今回はとにかく戦闘描写が難しかったです(現実の忙しい事も理由の一つですが)
それもこれもチート級の技を持つ『あの2人』が悪いんですよ(責任丸投げ)
あと忠告を一つ…。今回は話の都合上、アンチ(?)描写があります。蟹座ファンの方は御注意ください。それでも構わんという剛毅な方…どうぞ御覧ください(ガクブル)
カツン、カツン…
甲高い金属音が響き渡る室内には二人の人間がいた。一人は金槌とノミを振るう老人、もう一人は手首から血を流して静かに相方の作業を見守っている若者。
二人の前には一体の
男達はそんな
数時間かけて作業を終えると、今まで血を与えていた男は一礼して
「さっきの男――あ奴が生きておれば同じくらいの年齢じゃったな…」
誰ともなしにそう呟きながら老人は窓辺に腰掛ける。傍らにある容器に水を注ぐと、星明かりで照らされた大地を肴に晩酌を始めた。グビッと杯を傾け喉を潤し、火照った体を冷ます。彼の胸中は達成感のほかに、どこか虚しさを感じていた。
それもそのはず、
(いかんな。若くないせいか、どうも最近弱気になっておる。これではセージの奴に笑われてしまうわい)
教皇となってアテナの代わりに地上を守り続ける。そんな重責を担わせてしまった弟に、老人は後ろめたさを感じていた。かといって、教皇になりたかったわけでもないので修復師の道を選択した事に後悔はない。やるせない気持ちを抱えて生きていくしかないのだ。
(せめて聖戦の生き残りがもう一人いてくれたら、こんな思いはしなくても済んだのかもしれんのう)
教皇の仕事とは
老人は教皇代理という地位に就いているものの、あくまで教皇に何かが起きた時の
そもそも老人は既に高齢で現役を引退している。老兵がいつまでも居座っては若い芽が芽吹くことは決してない。自分達の守り抜いた時代で生まれた子に託すのが筋だろう。
老人の口から溜め息がこぼれる。
『分かったのだ…。どこまで行っても私は人間…愚かな本質は変えられん。だからこそ…世界と私には導きが必要だったのだ…!』
最後までいがみ合っていた
『250年だ…ずっと信じた…。世界はいつか平和になると、思い描く理想を人々は求めていると。だが――だが250年の疑念は深まる。人間とはもともと悪性なのではないかと…』
まだ若い老人達に理想を託して逝った恩師の声が――
老人――
聖戦で大勢の命が散った。確かに気の合う者達だけではなく、不仲な者もいた。だが、そんな彼らを一つにまとめていたのは希望があったからだ。
この聖戦の先には平和な世界が待っている。一途にそう信じて戦い…死んでいった。
だというのに結果どうだろう。自分達が守り抜いた命を、同胞である人間が奪っていく。己の努力を侮辱するに等しい行為を彼らは許せなかったのだろう。彼らの出した結論は武力を持って人類を矯正するという暴挙だった。その時の戦いは歴史の表に出てはならない影の歴史として、ごく一部の者にしか語る事は許されていない。
あれから月日の経つ事200余年――世界はいまだに変わらない。
いつか、やがていつかは理想の世界が来る。人の心に悪はあっても、それは善悪の狭間でもがいているにすぎぬと信じて…。
(そう、人間とは尊いのじゃ)
その信念を胸に
聖戦後も本来の修復師としての業務だけでなく、後進の育成にも努めてきた。自分達の思いを受け継ぐ後継者を育てる為に…。
そうして日々を過ごしていくハクレイの下に、とある少年の噂が届く。ある日、教官が候補生達の前で技を実演した時にそれは起こった。
『おい。今の技を使うのにアンタは
彼の言葉に、称賛を受けて得意げになっていた教官は凍り付く。他の候補生達はというと、何のことを言っているのか理解できないらしく怪訝な様子で二人のやり取りを見つめるだけだった。
この時点で少年と候補生達との間に決定的な差ができていた。
鬼蒼炎という技は、召喚した
現世で死を迎えて常世に行き、再び現世に還る。これぞ輪廻転生という魂の循環のメカニズム。それは水の流れによく似ている。海水が日光で蒸発し、雨となって地上に降り注ぎ、最後は河を辿って海へと戻る。
しかし、魂そのものを消滅させてしまってはこのシステムが成り立たない。更に、強靭な魂を持つ敵を破壊するには、要する人魂の量が倍増するのだからバランス崩壊が起きやすいという一面も無視できない。
これほどコストパフォーマンスのかかる技ならば失伝してもおかしくないのだが、今でも残されているのは勿論理由がある。
人類の守り手である
肉体を失ったとしても魂が無傷な場合、ある程度の時間があれば復活してまた人々を脅かしてしまう。そんな人外には『封印』する程度しか対抗策が無く、何人もの
助けた人々にもたらした平和を仮初のモノにしない為に、先人が苦節の末に編み出した技こそ『鬼蒼炎』なのだ。
生者を守る為に死者を犠牲にしなければならないという矛盾を孕んだ闘士。
そういった背景があるせいか、積尸気使い――特に使い手の中で最高峰ともいえる
このような事情があり、積尸気使いはそのバランスを破壊しかねない存在なのだ。本来ならこれ見よがしに使用していいものではなく、ハクレイも
誰もが技の見てくれに心奪われる中、ただ一人『本質』に目を向けた少年。出来事の経緯を聞いたハクレイは運命じみたものを感じてならなかった。
人類の守護者と称される
だからこそ教皇補佐である
ハクレイは少年の中にアテナ軍が掲げる大義に惑わされる事のない信念を感じた。それは己の道に疑問を抱く
善は急げと言わんばかりにハクレイはそのまま少年を直弟子として引き取った。一介の
だがハクレイは少年を見誤っていた。少年の芯――信念は彼が予想していた物を遥かに超えていたのだ。
目を閉じると少年との最後のやり取りが、今でも鮮明に思い出せる。
『まるで妻は浮気などしていないとひた向きに信じる夫のようだな。流石は我が師――俺にはとてもできない事をやってくれる』
『師よ。少しは女心というものを学んではいかがかな? 女という生き物は基本的に我が儘な生き物よ。浮気の理由も夫に飽きたから、寂しかったからなどの自分に都合のよい逃げ道を用意している。ここで信じているから何もしないという選択肢は、女共をつけあがらせるだけでしょうに…』
『女共は知りたいのですよ。自分は愛されているのか否かを…。追求しなければ夫は自分に関心が無い、つまりいてもいなくてもどうでも良い存在なのだと判断するでしょう。
俺はそういう
『簡単ですよ。ある時は言葉で、またある時は拳を叩きつければ良い。それだけで捨てられた子猫のようにしおらしくなる。人間も同じように扱えば良いでしょう…』
苦悩の末に導き出した
師としてはのたれ死んでいないかと心配の一つでもするべきなのだろうが、ハクレイは少年がしぶとく生きているだろうと確信していた。腐っても教皇代理である自分が見込んだ逸材が、惨めに世を呪いながら死んでいくとは到底思えない。
しかし、ハクレイにはどうしてもできなかった。まだ幼かった頃、未来の族長候補として弟と共に鍛えられていた彼に
長の言葉通り、
恩師ができ、仲間ができ、そして
(長の言葉がなければ、ワシは惰性で長という地位を継いでおったかもしれんな)
少年を破門したのも、そういった経験に基づいての判断だった。あの少年の器は
「『
若造の時ならいざ知らず、今や
「アヴィド――お前の目にこの世はどう見える…」
人里離れて建てられた館の周囲は一面岩場しかない。だが遥か彼方にチラホラと小さく光が見える。まるで星のように美しく輝くそれらの一つに己の馬鹿弟子もいるのだろうかと考えながら、ハクレイはまた杯を傾けるのであった。
◆
「チッ!」
魂葬波による炎と暴風が、杳馬の接近を阻もうと吹き荒れる。けれども先程からその炎は一撃も彼を捉える事が出来ていなかった。いずれも紙一重でかわされている。
「おいおい期待外れさせんじゃねぇよ! さっきから外してばっかじゃねぇか! もっとしっかり狙いなァ!!」
時間を操る杳馬でも、さすがに予知能力までは持っていない。そんな彼がどうして正確に躱せるかというと、ごく単純なトリックだった。
杳馬は敵の動きではなく、殺気を感じ取っているのだ。
どんなに
「そらよ!」
杳馬の飛び蹴りをアヴィドが腕で受ける。それを狙い通りと、杳馬は足を腕に引っ掛けてそこを起点に曲芸師の如く我が身を回転させた。その動きにより遠心力が上乗せされて、アヴィドの後頭部目掛けて裏拳を叩きこむ。
首を前に倒し回避するアヴィド。空振りしたせいで上体が前のめりになり、杳馬に隙が生じる。
「ムン!」
アヴィドの指が握りしめる4本の葉巻。それが杳馬の背中で魂葬波となって炸裂した。
「がッアぁアアアアアアア!?」
単発でさえ厄介な魂葬波が4発同時に撃ち込まれ、さしもの杳馬も苦悶の声を上げながら元来た道へと吹き飛ばされる。
「これで終わりだ…」
アヴィドが指をクンッと上にあげると隆起した地面が獣の顎を模して獲物に喰らいつく。咀嚼を繰り返し余韻に浸る獣に向けて、飼い主の必滅を込めた号令が飛ぶ。
「積尸気魂葬波!!」
蒼き閃光が迸り、一瞬この場から音が掻き消えた。粉塵の中より現れし光柱が、悪魔を浄化せんと空に十字を刻む。誰が見ても勝敗は決した――そう思えた。
「お~怖ッ! 葉巻吹かして余裕こいてると思ってたら、それも人魂で作ってんのかよ!? 悪趣味な野郎だぜ」
だが、悪魔は生きている。
先の一撃はたとえ師であるハクレイでさえ受ければ致命傷は免れないだろうとアヴィドは自負している。それを受けてなお平然としている敵を見て、咥えている葉巻がギシリと軋む。
(こいつ…本当に人間なのか?)
(これが
一見アヴィドが優勢に見えるが、実際のところ杳馬の方に分がある。魂葬波を撃てば撃つほど、縛砕陣を構成している人魂の量は減少する。いくら攻撃を当ててもダメージを与えられないのならば消耗するだけだ。弾切れを起こして陣を維持できなくなるのも時間の問題だった。杳馬の隠している力の正体が分からない以上、それは得策ではない。
かくいう杳馬もアヴィドの実力を高く評価していた。
目の前の男は明らかに
深追いできずお互いに攻めあぐねいている中、杳馬が問う。
「しかし分からねェな。テメエはなんでそこまで
グスタフ、ラドル…すでに何人もの命が
「纏えるかどうかなど俺には些細な問題よ。この世で究極の欲とは何だと思う? それは『不死』よ。この世でいくら財を成そうと…武を極めようと…覇道を進もうと…俺達には生命という限りがある。それが
アヴィドはそう言うと、葉巻を一息吸い紫煙を吐き出す。
「かつて俺の師はこう言っていた。『我らの内なる
人間の
そう言い放つと、アヴィドは手にした葉巻を空に掲げる。すると二人の周囲にいた亡者達が身を震わせ、人魂へと姿を変貌させた。それらは彼の頭上に集結し一つの個を形成する。
「欲望のままに
積尸気によって強制的に集められた人魂に向けて、葉巻から燐気が放たれる。生成された物体は例えるなら『蒼い太陽』と言えばいいだろうか。本来光の差さない黄泉平坂を蒼く染め上げる様は、アヴィドの宣言通り彼の色で塗り潰されたかのようだった。
そして、杳馬はまだこれが悪夢の序章でしかない事を思い知る。
遥か彼方より一つまた一つと、空を覆い尽くさんばかりの数の人魂が太陽に引き寄せられていく。
燃え盛る炉に薪が放り込まれるように、人魂を取り込む毎に太陽はその大きさを、熱を、光を増していった。さらに――
アァアアアァツイィイイイ…アァツィイヨウォオオオオゥウウ…
オガァアアァアザァン…ダヂゲデ…オガァアアアァザンン…
ゴォメンナザイィイイ…ダレカ…ダレガァアア…ア、アア…
耳をつんざく絶叫が黄泉平坂に木霊する。老人、若者、子供、異なる言語の悲鳴も混じっている。ありとあらゆる人間の魂が、アヴィドという魔人ただ一人の手によって火炙りに処されているのだ。
その場にいるだけで正気を失いそうになる光景を、杳馬はただ無表情で見つめている。
「ハハハッ、気に入らんか? 俺には聖歌隊のコーラスに聞こえるんだがな! 見るがいい! これこそ俺の力! これこそ積尸気の真髄よ!! 他者を喰らい、己の糧とする!!!
億の魂で倒せぬなら兆を! 兆の魂で倒せぬなら京を! 京の魂で倒せぬなら垓を! 足りんというのなら、足りるまで注ぎ込むまでだ!! なにせこの地には魂が腐るほどあるのだからな!!!」
積尸気使いの対神用奥義『
腹立たしい事に、アヴィドにはどうしてもこの技が使えなかった。
その名も『
転霊波に比べてはるかに大量の人魂を要するが故に、現世では作るのに時間が掛かってしまうのが難点だ。けれども、魂の残数や技を撃つのに要する体力を考慮すればこの場では最も適している技だった。
絶体絶命の状況にもかかわらず、杳馬はというと何一つ反応しない。
アヴィドの蛮行を止めもせず、非難するわけでもない。ただ何の感情も示さず、彼が準備を整えるのを待っているだけだ。
その余裕の姿勢が癪に障るのか、アヴィドはある事を口に出す。
「ああそういえば、お前の弟子がヴァレリーを倒したようだな…」
「あん?」
「安堵しているようだが、師弟揃って肝心な事を忘れていないか?」
アヴィドの意味深な言葉を、杳馬は頭の中で反芻させる。恐ろしい思考速度で今までの言動からヒントを探していく。
そして――
「ッ!? てめえ!」
弾かれたように飛び出して杳馬が跳びかかるも、いつの間にか左手に持っていたアヴィドの葉巻によって魂葬波を浴びせられる。
「大人しくそこで見ているがいい。お前の弟子が死ぬ様をな!!」
◇
「う、グッ…い、生きて…る?」
傷の痛みを堪えながら、行人がゆっくりと起き上がる。腹部の傷口を見てみると不思議な事に血が止まっていた。
「ようやく起きたか。“真央点”を突いたとはいえ、手遅れと思っていたよ…」
声をかけられた方を見やると、ヴァレリーが壁にもたれ掛るようにして座っていた。
「あ…あなたが助けてくれたんですか。なんで敵の俺を?」
「礼なら僕じゃなく、それに言うんだね」
言われるがまま行人が視線を向けると、今の位置からやや3mほど離れた場所。辺り一面に広がるはずの血溜まりが、その地点から広がる事なく止まっていたのだ。
「まさか!?」
この不可解な現象に心当たりがある行人は注意深く床を調べ始める。すると案の定、不自然な切れ目を見つけた。床板を剥がすとそこには、探し求めていた
「
「そうですか…」
助けるつもりが逆に助けられてしまったという話に、行人は内心複雑な思いを抱く。
「では約束通り、これは俺が貰います」
「好きにしたまえ。このダメージ……暫く動けそうにない。でも…そう上手くいくかな?」
ヴァレリーの言葉を不審に思い、行人は周囲を確認する。
「そういえば、何だか――暑…い!?」
気づけば室温がジワジワと上昇しており、まるでサウナ特有の息苦しさを感じさせていた。慌てて部屋のドアに向かい、扉に触れないように掌を掲げる。そうして扉から伝わってくるのは、異様に猛り狂う
「
「そ…そんな。仲間がまだ生きているのに!!」
「さあ? 『死人に口なし』ってやつじゃないかな。子供に
言い終えるとヴァレリーはそっと眼を閉じて自身の半生を思い返す。孤児院で資質を認められ、
(我ながら碌でもない人生だ)
一体自分はどこで間違えてしまったのだろうか。もしこれが
例えそれで人間が滅びたとしても、それはそれで仕方がないだろう。神々の怒りを買わずに生きるには、人間は醜悪すぎたのだ。
自分を初めとした、これほど大勢の人間の命を犠牲にしなければ維持できない平和に価値があるとは思えない。だからこそ、アヴィドの言葉は麻薬のように心を蝕んでいった。
『“神”にとって人間など、放っておいても次から次へと生まれてくる存在よ…。アテナもまた“神”の視点でしか物事を捉えきれんからこそ、
どんなにお優しかろうが、神は神でしかないという事だ…』
兵士を使い捨てにするというならアヴィドもいい勝負だが、
だって彼女は神だから――
だって神と人間とでは見ているものが違うから――
「…っグ!」
思い出すだけで
「でぇえええぇい!!」
カップは2人が落ちてきた穴を飛び越えて、船のメインマストに到達する直前で四方から伸びてきた鬼蒼炎により炭すら残さず焼き消されてしまう。
「クソッ!」
脱出口を探そうとしても無駄だ。この鬼蒼炎の包囲網からは逃げられない。ヴァレリー達もこの事態を考えていなかったわけではない。不要とみなされた仲間が突然発火した鬼蒼炎で燃やされていく。そんな光景を何度も見続けた彼らは、そのトリックが首領から渡された金貨を初めとした
しかし結果はこの様だ。
「あ…え~と、ヴァレリー……さん。何か秘密の脱出口とかありませんか?」
「ハッ! そんな都合のいいモノ有るわけないだろう。有ったらとっくに僕が使っているさ」
行人の問いを鼻で嗤いながら、夢も希望もない答えをヴァレリーが返す。すると今度は、彼が予想もしなかった提案をしてきた。
「ヴァレリーさん、恥を承知の上でお願いします。俺に力を貸してください。ひょっとしたらここから脱出できるかもしれません…」
そう言われつつ己の前に置かれた“あるモノ”を見て、ヴァレリーは眼を見開く。成程、
「…一応聞くけど、どうやって知ったんだい? 話したことは無かったはずだよ」
「最後の一撃を受けた時、
それを聞いたヴァレリーは思わず顔を顰める。
「何が…見えた?」
「多分…
そうして一呼吸置くと、行人は言い難そうに続けた。
「そして――あなたが
「なら返答は分かるだろう。“お断りだ”…助かりたければ自分で何とかするんだね」
「勿論タダとは言いません! 手伝ってくれるのならば
そう言い放ちドンッと置かれたのは、先程まで二人が命懸けで取り合っていた物――
「ッ!? 正気か君は! 自分が助かりたい一心で
行人の常軌を逸した行動に、ヴァレリーは傷が痛むのも構わずに声を荒げる。
「
「青いな…少年。
「その時は…地の果てまで貴方を探し出しますよ。そして改めて貴方に決闘を申し込みます。さっきの戦いで勝敗は1勝1敗…。今度こそ決着をつけましょう」
自分を見つめる真っ直ぐな瞳。幼いからこそ持ちうる事ができる輝きは、穢れた
(チッ! 現実を知らぬ子供め…)
行人の言い分はともかく、戦士として納得いく決着をつけたいという考えは悪い気はしない。しばし考えた上でヴァレリーは答えを出す。
「……まぁ良い。僕もできる事なら死にたくはない。だが、確率は良くて2割にも満たない。失敗に終わっても恨まないでくれよ」
「大丈夫ですよ。鬼蒼炎で死ねば魂そのものが消えて無くなるんです。だったら恨む事も苦しむ事も無いでしょう」
どこかピントのズレた慰めの言葉で思わずヴァレリーが笑ってしまう。それを見てキョトンとするも、行人も吊られて声を上げて笑った。
死がすぐそこまで迫っている危機的状況で緊張感のない笑い声が木霊する。敵同士だというのに、屈託なく笑い合える事にヴァレリーは内心驚いていた。ひょっとしたら、人が解り合えるというのは自分が考えているよりももっと簡単な事なのではないだろうか。
不思議とヴァレリーはそう考えてならなかった。
船尾から船嘴に向けて蒼き炎が行軍する。理不尽な暴力に船は為す術なく、大海に身を委ねようと傾きだす。
極上の獲物にありついた獣の如く、蒼炎は次々と船室を貪っていった。そして、とある一室へと辿り着く。中から感じ取られるのは
扉に喰いつき、最後の護りを破った蒼炎が目にしたのは2人の人間。背にはヴァレリーを、胸には
「ホーリースパウト!!」
一気に吐き出されたものは聖人の血とも称される水――葡萄酒。ヴァレリーによって
念の為に言っておきますが、鬼蒼炎の解釈は私独自のものという事を忘れないでください。
何度アニメや漫画を見直しても、人魂召喚→鬼蒼炎の流れだったんです。まあマニゴルドが燃やしていたのは悪人の魂だったんでしょう…多分。