レジアス曰く、儂の部下が最強過ぎて困るんだが   作:ころに

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<魔法少女をやる時はね……誰にも邪魔されず、自由でなんというか救われてなきゃあダメなの……。
<多くても2人で、静かで、豊かで……。


Part.03:高町なのはは平和に魔法少女をしたい

【00.世界は今日もまたゆるりと回るんです?】

 

 さて。今日も物語の開始地点となるのは相も変わらず平和なミッドチルダ。

 天気の移り変わりによる雨の跡も何のその。

 今日も人々は逞しく新しい1日を謳歌していました。

 そんな清々しい空気に満ちた空の下にある集団がいました。

 全身黒タイツの集団が密集隊形を組んでいました。

 とても規則正しく並んでいました。

 全身を包む黒タイツには一縷のたるみすらありません。

 表面の光沢が眩い太陽の光を反射して僅かに輝きました。パッと見、悪夢ですね。

 道を行くご老人が天からの迎えが来たのかと空に向かって拝み始めるレベルです。

 

「……」

「嗚呼!待って!無言で手を振り上げないで!?」

 

 そんな変態集団の前には我らが主人公が居ました。

 今日も首の後ろで黒髪を纏めるヒマワリの髪留めがキラリと光ります。

 相変わらずそれくらいしか特徴がありませんでした。

 

「で、何?これからは真面目に生きるっていうから釈放された筈だよね、君達?」

「凄いジト目で見られている……イイ……」

「……」

「嗚呼!待って!無言で両手に覇気を溜めないで!?」

 

 はあ、と小柄な少女が珍しく疲れたように溜息を吐きます。

 何時も親代わりの某中将に溜息を吐かせまくっている少女が溜息を吐いたのです。

 ここに某中将<全身黒タイツの構図が成り立ちました。全身黒タイツも侮れませんね。

 

「もっかい聞くよ?いきなり私を呼び止めた上、路上に猥褻物を陳列しているのは何故かな?」

「我々卑猥物扱い!?」

「あなた達は大切なものを傷つけました」

「え?我々まだ何もしてないんですが……?」

「私が見る世界の景観をです」

「カリオストロ!?」

 

 マイガッ!と頭を抱えて叫ぶ全身黒タイツを小柄な少女は無視しました。

 

「で、そろそろラーメン食べに行っていい?」

「ま、待って!待ってください!この前はすいませんでした!」

 

 歩き出そうとした少女の目の前に数十人の全身黒タイツが集団スライディング土下座をかまします。

 そして中央の全身黒タイツが顔を上げ、少女へとこう叫びました。

 

「我々も反省したのです!その成果を見て頂きたいと、今日はこうして参上した次第なのです!」

「……反省?」

「ええ!見ていて下さい!我々に足りないもの、それを補った完璧なるスクウンジャーを!」

「足りないものって何?羞恥心?」

 

 全身黒タイツは少女の辛辣な言葉を華麗にスルーしました。

 そして両手を上げて、全身黒タイツ達は高らかに声を上げます。

 

「ビルドアップ!!!」

『ビルドアップ!!!』

 

 先頭の全身黒タイツの号令に続いて、全全身黒タイツが咆哮しました。

 彼らが思い思いに取るのはボディビルめいたポージングの数々でした。

 次の瞬間、変化は起きました。

 なんという事でしょうか。全身黒タイツ達の全身の筋肉が異常な盛り上がりを見せ始めました。

 そのまま彼らの筋肉は己の存在を主張し、遂には全身黒タイツを引き千切りその姿を外界へと表します。

 半身黒タイツの誕生でした。

 残っている布が顔と下半身という徹底ぶりです。実際キモいです。

 

「どうですか!この溢れ出る筋肉的正義感!?これならパワフルな正義執行間違いなしですよ!?」

「あ。うん」

 

 少女は頷きました。

 

「一身上の都合により処刑します」

「逮捕ですらなくなった!?」

 

 ギャーと筋肉半身黒タイツ軍団がミッドチルダの清らかな空に舞いました。

 心温まる冒涜的な光景ですね。

 惨劇を直視した人のSAN値が一撃でマイナス超過しそうなくらい心が温まる光景です。

 そして、その後に残るのは高々と積み上げられた筋肉まみれの真に汗臭い山でした。

 

「……」

 

 流石にこの山には小柄な少女も登りたくなかったのか、いかんともし難い顔をして目を逸らしました。

 

「今日も、平和なのかなぁ……」

「にゃぁ……」

 

 ゲロ以下の匂いがプンプンするぜぇ、と彼女の足元で猫も鳴きました。

 そんなこんなな騒ぎがあるものの、今日もミッドチルダはそれなりに平和なのでした。

 

 

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※注意:ここから先はPart.02のexにて発生したタイムスリップ後のお話となります。

    誠に遺憾ながら世界のアイドルレジアス中将の出番は皆無の為、ご注意ください。

 

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【01.魔法の呪文はリリカルマジカル唱える必要もねぇんです?】

 

 平凡な小学3年生である高町なのははある日、怪我をした可愛らしい小動物を道端でゲットしました。

 その後、小動物から何やらテレパシーめいたレスキュー要請を受けた彼女はその持前の優しさから

 小動物が心配になり、こっそり夜外出したら化物に襲われました。不憫ですね。

 

「我、使命を受けし者なり……契約のもと、その力を解き放て……」

 

 ですがその程度でめげていては物語の主人公は張れません。

 彼女は小動物ことユーノを助けると彼から謎の赤玉を貰い受け、言葉を紡ぎ始めました。

 ユーノの声に続いて彼女は己の相棒となる杖を起動させる為の呪文を復唱します。

 

「風は空に、星は天に、そして不屈の魂はこの胸に」

 

 その間も化物である黒い毛玉さんは律儀にも、オォ……とかなのはの放つ光を眺めて待機しています。

 知性の知の字も見えない姿でありながら、中々の紳士っぷりです。

 きっと彼はヒーローの変身はしっかりと最後まで見守り、番組終盤で爆殺されるタイプなのでしょう。

 実際フラグがビンビンと目の前で立ちつつあります。不憫ですね。

 

「この手に魔法を!」

 

 なのはを中心として立ち上がる桃色の光の柱がその伸びる勢いを増していきます。

 そしてそれが極限に達した時、なのはとユーノは叫びました。

 

「レイジングハート!セーットア―――」

「イヤーッ!!!」

「グワーッ!!!」

「ええ――――――――――――――ッ!!?」

 

 化物が小柄な黒髪の少女に足蹴にされて吹き飛びました。

 なのはの変身を待ち侘びていた化物。

 己の終焉は此処かとばかりに覚悟を決めていた化物。

 正義の魔法少女に打倒される事を望んだ化物。

 スローモーションの世界の中、なのはは吹き飛ぶ化物と目が合いました。

 

……毛玉さん!!?

……少女よ、強く優しく、そして気高く生きよ……!!!

 

 毛玉は音速を突破し、破壊と己の身を撒き散らしながら壁に激突しました。

 その勢いで彼はアワレ砕け散り、その身を宙に霧散させていきました。

 紳士的な化物の最期でした。実に不憫ですね。

 

「ふぅ」

「あ、えっと、ど、どうしよう?」

「えぇっと、僕も何がなんだか……」

 

 額に浮いた汗を拭う小柄な少女の背中を見ながらなのはとユーノは困惑します。

 というか驚きのあまり変身がキャンセルされてしまったようです。

 あらあら早速タイムパラドックスですね。

 

「大丈夫?君達?」

「アッハイ」

「だ、大丈夫ですけど……って、あ!それはジュエルシード!?」

 

 こちらへとてとてと歩いてくるなのはと同年代くらいに見える小柄な少女の手には青い宝石が在りました。

 それを見たユーノが目を見開きます。

 

「あ。これ?さっきの毛玉から引っこ抜いといたんだけど、高く売れるかな?」

 

 守銭奴根性丸出しですね、この少女。

 しかしそんなマネー思考な少女に対してユーノが慌てて叫びます。

 

「それは危険物なんです!ふ、封印するから今すぐ手放して下さい!」

「え?危険物?マジで?」

「そ、そうです!首傾げてないで早く離して―――ッ!?」

「えいっ」

「「えっ」」

 

 グシャッと音を立てて彼女は手の中の宝石を握り潰しました。

 瞬間、断末魔として放たれた青色の極光が世界を道連れに滅ぼさんとしますが一緒に握り潰されました。

 ジュエルシードが末席、シリアル21の地味な最期でした。不憫ですね。

 

「はい。これで処理完了で良いかな?」

「「えっ?」」

「良いね?」

「「アッハイ」」

 

 よし、ラーメン食べに行こうという少女の背中姿を見守る事しか彼女達には出来ませんでした。

 

 

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【02.わんわんおにレクイエムをなんです?】

 

「ギャオオオオオオオオオオオン!!!」

 

 神社の境内に悲鳴が響き渡りました。

 救いを求めるが如き叫びに駆け付けたなのはが見たのは蹴り飛ばされ、宙を舞うワンコでした。

 化物めいた姿をしていますが、それでも四足歩行のワンコでした。

 

「ダ、ダニィイイイイイイイイイイ!?」

「なのは落ち着いて!ダニーって何!?」

 

 シリアル16も勿論キッチリ小柄な少女に破壊されました。ユーノ涙目でした。

 

 

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【03.気になるあの子は金髪の死神なんです?】

 

 巨大な猫が居ました。

 とても巨大な猫でした。

 どれくらい巨大かというと小柄な少女がその腹に埋まってしまうぐらい巨大でした。

 

「にゃー」

「んー、もふもふ……」

「うわぁ―――!?出たぁあああああああああ!?」

「なのは、落ち着いて!多分きっと恐らく彼女は危険人物じゃないから!」

「アイエエエエ!アイエエエ!!!」

 

 なのはは元子猫の腹の上でごろ寝する少女の姿を見た瞬間、恐慌状態に陥りました。

 少女にあるまじき絶叫を上げるなのはの脳裏に今までの数々のトラウマが甦ります。

 初めての魔法で格好良く決めようとしたら夢と一緒にジュエルシードが砕かれました。

 今度こそと意気込んだら、ワンコが蹴りあげられる瞬間を目撃した上、ジュエルシードが砕かれました。

 プールに潜っていた少女と目が合ったと思ったら、ジュエルシードが砕かれました。

 学校に不法侵入していた少女を見つけたら、ジュエルシードが砕かれました。

 サッカーの応援をしていたらいきなり飛び込み参加して来たと思ったら、ゴールが爆砕された上、

 目の前でジュエルシードが砕かれました。

 

「もうやめて!私のジュエルシード所持数は0個なの!?」

「ジュエルシードの粉末ならいっぱいあるよ、なのは……」

「そんな死んだ魚みたいな目で言わないでユーノ君!?」

 

 思わず肩の上で呟いたユーノに突っ込みを入れてしまいます。

 

「でも……こ、これはチャンスなの」

「うん……だね……」

 

 そう彼女達にも遂に活躍する機会が巡ってきたのです。

 何故なら彼女はまだ今回はジュエルシードを破壊していないのです。

 これは大きい事です。何故なら今まで彼女を目にした時には既にジュエルシードは粉微塵。

 もしくはその寸前という場合が多かったのですから。

 なのはの杖を握る拳に自然と力が入り、目がギラつくのも仕方がない事でしょう。

 そしていざ猫ごと小柄な少女を吹き飛ばさんと杖を構えた瞬間でした。

 

「ニ゙ャ――――――――――――!!?」

 

 雷撃の直撃と共に猫が悲鳴を上げました。

 ちなみに直撃したのは小柄な少女も一緒でした。

 思わずなのはは「やったか!?」と歓喜の声を上げてしまいます。外道ですね。

 純粋無垢だった頃のなのはは既に過去の人となっていました。

 

「ね、猫ぉおおお!?何をするだァ――!!!許さん!!!」

 

 鬼神が起きてしまいました。言わずもがな無傷です。

 

「よし、明日から本気出すの」

「なのは!?え!?どこに向かうの!?猫は!?」

「命あっての物種っていう言葉が日本にはあるの、ユーノ君!!!」

 

 なのはは後ろ向きに走り出しました。

 お姉ちゃん、明日って明日さ。

 

「ジュエルシード、渡してもらうぎゅっ」

「フェ、フェイト!?この野郎何をひぎぃ」

「この――容赦せんッッッ!!!」

 

 背後から金髪の少女が助けを求める声が聞こえましたが、なのはは無視しました。

 ごめんねごめんね、と呟く表情はとても虚ろでした。不憫ですね。

 

 

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【04.決戦――黒髪のあの子なんです?】

 

 海鳴市にある喫茶翠屋の隅の席には現在、4人の少年少女+女性が居ました。

 

「ねぇ、フェイトちゃん……どうやったらあの子仕留められるかな……」

「そうだね、なのは……後ろからザックリとかどうかな……」

「なのは……」

「フェイト……」

 

 うふふ……と笑う少女2人の表情は陰鬱としたもので邪悪なオーラを放ちまくっていました。

 それを見たユーノと破廉恥な格好をした女性――アルフはあまりの少女達の変化に滂沱の涙を流しました。

 世界は何時だってこんな筈じゃなかった事ばかりだ、とどっかの執務官が空の向こうで親指を立てました。

 

「ジュエルシード、未だに1個も確保出来てないなんて……母さんに怒られるよぅ……」

「フェイトちゃん、泣いちゃ駄目なの……」

 

 えっぐえっぐと涙を流す金髪の少女――フェイトの背中をなのはは撫でます。

 ちなみにこの2人は、あの傍若無人で神出鬼没な少女をなんとかしようと同盟を組んだようです。

 敵は強大です。だから、それぞれ2人ずつで挑むよりも4人で一緒に行こう、との事でした。

 小さい子ながら、とても賢明な判断ですね。

 無駄な努力という言葉も世界にはあるのですが。

 

「あ。店員さん、このケーキくださーい」

「あ。はーい」

「……」

「……」

 

 なのはとフェイトの汚泥の如く濁った瞳がショーケースの方から聞こえた声に向けられました。

 そこには怨敵である小柄な少女の姿がありました。

 瞬間、ぱぁっと2人の少女の顔に花が咲いたような笑顔が浮かびました。

 いきなりの変化に彼女達の前に並んで座っていたユーノ達もビックリです。

 そして、次に瞬いた時には既に彼女達の姿が席から消えていました。

 

「「覚悟ォ――――――――――――――!!!」」

「ん?」

 

 それはレジを打っていた御神の剣士も驚愕する程の速度でした。

 魔法少女の衣装に身を包んだ2人のぎらついた目の少女達が小柄な少女の背後に現れ、武器を振り被りました。

 勿論返り討ちに遭いました。諸行無常ですね。

 

 

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【05.これにて一路大団円へなんです?】

 

「調理方法は実に簡単」

 

 白衣を着込んだ紫色の髪の男性が円柱型のカプセルの目の前で大仰に腕を広げました。

 

「わー、パチパチー」

 

 男性と同色のセミロングの髪を靡かせながらスーツ姿の女性が拍手します。棒読みですね。

 声の主達は小柄な少女のせいで過去に飛ばされた我らがドクターとウーノでした。

 最近はずっと一緒でしたが、今は少女と別行動中のようです。

 

「まずこのジュエルシードの粉末をカプセルに流し込む」

「サラサラーっとですね」

「そして混ぜる」

「適当な棒が無いのでプレシア様の杖を使わせていただきましょう」

 

 うむ、とドクターは頷きます。

 

「後は特殊な加工をしたジュエルシードの粉末が彼女の体に馴染むまでかき回すだけだね」

「本当に簡単ですね」

 

 カプセルの中で全裸の金髪少女がぐるぐると杖の動きに合わせて回転します。

 時折杖がぶつかって「痛い!」とか「やめて!」とか聞こえますがウーノは動きを止めませんでした。

 

「おやおや、ドクター。まだ起きない様です。お寝坊さんですね」

「いやぁ、お寝坊さんなら仕方ないね。もうちょっと掻き混ぜてみようか」

「はい。ドクター」

 

 彼らは満面の嗜虐的な色を含んだ笑みでカプセルの中に浮かんだ少女を見下ろします。

 少女がそんな2人を見て、悪魔だ……と呟いたその瞬間でした。

 

「おや、プレシア女史。起きたのかね。ははは、ちょっとお邪魔しているよ」

「どうも。お久しぶりです、プレシア様」

 

 黒髪の女性が部屋の入口に現れ、瞬間、硬直してしまいました。

 その女性に見た瞬間、金髪の少女はカプセルの内壁に張り付いて叫びます。

 

『お母さん、助けて!』

 

 壁に阻まれて声は聞こえませんでしたが、黒髪の女性は光の速さでドクターとウーノを

 天井まで殴り飛ばして愉快なオブジェにするとカプセルを片手で粉砕して少女を救出しました。

 死にかけの女性とは思えないパワフルな行動でした。愛は偉大ですね。

 

「お母さん!!!」

「ア、アリシア……嗚呼、アリシアぁ!!!」

 

 砕けたカプセルの中から飛び出た子を母が抱き留めます。

 お互いの目からは涙が流れ出していました。実に感動に胸が震え、心温まる光景ですね。

 天井にぶらさがる2つのオブジェが無ければもっと良いのですが。

 

 

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【06.これが本当の大団円なんです!】

 

 

 目の前の人は誰なんだろう、とフェイトは思いながら自分の母親を見ました。

 

「遅かったわね、フェイト……怪我はしてない?大丈夫?」

「え、あ、はい、だだだ、大丈夫です。ももも、問題ないです」

 

 気恥ずかしそうに笑う母親の姿はとても懐かしいながらも、不気味でもありました。

 久しぶりにフェイトが報告に帰ってきたら、この異常な変貌を遂げていたのです。

 鋭い刃の如きクール系母はどこに行ってしまったのだろうか、と彼女は困惑します。

 確かに昔のように笑って欲しいとフェイトは思っていましたが変化が唐突過ぎたようですね。

 なお、アルフは初めて見る母親の笑顔に本能が警告を上げたのか既に全速力で逃走済みです。

 

「えと、母さん……その子は……?」

「あぁ、この子?この子はね――」

 

 母親――プレシアはフェイトの疑問に己の背に隠れる金髪の少女を自分の前へと立たせました。

 髪も目も顔立ちもフェイトと瓜二つの女の子です。唯一違うのは背丈くらいでしょうか。

 その少女は先程救出されたばかりの少女こと、アリシアでした。

 

「この子はね……」

「大丈夫、お母さん。私、1人でも挨拶出来るよ」

 

 プレシアの言葉を遮って、アリシアは前に出ます。

 対して"お母さん"という言葉にフェイトは思わず首を傾げました。

 

「はじめまして、フェイト」

 

 されどアリシアはそんなフェイトの様子も気にせず、彼女の眼前に立ちました。

 そして、彼女ははにかんだ笑みをフェイトへと見せながら、

 

「私が、あなたのお姉ちゃんだよ」

 

 ずっと、ずっとカプセルの中で、伝えたかった事を言葉にしました。

 

「……は?」

 

 思わず停止するフェイト。

 ですがアリシアはそんな事などお構いなしに硬直する彼女へと抱きつきました。

 えへへと無邪気に擦り寄る姿を見ると姉と妹の立場は逆のように見えますね。

 

「え?」

 

 その様子を見て微笑むプレシアに楽しげに笑うアリシア、そして呆然とするフェイト。

 時の庭園の中央には、そんな3人のそれぞれの感情を籠めた声が響くのでした。

 まぁこの後、色々話して打ち解け、幸せに暮らしたそうですが、それはまた別の話ですね。

 

 

 

  ●

 

 

 

「あんたら誰さ……」

「フフフ、私はプレシア女史の友人の通りすがりのドクターさ……」

「その娘です」

「あっそ……あーあー、入り辛いなぁ、ウチのご主人様も幸せそうにしちゃってさー」

「いいじゃないかね。遠慮せずに行きたまえ。君も彼女の家族なのだろう?」

「そりゃそうだけどさ……」

「だったら遠慮は失礼というものだ。それに彼女も君抜きでは少々寂しいだろうさ」

「……解ったよ。行ってくるよ」

「嗚呼。彼女達によろしく言っておいてくれたまえ」

「あんた、見かけによらず良い奴だね……全裸の変質者だけど」

「はっはっは」

 

 プレシア怒りの雷撃によって服が消し飛んだドクターなのでした。

 あ。ちなみにちゃんと局部はウーノが守護しているので心配はご無用です。

 

 

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【ex.闇の書事件(未発生)終結なんです?】

 

 とある住居の一室でミニミニ狸めいた少女がうーんと唸っていました。

 目の前には鎖でぎっちり固められた本があります。

 

「あかん……やっぱり全く開く気がせえへん……」

 

 ミニミニ狸少女が鎖を引っ張りますが、ビクともしません。

 今日こそはと色々工具まで用意して試してみたのですが、焼いても斬っても傷1つ付きません。

 

「どないしよ……あー。中身が気になるわぁ……」

「うわ、なにこれ……凄い中身ゴッチャゴッチャになってるじゃん」

「ほんまか……うわ。言われたら余計に開けたくなるやんか、やめてぇなぁ……」

 

 中途半端に内容を言われると気になるのがミニミニ狸少女――はやての性分なのでした。

 故に彼女は興味の増大を助長した者に抗議の声を上げたのですが、

 

「って、え?」

 

 ふと気づきます。

 あれ?この家、今私しか居らんよなぁ、という事実に。

 

「あ。お邪魔してるよ」

 

 慌てて振り向くと、そこにははやてと同年代くらいの黒髪の小柄な女の子が居ました。

 彼女は片手を上げて挨拶するとはやての目の前に置いてある本に手を置きます。

 その上で、突然過ぎる彼女の登場に呆然とするはやてを余所に少女は息を吸うと、

 

「破ァ!!!」

 

 と万の怪奇現象を解決させてしまいそうな勢いで吼え、本の鎖を砕きました。

 ついでになんか本から得体の知れない黒い煙が出ました。

 

「よし、これでオッケー……じゃっ」

「あ。うん。お疲れ様です?」

 

 小柄な少女ははやてに背を向けてヒマワリの髪留めを左右に揺らしながら去って行きました。

 なんだったんや……と混乱の極みの中、はやては首を傾げます。

 その瞬間でした。

 

『夜天の書、正常動作を確認――封印を解除します』

「え゙っ」

 

 手に取った本が合成音声のような響きで言葉を紡ぎ、

 

「うおっまぶしっ」

 

 不健康そうな暗い闇色の光を放ち始めました。

 その勢いは油断すれば本を手放してしまいそうな程です。

 

「さ、さっきから一体、なんなんやぁ―――!!?」

 

 アッー!という叫びを最後に光ははやてを飲み込みました。

 

 

 

  ●

 

 

 

 その後、赤毛の少女、桃色の髪の女性、金髪の女性、青毛の狼、白い長髪の女性、

 はやてそっくりの少女となのはそっくりの少女とフェイトそっくりの少女と金髪の幼女を連れた

 子狸っぽい少女が度々翠屋まで"走って"訪れていたようですが、それもまた別のお話。

 梅雨が明け、暖かい初夏の日光が降り注ぐ海鳴市は、今日も平和な1日を迎えるのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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※注意:以降、スーパーレジアスタイム。

 

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【ex02.最強の帰還なんです?】

 

 地上本部の一室にて、優雅に紅茶を嗜む髭ダルマのおっさんの姿がありました。

 我等のアイドルである彼の名前はレジアス・ゲイズ。

 魔力はないものの指揮関連等においては凄腕の管理局員であり、例の最強の父親代わりでもあります。

 そんな彼は数日前に行方不明となった娘の事を心配しつつも、紅茶の香りを大いに楽しんでいました。

 本日のセレクトはとっておきのアールグレイです。

 白いティーカップの横に置かれたチョコレートケーキも合わさり食欲がそそられる構成となっていました。

 そして彼は静かな、己以外に立ち入る者の居ない世界で幸せの吐息を漏らします。

 

「片時の平和……なんと甘美な事か……」

 

 瞬間、地上本部が揺れました。

 レジアスは振動が治まると同時に緩慢な動きで頭を抱えました。

 もうなんとなく解ったようですね。

 その予感を確定させるように扉が開き、凛々しい女性が入室して来ました。

 

「レジアス中将、妹が帰ってきました」

「不肖、私!帰って来ました!」

 

 ビシッと女性に続いて入室し、挙手の敬礼をしてみせるのは小柄な少女でした。

 そう。レジアスにとっては見慣れた彼の娘の姿がそこには在りました。

 

「はぁ……」

「レジアス中将!お久しぶりです!お元気でしたか!?体調を崩してませんか!?」

 

 一瞬でデスクを挟んだ向こう側に少女は現れると矢継ぎ早に質問を投げかけて来ます。

 その瞳には喜と心配の色がありありと浮かんでいました。

 本当に、無邪気な娘です。

 ふぅ、とレジアスはそんな彼女の声音に顔を上げ、背を椅子に預けました。

 体勢を整える終えると、彼は小さく呟きます。

 

「また、忙しくなりそうだな……」

 

 放たれる言葉の響きは心底嫌そうなものでした。

 が、されど自分に会えて心底嬉しそうな娘の姿を見る彼の表情は満更そうでもありません。

 まぁ、詰まる所、彼はやっぱり素直じゃないのです。

 楽しげに笑う己の娘達に見せるのは、相変わらずのツンデレっぷりなのでした。

 




スーパーレジアスタイム(37行)でした。

許せサスケェ……これで最後だ……。

まずはここまで見てくださった方々に最大限の感謝を。
ふふふ、これでももうネタは出し尽くした筈……燃え尽きたぜ、とっつぁんよ……。
なお、詳細は語りませんでしたが、少女を含んだ物語はこのような感じで進んだイメージです。


<<無印編の流れ>>
・ユーノとなのはが出会う。
    ↓
・フェイトと遭遇するまでジュエルシードが破壊され続ける。
    ↓
・フェイトと温泉で出会い、またもジュエルシードが破壊され同盟を組む。
    ↓
・なのはとフェイトが病む。
    ↓
・結局1個もジュエルシードを手に入れる事が出来ないままフェイトは時の庭園へ帰還。
    ↓
・なのは、フェイトに母親とアリシアを紹介される。
    ↓
・時空管理局に連絡してジュエルシードと"紫色の髪の男女"を引き取りに来てもらう。
    ↓
・1個だけユーノが所持していたジュエルシードを時空管理局に渡し、事件は終わりを告げる。
 男達はいつの間にか逃げていた。
    ↓
・その後、フェイトが近くに引っ越してきて、同じ学校に通い始める。
    ↓
・ユーノも帰ってきた後は同じ学校に通ったとかなんとか。

<<A's編の流れ>>
・そんなものはなかった。
 ただ、6月頃から大家族が翠屋を訪れるようになったとか。


よし、これで1段落ですね。
ViVidとかForceはまたいずれ。
というか、この主人公ぶち込んだらどっちも無双に成り過ぎる気が……。
格闘系ェ……。

まぁ、これで漸く眠れ――あ。魔法少女リリカルオリヴィエSacredという作品を連載開始しました。
良ければそちらもご覧になっていただけると嬉しいです。(ゲス顔で露骨な宣伝)

それでは、皆さんまたいずれ。
次回があるかは解りませんがね!

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