では、こんな駄文ですがどうかよろしくお願いします。
ここはどこだろう?仕事の帰りで電車に乗っていたら、日頃の疲れによって眠ってしまったとこまでは覚えているんだが。気がついたら真っ白な空間で横になっていた。
「おお、ようやく目を覚ましてくれたか。後はお主だけなのに、ちっとも起きんから無理やり起こそうかと思とったんじゃが。」
声のした方に目を向けると、白い衣を羽織った髭を生やした老人が佇んでいた。
「あのー、ここが何処だか教えてくれますか。私は電車に乗っていたはずなんですが。」
とりあえず現状を把握する為、気になる点を解消しよう。
「誠に気の毒じゃが電車は儂のミスで事故に遭ってのう、お主は既に死んでおる。此処はあの世とこの世の中間地点と言った方がお主には分かり易かろう。」
まさかとは思ったが想像通りの答えが返ってきてしまった。
「となるとあなたは神様か天使様という事ですか。一般人でしかない私に御足労頂き有り難うございます。」
言いたい事は色々あるが、とにかく『目上の方には礼儀正しく』を信条として行動しておいた。社会人の悲しい性である。
「意外と冷静じゃの。ほとんどの人間は激昂して突っかかってきたのじゃが。」
「ジタバタしても仕方ないかと。あなたに私を生き返らせてくれる力があるなら、起きる前に使って元の場所に放置しておけば、神の存在を認識されることもない筈ですから。」
俺はそう言って神(自称)の疑問に答える。
「フォッフォッフォッ。その通り、儂には生き返らせる力などない。神といっても死神じゃからな。一方的に奪うだけよ。」
満足そうに笑っているが、俺はその言葉に胃が痛くなる。死神かい!!ますます言葉づかいに神経を使わなくては 。
「死神であるあなたが私に何の御用でしょうか?」
「うむ、お主が死んだのは此方でも予定外の事故でな。これから別世界に転生してもらう。」
「ちなみに事故とは?あと私以外にも乗客がいた筈なんですが、彼らはどうなったんですか?」
まさか自分だけ特別扱いじゃないだろうな。なら気まず過ぎるぞ!!他の方々に申し訳が立たない。
「安心せい、あの電車の乗客だけではなく車掌、運転手含めて転生させておるわい。お主が最後の一人という意味よ。」
それは良かったけど、いくら終電近かったとはいえ結構な数になるぞ。皆納得していたんだろうか?
「大丈夫だ問題ない。天才テニス少年から魔法先生まで選り取り見取りじゃったからのう。」
ドヤ顔でキメ台詞を言う死神の顔に拳を入れようか一瞬考えてしまったが、話を聞いて少し呆れてしまった。どういう理由でその世界を選んだか一発で分かったよ!!
「電車の方は儂のクシャミで脱線事故じゃ。最近、花粉症がきつくて敵わん。幸いと言ってはイカンのじゃろうが、電車に乗っていた者達以外で死傷者はおらんよ。」
それを聞いて安心したが、脱線事故に気づかず眠り続けていた俺って一体……。
自分のあまりの間抜けぶりに死にたくなる。(もう死んでるけどね。)
「話を戻すがお主は何処の世界に行きたい?アニメやゲームの世界が人気じゃがのう。」
「でしたら聖闘士星矢 Lost Canvasの世界で冥闘士になりたいです。」
「頭は大丈夫かの?」
いきなり頭の心配をされたよ!!
「何故敗北する側に転生するのか理解できんのじゃが。ここは普通、黄金聖闘士になって無双してみたいとか言うところじゃろ?」
神のもっともな言葉に俺は答える。
「一度死んだ人間が蘇るという設定だからハーデス側が自然かと思います。それにサーシャは好きだけど、アテナは少し苦手なんです。」
「どういう意味じゃ?」
死神が不思議そうに首を傾げる。正義側のトップを苦手と言うのだから当然の反応である。
「星矢にハマってギリシャ神話を読んだ事があるんですが、アテナは結構すごい性格してるんです。」
「あー、それは否定できんのう。神話の女神はほとんど気が強いし…。」
死神はしみじみと頷く。どうやらアテナの所業はこちらでも有名らしい。
例を挙げればメデューサの1件がある。
アテナとポセイドンがある都市で勝負を行った。『勝者の方の神が都市の領有を得られる』という内容である。ポセイドンは塩水の泉を作り、アテナはオリーブの木を作った。そして民はアテナを勝者とし、都市名をアテネ(アテナイ)とした。その結果に不満を持っていたのが、ポセイドンの恋人メデューサである。メデューサは美しい人間の女性であり、特に髪が自慢であった。その為、メデューサは『私の髪はアテナよりも美しい』と自慢してしまう。それに怒ったアテナはメデューサの髪を蛇に変え、姿さえも醜い怪物に変えてしまい、神々すら羨む美貌は見た者を石に変えてしまう異形に変わってしまったのである。これがゴルゴンの誕生である。その事についてメデューサの姉でもあるステンノとエウリュアレは元に戻して欲しいと訴えるが、アテナはその二人すらゴルゴンに変えてしまったのである。諸説は色々あるが、アテナのせいでゴルゴンに変えられたというのはどれも同じだった。
そういう訳で気の強い城戸沙織の方がある意味アテナの性質を正しく受け継いでいるのかもしれない。彼女はまさしく女帝だしね。それに比べてサーシャは気の優しい娘なので好感が持てる。
「星矢の話がどれだけギリシャ神話に基づいているかは分かりませんが、ハーデスが極悪人とされているのは少し残念なんです。」
ハーデスは神々の中でもまともな性格をしていたからな。
「つまりハーデスを更生させる為に転生するのか。それも面白いのう。」
「いえ、それもできたら良いなと考えていますが、本当にやりたい事は別にあるんです。」
そうハーデスの考えを、たかが一介の冥闘士が変えられるとは思えない。だからあの世界では元の世界ではできなかった事をしたいのだ。
「ほう、良ければ教えてくれんかのう。」
「ええ、それは……。」
「ますます面白い!!お主は頭がイカレとる。お主のような奴は初めて見たわい。」
俺が理由を話し終えると、死神が珍しいものを見たと豪快に笑う。
「転生するならオリジナルの冥闘士がいいです。原作キャラの代わりなんて荷が重いですから。」
「それなんじゃが、冥闘士になりたいならならまずこれを書いてもらおうか。」
そうして渡されたのは社会人なら見覚えのある、あの書類である。
その名も履歴書。
「何で!!何で履歴書?普通、無条件で願いを叶えてくれるものでは?」
確かに企業や組織に自分を売り込む為には必要だけど、転生で書かせられるとは思わなかったよ!!
「お主は神がどうやって力を得るか知っておるか?」
「いえ、分かりません。」
「神は信仰によって力を得るのじゃ。つまり知名度が高い神ほど強く、権力もあるので…。」
「無名の神のあなたはハーデスに履歴書を渡す橋渡ししかできないと。」
「Exactly(その通りでございます)!!」
再びのドヤ顔に苛立ちながらも、大人しく履歴書に書き込んでいく。それを見つめながら死神の話は続いていく。
「まあハーデスも転生者をほとんどアテナの方へ取られておるから検討してくれると思うぞい。転生者の信仰もポイントに入るからのう。彼も物語の中とはいえ自分の分身が嫌われて苦労しておるようじゃ。」
「ハーデスって何人もいるんですか?」
「元となったハーデスと様々な物語で登場する架空のハーデス達じゃよ。神は様々な形で人に知られておるが、モデルがおらんとそれも生まれないじゃろ。儂が渡すのはオリジナルの方じゃ。そしてオリジナルが原作のハーデスや双子神に働きかけるといったところかの。」
「オリジナルは分身体を止められないんですか?」
「その世界で何千年も生きとるせいで、既に確固たる自我を持ち手が付けられんらしい。もう一人の自分というより兄弟という表現が良いじゃろう。」
最後に一番気になる点を聞いてみる。
「もしハーデスが私を不採用としたら?」
「ただの凡人としてその世界で一生を過ごす事になるのう。」
その言葉にショックを受けながらも、根性で気を取り直した。たとえ冥闘士になれなくても聖戦に参加せずにすんで良いじゃないかと。
「分かりました。その条件で宜しくお願いします。」
「良いんじゃな。最悪、せっかくの第二の人生を何の変哲のない人生で終わるかもしれんぞ。」
「それならそれで縁が無かったと諦めますよ。今この状況だけでも凄く贅沢な立場なんですから。」
そう、一度死んだのに再びやり直せる機会を得たのだ。これ以上を望めば本来罰が当たるというもの。
「分かった。では第二の人生を生き抜くがよい。」
光の粒子となって消えた一人の人間を見送った死神に、声をかける者が現れた。
「すまないな、つらい役目を任せてしまって。」
「気にするな。いつも言っているように、お前にできない事があれば俺がやるだけだ。」
死神が先程までとは異なる若々しい声で答える。
「お前も優しい奴だな。死の痛みを感じぬように眠らせるとは。」
「あの者は数少ないこちら側の信仰者だ。それなりに便宜を図るさ。」
そう言いながら新たに現れた男に死神が不満そうに語る。
「しかし最近の無名神は酷いな。今回は徒党を組んで転生させる為の事故を起こしたぞ。」
「数さえ揃えれば私達も手出しできないと考えたのだろうな。」
「愚かな連中だ、その程度で俺達に敵うと考えるとは。」
そうこの事故は死神達の目を盗んで人間を殺し、神々の間で流行っている転生を行う為に無名神が引き起こしたものである。だがそんな真似は許されない自分達は魂を管理する神なのだから。
「奴らによって死んだ者達は、悔しいがこのまま転生しておくしかないな。」
「ああ、俺達でも死人を生き返らせることはできないからな。ちっ、無名神達が邪魔さえしなければ間に合っていたものを。」
「気を落とすな、前向きに考えよう。そのおかげで、運良く信仰者があの世界に転生できたのだ。」
今回の事故で自分達の信仰者がいたのは、まさしく不幸中の幸いだった。
どうせなら正体を晒したかったが、できない理由があった。
神々の間では信仰だけでなく神秘性もポイントに入るからである。神秘性とは文字通り神秘的な存在を意味する。
例えばAという神がいたとしよう。この神が人間の前で土下座などの情けない姿を見せれば、その神の威厳や尊厳が無くなるのが分かるだろう。人間がそのA神を自分達よりも格下の存在と認識してしまうからである。つまり信仰が『量』なら神秘性は『質』をあらわす。一度崩れたイメージを元に戻すのは至難の業である。故に名のある神は姿を偽ることが多い。
「変えられると思うか?あの方を。」
その言葉に男は目を閉じしばし考える。
(彼には彼の目的があるのは分かる。だがそれでも私達は……。)
「何はともあれ賽は投げられたのだ。ならば我らにできるのは、信じる事だ。」
「もう俺達にはどうしようもないか…。」
悔しそうに死神が俯く。本来自分達がやるべき事を人間に丸投げしてしまったのだ。
「心配するな、彼なら向こうの私達の分身と上手くやってくれるさ。」
「だと良いがな。」
「では早速、主の元へ戻ろう。今回の一件の報告をせねばなるまい。」
そうして二人は自分達のいるべき場所へ帰って行った。
最初はこんな感じですが、どうでしょうか?反応が怖いですが感想お待ちしております。