな怖そうなおっちゃんに話しかけてくるなんて、度胸のある娘だ。

実際殺しちゃってるけど。

 

 

「...どうかしたのかい?」

 

 

なるべーく、丁寧に返してあげる。女の子と話すのも久し振りな感じがする。

なんか武器を出したまま話すのも失礼な気がして、ショットガンはインベントリにしまった。

 

 

「実は、姉と一緒にこのゲームを初めてみたんですけど...最初に何をすれば良いかわからなくて...」

 

「ふーん。...あれ、でも君は今1人だよね?お姉さんは?」

 

「あ、います!...貴方の見た目が怖い、って言って向こうに隠れちゃいまして。」

 

「...そう......」

 

 

まあ、それが普通の反応だ。その子は正しい、その子は正しいんだけど、なんか、悲しいなぁ......

 

 

「んー、わかった。俺が教えてやろう。もう武器は買ったのかい?」

 

「武器屋さんがわからなくて...」

 

「そう。ま、この街入り組んでるからね。取り敢えず、お姉さん連れて来なよ。一緒に教えてあげるから。」

 

「わかりました!」

 

 

走って呼びに行った。なかなか可愛らしい少女だ。...でも、なんかどっかでみたことあるんだよな...あの金髪......

 

 

「お待たせしました!」

 

「ど、どうも...よろしくお願いします。」

 

「うん、よろしくね。

さて、じゃあ取り敢えず武器を買いに行こうか。ついてきて。」

 

 

俺が知っている限り、一番安くて安心できる店を紹介しに行く。ここからは少し歩くが、かまわないだろう。妹さんメチャクチャ元気そうだし。お姉さんの方はまだこちらにビビってるみたいだけど...まあ、気にしない。

 

 

「ところで、君達の名前は?」

 

「あ、私が秋穣子です!こっちが秋静葉って言います!」

 

「し、静葉です...」

 

「どうも。俺は『ブレインウォッシュ』。長いからブレインって呼んでくれて良いよ。」

 

 

お姉さんは秋静葉、妹さんは秋穣子。静かな方がお姉さんで、元気なのが妹さんね。把握。

 

 

「しかし...よくこんなゲーム始める気になったね。結構殺伐としてるゲームなのに...」

 

「知り合いがみんなやってて...暇だったし、面白そうだったからやってみたんですよ。2人してやってみたかったゲームですし。」

 

「へぇ...まあ結構有名なゲームだからねぇ。あ、何か使ってみたい武器とかあるの?」

 

「私はマシンガンとかですかね!バーって撃ってみたいです!」

 

「わ、私は別に...使ってみたい武器はないです...」

 

「へぇ。あ、そうだ。2人共始めたばっかでお金あんまり持ってないだろうし、俺が装備代を払ってあげるよ。」

 

「え、そんな...」

 

「悪いですよ!」

 

「いーのいーの。どうせお金あんまり使わないし、どんどん溜まる一方だから。2人分の装備くらい、パパッと買えちゃうよ。」

 

 

なんて話してるうちに、既に店の目の前に着いていた。

『商人さんの店』だ。非正規の店だが、正規の店よりもあらゆるものが安いので、よく利用させてもらっている。俺が使っている装備の殆どは、ここで買ったものだ。

 

商人さんは別のお客さん2人と何やら話し込んでいる。まあ、終わる前に2人には武器を選んでもらおう。

 

 

「じゃあ2人共、好きな武器選んできて良いよ。」

 

「で、でも...奢ってもらうのは...」

 

「いいっていいって。あ、じゃあさ、少しの間でいいから、俺と一緒に行動してよ。俺もチーム組んでみたかったし、色々教えてあげれるでしょ?」

 

「...うーん、でも...」

 

「いいじゃん、戦闘手伝ってもらえれば俺も楽だし。悪くないと思うよ?」

 

「...わかりました。じゃあ、そうしましょう。お姉ちゃんもいいよね?」

 

「うん...ありがとうございます。」

 

「ありがとうございます!」

 

「うん。さ、早く選んでおいで。」

 

 

やっと選んでいってくれた。足りなかったら、まあ俺の使ってない装備を売れば足りるだろうし、多分大丈夫だろ。

 

さて、商人さんの話し合いは終わったようだし、俺は弾を買ってこよう。

 

 

「商人さん、弾くれ。12ゲージ48発。」

 

「毎度アリ!」

 

「それと、あの2人に合いそうな防弾チョッキと中型リュックも2つずつ。」

 

「ハーイ!」

 

 

序盤であった方が楽な装備だ。防弾チョッキもリュックも、最後まで使える。金もまだまだ余裕がある。セカンダリも買ってあげられるくらいにはあるな。買ってあげよう。

 

 

「ブレインさん!私、これがいいです!」

 

「わ、私はこれで...安いし...」

 

 

穣子はサブマシンガンのUZI。信頼性が高く、かなり流通している銃だ。静葉はMac11。見た目の割に以外と弾数のあるサブマシンガンだ。

 

 

「はいよ。商人さん、この2つとあと...ベレッタ92Fも2つ頼んでいいかな?弾はそれぞれ3マガジンで。」

 

「ありがとございマス!随分とお買い上げなさりますケド、お金は大丈夫デスカ?」

 

「ああ。こう見えて結構持ってるんだ。一括で払うぜ。」

 

「毎度アリ!」

 

 

初期装備として配布されるジャケットとカーゴパンツ。この2つは、意外と手に入りにくい物資だ。たかが服と侮ってはいけない。マガジンが入るポケットは各所にあるし、ジャケットも軽くて暖かい。ついでに、一番最初のログインの時に、配布されるジャケットを好きな色に決めることができる。

俺は黒。穣子ちゃんと静葉ちゃんは、真っ赤な紅葉色だ。紅蓮っていうのかな。

 

 

「わー、なんか戦う人っぽくなったね!」

 

「...うん!」

 

 

お、だんだん静葉ちゃんが元気になってきたかな?結構結構。おじさんはやましい意味なんて決してない程度に少女の笑顔が好きだ。

 

 

「さ、いよいよ魔境に入っていくけど...銃の撃ち方はわかるかい?」

 

「はい!」

 

「はい...」

 

「よし、じゃあ俺の車で戦地に向かおう。...最初だし、AIサーバーでいいよね。」

 

 

AIサーバーは、敵が全員AIが操作するCOMとなる。プレイヤーが操作しているキャラクターからは、一切ダメージを受けない。

初心者や久しぶりにやる人がブランクを取り戻す時によく使われるサーバーだ。勿論、倒した敵の装備は回収できる。

 

 

「行こう。すぐそこに俺の車があるから。」

 

 

ボロッボロになった車。かなり前に鹵獲したバンをずっと使っている。愛着が湧いたため、新しい車を買う気もない。

あちこちに弾痕があり、傷と汚れが目立つ。一見ただのボロ車だが...実はある秘密がある。だが、秘密は簡単に喋ってしまっては面白くない。2人には暫く内緒だ。

 

 

「ボロい車で悪いが...結構近いところだから、我慢してくれ。」

 

「はい!」

 

 

本当に近い...五分程度だ。すぐに着く。それまで、楽しいお話を3人でしていようじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意外と彼女たちの素性というか、情報を聞き出せた。

2人とも、豊穣祭によくお呼ばれする、秋の神様だったらしい。道理でどこかで見たと思った。先ほどまでの無礼を詫びたが、畏まらなくてもいい、と言われたので先程までのような口調で話すことにする。

先程の店にいた、河城にとりとも知り合いだったらしく、仲良く3人で話していた。その瞬間は見ていなかったが。

このゲームをやっている知り合いを他にも聞いてみたら、『ミラクルプレイヤー』早苗や『戦神』神奈子、『厄の雛人形』鍵山雛に『最速の情報屋』射命丸文...二つ名を所持する有名なプレイヤーの名がゴロゴロ出てきた。怖い。

 

俺の素性も結構喋った。まあ、俺の本名はどうでもいいとして、得意な武器やゲームをやり始めた期間、実績。このゲームの醍醐味なんかも話したかな。

 

 

「さぁて、着いたよ。ここからはいつ死んでもおかしくないから、気を引き締めるように。」

 

「...!」

 

 

そう言うと、彼女達は顔を引き締めた。緊張の表情。そう言う顔は個人的に好きだ。生に必死な感じがして。

結構な場数を踏んできたが、戦闘前には俺も緊張する。相手がCOMだからといって舐めてはいけない。稀に『500メートル先からアイアンサイトでヘッドショットする』『1対5の圧倒的不利な状況で圧勝する』などの鉱石を持った、バケモノじみたCOMがいる。

流石の俺も、そんなのとかち合うなんてしたくない。

 

 

「いいかい?移動の時は常に身を屈める。いつ狙撃手が狙ってきたり、奇襲を受けるかわからないからね。」

 

「はい。」

 

 

そっと身を屈め、壁伝いに歩く。まだ敵は視認できない。ショットガンを握る手に、自然と力が入る。緊張していた。

 

 

「よし、あのビルに入ろう。周りに気をつけて着いてきてね。」

 

 

屈みながら早く移動するのは、意外と疲れる。ビルに着く頃には、息は切れている。

20階建てのビルだ。こういうところには武器が湧いていることが多い。

 

まずはビルの中に敵がいるかどうかを確認しなければならないが...

 

 

「ちょっと待って。」

 

 

チラッと、中を覗き見る。

 

...ああ、いる。3人。ビルの警備をしているようだ。

3人とも隙が大きい...というか、背中をこちらに向けている。暗殺は簡単だろう。だが、ここは2人のために試練を与えなければならない。

 

 

「よし、穣子、静葉。あの3人が見えるか?」

 

「はい。」

 

「...見えます。」

 

「その銃で、あの3人を撃ってみて。」

 

「わかりました!」

 

 

そっと、バレないように2人は3人が見える位置に移動する。

2人の初キルだ。しかと見届けないと。

 

穣子はサブマシンガンをおもむろに構え、左にいたCOMの背中をフルオート(全自動)で撃ち抜いた。蜂の巣になって、彼は倒れる。

かなりの無駄弾を消費したらしい。穣子はトリガーハッピー(乱射魔)なのかな、もうマガジンに弾はないようだ。しかし、静葉が冷静に残りの2人のうち、1人を2、3発で仕留める。頭に2発、胴に1発。見事な狙撃だ。

 

そこで、最後の1人は机の陰に隠れた。さて、ここからが見ものである。

 

『2人がどうやってヤツを殺すのか』。初めてまだ一時間も経っていないだろう2人が、どうやって彼を殺すのか。興味深い。

 

 

「っ、よし、お姉ちゃん!」

 

「わかったわ!」

 

 

む、静葉が穣子に何も言われずに動き始めた。穣子は机に向かって斉射。COMは動けないが...一体どうするのだろうか。静葉は障害物を上手く使って回り込んでいく。

 

...ああ、成る程。

 

 

「食らえ!」

 

 

パパパ!パパン!

 

 

『穣子が机から出さないようにして、横から静葉が挟撃』か。COMも予想できていなかったようで、すぐに地に伏せた。死亡確認。

 

初心者にしてはなかなか賢明な作戦、そして何も言わなくても伝わる、『姉妹ならではのコンビネーション』。なんて理想的な関係だろうか。

 

...将来有望だろう。下手をすれば、ベテランプレイヤーも狩れるぞ...

 

 

「すごいな2人とも!よく倒せたな!」

 

「えへへ〜...」

 

「あ、ありがとうございます...」

 

「いや、本当にすごいコンビネーションだ。俺だったら一瞬でやられちゃうね。」

 

 

お世辞ではない。思ったことを口に出した。それだけだ。

そして、今の戦闘で2人の適正武器がわかった。今言っておこう。どうせ後になると忘れてしまう。

 

 

「それで、2人にあっている銃だけど...穣子はマシンガン、静葉はハンドガンが合うと思うよ。」

 

「...え?」

 

「穣子は弾をばら撒きが上手だが、少し命中精度が悪い。多くの弾をばら撒ける武器があっていると思う。

静葉は見事な命中精度だよ。片手武器の狙い撃ちが得意のようだね。さっき渡したセカンダリのベレッタを使ってごらん。Mac11よりも取り回ししやすいから、きっとすごく使いやすいとおもう。」

 

 

さらっと死んだヤツらの装備を確認しながら、2人にアドバイスを送った。静葉はアドバイス通りにMac11をしまい、ベレッタを引き抜いた。安全装置を外す。

 

ちょうど死んだ1人がばら撒きやすい武器を持っていた。AK−47だ。反動がでかいが、腰撃ちがしやすいアサルトライフル。これを穣子に持たせよう。

 

 

「穣子はこれを使ってごらん。多分、肌に合うとおもうよ。」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「さ、この階を調べたら、次の階に行こう。何かお宝が眠っているかもしれないよー?」

 

 

取り繕った意気揚々。実際はショットガンを握る手の汗がハンパない。

___今までずっとこのゲームをやって来たが、2人の少女に醍醐味を教えながら、殺されないように守るっていうのは初めての経験だ。集団で戦闘をしたことはあったが、戦闘慣れしているベテランプレイヤーと組んだのだ。訓練中の新兵と組んだことはない。

 

...2人の少女を守らなければならないという責任感に、恐ろしさを感じている。このゲーム関係で恐ろしさを覚えたのは、ずっと前の大会くらいだ。

 

 

「あ、ブレインさん!向こうに意味深な箱がありますよ!」

 

「え?」

 

 

おっと、ボーッとしていた。穣子が何かを発見したらしい。意味深な箱...武器箱か何かなのか?

 

...なんで部屋の真ん中にポツンと箱だけが置いてある?しかも、窓も無ければ他に家具もない...別の部屋は机やら椅子やら沢山あるのに...

 

 

「早速開けに行きましょうよ!」

 

「...!待て!穣子!それは...それは多分罠だ!」

 

「え!」

 

「穣子!」

 

 

時、既に遅し。ブービートラップだ。

 

 

 

ジリリリリリリリリリリリリ!!!!

 

 

 

「クッ、ソ!」

 

 

箱の中身は警報装置。ビル全体に響き渡るような、ものすごくでかい音だ。

すぐさま穣子を箱から離し、ショットガンで警報装置を破壊する。

 

 

「す、すみません!」

 

「...いいんだ.....即死系のトラップじゃなくてよかった。穣子にもしものことがあったら、注意が行き届かなかった俺のせいだ。」

 

「あ、あの...ど、どうなるんですか...?この、警報音は...」

 

 

 

階段の方だ。少なくとも20人以上の足音が聞こえて来た。

恐らく、もっといるだろう。このゲームの嫌になるところでもある。COMの頭が良すぎるのだ。人間並みの戦略を持っている。そこらのゲームのようにパターン化された動きなどない。

 

...命を刈り取る者のように無慈悲で残酷で狡猾なヤツらだ。

 

 

 

「...武器を構えろ。...ヤツらが来るぞ。大量の......『死神ども』が......!」


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