とある冥闘士の奮闘記   作:マルク

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更新が1か月近く遅れて申し訳ありません。現実で色々ありました。(祖母の他界、スタッフの一人が入院とか)

気が付いてみればお気に入り件数が144件!!
私の駄文を楽しみにしてくれて有り難うございます。

今回は私の独自の考え方が書かれているので、不快に思われる方が出てくるかもしれないのでどうかお許しください。


06/修行(前編)

 

 

 

 

 

古代ギリシャ神話にハーデスという神が存在する。

天界のゼウス、海界のポセイドンに並ぶ実力者で冥界と死者を総べる神である。悪霊や悪魔も彼を恐れ、その名を聞いただけで震え上がってしまう程の力を持つ。ハーデスは罪を悔い改めない人間の醜さに耐えきれず、断罪する為に地上へ侵攻を開始する。

そんな彼を守護する魔星を宿星とする108人の戦士達がいる。その数は天に36星、地に72星。魔物や精霊の形を模した鎧である冥衣(サープリス)に身を包む彼等こそ冥闘士(スペクター)。ハーデスに絶対の忠誠を誓う戦士である。

 

 

 

そんなハーデスに対抗する神が存在する。その名はアテナ。

大神ゼウスの娘である彼女は、甲冑を纏った成人した姿で生まれた。彼女は同じゼウスの子供である『破壊、殺戮、狂乱』といった戦場の闇を司るアレスとは異なり、『栄誉、計略、守護』といった戦場の光を司る神である。

神々と数々の死闘を繰り広げる彼女だったが、彼女は決して一人では無かった。彼女にも己を護る者達がいたのだ。

その名を聖闘士(セイント)。北天に29南天に47、そして北天と南天を分ける黄道にある12の星座。彼らは各々の守護星座を持ち、星座を模している聖衣(クロス)を身に纏って戦う。この世に邪悪が蔓延る時、必ず現れると言う希望の闘士である。

 

 

 

 

 

おはようございます、こんにちは、こんばんは。日本を文字通り飛び出して、修業の旅に出た行人です。今の俺の状況を説明すると……。

 

「おい、ちゃんと聞いてんのかァ?小宇宙とは何か説明してみろ。」

 

目の前にはどこから持ってきたのか、黒板の前でチョークを片手に立っている杳馬の姿がある。

 

 

分かりますか?俺はとある土地で只今座学をしています。原作でも魔鈴が星矢にやっていたけど、この人の場合は違うのである。

なんと実技よりも座学の時間の方が長いのだ!!(比率にすると7:3くらい)

 

 

杳馬もとい師匠の話では

『日本語しか話せない様じゃ、後々苦労するだろ?今のうちに小宇宙の概念だけじゃなく、異国の言語や文化、神話、雑学、etcを習得してもらうぜ。』との事である。

 

今後の生活の為にも俺は大人しく受けているのだ。英語は割と楽(らく)にできているが、ギリシャ語やドイツ語になると結構キツイ。頭を切り換えるのが大変だから、同時進行で教えるのは止めて欲しい。この人は俺に何か国語覚えさせる気なのだろう。それでも授業についてこれるのは俺がまだ子供だからかもしれない。確か子供の方が大人の時よりも記憶力が良いという話を聞いた事がある。

 

 

「この世界は『大宇宙』という元々一つの塊だった。それが約150億年前に起きた『ビッグバン』という大爆発により、星雲、銀河、星、そして生物へと分裂していった。つまり我々の肉体は大宇宙の一部である『小さな宇宙』という事である。これが『小宇宙(コスモ)』と言われる所以である。神に仕える戦士達は己の小宇宙を感じ取り、更に燃焼させる事で破壊の究極である『原子を砕く攻撃』を可能とする。その他にも光速の拳、絶対零度の凍気、空間移動などの超常現象を引き起こす事ができる。」

 

師匠の質問に答えると、満足したのか授業が再開される。

ああ、早く小宇宙を自在に使いこなしたいなぁ…。こんな事で強くなれるんだろうか?

 

 

そんな半信半疑で修業を続けてある日の事…。

 

師匠に言われて小宇宙を燃やした時に異変が起こった。

 

いつものように小石が散らばる地面の上で座禅を組み、一度深呼吸をしてから自分の中に意識を集中させる。心臓の鼓動の高鳴りが少しずつ大きくなり、それとは逆に周囲の音が聞こえなくなる。しかし次第にその鼓動音すら聞こえなくなってきた。

 

「よしよし。その調子で意識を内側に向け続けろ。体の中に生命エネルギーが満ちているのが分かるはずだ。」

 

師匠の言葉に従って必死に探してみる。

 

内へ、内へ、ひたすら内へ……。

 

すると、それらしきモノを見つけた。

光の粒子が何千、何万と其処に漂っており、まるで暗黒空間に浮かぶ星々の様だった。

 

(これが……小宇宙。)

 

この光景を見ていると、これを内包する自分の体が宇宙の一部と言う意味が良く分かる。その幻想的な光景に目を奪われているところに、師匠の声で現実へと戻される。

 

「次の段階に進むぞ。そいつを泉の状態、つまり『銀河』にして少しずつ汲み上げて、それをまた少しずつ飲み干せ。最後はその水を全身に張り巡らせるイメージだ。」

 

師匠の言う通りにすると体が炉の如く熱くなり、あらゆる感覚が研ぎ澄まされていった。

全身で空気の流れを感じ取る事で、虫や鳥、草花などの周囲の情報が頭に流れ込んでくる。目を開ければ、遠くに飛んでいる鳥の羽の枚数すら数えれそうだ。

 

精度が上がっているんだろうか?なんだか前よりも鮮明に、長時間持続できているような気がする。さっきの小宇宙も星の数が増えていたような……。

 

「あのー師匠。なんだか前と比べて小宇宙の量が増えている気がするんですが?」

「そりゃ増えてないと逆にマズイだろ?俺の修行が無駄だった事になっちまう。」

「ですが聖闘士の場合ですけど、小宇宙を高める訓練って命懸けの修行が必要のはずですよね?俺はここに来てから座学が中心だったのに何故でしょうか?。」

 

具体的な例を挙げるならば、断崖絶壁でポールに足を引っ掛けて腹筋千回とかね。

 

「分からない事がありゃ、すぐ人に聞くのはテメエの悪い癖だぜ。少しは自分の頭で考えるこった。」

 

そう言われて考えるが、なにせ情報が少なすぎる。ウンウン唸っていると、見兼ねて師匠が助言を出す。

 

「小宇宙を燃やすのに必要なモノってな~んだ?」

「不屈の闘志や強い決意とか?」

「ブー、不正解。」

 

掠りもしない自分の答えにヘコみながらも、原作を思い返して再挑戦する。

 

「第七の感覚(セブンセンシズ)?」

「う~ん、半分正解だなァ。」

 

この線であっているなら、もっと深く考えてみよう。

俺が師匠の剣を見切った時、無我夢中だったからあまり覚えていない。ただ睨みつけていただけだ。

 

睨む。

 

じっくり見る。

 

集中?

 

「集中力……ですか?」

 

単なる思いつきなので、恐る恐る師匠に尋ねてみる。

 

「ピンポ~ン。大~正~解♪」

 

「いいか?小宇宙と言っても第七の感覚(セブンセンシズ)という『感覚』を使って引き出している。感覚なんだから研ぎ澄ます事が可能だ。それには何が必要かって?集中力、

concentration(コンセントレーション)しかねェだろ。」

 

遠くを見るには目を凝らせばいい。

小さな音を拾う為には耳を澄ませばいい。

 

集中力を研ぎ澄ますには、命懸けの修行は必ずしも必要ではない。座学でも十分可能なのだ。

 

そう説く師匠に俺は頭をハンマーで殴られたような感覚を覚える。さすがは(元)神族。

こんな発想は思ってもみなかった。

 

ただし小宇宙を引き出す程の集中力は尋常ではない。その事について聞いてみると…。

 

「俺との一戦で最大の難関である『小宇宙の覚醒』はクリアしたからなァ。ジイさんに話を聞いたんだが、瞑想も稽古に取り入れていたのが良かった。そして、ここに来てからも燃やし方は教えていたし、きっと無意識に使っていたんだよ。」

 

なんとなく誤魔化された気がしないでも無いが、とりあえず理解はしておいた。

 

 

 

Side:Youma

(ふぅ~、危ねェ危ねェ。うっかり自分からバラしちまうとこだったぜ。)

 

相変わらず我が馬鹿弟子は変なところで勘が良い。まだ自分じゃコントロールできねェから、俺がサポートしていたなんて事が知られたら意味が無ェもんなァ。

 

『ヒーリング』と言う小宇宙の波長を相手の波長に合わせて自己治癒力を上げる方法がある。

杳馬の行っていた事とはこのヒーリングの応用である。座学中に行人の『集中力』を杳馬の小宇宙を使い増幅させ、行人が自身の小宇宙を引き出しやすいようにしていたのだ。口では簡単に思われるこの方法も、実際に行うと恐ろしく難易度が高い事が分かる。未熟とはいえ本人に気づかれないように、小宇宙の量を調節しないといけないからだ。多過ぎては気づかれるし、少な過ぎては効果が出ない。針の穴に糸を通す程の緻密なコントロールが要求される。

 

杳馬の自論だが、人間とは堕落しやすい生き物だ。一度でも楽を覚えてしまうと甘えが出てきて、それから抜け出す事は中々できない。要するに『自分の力で小宇宙を燃やしているのだ』と行人の脳を騙す必要がある。故に杳馬は修業効果が半減してしまわない為に、この事実を教える気は無い。行人が自力で小宇宙を燃やす事ができるようになれば話は別だが……。

 

 

 

「でも聖闘士は何故まだ死と隣り合わせの修行法をしているんでしょうか?安全に強くなった方が都合が良い筈なのに…。まだ誰もこの事に気づいていないからですか?」

 

「おい。疑問を持つのは良いが、すぐ人に聞くなって言っただろうが。俺が言った事もう忘れたのかァ?テメエは何でだと思う?」

 

また頭を捻って考え込む馬鹿弟子を見ていると、なんだかこっちまで疑問が湧いてきた。

 

こいつは決して頭が悪い訳じゃねェ。少しヒントを与えればすぐさま答えを導き出す。なのにこいつは自分の答え、考え、意見、意志をノーヒントで語る事はほとんど無ェ。まるでヒントで相手の考え方、物差しを量っているようだ。つまり、相手が期待している答えを出さないといけないと恐れているようにだ。もしそれが本当なら、こいつは正解しか周りから求められていなかったって事になる。間違い、誤る事は許されない。大人ならそれは仕方ねェだろう。自分や家族を養う為に戦士は命、商人なら財産を賭けて戦わなければいけねェからだ。

 

だが、俺はそれを否定するぜ。そんなものは理想論にすぎねェからだ。現実を知らねェ餓鬼の戯言だ。現実ってのはデカい『壁』だ。人はその壁の向こう側に行こうと、あの手この手を考えて道を選ぶんだが、壁がデカすぎて上手くいかねェ。だから強引な方法を取ろうとする。そして最悪、見当違いなトコに出ちまう。誰だって間違う時がある。道を踏み外す時がある。そう、神ですら堕ちる時があるように……。『大人なんだから間違った事をすんじゃねェ』って言う奴は、今まで運良く間違わずに済んだ奴か、自分が間違えている事にすら気づけなかったタダの馬鹿さ。

 

 

要は大切なのは間違えないようにする事じゃなくて、間違えた後に何をするかが重要なんだよなァ。

 

 

こいつの生き方はある意味不幸と言っていいかもしれねェ。間違う事がある程度許されるのは子供の間だけだ。そして、相手好みの意見は処世術として身に着ける必要がある技術だが、生産性が無ェ。互いの意見がぶつかり合い、新たな第3の考えが生まれる事があるからだ。だから俺はこいつに教えておこう。『テメエはどう思う?』と逆に聞き続けて、こいつに自分の意見を語る事の大切さを。間違いを恐れるなと。間違えたからこそ見えてくるものがある事を……。

 

 

 

 

 

聖闘士と冥闘士の違いは何だろう?『聖闘士にあって冥闘士に無い物』は何かを考えてみよう。

 

聖闘士にあるモノと言えばアテナ?でも、アテナは年端もいかない子供を戦場に出しているので、あまり関係が無い気がする。

 

あとは……。

 

「聖衣?……そうか!!」

 

その言葉を呟いた途端、暗雲立ち込めていた頭の中に急に光が射しこんだ。

 

「いくら聖闘士の資質を高めたとしても、人間の守護星座は生まれた時に決まっている!聖衣争奪戦で敗れたら、その人がどれだけ一般聖闘士並みの実力を持っていても雑兵として務めなければならないって事ですね!!」

 

守護星座が決まっている以上、他の聖衣の争奪戦に参加しても意味が無い。何故ならこの安全な小宇宙の修行法で聖闘士候補生の質や数を増やしても、聖衣の数が増える訳では無いから聖闘士になれない人間が圧倒的に増えてしまうのだ。

 

俺の答えにニヤリと笑みを浮かべて、師匠が自身の答えを語る。

 

「勘の良い奴ならこの修行法に気づいている筈だぜ?だが公表はできない。それは何故か?苦労して聖闘士級の実力を身に着けたのに、たった一度の争奪戦で負けたせいで雑兵として過ごす事になるからさ。さ~て、普通の人間はそんな扱いに耐えられると思うかなァ?」

 

「……難しいと思います。むしろ聖衣を奪おうと闇討ちや暗殺して空きを作ろうとしそうです。聖衣が装着者に選んでくれるかは分かりませんが…。」

 

七つの大罪の一つ、『嫉妬』にどれだけの人間が抗えるだろうか。抗えない者の方が多いと俺は判断する。抗えないからこそ、弱いからこそ、『普通』なのだから。

 

争奪戦に勝ち抜いた後の聖衣による選定も、『星矢Ω』の聖衣の扱いを考えれば楽観視はできないだろう。もしかしたらそんな者達すら選んでしまうかもしれない。

 

 

「だろうなァ。それに聖闘士になるのを諦めて、暗黒聖衣(ブラッククロス)なんてパチモンに手を出す奴も出てくると思うぜ?そうなったら前からは聖戦で戦う神、後ろからはグレた雑兵達で挟み撃ちって訳だ。聖闘士の数が揃っても敵さんも増えちまうなら、意味が無ェだろ?」

 

そんな危険性を孕んでいるからこそ、命懸けの修行でふるいにかけるのだろう。早めに脱落し、違う職業を選ぶのも一つの手だからこそ。

 

 

「だからこの修行法はよっぽどの事が無い限り、表に出る事はありえ無ェ。それこそ聖闘士の中でも最強を誇る『黄金聖闘士の全滅』とか起きない限りはなァ。」

 

他人の不幸は蜜の味と言わんばかりに、アテナ軍の裏事情を悪魔が嗤う。

 

そして、そんな厳しい試練を乗り越えてきた者達が晴れて聖闘士になれるという事か。敵の強大さを改めて思い知り、俺はより一層修業に打ち込むのだった。

 

 

 

 




無印星矢から星矢Ωになって、聖闘士の低年齢化とゆとり世代の理由を考えてみたらこうなりました。

皆さん思うところがあるでしょうが、どうかご容赦ください。

現代っ子が無印星矢の修行法に耐えられる根性を持っているとしたら、転生前も相当優秀な人間だったんじゃないかと思ったものですから。(一応、この主人公の前世は凡人としています。)

このままだと主人公は戦力に不安があるので、強化プランは考えています。

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