レジアス曰く、儂の部下が最強過ぎて困るんだが   作:ころに

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<一発ネタだと言ったな。あれは嘘だ。
<流石の最強ものです。馬力が違いますよ。


Part.02:ヴァイス・グランセニックは砕けない

【00.今日も世界は平和に回るんです?】

 

 さて、今日も今日とて舞台は第1管理世界であるミッドチルダ。

 最近は連日、雲も少なく太陽燦々。

 ぽかぽかとした暖かな陽気に包まれていました。

 今日も地上の人々を祝福するかのような良い天気です。

 

「平和だねぇ」

「にゃー」

 

 そんな太陽の光の下に幸せそうな声を響きます。

 声の発生源は、黒髪を肩程までの長さに伸ばしたそれなりに可愛らしい少女でした。

 彼女の傍らには1匹の小柄な猫が居り、ゆらりゆらりと尻尾を揺らします。

 どうやら日向ぼっこ中のようですね。

 

「そういえば聞いてよ、ウチのお父さんがさ」

「にゃあ?」

 

 不意に放たれた少女の言葉に猫が首を傾げます。

 少女は肩程までに伸ばした髪を首の後ろで括っている髪留めに手を伸ばし、

 喜の色を含んだ声で猫に問いかけます。

 

「私の誕生日プレゼントに髪留め買ってくれたんだ。似合うかな?」

「にゃーん」

 

 猫は少女の唐突な自慢にキョトンとしてしまいます。

 しかしそこは一瞬の判断ミスが命取りとなる野生の世界の住人。

 すぐさま少女の言葉を理解すると、彼女の肩に飛び乗りました。

 そして片手を伸ばし、ぺちぺちとヒマワリの形をした髪留めを叩きました。

 似合ってると言わんばかりの猫の仕草に少女は嬉しそうに微笑を浮かべます。

 

「うん。ありがと」

「にゃぉーん」

 

 肩に乗った猫の頭を少女はこれでもかとばかりに撫でくりします。

 猫も満更ではないとばかりにゴロゴロと鳴きます。

 いやしかし、これでは少女が一方的に話しかけているようにしか見えませんね。

 傍から見ている方は置いてけぼり確定でしょう。

 実際ほら、先程から少女の周りにいる人達は困惑の色を表情に浮かべていますし。

 

「あの……」

「んー?」

「にゃーん?」

「そろそろ始めたいのですが……良いですかね?」

「あ。ごめんごめん。それじゃあ、前口上どうぞ」

「あ、ご丁寧にどうも。それでは」

 

 少女の言葉に少女を取り囲んでいた大勢の全身黒タイツの男達が頭を下げます。

 そして少女に確認を取った全身黒タイツが定位置に戻ると、

 

「時は新暦75年!世界は密かに悪の魔の手に脅かされていた!」

 

 いきなり全身黒タイツが叫びます。

 同時に全員が素早く各々特徴的なポーズを取りました。

 なんとか特選隊とか呼ばれそうな、実に前衛的なポージングです。

 一瞬の間。

 全員のポージングが終わった事を確認すると、中央の全身黒タイツは頷きを1つ。

 そして、再び全身黒タイツは口を開きます。

 

「ミッドチルダに迫る影!」

 

 ばばっと全身黒タイツ達が独楽のように回転しながら更にポージングを変化させます。

 同時に行われる腰のグラインドがなんともセクシーですね。

 

「影を払うは、正義の光!」

 

 びしぃっと天を指すポージングを全員が決めます。

 

「そう!その光の使者こそ我等!その名も!」

 

 ざざーっと大勢の全身黒タイツが腰をスウィングしながら移動します。

 全身タイツ大移動とか嫌な響きですね。

 そして彼らは再び少女の周囲を取り囲むと声高々に叫びました。

 

『ミッドチルダスクウンジャー!!!』

 

 全方位から全身黒タイツ達の声が響きます。

 ついでに彼らの背後では色取り取りの爆発が発生しました。

 その色取り取りっぷりはというと、多色過ぎて猛毒ガスにしか見えないくらい色取り取りでした。

 そんな毒々しい煙を背景とする彼らの表情は顔まで覆う全身黒タイツのせいで解りませんが、

 なんだかやりきった顔をしてるようにも見えました。

 そして再び中央の全身黒タイツが口を開きます。

 

「どうですか、この圧倒的正義っぽさ!?管理局でも是非採用を!!!」

「うん」

 

 どうやら全身黒タイツ達は自分達の存在を時空管理局に売り込みに来ていたようです。

 どう見ても変質者の集団が編隊を組んで襲撃に来たようにしか見えませんね。

 そんな編隊行動を座りながら見ていた小柄な少女は拍手をしてから、満面の笑みで頷きます。

 

「連日の騒音出しまくりの馬鹿騒ぎ、あと卑猥な格好をしてる罪で逮捕するね?」

「眩いばかりの笑顔で親指を下に向けた!?」

 

 ギャーと全身タイツ達が青空に舞います。

 血沸き肉踊り、吐き気を催す美しくもおぞましい光景ですね。

 SAN値がゴリゴリ削れそうです。

 

「ふぅ……お仕事終わり」

「にゃふー」

 

 数分後、惨劇の跡として残るのは全身黒タイツの屍の山でした。

 積み上げられた山の上で、小柄な少女と小柄な猫は空を見上げます。

 

「平和だねぇ」

「にゃー」

 

 今日もミッドチルダは平和でした。

 

 

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【01.野望の果てを目指す者に生贄を、なんです?】

 

 此処はミッドチルダの中央区画にある機動六課の隊舎。

 その隊舎の食堂には現在、機動六課のメンバー全員が集まっていました。

 全員が緊張した表情を浮かべており、中には泣き出しそうな顔の人まで居ます。

 彼らの中央にはテーブルがあり、その上には小さな箱が置かれていました。

 その表面にはこう書かれています。

 

『対地上本部部隊演習メンバー選出箱』

 

 世界中の怨念を取り込んだかのような邪悪な気配を纏う箱でした。

 そんな箱を中央に据えた誰もが言葉を放たぬ空間。

 しかしいつか均衡とは崩れ去るもの。

 それを体現せんと、1人の女性が箱へと歩み寄ります。

 

「それじゃあ、引くで……」

 

 全員の喉が鳴ります。

 一拍の間を置き、箱に女性の細い指が突き込まれました。

 

「1人目……」

 

 ゆっくりと、全てがスローモーションになったかのような世界の中で指が引き抜かれました。

 人差し指と薬指に挟まれているのは1枚のピンク色の紙です。

 紙を引き抜いたのは、子狸的女性――はやてでした。

 彼女は額に汗を浮かばせながら、震える身体をどうにか押さえつけ、紙を開きます。

 ざわ……と周囲のメンバーが戦慄します。

 はやてはまるで断腸の思いとばかりに苦悶の表情を浮かべながら、宣告します。

 

「ヴァイス・グランセニック――」

 

 はやての声が発せられると同時に輪の中から1人の男が逃げ出そうとしました。

 捕獲されました。

 

「やめろー!!!俺はまだ死にたくなーい!!!死にたくなーい!!!」

「連れてき」

「はっ!!!」

 

 逃げ出そうとした男の両脇をマッシブな男達が固めます。

 捕縛された男はまるでこの世の終わりのような悲鳴を上げますが、

 誰も救いの手を差し伸べる事は出来ません。

 絶叫の尾を引きながら犠牲者――ヴァイスは部屋の外へとフェードアウトしました。

 皆が涙を拭います。

 されど彼の犠牲を悲しんでいる暇はありません。

 無情なるロシアンルーレットは続きます。

 

「続いて2枚目や」

 

 全員がはやての声に視線を戻した時には既に彼女は青色の紙を両手で広げていました。

 

「ユーノ・スクライア」

 

 え?と輪の一角から声が上がります。

 声の主はまるで女性のような顔立ちを持った金髪の男性でした。

 

「あの、ちょっと待って?今日は見学しに来ただけで、僕は機動六課のメンバーじゃ――」

「連れてき」

「はっ!!!」

「いや、どういうことなの!?って、なのは!?なんで目を逸らしているの!?」

 

 ねぇってばー!と男性にしては高い声が廊下へと消えていきます。

 彼の声が聞こえなくなった瞬間、1人の女性がその場に座り込みました。

 彼女は両手で顔を覆い、嗚咽を漏らしているようでした。

 

「ううっ、ユーノ君。ごめんね……!!!」

「なのは……ユーノは、私達の代わりに……」

 

 金の長髪を持った女性が崩れ落ちた女性――なのはの肩を抱きます。

 彼女達の頬を一筋の涙が流れ落ちます。

 共に幼少の頃から知る友を失った者同士。

 胸が締め付けられる思いなのは同じのようです。

 

「更に3枚目……」

 

 悲しみにくれる女性達をはやては鬼となって視界から除外しました。

 生半可な覚悟ではこの場を乗り切る事は出来ないのです。

 故に幼馴染達と同様に胸を痛めるはやてはあくまで表面上は冷静を装っていました。

 彼女は誓います。

 犠牲となった彼らの為にも何があっても、この大任をやりきってみせると。

 覚悟を胸に彼女は赤い紙を広げると、紙に綴られた名前を淡々と読み上げます。

 

「八神はや――ザフィーラ」

「おいちょっとマテや」

 

 覚悟は数秒で投げ捨てられました。

 なのはがドスの効いた声を上げますが、はやては無視しました。

 そんなはやての残虐非道なる行いになのはがレッツゴーOHANASHIをしかけようとしますが、

 

「ザフィーラ!?」

「お前、何を!?」

「待って、ザフィーラ!まさか!?」

「あぁ。往ってくる」

 

 唐突に今まで椅子に座っていた浅黒い肌を持った筋骨隆々の白髪の男性が立ち上がります。

 そして彼は背を見つめる仲間達に短い言葉をかけ、扉へと歩を進め始めました。

 

「ザフィーラ……」

「主よ。良いのです。我は盾の守護獣……御身の盾になれる事、光栄に思います」

 

 では、とはやての数億倍はありそうな覚悟を背負った益荒男は扉の向こうへと消えて行きました。

 扉が閉じると同時に人々の輪の中で3人の女性が崩れ落ちます。

 

「シグナム。シャマル。ヴィータ……」

 

 嘆きの表情を浮かべる3人の女性をはやてはその腕に抱きます。

 彼女が浮かべる表情はまるで子どもを失った母の様に悲痛なものでした。

 されどその顔を見た面々は揃ってこう思いました。誰のせいだよ、と。

 

「さて、気を取り直して、4枚目や」

 

 10秒で復帰したはやてはマジ冷徹な顔で総員の冷めた視線を無視しました。外道ですね。

 素早い動きで彼女は箱から4枚目の紙を引っ張り出します。

 自分がもう当たらないと解っているからか、やたらと動きが軽快です。外道ですね。

 食堂内に紙を開く音が響きます。

 これが最後の1枚。

 そこに刻まれた名を読み上げんとするはやての様子を見守る全員の緊張は遂に最大に達します。

 

「最後の1人は……」

 

 外道にしては珍しい暫しの逡巡でした。

 されどもはやては己の責務を果たそうと言葉を続けます。

 

「フェイト・T・ハラオウン……」

 

 宣告された名に人々の輪が激震します。

 

「フェ、フェイトさん!?」

「フェイトさん、いっちゃやです!」

 

 今までなのはの肩を抱いていた金髪の女性――フェイトが立ち上がります。

 彼女は己に抱きついてきた赤毛の少年と桃色の髪の少女の頭を撫でると、こう言いました。

 

「大丈夫だよ、エリオ。キャロ。私はきっと、大丈夫だから。ね?」

 

 宥めるような柔らかな口調。

 彼女は驚くほど穏やかな慈母の微笑みを持って、彼らを自分の身体から引き離しました。

 それから今まで肩を抱いていたなのはへと向き直り、更に異なる種の笑みを見せます。

 それは幸せそうな、ですがどこか儚い印象を受ける笑みでした。

 

「大丈夫だよ。私とユーノの相性の良さは、なのはも知ってるでしょ?」

「フェイトちゃん……」

「ふふ。心配性だなぁ、なのはは……じゃあ、私のお願い、聞いてくれる?」

「おね、がい?」

「うん。お願い。帰って来たら――なのはの作ったケーキ、食べたいな」

 

 勿論ユーノも一緒にね?とフェイトはウィンクをなのはに投げかけます。

 その仕草になのはの涙腺は崩壊寸前です。

 

「それじゃあね、なのは、エリオ、キャロ――往ってきます」

「……う、うぅぅぅ」

「フェイトさん……クゥッ」

「やだよぅ……フェイトさぁん……」

 

 崩れ落ちる彼女達にフェイトは背を向けます。

 瞬間、彼女の表情は一変し、戦士のものとなっていました。

 視線は鋭く、整った形の眉は立てられ、その顔からは先程の儚げな雰囲気はまるで感じられません。

 彼女の往く先の輪を作っていた人々が道を開け、左右に並びます。

 立ち並ぶ人々は挙手の敬礼を戦地へ赴くフェイトの背へと投げかけました。

 

 そして地獄への門は開きます。

 最後の戦士が戦地へと消えて行きました。

 

 後に残るのは沈黙。

 重苦しい空気が、食堂を満たします。

 皆の意思は同じでした。

 誰もが言わぬ――否。言えぬ思い。

 それをはやてはフェイトの笑顔を思い浮かべながら代弁します。

 

「フェイトちゃん……」

 

 彼女は目尻に浮かんだ涙を拭って一言。

 

「それ、死亡フラグやん……」

 

 

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【02.迷い無き覚悟に粉砕玉砕大喝采なんです?】

 

 機動六課隊舎に隣接する形である海に浮かぶ島としてその特別訓練施設はありました。

 その施設の上でヴァイスはライフルを肩に乗せながら、溜息を吐きます。

 

「旦那。調子はどうだい?」

「悪くはないな」

 

 ザフィーラはヴァイスの問いに応えると、手甲同士をぶつけ、火花を散らさせます。

 その表情はいつも通りの無表情ながらも、緊張を帯びたものでした。

 

「ユーノ、ごめんね。こんな事に巻き込んで……」

「ううん。良いんだ。なんだかよく解らないけど、フェイトと一緒なら不安はないよ」

「そう?」

「そうだよ」

 

 久しぶりにバリアジャケットに身を包んだユーノがフェイトへと柔らかな笑顔を向けます。

 その無邪気な信頼にフェイトは自分の頬が熱くなるのを感じました。

 

「あー、お熱いですなぁ」

「フッ、若いというのは良いものだ……」

「あ、いや、ち、ちが、違いますよ!?」

「?」

 

 茶化すヴァイスとザフィーラに顔を真っ赤にして食って掛かるフェイト。

 ユーノは良く解らないようで首を傾げ、疑問符を頭の上に浮かべるばかりでした。

 

「ッ!?」

「……来たか」

「何だ、この圧倒的な存在感は……!?」

「ユーノ、解るんだね……来たよ。今回の私達が戦うべき相手――」

 

 4人の背後で地面を踏みしめる音が鳴ります。

 彼らが振り向くと、そこに居たのは――、

 

「ふむ……聞いていたメンバーとはだいぶ違うようだな、油断するなよクイント」

「勿論ですよ、ゼスト隊長。でも、本当に全然違いますね。スバルも居ないようだし……」

 

 両腕を組んで目の前の4人を見て目を細めるのは、武人然とした男でした。

 茶色いコートに身を包むのは、苦労人レジアスの親友ゼストです。

 そしてゼストの言葉に相槌を打つのは青い長髪の女性でした。

 名前をクイントというようです。

 ちなみに以前我らが主人公の犠牲となった娘のお母さんに当たります。

 きわどい衣装がとても特徴的なお母さんです。

 子持ちなのにピッチリと肌に吸い付く様な衣装はいかがなものなのでしょうか。

 

「今日はお母さんの代わりに来ました!精一杯やらせて貰いますね!」

 

 そして、元気よく挨拶するのはどこかで見た事のある紫色の髪を持ったデコ出し娘でした。

 またも脱兎の如く逃げ出した某母の代打としてやってきたとの由。

 母親思いの健気な娘ですね。

 

「どうも、お久しぶりです!今日は手加減無用ですよ、皆さん!」

 

 そしてシャドーボクシングしながら笑顔を見せるのは我らが主人公。

 振った拳の先で海が弾け、雲が吹き飛びました。

 周囲の面々に比べると、相変わらずパッとしない地味さ加減です。

 ヒマワリの髪留めが太陽の光にキラリと輝きました。

 フェイトはそんな彼女の仕草や背丈を見てエリオ達と同年齢くらいかなぁ、と思いました。

 

「テスタロッサ、油断するな。奴はあの高町をも叩き落とした強者だ」

「あ。うん……解ってる……解ってるよ」

「彼女があのなのはを撃墜した……?」

「そういう事です。スクライアの旦那。気を抜いたらすぐに落とされますぜ」

 

 解った、とユーノは気持ちを切り替え、真剣な面持ちを見せます。

 目の前の少女が幼馴染である高町なのはを倒したという衝撃的な発言は

 彼の意識を改めさせるには十分なものだったようです。

 もはや機動六課が誇る面々に油断はありません。

 

「往くぞ。テスタロッサ、ユーノ。手筈通りな」

「ん。了解だよ」

「解りました。では、開始直後に――」

「?」

 

 ヴァイスは良く解らない皆の発言に首を傾げます。

 が、何やら彼らには作戦があるようでした。これは心強いです。

 

「では、そろそろ始めるか」

「えぇ。それじゃあ張り切っていきましょう」

「えぇっと、まずは1on1でぶつかって、ですよね!」

「うん。その筈だよ、ルーちゃん」

 

 全員が構え、向かい合います。

 始まりのゴングは間もなく鳴り響こうとしていました。

 冷ややかな空気に緊張が走ります、そして――、

 

『演習開始!』

 

「「「ヴァイス陸曹!あの子は任せた!!!」」」

「ちょっと待てェエエエエエエエエエエエ!!?」

 

 全速力で各々の相手に向かって走る機動六課メンバーと無限書庫の司書長。

 ヴァイスを光りの速さで黒髪の小柄な少女の前に突き出すとそのまま戦闘を開始しました。

 部隊長が外道なら部下も外道だったようですね。

 

「お兄さんが私の相手?」

「いや俺は通りすがりのスナイパーさ」

「そっかぁ。じゃあ、いっくよー」

「話を聞いてくださいお願いしまウボァ」

 

 瞬間、ヴァイス・グランセニックは地上を駆け抜ける星となったのでした。

 

 

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【03.二次被害って怖いんです?】

 

 地上本部の一室にてレジアスと凛々しい女性がテーブルを挟んで向かい合っていました。

 

「そろそろ演習が始まった頃か」

「見に行かなくて良かったんですか、レジアス中将?」

「アイツが行ったのだから結果は目に見えているだろう」

「まぁ、それはそうですけど……」

 

 Sランク相当の集束砲の中を笑顔で直進する少女の姿が彼女の脳裏に浮かび上がりました。

 

「フッ、まあ、これで海の連中に一泡吹かせて――」

「え?」

 

 瞬間、レジアスの姿が女性の前から消えました。

 ついでにテーブルもなんかの衝撃波で吹き飛びました。

 

「……え?」

 

 何事かと視線を横にやると、壁に2人分の人型の穴が綺麗に開いていました。

 なんか直前、レジアスに黒いジャケット姿のイケメンが直撃していたような気がしたのですが、

 

「気のせいかしら……うん」

 

 女性はなかった事にしてお茶を啜りました。

 今日も地上本部は平和でした。

 

 

 

 

 

 

 

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【ex.それも全部レリックって奴の仕業なんです?】

 

 とあるラボの奥深くに1組の男女が居ました。

 ラボと言えば、ドクターとウーノですね。

 今日も蛇のような目が凛々しい2人組でした。

 

「このレリックを使ったタイムマシンを見てくれ。コイツをどう思う?」

「凄く……傑作です……」

 

 ドクターが青いツナギに身を包みながらウーノに問います。

 ウーノはノンケっぽい顔をして答えました。実際傑作らしいです。

 

「いやぁ、といってもまだ稼働実験も出来てないから本当に動くか解らんのだけどね」

「ご謙遜を。データの上では何の問題もないではないですか。やはりドクターは天才です」

「ふふふ。しかしやはり稼動させてみないと何が起こるか解らない」

 

 彼は四方にレリックと呼ばれた赤い宝石を埋め込んだ巨大な装置を見て頷きます。

 その中央で出来栄えは完璧だ、とばかりに彼は両手を大仰に広げます。

 だがしかし、と彼は前置きをして言葉を続けます。

 

「未知と言うのは思わぬところに転がっているものだ。故に実験が必要となるのだよ」

「被検体はどうします?」

「先程アジトの入口に転がっていたズタボロの男でも使うか……」

 

 ふむ、とドクターは顎に手を当てて思案を始めます。

 実験材料として使うのは先程拾った黒いジャケット姿のイケメンで良いでしょう。

 イケメンは犠牲になるのが、世の必定なのです。

 

「ねぇねぇ。ドクター。このボタンって何?」

「ん?あぁ、それはこの装置の稼働ボタンだよ」

 

 ってあれ?ここってウーノと私以外誰か居たっけ?という疑問がドクターの脳裏を過ぎります。

 

「へぇ。ポチっと」

「「あ」」

「え?」

 

 振り向くと、目を丸くした小柄な少女が装置の上に居ました。

 彼女の指が押し込むのは装置の内側に設置された起動用ボタンです。

 ちなみにドクターとウーノが居るのは装置の中央。十分に装置の射程圏内でした。

 脱出不可能よォ―――ッ!!!という奴です。

 

「逃げるんだよォ―――ッ!!!」

「ドクター!私を置いていかないでください!!」

「ちょっ、ウーノ――嗚呼!!?」

 

 腰に愛娘の裏切りタックルを喰らったドクターが倒れ込みます。

 次の瞬間、空間を圧迫する程の光が3人を包みました。

 その後に残るのは、静寂だけでした。

 

「ドクター。ウーノ姉様、御飯の用意が……あら?」

 

 眼鏡をかけた女性が扉を開けて、室内に入ってきます。

 だけどそこには目当ての人物はいません。

 はてどこに行ったのでしょう?と眼鏡をかけた女性は部屋を後にしました。

 まさか己の創造主が過去に飛ばされるとかいうえらい目に合っているとは知らずに。

 

 その後、10年くらい前の地球とかでドクターとかウーノとか小柄な少女が

 ジュエルシードとかいう石を砕いたり、それを使ってとある大魔道師の娘を甦らせたり、

 闇の書とか呼ばれる厚い本に向かって破ァ!したりして無双を繰り広げたらしいですが、

 どうでもいい事ですね。

 

 兎にも角にも暫くミッドチルダでは平和が続きそうなのでした。




闇の書の防衛機構は消え去る前に思ったそうです。
ミッドチルダ生まれはスゴイ……と。

ここまで見てくださった方々に最大限の感謝を。
一発ネタのつもりだったのですが、かなりの感想数に驚きました。
普通のリリカル転生話を書いている途中で、
ふと思いついたネタだったのですが……よもやこんなに反響を頂けるとは。
感謝感激です。

ははは、でももう続きませんよ。多分恐らくきっと。
それでは皆さん。また。

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