レジアス曰く、儂の部下が最強過ぎて困るんだが   作:ころに

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<来いよ、ベネット……魔法なんて捨ててかかってこい!!!
<ヤロウオブクラッシャァアアアアアアア!!!


Part.01:レジアス・ゲイズは苦労人

【00.最強伝説の幕開けなんです?】

 

 此処はミッドチルダの首都クラナガン。

 沢山の人々が日々平和を謳歌する平和な都市です。

 しかし、やはり人の住むところ、悪は生まれるもの。

 決してそのサイクルからは逃れられないようです。

 今もほら、とある銀行から悲鳴が。

 

「クハハハ!さっさと身代金と逃走用の車、転送ポートを用意しやがれ!」

「た、助けて……!」

 

 凄まじいまでにマッスルな男が女性銀行員を人質に立て籠もっているようですね。

 実にありふれた光景です。

 

「ひ、人質を離すんだ!せめて私が代わりになるから彼女を離して――」

「うるせぇ!」

「グァアアアアッ!!?」

 

 男が銀行内から腕を一振りすると銀行を取り囲んでいた制服姿の面々が空を舞います。

 おやおや、どうやら男は只者ではないようです。

 男はニヤリとワイルドに笑うと、金の短髪をサッと一撫で。とてもうざい仕草ですね。

 

「ククク、このレアスキル『衝撃操作』を持つ俺に敵はいねぇ。さっさと言う通りにしなぁ!」

 

 男は豪快に笑います。

 対する包囲網の制服姿の方々はとても苦々しい顔をしています。

 まさに打つ手なしと言った感じですね。

 

「クッ!魔法弾すらも消し飛ばす衝撃……これでは迂闊に近づけん!」

「応援もまだ来れないそうです!隊長……ここは一旦奴の要求を呑むしか……」

「栄誉ある時空管理局として、そんな事は出来ん!」

 

 ナイスミドルな制服姿のおっさんが街灯を叩きながら叫びます。

 犯人には聞こえない位置なので結構大きな声を出しても安心ですね。

 そんなどうにも出来ない状況に陥った時でした。

 

「隊長!地上本部のレジアス中将より入電です!」

「なんだ!?増援か!?」

「はい!たった今地上本部を出発したようです!」

「遅い!どれくらいで着く!?」

「あと10秒だそうです!」

「今出発したばかりなのに!?」

 

 思わず目玉が飛び出しそうになるナイスミドルです。

 ですがそこはナイスミドル的紳士力で我慢します。紳士の鏡ですね。

 

「ああ?なにそこでこそこそ話してんだ?とっとと諦めて要求を呑んだらどうだァ!?」

「ひっ!?」

「それとも何か?この女がどうなっても良いってかァ?」

 

 犯人女性の喉元に指を突きつけます。

 きっと『衝撃操作』というからにはスパッと切れるような衝撃も出せるのでしょう。

 女性銀行員、まさに絶体絶命のピンチです。

 

「まずは見せしめにスパッと逝っておくかァ!?ヒャッハァ!」

「や、やめて!」

 

 犯人の高笑いが木霊し、女性銀行員が涙を流して懇願します。

 この場に神は居ないのでしょうか。そんな風に思われたその時でした。

 

「ねぇねぇ。これ幾らくらい入ってんの?カップラーメン幾つ買える?」

「あ?」

 

 犯人の背後で声がしました。

 犯人が振り向くとそこに居たのは盗んだ札束を突っ込んだ鞄を突く小柄な少女でした。

 銀行を取り囲む人達と同じような制服を着ているからきっとお仲間なのでしょう。

 それを見た犯人は思わず目を見開きます。

 

「テメェ、どっから入ったァ!?」

「え?正面からだよ。当たり前じゃん」

 

 小柄な少女は何言ってんの?とばかりに首を傾げます。とても可愛らしいです。

 くりくりとした黒い瞳に黒い肩程まで伸びた髪が特徴的ですね。

 それくらいしか特徴的と表せないぐらい特徴がない方が特徴的です。

 というか、ぶっちゃけるとどこにでも居そうな少女ですね。

 

「ハッ!正面からか!嘘吐いてもいいけどよぉ……不意打ちならもうちょっと上手くすべきだったなァ」

「へ?」

「そこは既に俺の"絶殺射程圏内"って事だよォ!!!」

 

 瞬間、男の身体から凄まじい衝撃波が発せられます。

 しかもさっきまでの四方にばらまくような衝撃ではありません。

 ピンポイントに集中させたそれは銀行内の一点――小柄の少女が居る場所だけを抉ります。

 その凄まじさというと、衝撃のあまりの密度に空気が歪み、一瞬で小柄な少女の姿が見えなくなる程です。

 喰らって生きてられるのは化物クラスの魔道師くらいでしょうか。

 ちなみに小柄な少女は魔道師ではありません。

 

「クカカカ!どうよ、お仲間が粉微塵になっちまったぜぇ、管理局の皆さんよォ!」

「あ……あ……」

 

 犯人が声高々に包囲網へと頭を振って、大仰に叫びます。

 女性銀行員は目の前で起こった惨劇に言葉も出ないようです。本当に散々ですね。

 

「ねぇ」

「え?」

 

 犯人がまた背後から聞こえた声に振り向きます。

 今度は小柄な少女はいませんでした。

 

 代わりに拳がありました。

 

「へぶぅウウウウウウウウウウ!?」

 

 男が吹っ飛びます。そりゃあ盛大に吹っ飛びます。

 どれくらい盛大かというと銀行のガラス扉を突き破り、包囲網の車に体当たりして跳ね上がり、

 そのまま向かい側のビルに錐揉み回転しながら突っ込んでそれでもなんか生きているくらい盛大でした。

 白目剥いて泡吹いて四肢が変な方向に曲がっていますが生きています。人体の神秘ですね。

 

「服に埃ついたじゃん。クリーニング代を要求する」

「え?え???」

 

 銀行内には小柄な少女とその腕に抱かれた女性銀行員が居ました。

 なお、小柄な少女には傷1つありません。

 凄い衝撃波を喰らったのに無傷とは不思議な少女です。人体の神秘ですね。

 そんな神秘的な少女は女性銀行員に向かってニッカリと笑うと一言放ちます。

 

「この辺で美味しいラーメン屋さん知らない?」

「え?あ、その……そこの角を曲がったところにあるラーメン五郎がオススメです……」

「あ。そう。じゃあ、後は適当に助けて貰ってね」

 

 小柄な少女は女性局員を地面に下ろすと割れたガラス扉をくぐって銀行の外に出て行きました。

 そのまま小柄な少女は片手を上げて、去っていきます。

 後に残されるのは訳の分からない顔の女性銀行員と包囲網を敷いていた人達でした。

 

 どうでもいいけど誰か犯人を助けてあげた方が良いんじゃないでしょうか。

 

 

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【01.お説教中将なんです?】

 

「またお前は仕事を放り出してラーメンを食べに行っていたのか!?」

「いやぁ。美味しいラーメン屋があると聞いちゃいまして」

「それで仕事をすっぽかす奴があるかァ―――!!!」

 

 次元世界を股に掛ける時空管理局が地上本部の一室に怒声が鳴り響きます。

 室内にいるのは大量の髭を生やしたちょっと太り気味のおっさんと小柄な少女です。

 てへへと笑う小柄な少女と額に青筋を立てたおっさんのコンビはどことなくアンバランスでした。

 

「いやぁでもちゃんと犯人ぶっ飛ばしてビルの一部として埋め込んでおきましたよ?」

「生きてたからが良いが、病院側から生きてるのが不思議過ぎて恐いとか言われたぞ」

「流石の手加減力ですね、私!」

「馬鹿モンがァ―――!!!」

 

 スパーンとおっさんが丸めた書類で少女の頭を叩きます。良い音出ますね。

 

「はぁぁぁ……お前のせいで地上本部はやり過ぎだと何度言われた事か……」

「犯人の逮捕率が高いのは良い事じゃないですかぁ。ほぼ100%ですよ。100%」

「その犯人のほぼ100%が意識不明の重体と少女恐怖症になるんだが?」

「軟弱ですねぇ」

「どの口が言うかァ―――!!!」

 

 スパーンとおっさんが机に置かれた文鎮で少女の頭を叩きます。文鎮が砕け散りました。

 

「というか、儂言ったよな?今回は犯人の四肢骨折させるくらいにしておけって?」

「大丈夫です。四肢はしっかりボッキリやっときました!」

 

 拳を握って私の任務達成率は100%なんだ!とでも言いたげにドヤ顔する小柄な少女でした。

 

「大丈夫じゃないわァ―――!!!」

 

 対するおっさんは今度は机を持ち上げて少女の頭に叩きつけました。

 机は見事に爆発四散しました。ショギョムッジョですね。

 

「えぇー……?しっかり言われた通りにしましたよぉ」

 

 少女は両手の拳を握り締めながら、涙目になります。

 どうやらおっさんに怒られたのが相当効いたみたいですね。

 ちなみに痛みの方は全く感じてないみたいでした。人体の神秘ですね。

 

「む、ぐ……いや、まぁ、うむ。人質に被害もなく、犯人を逮捕出来たのも確かだな」

 

 おっさんは涙目の少女の姿に心を痛めたのかコホンと咳払いをします。

 それから視線を僅かに逸らしてこんな風に言います。

 

「以後、気を付ける様に。次は許さんぞ」

「え!じゃあ、許してくれるんですか!?」

「今回だけだぞ」

 

 おっさんは吐き捨てるように言いますが、頬がちょっと赤いです。

 ツンデレですね。おっさんの貴重なツンデレシーンです。

 心が温まる光景ですね。

 

「やった!ありがとう御座いますレジアス中将!」

 

 ぺこりと少女はヒマワリのような暖かな笑顔を浮かべるとお辞儀を1つします。

 それから頭を上げて、拳を握ると機嫌の良さそうな声でおっさんに提案します。

 

「それじゃあ、ラーメン食べにいきましょう、中将!」

「行かんわァ!!!仕事をしろォ―――!!!」

 

 壁からおっさん数人分はありそうな絵画が引っぺがされて少女に叩きつけられました。

 本日も地上本部は平和でした。

 

 

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【02.機動六課設立なんです?】

 

「機動六課ですか?」

「正式名称は『古代遺物管理部機動六課』だ。フン。"海"の連中が遂に地上にまで手を伸ばしてきたようだ」

 

 またまた地上本部の一室におっさんことレジアスと小柄な少女は居ました。

 今日は眼鏡をかけた凛々しい女性となんだか武人っぽいおっさんも一緒でした。

 皆同じような制服を着ている事から同じ機関に属しているのが解りますね。

 

「ゼスト。お前はどう見る?」

「ふむ……何か裏がありそうだな」

 

 レジアスが武人めいたおっさん――ゼストに話を振ると彼は顎に手を当てて目を細めます。

 彼の思案に乗っかるようにして口を開いたのは凛々しい女性です。

 

「『レリックの対策、独立性の高い少数精鋭の部隊の実験のため』と謳っていますが」

「それが建前かもしれないって事ですかー?」

 

 凛々しい女性の言葉に続いて小柄な少女が首を傾げます。

 難しい大人の会話に少女はまるでついていけていないようです。

 

「うむ。それは建前でこれを機に地上の有力な局員を引き抜くつもりかもしれん」

「流石にそれは無いだろうが……いや。クイントが『最近娘が教導官に誘いを受けた』等と言っていたな」

「それでは、やはり……」

「おぉ、解りました!つまりスカウトが目的って事ですかね!?」

「恐らく、だがな」

 

 時空管理局の中でも地上本部というのは慢性的な人員不足に悩まされています。

 これ以上引っこ抜かれたらもうお尻の産毛も残ってねぇ!という有様ですね。

 少女を除いた皆の表情が硬くなります。

 そんな中、少女は1人だけ溌剌とした様子で手を上げます。何か考えがあるようですね。

 

「よし、私に良い考えがあります!」

「……」

「……」

「……」

 

 全員が無視しました。

 全員の顔の陰影が濃くなってるようにも見えます。

 全員嫌な予感に襲われたようですね。

 でも構わず少女は太陽のような笑みでシャドーボクシングをしながら続けます。

 

「今から私が行って隊長格を全員戦闘不能に――」

「「「やめて!!!」」」

 

 嫌な予感的中だったようです。

 

 

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【03.無限の欲望は無能なんです?】

 

 とあるラボに1人の男が引き籠っていました。

 よれよれの白衣を着た紫色の髪の男の人です。

 目がギラギラとしていてまるで獲物を目の前にした捕食者のようです。恐いですね。

 そんな男は実は研究者なのです。

 ここ数年、彼はずっと1つの研究を続けていました。

 

「一体どういう原理であのパワーが発揮されているんだ……」

 

 男の目の前には1枚のウィンドウがありました。

 空間投影型のとっても高級な代物です。お金持ちですね。

 

「身体構造は普通の人間と差異はない……彼女は特に特殊な事はやっていないと言っていたが……」

 

 ウィンドウには1人の小柄な少女が映っていました。

 横には彼女のデータが乗っています。身長とか体重とか握力とかですね。

 身長と体重はちょっと低目だけどそれなりに普通でした。

 握力は測定器が粉微塵になったので測定不能だそうです。人体の神秘ですね。

 

「リンカーコアも無いし、魔力ではない……むう。彼女のクローンでも作ってみるか?」

 

 どこからか「やめて!!!」という声が聞こえた気がします。

 そんな事されたら地上本部の某中将の胃がマッハになりそうな気もします。

 男は腰に手を当てて仰け反ります。だいぶ体が凝っているようです。

 

「ドクター。あまり根を詰め過ぎないでくださいね」

 

 男の後ろで扉が開き、女性の声が聞こえてきます。

 声と一緒に入ってくるのは紫の髪をセミロングくらいまで伸ばした女性でした。

 どことなく男の人と顔立ちが似ています。

 

「おや、ウーノ……あぁ、食事かい?」

「はい。今日もドクターご注文の特製ラーメンですよ」

「いやはや、ありがとう。ウーノのラーメンは毎日の楽しみだよ」

「ふふ……こちらこそありがとう御座います」

 

 女性は両手に持ったトレイから持ち上げ、ラーメンを男の前のデスクに置きました。

 見るからに美味しそうな醤油味のラーメンです。

 チャーシューの香ばしい匂いが食欲を刺激する逸品ですね。

 

「それで、どうです?研究の方は?」

「いやぁ。まったく駄目だね。理解不能だよ。そろそろ彼女のクローンでも作ってみるかなぁ」

「でもそれだと何か負けた気がする、と仰っていたのはドクターでは?」

「もう負けでも良い気がしてきたよ」

 

 ははは、と笑いドクターと呼ばれた男はウーノという女性に手を振る。

 そしてデスクに置かれたラーメンを器用に箸を使って啜ります。

 

「新暦67年のゼスト隊全滅事件からずっと彼女の身体の謎を追っているが……」

 

 ドクターはラーメンを食べながら片手で空中投影型ウィンドウを操作します。行儀が悪いですね。

 

「この通り、身体の構造は普通の人間と同じ」

 

 続けて更に操作を行うと映像が映し出されます。

 画面の中にはゼストと青い髪の女性と紫色の髪の女性を中心に多くの人が映っていました。

 その中央に突っ込むのは本当に小さな女の子でした。

 ゼストの半分も身長がない女の子は、何もない空中を踏みしめて走り出します。

 それから彼女は笑顔でゼスト達をちぎっては投げ、ちぎっては投げてました。

 でも何故か死人は出ていません。人体の神秘ですね。

 

「彼女はゼスト隊から我々を守ってくれた恩人とすべきなんだろうが……」

 

 ウィンドウ内に映る紫色の髪の女性が壁際に追い詰められ、恐怖に幼児退行を起こして、

 「来ないでぇ!」と小柄な少女に石を投げる姿が涙を誘います。

 

「いや。ゼスト隊が不憫に見えるね?」

「圧倒的過ぎるのも問題ですね」

「だからこそ解析したいんだがなぁ……どうなっているんだろうねぇ、彼女は」

「まるで解らないですね。データだけ見ると」

「ふーむ。もう一度彼女に会ってデータを取り直させて貰うか」

「レジアス中将に連絡を取りますか?」

「いや、まずは解析用の機材を集めておこうか。話はそれからだよ」

 

 ふう、とドクターは溜息を吐きながらラーメンに手をつけようと箸を伸ばします。

 空振りしました。

 

「おや?」

「あら?」

「おお。このラーメン美味しいじゃん」

「……」

「……」

 

 小柄な少女がドクターとウーノの視線の先でラーメンを啜っていました。

 ちなみに使っているのはちゃんと自前の箸です。ドクターと間接キスはしてません。

 

「わ……」

 

 ドクターが口を開き、震えます。

 そしてそのまま項垂れると彼は絶望した感じでこう言いました。

 

「私のラーメン……!」

「ドクター、また作ってあげますから、気を落とさずに!」

「うめぇうめぇ」

 

 なお、この後駆けつけたウーノの妹達が小柄な少女に飛びかかりましたが返り討ちにあいました。

 研究所の壁に人がめり込む様はとても不思議なものだったとか。人体の神秘ですね。

 

 

 

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【04.出会いはこんなんなんです?】

 

 その出会いはほんの偶然でした。

 まだ若いレジアスがミッドチルダに幾つもある廃棄都市区画をどうにか再利用出来ないかと

 部下と一緒に視察に来ていた時でした。

 

「子ども?」

「……」

 

 廃棄されたビルの壁によりかかるようにして身体を丸める少女が居ました。

 服もボロボロで元は綺麗だったであろう肌も髪も汚れてしまっています。

 まだ年齢1桁しか見えない少女がこんなところに居るのは、違和感しかありません。

 

「どうしてこんなところに子どもが居る?」

「……きっと親に捨てられたのではないでしょうか?」

「ここはそういう場にはもってこいですからね……」

 

 部下達は苦虫を噛み潰したような顔で苦しそうに応えます。

 なるほど、とレジアスは眉を立てた怒りの表情で頷きました。

 

「君」

「?」

 

 レジアスが足を進めて少女の目の前に膝を立てた体勢で座り込みます。

 対して少女は光の無い瞳でレジアスを見上げました。

 

「親は?」

「……居ないです」

「帰る場所は?」

「ない、です……」

「一緒に来るか?」

「ぇ……?」

 

 後ろから部下達の焦る声が聞こえるがレジアスは気にしません。

 

「帰るところがないなら、親が居ないなら、儂のところに来い。悪いようにはせん」

「あ、の……」

「それにお前はこの廃棄都市で"こんな事があった"という生き証人だ」

「ぅ……?」

「ククク、この区画を放置している連中にお前を見せれば、連中も煩い口を閉じるだろう」

「「おぉ……」」

 

 悪い笑みをレジアスは浮かべます。

 部下もそんな考えがあったとは、と納得します。

 精一杯「慈善の意志だけではない」と主張しようとしてますが、

 普通にお人好しっぽいですね。

 

「遠慮はいらんぞ」

「でも……」

「でもも何もない。儂はお前を利用しようとしてるんだ。代わりに飯と寝床を用意してやる」

 

 だから来い、とレジアスは続けます。

 少女は震えながらも恐る恐るレジアスの差し伸べた手を取りました。

 

「お願い、します……」

「うむ」

 

 そのままレジアスの手を握り締めました。

 瞬間、ゴギャアと変な音を立ててレジアスの手が握り潰されました。

 凄い有様だったけど、全治2か月で済んだそうです。人体の神秘ですね。

 

 

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【05.今日もミッドチルダは平和なんです?】

 

「中将。またレアスキル持ちの凶悪犯が北部で暴れているようです」

「またか……」

 

 地上本部の一室で凛々しい女性からレジアスは椅子に座りながら報告を受けて頭を抱えます。

 最近ミッドチルダではやたらレアスキル持ちの凶悪犯が暴れていました。

 転生がなんちゃら言ってますが、どうでもいいですね。

 

「ゼスト隊は?」

「ゼスト隊長はあの子とうっかり訓練して入院中。クイント准陸尉は家族旅行中ですね」

「メガーヌ准陸尉は?」

「あの子が呼びに行ったら全速力で召喚術を使って逃げました。現在、捜索中です」

「他の隊員は?」

「他の仕事があります」

「選択肢がないではないか……」

 

 更にレジアスの頭が痛くなります。

 仕方がないですね。やっぱり主人公たるもの出番はやってくるものなのです。

 

「じゃあ、あの子を呼びますね」

「頼む……ハァァ……またお偉方に小言を喰らいそうだな」

「頑張って下さい。お父さん」

 

 凛々しい女性がそんな呼称と共に硬い表情を崩してレジアスに笑いかけます。

 レジアスはそれに対して肩を竦めて、両肘をデスクにつきました。

 そして両手を顔の前で組むと真面目な顔を作ります。気分はすっかりお仕事モードです。

 用意が出来ると同時に部屋の扉が開きました。

 そこから入ってくるのは小柄な少女でした。

 あの時、廃棄都市区画で出会った頃からだいぶ大きくなった少女でした。

 

「呼ばれて来ました、レジアス中将!!!」

「うむ。それでは今回の任務を伝える。事件の発生場所は――」

 

 笑顔で少女はレジアスの声に応えます。

 それから数分後、凶悪犯の悲痛な叫びがミッドチルダに木霊しますが、どうでも良い事ですね。

 今日も、ミッドチルダは平和でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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【ex.機動六課に遊びにいくんです?】

 

「え?地上本部から査察?」

『そや。ついでに機動六課の面々と演習もしたいとの事やな』

「ふぅん……この時期に、かぁ」

 

 白くてヒラヒラとした少女趣味な服を着込んだ女性が杖を片手に宙を浮かびながら首を傾げます。

 彼女の目の前には空中投影型のウィンドウが浮いてて、その中にはショートヘアの女性が映っていました。

 なんだか子狸とか呼ばれていそうな女性でした。

 

「ところで相手のメンバーはどんな構成なのか、はやてちゃん、聞いてる?」

『もちのロンや』

 

 にっこりとウィンドウ内で子狸めいた女性――はやてが親指を立てます。

 

『といっても、もうそのメンバーの1人と査察官さんは来とるらしいけどな』

「もう?唐突過ぎないかな……上の許可とかは?」

『今日はさっと見学するだけ、との事や。先方も結構必死なんやろなぁ』

 

 私ら何も悪い事してないでー、とはやてが眉尻を下げながら両手を振ります。

 

「それじゃあ、今日は……」

『あ。ちょいまち。それでその演習のメンバーの子がな。フォワード陣と戦ってみたいって言うんよ』

「え?フォワード陣の子達と?」

 

 白い服の女性は眉を顰めます。

 そりゃあそうでしょう。いきなり教え子と戦わせろとは不可解にも程があります。

 もしやこれは新人潰しに来たのでは?と彼女の脳裏を嫌な考えが過ぎります。

 

『まぁ、大丈夫だと思うで?見た感じ、スバル達よりもちっこい子やったし』

「地上本部の新人の子、かな?」

『多分なぁ……もうそろそろそっちに着くと思うから、まぁ、適当によろしくなぁ』

「て、適当って、はやてちゃん、そんなアバウトな……」

『まぁまぁ、私はなのはちゃんを信用してるんよ』

「それは嬉しいけど……」

『そのちっこい子、元気一杯で悪い子には見えんかったし、まぁ悪い事にはならんやろ』

 

 はやては腕を組みながら笑います。

 そんな様子に白い服の女性こと、なのはは溜息を吐きます。

 

「仕方ないなぁ。それじゃあ、その子の事は私の方で対応しておくね」

『ん。よろしゅう頼んます。ほな』

 

 さいならー、と軽い挨拶と共にウィンドウが閉じられます。

 多分これから査察官と腹の探り合いでも開始するのでしょう。

 そっちもそっちで大変そうなので、私も頑張らねばとなのはも気合を入れます。

 その直後でした。

 

「あっ、ここか!すいませーん!高町一等空尉ですかー!?」

「ん?」

 

 振り向くと、隊舎の方から土煙を上げて凄い勢いで走ってくる少女がいました。

 少女は黒い髪を整えながら、なのはの少し手前で止まります。

 もう来たんだ、と思いながらも念話で教え子達を招集するのは忘れません。

 なのはは出来る女なのでした。

 

「すいません。いきなり押しかけちゃって!」

 

 びしっと少女は敬礼します。

 なのはは少女の様子に苦笑しながらも地上に降り立ち、少女と向かい合いました。

 

「高町なのは一等空尉です。いらっしゃい。今日はよろしくね」

「こちらこそよろしくお願いします!えと、私は――」

 

 笑顔で少女はなのはへと挨拶をします。

 数分後、なのはの教え子達の悲痛な叫びが機動六課に木霊しますが、どうでも良い事ですね。

 今日も、ミッドチルダは平和でした。

 




スバル達は犠牲になったのだ……。
無邪気な最強の、その犠牲にな……。

ここまで読んでくださった方々に最大限の感謝を。
そしてなんかなのは成分が凄まじく薄くてすいません。
ついカッとなってやりました。(清々しい笑顔)

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