怠け者の魔法使い   作:ゆうと00

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この話は台本形式で書かれています。
そのような作風が苦手な方はご注意ください。

また、あまりに長くなりすぎたために前後編に分けることとなりました。
スペシャルサンクスにつきましては、次話の後書きに記載致します。


番外編6 『ネットラジオ・208プロの片隅にて(前編)』

奈緒「神谷奈緒と」

 

加蓮「北条加蓮の」

 

『208プロの片隅にて』

 

 

 *         *         *

 

 

奈緒「みんな、こんばんは! 208プロ所属、神谷奈緒です!」

 

加蓮「同じく208プロ所属、北条加蓮です」

 

奈緒「……大丈夫だよな? ちゃんと中継できてるよな?」

 

『大丈夫ですよー』

『ちゃんと流れてますよ』

『奈緒ちゃんの太眉ペロペロ』

 

奈緒「そっか、なら良かった――って、今何か変なコメントあったよな!」

 

加蓮「はいはい、毎回同じ遣り取りしないの。――この番組は“アプリコット・ジャム”の出演を目指す新人アイドル・神谷奈緒と北条加蓮の2人が、新たなアイドル像のヒントを見つけるべく、私達が下宿している部屋、つまり208プロの“もう1つの本拠地”である双葉杏の自宅の隣室にてお送りする、完全生中継のネットラジオ番組です」

 

奈緒「不定期でやってるけど、この番組も今日で5回目か」

 

加蓮「まだ劇場には出られないから、現時点ではこの番組が唯一私達が顔出しできる機会だしね。最初杏さんに『自分達の気が向いたときで良いから』って言われたときは、そんなテキトーで良いのかって思ったけど」

 

奈緒「でも他のみんながやってるネット番組とか観てると、結構本人の気分でやってること多いよな。輝子がやってる“星輝子観察記録”なんて、作曲作業の生中継と銘打っておきながらキノコの世話してるときが割とあるし、小梅とか菜々さんとかが乱入してくるなんてしょっちゅうだし」

 

加蓮「その菜々さんも自分のネットラジオで、自分が最近気になるアイドルの紹介してるからね。しかも余所の事務所とか関係無しに。同じ事務所ならともかく、余所のアイドルの宣伝するとか有り得ないからね」

 

奈緒「でもまぁ、そんな自由な雰囲気が208プロの魅力なんだろうな」

 

加蓮「まぁね。何てったって、代表が()()双葉杏だしね」

 

奈緒「確かに。あの人がトップに立って規律まみれになるなんて、全然想像できない――」

 

杏「何々? 杏の話?」

 

『双葉杏だ! まじかよ!』

『やっべぇ! 本物じゃん!』

『合法ロリキター!』

 

奈緒「ちょっ、杏さん! 急に出てこないで!」

 

加蓮「あの、杏さん……。まだ全然オープニングトークしてないんだけど……。私達が紹介してから出てくる段取りだったじゃない……」

 

杏「何か杏の話になったから、ちょうど良いかなって思って。というか、横で待ってるのが面倒臭くなった」

 

奈緒「いやいや、面倒臭いって――」

 

杏「という訳で、みんな出ておいでー」

 

菜々「こんばんは、皆さん! 安部菜々です!」

 

輝子「フヒ……、こんばんは……。星輝子です……」

 

小梅「こ、こんばんは……。白坂小梅です……」

 

蘭子「神崎蘭子が来たからには、電脳世界に狂乱の嵐が吹き荒れるであろう!」

 

『おぉ! 208プロのアイドル勢揃いじゃん!』

『すげぇ! 画面がわちゃわちゃしてる!』

『画面いっぱいにひしめき合う美少女とか最高やん?』

 

奈緒「あぁもう! 結局みんな出てきちゃうし!」

 

加蓮「こうなったら、さっさと番組進めちゃおう! ――皆さんご覧の通り、今日は特別ゲストとしてみんなが来てくれました!」

 

杏「といっても、隣の部屋に行くだけだけどねぇ」

 

奈緒「という訳で、せっかくみんなが来てくれたから、今日は杏さん達やみんなへの質問を受け付けます。普段はなかなか答えてくれないあんな質問やこんな質問がありましたら、いつものようにコメント欄から書き込んでくださいねー」

 

加蓮「それじゃ行きましょう。――神谷奈緒・北条加蓮の『208プロの片隅にて』! 間もなくスタートです!」

 

 

 *         *         *

 

 

奈緒「さて、先程も話した通り、今回の『208プロの片隅にて』ではいつもの内容を変更して、杏さん達に質問したいことを募集しています」

 

加蓮「みんな、どしどしコメント欄に書き込んでね」

 

杏「さっきのジングルだけど、輝子ちゃんの曲を使ってるんだね。いきなり叫び声が聞こえてきたときはビックリしたけど」

 

加蓮「みんなの曲の一部をローテーションしてるよ。今日はたまたま輝子ちゃんだったけど」

 

小梅「自分の声なのにビックリする輝子ちゃん、可愛かった……」

 

輝子「フヒヒ……」

 

奈緒「んじゃ、最初は誰にする?」

 

加蓮「せっかくだし、208プロに入った順ってのはどう? もちろん杏さんを最後にして」

 

杏「だとしたら、菜々さんがトップバッターになるね」

 

菜々「ナナは構いませんよ! さぁ皆さん、じゃんじゃん質問を受け付けますよー!」

 

奈緒「どれどれ……おぅ、すっごい来てんな……。コメントがもの凄い速さで流れていく……」

 

杏「みんなちょっとは控えてあげてね。ただでさえ菜々さん、小さな文字を読むのがきつくなってるんだから」

 

菜々「ちょっと杏ちゃん! それどういう意味ですか!」

 

加蓮「あっはっはっ――あっ! これとか良いんじゃない?」

 

奈緒「ん? どれどれ?」

 

 

『“メルヘン”に“ニンジン”を集めるためにウサミン星からやってきた奈々ちゃんですけど、今までにメルヘン人以外で異星人を見たことがありますか? 例えるならイ●カンダルの人とか、M7●星雲の恒点観測員みたいな』

 

 

加蓮「やっぱりみんな、その辺りを気にしてるみたいだね。菜々さん、そこんとこどうなの?」

 

菜々「うーん、いるにはいますけど、正直見ただけじゃ分からないですねぇ」

 

奈緒「見ただけで宇宙人だって分かるのっていないの?」

 

菜々「そういう人達は、何かしら変装して行きますから。地球に来てる宇宙人の方達は、色々と目的はありますけど、地球の人達に自分の存在がバレるのは好ましくないので」

 

輝子「フヒ……。ということは、私達の周りにも宇宙人はいるかもしれない、ってことか……」

 

杏「それどころか、菜々さんも本来はこの姿とはまったく別物の可能性もあるってことか。本当はタコみたいな軟体動物だったりして」

 

菜々「ナ、ナナは最初からこの姿ですよぉ!」

 

加蓮「ちなみに宇宙人だって分かったときって交流とかあるの?」

 

菜々「軽く会釈する程度には。『あ、どうも』って感じで」

 

奈緒「マジかよ。菜々さんの性格だと、そういう人とも仲良くなりそうな感じだけど」

 

菜々「メルヘンの人達からしたら“宇宙人”って一括りですけど、結局のところナナ達にとっても“宇宙人”ですからねぇ」

 

奈緒「成程。そういう意味では、私達にとっての外国人みたいなものか」

 

菜々「もっと積極的な人なら色んな宇宙人と交流があるかもしれないですけど、少なくともナナはあまり異星の人達と交流はしないですねぇ。なんせナナは、ミッションに忙しい身ですので!」

 

杏「あぁ、そういう“設定”だったっけ」

 

菜々「杏ちゃん!」

 

加蓮「ははは……。さて、次の質問は?」

 

 

『“ななさんじゅうななさい”ってどう思いますか?』

 

 

菜々「そう! ナナは声を大にして、これについて抗議したいんですよ!」

 

小梅「た、たまにネットで見掛けるね……」

 

杏「なんで抗議するの? 菜々さんは17歳なんでしょ? じゃあ良いじゃん」

 

菜々「確かにナナは17歳ですけど、何かコレ凄く含みのある書き方じゃないですか! なんでわざわざ平仮名にするんですか! ナナはそこまで歳行ってないですよ!」

 

杏「えっ? そこまで?」

 

菜々「そ――菜々はれっきとした17歳です!」

 

加蓮「それじゃ年齢に関連して、こんな質問はどう?」

 

 

『無音生放送で、たまに母性が溢れてるような気がしますが……』

 

 

加蓮「この無音生放送っていうのは、輝子ちゃんが時々やってる“星輝子生態記録”のことだね」

 

奈緒「確かに時々、小梅とか菜々さんが映り込んでるときがあるな」

 

菜々「あ、あの……。“母性”ってどういうことですか……? ナナは17歳なんですけど……」

 

加蓮「でも生放送のときの菜々さん、だいたい輝子ちゃんに飲み物とかおやつとか持ってきてるから、それが“世話焼きのお母さん”を連想させるんだと思うよ」

 

菜々「そ、そうですかね? ナナは普通にしてるだけなんですけど……」

 

杏「家のことに関しては、菜々さんがほとんど取り仕切ってるからね」

 

菜々「メイドとして働いてた時期が長かったですからねぇ……。それに輝子ちゃんは放っておくと食事も摂らずに引き籠もっちゃいますから、どうにも世話を焼きたくなってしまって……」

 

杏「もはや孫に対するお婆ちゃんの心境だね」

 

菜々「色々通り越してお婆ちゃんですか!?」

 

加蓮「あっ。歳に関連して、こんな質問もあるよ」

 

 

『菜々さんだけ愛称は“さん”付けなのはどう思います?』

 

 

菜々「そう! これもナナは常々不満に思ってました! どうしてみんなナナを“ちゃん”で呼ばないんですか!」

 

杏「いや、年上に“ちゃん”はちょっと……」

 

菜々「ちょっと杏ちゃん! 菜々は17歳ですから! 24歳の杏ちゃんより7つも年下ですから!」

 

杏「そんなこと言うなら、なんで菜々さんは杏のこと“ちゃん”付けで呼ぶの?」

 

菜々「そ、それは……ほら! ナナにとって杏ちゃんは“アイドル”のイメージが強いですから! アイドルに対しては“ちゃん”付けしてしまうんです!」

 

奈緒「あぁ、それは分かる気がするなぁ。アタシも346プロに入った後も、卯月さんのことをうっかり“ちゃん”付けで呼びそうになるときあるし」

 

加蓮「というか奈緒、1回だけ本人の前で“卯月ちゃん”って呼んだことあるよね? 卯月さんは嬉しそうだったから良いけど」

 

杏「まぁ、卯月はそういうところ気にしないタイプだからねぇ」

 

輝子「……そ、そういえば、ずっと気になることがあったんだけど」

 

加蓮「ん? どうしたの、輝子ちゃん?」

 

輝子「杏さんって、同期の人達に対しては呼び捨てだよな……。私達のことは“ちゃん”とか“さん”とか付けるけど……」

 

杏「そうだっけ? 全然意識してなかったけど」

 

奈緒「杏さんの同期って、凛さん達“奇跡の10人”だよな……。やっぱり他の人達とは想いだとか違ったりするのか?」

 

杏「ん? んん……、まぁ今は菜々さんの質問コーナーだから……」

 

加蓮「あっ、はぐらかした」

 

菜々「それじゃ杏ちゃんの番になったら、たっぷり聞かせてもらいますからね!」

 

杏「むぅ」

 

奈緒「それじゃ、次の質問」

 

 

『雑誌のインタビューで「よく食べるのはピーナッツ味噌だ」と答えた奈々ちゃんでしたが、逆にこれは駄目だったなぁ、というメルヘンの食事は何ですか?』

 

 

杏「あぁ、そういえばそんなこと言ってたねぇ」

 

菜々「今にして思えば、痛恨のミスだったと思いますよ……」

 

杏「インタビューのときに思ってほしかったけどね」

 

加蓮「というか、劇場のカフェでピーナッツ味噌のメニューとか出てるし、今更だと思うけど」

 

菜々「そうですよ、杏ちゃん! なんでナナをイメージしたメニューが“茄子と豚肉のピーナッツ味噌炒め”なんですか! 何かもの凄い悪意を感じるんですけど!」

 

杏「良いじゃん、美味しいし。菜々さんだって、ライブ終わりとかよく食べてるじゃん。ビールのおつまみで」

 

菜々「はい、確かにライブ後のビールが最高で……って、ちょっと杏ちゃん! さすがにそれはシャレにならないんじゃないですかねぇ!」

 

奈緒「そういえば、菜々さんって家ではお酒は呑まないの?」

 

菜々「ちょっと、奈緒ちゃんまでどうしたんですか! 菜々は17歳だから、お酒なんて呑める訳ないでしょ!」

 

輝子「フヒ……。もはや誰も、菜々さんが17歳だという前提を無視してるな……」

 

杏「ぶっちゃけ、たとえ菜々さんが呑んでるところを雑誌にすっぱ抜かれたとしても、全然炎上しないと思う」

 

奈緒「むしろ『知ってた』って反応が返ってきそうだよな」

 

小梅「そもそも、記者さんがそんなシーンをそもそも狙わない……」

 

菜々「あの! 皆さん、ちょっと好き勝手言い過ぎじゃないですかね!」

 

杏「あっはっはっ――」

 

蘭子「み、皆の者……」

 

杏「ん? どうしたの、蘭子ちゃん?」

 

蘭子「えっと……、“月よりの使者”は17歳ではないのか……?」

 

「――――えっ?」

 

 

 *         *         *

 

 

杏「さて、蘭子ちゃんが思ってた以上に純粋な子だったということが発覚したところで、そろそろ次の人にバトンタッチしようか」

 

菜々「何だか年齢に関する話題しか記憶に無いんですけど……」

 

奈緒「あれ? そういえば、最後の質問って答えてたっけ?」

 

加蓮「あぁ、答えてなかった気がする」

 

奈緒「という訳で菜々さん、簡潔に答えて」

 

菜々「えっ? えっとですね……、イ、イナゴ!」

 

杏「なんでよりによってそのチョイスなの」

 

奈緒「そもそもアタシ達、イナゴを食べるシチュエーションに出会ったことねぇよ……」

 

菜々「えっ? えっ? 何かマズかったですかね?」

 

杏「良いんだよ、菜々さん。そのままの菜々さんで。――さて、次は輝子ちゃんの番だね」

 

輝子「フヒ……、き、緊張する……」

 

小梅「頑張って、輝子ちゃん……!」

 

加蓮「それじゃ、まず最初の質問はこちらー」

 

 

『キノコが好きな輝子ちゃんですが、お菓子はやっぱりキノコ派ですか?』

 

 

加蓮「まぁ、やっぱりそういう質問になるよね」

 

菜々「“キノコ・タケノコ論争”ってヤツですよね。ネットでも度々話題になってる」

 

奈緒「論争どころか、もはや戦争に近いけどな」

 

杏「んで? 輝子ちゃんはどうなの?」

 

輝子「フヒ……。確かにキノコが好きだけど、別にタケノコが嫌いって訳じゃない……。どっちも好きだぞ……」

 

杏「ちなみにみんなは、どっちが好き?」

 

奈緒「アタシはキノコかなぁ。ビスケットに歯応えあるし」

 

加蓮「私は逆にタケノコかな。あの柔らかい感じが好き」

 

小梅「わ、私はキノコ……」

 

菜々「ナナはタケノコですかねぇ」

 

蘭子「我は“極小の侵略者”が好みであるぞ!」

 

奈緒「成程、208プロではキノコ派が優勢ということか……」

 

杏「ちなみにこの2つ、共通の語源があるって知ってた?」

 

菜々「えっ、そうなんですか?」

 

杏「キノコのことを“(たけ)”とも言うでしょ? どっちも『急に大きくなる』って意味の“(たけ)る”から来てるんだよ」

 

加蓮「さすが杏さん、よく知ってるね」

 

杏「一時期“インテリアイドル”としてクイズ番組を荒らしてたからねぇ、そういう雑学は結構勉強したよ」

 

菜々「ところで、杏ちゃんはどっちが好きですか?」

 

杏「両方を混ぜて、一気に口の中に流し込むのが好き」

 

奈緒「贅沢! でも意地汚い!」

 

杏「あっはっはっ。さて、次の質問に行こうか」

 

 

『一番嫌いなキノコはなんですか?』

 

 

輝子「そんなものは無い!」

 

奈緒「うわぁ! びっくりしたぁ!」

 

加蓮「うわぁ! 輝子ちゃんの声にビックリする奈緒の声にビックリしたよ!」

 

輝子「みんな違ってみんな良い……。これがキノコの世界だ……」

 

杏「つまり、金子みすゞはキノコだった……?」

 

菜々「杏ちゃん、意味が分かりません」

 

加蓮「確かに輝子ちゃん、雑誌のインタビューでも同じようなこと言ってたね。『何でもありの世界に惹かれた』とかそんな感じで」

 

奈緒「何かキノコに関する質問が多いから、幾つか紹介しようか」

 

 

『食材のキノコで一番美味しいと思うのはどれですか?』

 

 

輝子「うーむ……。どれが一番っていうのは、なかなか決めがたい……」

 

菜々「前に李衣菜ちゃんの家でバーベキューをしたとき、シメジに凄く食いついてましたよね? シメジは一番じゃないんですか?」

 

輝子「アレはホンシメジといって、普段スーパーに並んでるブナシメジとは全然違う……」

 

菜々「あぁ、だからあんなに値段が違ったんですね」

 

奈緒「マツタケは? 高級なイメージが凄くあるけど」

 

輝子「本当に高いヤツを食べたことないから何とも言えないけど、確かに香りは凄く良いな……」

 

加蓮「でも“香りマツタケ味シメジ”って言うくらいだし、実際はそうでもないんじゃないの?」

 

杏「マツタケ自体、価値が出だしたのって割と最近だからね。むしろ江戸時代の頃は、マイタケの方が高級だったってくらいだし」

 

菜々「あぁ、マイタケ良いですねぇ。天ぷらにすると、凄くお酒に合って――」

 

杏「おい、17歳」

 

菜々「――っていうのを、ウサミンパパから聞いたことありましてぇ!」

 

奈緒「ウサミン星にマイタケあるんだ……」

 

加蓮「それで輝子ちゃん、結論は?」

 

輝子「……そのときの調理法による」

 

奈緒「はい。次行ってみよー」

 

 

『植物育成に関してはサボテンとかお花とか同様に趣味にしてる人多いけど、キノコ栽培で初心者にお勧めの代物ってどういうのがありますか?』

 

 

奈緒「自分でキノコの栽培か……。何だか難しそうだな……」

 

菜々「どうですか、輝子ちゃん?」

 

輝子「フヒ、そうだな……。シイタケの栽培キットが売られてるから、最初はそれを試してみたらどうだ……? 基本放置でスクスク育つし、成長も早いからすぐに食べられるぞ……?」

 

加蓮「野生のヤツを拾って育てるのは?」

 

輝子「絶対に止めるべき……。キノコは環境によって大きく姿を変えることもあるから、正確な見分けはベテランでも難しかったりする……。確実に信頼できる企業とかから買った方が良い……」

 

奈緒「輝子みたいに押し入れにキノコを詰めて栽培するのは、真似しない方が良いってことか」

 

輝子「あそこにあるヤツだって、野生の物を拾ってきた物はほとんど無い……。大体が、信頼できるルートから仕入れた物ばかりだ……」

 

加蓮「信頼できるルートって?」

 

輝子「…………」

 

奈緒「……さて、次の質問に移ろうか」

 

 

『劇場のアイドル仲間であるみんなの曲を作ることが多い輝子ちゃんですが、曲作りの中で大事にしていることがあれば教えて欲しいです!』

 

 

奈緒「おっ! 今度は作曲についての質問だな!」

 

加蓮「この事務所の中で作曲までやってるのは、輝子ちゃんだけだしね」

 

輝子「フ、フヒ……」

 

加蓮「そもそも輝子ちゃん、どういう流れで曲を作ってるの? 歌詞が先? 音楽が先?」

 

輝子「えっと……、音楽が先だな……。“仮歌”の状態で最後まで仕上げたものを作って、歌詞は完全に後付けだ……」

 

菜々「えぇっ、そうなんですか! 先に音を作っちゃうと、文字数とかの制約があって大変なんじゃないですか?」

 

輝子「いや、むしろ逆だな……。先に歌詞を作ろうとすると、自由すぎてどう手を付ければ良いのか分からなくなる……。むしろどんどん制約を付けていけば、方向性も定まってやりやすくなる……」

 

蘭子「言の葉で世界を紡ぐ際に、既にどのような世界を創造するか決めておるのか?」

 

輝子「決めてない……。完全に音を仕上げてから、そこで初めて考えるな……。そっちの方が、自由に音楽を作れるんだ……」

 

加蓮「へぇ、そうなんだ。輝子ちゃんの曲って歌詞も良いから、歌詞も最初から色々考えて作ってるのかと思ってた」

 

奈緒「それじゃ質問にもある“曲作りのときに大事にしてること”って何かある?」

 

輝子「大事……特に考えたことは無いな。しいて挙げるなら、前に作ったヤツと被らないようにする程度かな……」

 

加蓮「私、作曲とか全然できないんだけど、輝子ちゃんはどうやってフレーズとか思いつくの? やっぱり“神様が降りてくる”とかってあるの?」

 

輝子「神様……かどうかは分からないけど、夢の中で思いついたフレーズをそのまま曲にすることはあるな……」

 

菜々「へぇ、そうなんですか! 何だかミュージシャンっぽいですね!」

 

杏「どんな夢?」

 

輝子「えっと……、キノコを探しに森の奥に進んでいくと、そこにポツンと“箱”があるんだ……。その中に今まで採取したキノコを幾つか入れると、その“箱”から聞いたことのない音楽が流れ始めて……。それが終わったタイミングで、いつも目が覚めるんだ……」

 

杏「お、おう……」

 

輝子「締切直前とか、その夢を見たくなったときには大抵見られるから、結構重宝してる……」

 

奈緒「うーん……、やっぱそういう感覚ってアタシ達には理解できない領域だなぁ……」

 

加蓮「それじゃそろそろ最後の質問……あっ、これとか良いんじゃない?」

 

 

『作曲中に輝子ちゃんの使っている楽器を紹介してください。愛器もあれば拘りとかを教えてくれると幸いです』

 

 

輝子「別に無いぞ……」

 

奈緒「…………、あれっ、終わり?」

 

加蓮「あれだけライブでギター掻き鳴らしてるのに、こだわりとか無いのか?」

 

輝子「うん……。別にギターなんて、弾ければ何でも同じだし……」

 

菜々「あんまりギターには詳しくありませんけど、全世界のギター好きが物申したくなりそうな言葉ですね……」

 

小梅「ギ、ギター、好きじゃないの……?」

 

輝子「嫌いではないけど、特別好きって訳じゃない……。自分の曲を表現するのに使ってるってだけで、メタルにはギターを使わない曲とか割とあるし……」

 

杏「まぁ、今はエフェクターとか使えば結構色んな音出せるしね」

 

加蓮「ギター以外には? よく輝子ちゃんはパソコンに向かって作曲してるけど、パソコンの中にも音源ってあるんだよね?」

 

輝子「あぁ……、むしろそっちの方がこだわってるかもな……。ドラムは自分で叩いた生音源をサンプリングして使ってるし、弦楽器の音源は30万くらいするヤツだしな……」

 

奈緒「30万! たっか!」

 

杏「それでも生の楽器に比べたら格段に安いんだけどね。ちなみにこの音源だけど、仕事に使うヤツだからもちろん事務所で経費落としてるよー」

 

輝子「フヒヒ……。ありがとう、杏さん……」

 

奈緒「アタシ達が衣装とかにお金掛けるのと一緒か……」

 

加蓮「むしろ100万以上するようなギターを買わないだけ有難いって感じ……?」

 

杏「別に買ってくれても良いけどね。それ以上に稼いでくれるだろうし」

 

輝子「フヒヒ……、プレッシャー……」

 

 

 *         *         *

 

 

加蓮「んじゃ、次は小梅ちゃんカモーン」

 

小梅「が、頑張ります……」

 

奈緒「しかしこうして見ると、208プロって背の小さい子が多いな」

 

加蓮「輝子ちゃんと小梅ちゃんは142センチ、菜々さんも146センチだからね。杏さんに至っては、それより低い139センチだし」

 

杏「7年前から全然身長伸びてないよ!」

 

菜々「それはドヤ顔で言うことなんですか? まぁ、ナナが一番意外に思うのが、この中で一番身長高いのが蘭子ちゃんってことですけどね」

 

奈緒「えっ、そうだっけ?」

 

菜々「といっても、156センチですけど」

 

杏「さすが菜々さん。子供達の体調管理には気を遣っているんだね」

 

菜々「杏ちゃん!」

 

加蓮「あっはっはっ。――さてさて、小梅ちゃんの質問コーナーに行こうか。やっぱりホラー関連の質問が多いね」

 

 

『小梅ちゃんのホラー趣味はどちらかというと洋風なイメージがありますが、和風のじっとりとした陰鬱はホラーは好きですか? また、いつもとは感じが違いますが和風ホラー曲を作る予定とかありますか?』

 

 

小梅「ホラーはどっちも好き……。みんながパニックになって逃げ惑う外国のも、精神的に追い詰められていく日本のも……」

 

杏「小梅ちゃんの曲にも、日本のホラーを題材にしたのがあるしね」

 

奈緒「あぁ。『10枚目の行方』とか『丑の刻』とか」

 

菜々「でも完全に和風テイストの曲って無いですよね。和楽器をアクセントに使う程度で」

 

杏「そもそも曲の方向性自体が『良質なJ-POPに乗せて歌う恐ろしいホラーの世界』って感じだからね。でもそういう曲も幾つかあって良いかもね。面白そうだし」

 

加蓮「小梅ちゃんの曲を作ってるのって、李衣菜さん達だっけ?」

 

杏「最初の頃はね。でも最近は、ソングライター志望の人達が事務所にデモテープを送ってくれたりしてね、そこから有望そうな人に声を掛けて曲作りを依頼することも多いよ」

 

菜々「あぁ、確かに歌詞カードのクレジットでも、ナナの知らない人の名前が挙がってたりしましたね」

 

杏「李衣菜達の曲も確かに良いんだけど、やっぱり色んな人が作ってこそ幅が広がると思うし。――あっ、ちなみにホームページから専用のメールフォームで持ち込みを受け付けてるから、興味ある人はぜひ送ってきてね」

 

奈緒「そういうのって、杏さんが聴いてるのか?」

 

杏「事務の人達が1回聞いてふるいに掛けて、残った曲を杏が聴いてるよ。さすがに全部聴いてる時間は無いし」

 

加蓮「どういうホラーが好きかって質問も出たし、こっちの質問はどう?」

 

 

『ホラー系でもこういうのはアウト、というのはあります?』

 

 

小梅「和風とか洋風とか、そういうので嫌いとかは無いけど……。あまりに現実離れしてギャグみたいになってるヤツは好きじゃない……」

 

杏「あぁ、何かB級映画とかでよくあるね。ホラーなのかギャグなのか判断に困るヤツ。ハシゴも掛けずに船から海にダイブしちゃったせいで船に戻れなくて、その結果サメに襲われるのとか」

 

奈緒「サメ映画って、ホラーに含めて良いのか?」

 

小梅「幽霊とかゾンビが出てくるのだけがホラーじゃない……。人間が恐怖でパニックになるものは、みんなホラーだと思ってる……。スプラッタとかパニックムービーとか色々ジャンル分けはできるけど、私は全部ひっくるめて好き……」

 

奈緒「小梅って、そういうB級映画とか観るの?」

 

小梅「デビューする前とかは、涼さん達と一緒にそういうの観てた……。それにホラー物とB級映画はほとんど地続きだから……」

 

菜々「そうなんですか?」

 

小梅「狭い空間で何かが起こるっていう状況がホラーと相性良いし、粗い映像の方が雰囲気出たりするから、ホラー映画って低予算で作れるの……。中には150万くらいで作った映画が200億円近くのヒットを叩き出すこともあるし……」

 

奈緒「んで、低予算で作って普通に失敗したヤツが溢れてると……。でもアタシはそういうのも結構好きだなぁ。明らかに作り物だって分かるくらいにゾンビとかがチャチなのに、役者自体は真面目に演技してるのが凄いシュールだったりするし」

 

小梅「私も別にそれが嫌いって訳じゃないけど……、その作品の世界に没頭できないくらいに粗かったり、制作者の意図が丸見えとかだと一気に冷める……」

 

菜々「うむむ……。杏ちゃんと奈緒ちゃんはそういうのも観るから良いですけど、ホラーとか滅多に観ないナナ達ではどうにもついていけない話題ですね……」

 

杏「別に杏だって詳しい訳じゃないよ、ネットで話題のヤツをちょっと観るくらいだし」

 

小梅「そ、それなら……、今度みんなでホラー映画の鑑賞会する……? お薦めの映画を何本か用意するから……」

 

加蓮「小梅ちゃんのお薦めって、何だか凄く怖そう……」

 

小梅「大丈夫……、要望があったら聞くから……。何が良いかな? ゾンビ? 殺人鬼? 閉鎖空間? 謎の生物?」

 

菜々「あの……、後ろで蘭子ちゃんが震えてるんですけど……」

 

蘭子「ぴゃっ! わ、我に怖いものなど、な、無い!」

 

加蓮「無理しなくて良いからね。――さてと、次の質問はー?」

 

 

『ホラーが大好きな小梅ちゃんは、どの部位が飛び散るのが一番好きですか? ちなみに僕は腕です』

 

 

奈緒「何ちゅう質問だよ」

 

杏「どうなの、小梅ちゃん?」

 

小梅「……脇腹、かな?」

 

加蓮「それはまた……。どうして?」

 

小梅「内臓が飛び散る様子がよく分かるし、飛び散った後のリアクションも長く見られる……」

 

杏「質問にもあった腕はどう?」

 

小梅「うん、それも好き……。脇腹ほど飛び散らないけど、腕が無くなるって見た目にも凄く分かりやすい怪我だから、パニックになりやすいんだよ……。それを見てるのが面白い……」

 

奈緒「すげぇ、小梅が凄いイキイキしてる」

 

輝子「フヒ……、目が輝いてるな……」

 

杏「逆に『これはちょっとなぁ……』っていうのはある?」

 

小梅「リアクションも無く一瞬で飛び散っちゃうのは、あまり好きじゃない……」

 

杏「成程。つまり小梅ちゃんは苦しんでいる様子を見たいんだね。ドSだね」

 

小梅「えへへ……」

 

菜々「いや、小梅ちゃん。照れるポイントじゃないと思うんですけど」

 

小梅「…………?」

 

奈緒「嘘だろ。本気で不思議に感じてる表情だよ」

 

菜々「100パーセント天然物のサディスティックですよ」

 

加蓮「少なくともアイドルがして良い話じゃないよ……。――あっ、蘭子ちゃん。もう話は終わったから、耳を塞がなくても大丈夫だからね」

 

奈緒「んじゃ、蘭子ちゃんのためにも次の質問」

 

 

『ホラー系繋がりで、関連する職業な巫女や尼さん、シスターに興味持ったりしなかったんですか?』

 

 

加蓮「巫女さんとか、小梅ちゃん凄く似合いそうだよね」

 

菜々「それで、小梅ちゃんはどうですか?」

 

小梅「うーん……、別に興味無くはないけど……。そういう人達は私にとって“敵”って感じ……」

 

杏「小梅ちゃんの立ち位置が完全に幽霊目線なんだけど」

 

菜々「成程。だからさっきも、人が怪我したときのリアクションが面白いとか言ってたんですね」

 

加蓮「それじゃ、そういう人達の服を着てみたいとかはある?」

 

小梅「……少しは」

 

奈緒「服で思い出したけど、小梅ちゃんの私服って凄いオシャレだよな。ピアスみたいな何気ない小物にも凄いこだわりとか持ってそうだし

 

加蓮「私服がオシャレっていうんなら、輝子ちゃんがこの前着てた服もかなりオシャレだよね。全体的にピンク色した、如何にもどこかのお嬢様って感じの服」

 

輝子「あ、ああいうのは、た、たまたま持ってただけで……。それ以外のは、小梅ちゃんと一緒に買い物してアドバイス貰ってる……」

 

加蓮「奈緒も小梅ちゃんから私服のアドバイス貰った方が良いんじゃないの? 家で着てるときのTシャツとか、すっごいダサイんだけど」

 

奈緒「な、何だよ! 別に誰か見てる訳じゃないんだから良いじゃねぇか!」」

 

加蓮「甘いよ、奈緒。誰も見ていないからこそ気を配らないと。そういう気の緩みが、最終的に人の目に映る箇所に表れるんだから」

 

奈緒「ちくしょう……。なんで巫女さんとかの話題から、アタシのファッションの駄目出しになるんだよ……」

 

杏「でもさ加蓮ちゃん、ファッションに疎いからこその奈緒ちゃんってところ無い?」

 

加蓮「確かに」

 

奈緒「あぁもう、アタシの話は良いんだよ! 小梅が置いてけぼりじゃねぇか! 次の質問行くぞ!」

 

 

『小梅ちゃんがホラー話を臨場感たっぷりに演じるCD欲しいっす。作ってみる気ありませんか?』

 

 

加蓮「だってさ。小梅ちゃん、どう?」

 

小梅「えっと……、杏さんが許可してくれるなら……」

 

杏「別にそれくらいなら、わざわざCDにしなくても小梅ちゃんの生放送で幾らでもやって良いよ」

 

奈緒「おぉっ! 太っ腹!」

 

菜々「良かったですね、小梅ちゃん!」

 

杏「ただし、やるならオリジナルで作るか権利者の許可を確実に貰えるヤツだけにしてね。あくまで趣味の範囲内での活動だから、あまり面倒臭いことしたくないし」

 

小梅「う、うん、分かった……!」

 

加蓮「という訳でファンの皆さん、小梅ちゃんの怪談話は、小梅ちゃんの公式生放送でお送りすることになりました。具体的な続報については、今しばらくお待ちください」

 

奈緒「小梅オリジナルの怪談話か……。何かめちゃくちゃ怖そうだな……」

 

加蓮「夜中に1人でトイレに行けなくなったら、いつでもついていってあげるからね」

 

奈緒「だぁ、もう! からかうんじゃねぇ!」

 

輝子「ところで、杏さん……。その生放送って、小梅ちゃん1人でやるのか……?」

 

杏「そうだねぇ、そういうのって聞き役のリアクションも醍醐味の1つだし……。――あっ、蘭子ちゃん、どうかな?」

 

蘭子「えっ――」

 

 

 *         *         *

 

 

加蓮「蘭子ちゃん、落ち着いた?」

 

蘭子「……構わぬ。“怠惰の妖精”ともなれば、いずれ魔王たる我と矛を交えることも想定済みよ」

 

杏「ごめんね、蘭子ちゃん。菜々さんと違って弄られ慣れていないから、もっと考えて発言するべきだったね」

 

菜々「ちょっと杏ちゃん! ナナだって、別に弄られ慣れてる訳じゃないんですけど! というか、弄らないでほしいんですけど!」

 

杏「うん、そういう反応が菜々さんの菜々さんたる所以だよね」

 

菜々「えぇ、どういう意味ですか……」

 

加蓮「さて! 次は蘭子ちゃんの質問コーナーだけど、大丈夫? 行ける?」

 

蘭子「――うむ! 造作も無い!」

 

奈緒「良かった。それじゃ、最初の質問」

 

 

『ファンタジー系が好きなようだけど、そういう知識は基本的に漫画や小説と言った娯楽媒体が元なんですか? 更に専門的に聖書やコーラン、専門書やらにも手出ししてるの?』

 

 

蘭子「古文書に書かれた呪文を把握することこそ、我が世界を創造する近道となる!」

 

菜々「蘭子ちゃん、かなり勉強熱心ですよね。部屋の本棚にも何だか分厚い本がいっぱいありますし、分からないことはすぐに調べますし」

 

加蓮「そういう確かな知識が、蘭子ちゃんのファンタジーな世界観を支えているんだね」

 

蘭子「む……むぅ」

 

加蓮「あらら、蘭子ちゃん、顔紅くなってるよ? 元々肌が白いから、凄く目立ってる」

 

蘭子「き、禁忌に触れるな!」

 

菜々「あはは……。――そういえば蘭子ちゃん、最近熱心にイヤホンで何か聴いてますよね? 音楽を聴き始めたんですか?」

 

蘭子「む? あぁ、あれか。“怠惰の妖精”からの勧めでな、江戸より受け継がれし吟遊詩人の物語を聴いていたのよ」

 

奈緒「江戸……吟遊詩人……。えっ、もしかして落語?」

 

菜々「へぇ、蘭子ちゃん、落語を聞いてるんですか! というか、杏ちゃんが勧めてきたってことは、杏ちゃんも落語を聞いてたってことですか!」

 

杏「杏の“知り合い”が、蘭子ちゃんと同じように物語を作っててね。その人が話作りのヒントとして落語を聞いてるんだよ。それを蘭子ちゃんに『参考にしてみたら?』って話したことがあるんだよ」

 

加蓮「その“知り合い”っていうのは――」

 

杏「うん。加蓮ちゃんが想像してる“その人”で間違いないよ」

 

小梅「ら、落語を聞いてみて、何か参考になった……?」

 

蘭子「うむ、実に素晴らしい! 人の手に渡ることで洗練された物語は、遥か未来に生きる我にも新鮮な驚きと感動を与えてくれる! それに人というものは、いつの時代も普遍性を備えていると改めて思ったものよ」

 

加蓮「落語かぁ……。いつもゴスロリを着てる蘭子ちゃんからしたら、何だか凄く意外だなぁ……」

 

奈緒「いつか蘭子が“その人”みたいに小説を書いてくれることに期待だな! それじゃ、次の質問!」

 

 

『自分の特殊言語を翻訳できるような通訳は欲しいと思わなかったんですか?』

 

 

菜々「確かにそれなりに付き合いのあるナナ達も、時々迷うことがありますからねぇ」

 

加蓮「どうなの、蘭子ちゃん?」

 

蘭子「思ったことは皆無だ、と言えば嘘になる。だが我の言葉は、我の姿を見定めんとする者のみが理解できればそれで良い」

 

杏「でも、その人が蘭子ちゃんの言葉を理解できないときだってあるかもよ?」

 

蘭子「確かに。だが我にとって、我の言葉に頭を悩ませるその姿こそが、我にとって喜びとなるのだ!」

 

杏「つまり、自分の言葉を理解しようと頑張ってくれること自体が嬉しいから、たとえ伝わらなかったとしても構わないってこと?」

 

蘭子「我が口にした言葉は、全て我の意志によって定められたもの。ならばそれによってどのような結果を生もうと、それで我がその者を責めることは無い!」

 

菜々「おぉっ! 蘭子ちゃん、格好良いですよ!」

 

奈緒「どんなときでも自分のスタイルを貫くっていうのは、蘭子の格好良さでもあるよな」

 

杏「でも蘭子ちゃん、杏達に自分の言葉が伝わらなくて不機嫌になること、割とあるよね?」

 

蘭子「…………」

 

菜々「杏ちゃん! あまり蘭子ちゃんを虐めないでください!」

 

加蓮「そうだよ、杏さん! 蘭子ちゃんは菜々さんと違うんだから!」

 

菜々「ちょっと加蓮ちゃん!」

 

奈緒「ごめんごめん、蘭子ちゃん。――ってことは、こっちの質問についてもノーかな?」

 

 

『熊本弁の辞書は、いつ発売しますか?』

『熊本弁講座を開く予定とかはありますか?』

 

 

蘭子「うむ、そのような予定は無い! (おの)が力で我の言葉を読み解き、その真意に辿り着くのだ!」

 

杏「たとえそれで、ファンのみんなが誤解したとしても?」

 

蘭子「物語は専属達の数だけあっても良い! 我を我たらしめる“核”さえ存在すればな!」

 

加蓮「でも蘭子ちゃん、何だかんだ言って結構気を遣ってるよね。今日のトークだって、下手に口を出して流れをストップさせないようにって、必要最低限のこと以外は黙ってるし」

 

蘭子「そ、それは……、単純に、トークが苦手なだけで……」

 

奈緒「いや、そこは頑張ろうぜ」

 

蘭子「し、しかし! “音と菌の支配者”と“両岸を繋ぐ者”も、我と大差ないではないか!」

 

輝子「フヒッ! そ、そんなことはないし……! ちゃんと喋ってる……!」

 

小梅「う、うん……! 仕事してるもん……!」

 

杏「まぁまぁ。――という訳で、蘭子ちゃんのファンのみんなは、頑張って蘭子ちゃんの言葉を自分で翻訳してね」

 

加蓮「そんな訳で、次の質問はこちらー」

 

 

『ファンタジーな世界観を大切にしている蘭子ちゃんですが、ホラーが苦手と聞きました。ファンタジー世界によく出てくるモンスターの中で、ここまでなら大丈夫、これは駄目、みたいな線引きはありますか? 例えばデュラハンはOKですか? NGですか?』

 

 

菜々「……すみません杏ちゃん、勉強不足で申し訳ないんですけど、デュラハンって何ですか?」

 

杏「アイルランドに伝わる妖精だね。首無しの状態で馬に乗ってて、片手に自分の首を持ってるんだよ」

 

奈緒「えっと、今スマホで画像検索してるからな……。――ほら、こんな感じ」

 

菜々「ひっ! 結構グロいですね……」

 

加蓮「あっ、でもこっちの女の子は割と可愛いかも」

 

輝子「フヒ……、騎士の格好をしてる奴もいるな……」

 

奈緒「日本ではそっちの方が浸透してるかもなぁ。女の子が多いのも、その手のゲームでよく題材になってる日本ならではだな」

 

杏「んで? 蘭子ちゃん的にはどう?」

 

蘭子「う、うむ……。その者の苦痛が我にも伝播するような外見をしたものでなければ、我も受け入れることは不可能ではない」

 

加蓮「つまりグロくなければOKだと」

 

杏「ちなみにデュラハンを直接見ないようにね。デュラハンは自分の姿を見られるのが嫌だから、自分の持ってる鞭でその人の目を潰そうとしてくるよ」

 

蘭子「ひぃっ!」

 

菜々「杏ちゃん! 蘭子ちゃん、怖がってるじゃないですか!」

 

輝子「フヒ……。菜々さん、すっかり蘭子ちゃんのお母さんだな……」

 

加蓮「蘭子ちゃんのためにも、早く次の質問に移ろうか」

 

 

『普段からゴスロリ衣装を着こなす蘭子ちゃん。アレが着てみたい! チャレンジしてみたいな、というジャンルはありますか?』

 

 

加蓮「ということだけど、どうかな?」

 

蘭子「服とはすなわち“役割”だ。そしてその役割を身に纏うことで、その者の体を染め上げる魔術が備わっている。我も自身の求めるものへ近づくために、そのような魔術を用いることもあるだろうな」

 

加蓮「うーん……。杏さん、解説をお願いします」

 

杏「早い話が『自分のやりたいことに合うのなら、それに合わせて服を選んでいきます』ってことだね。――逆にさ、『この服が着たいからそれに合わせたストーリーを作る』みたいなことって無いの?」

 

蘭子「むむ……。例えば、我といえば“漆黒の闇”であろう?」

 

菜々「確かに。蘭子ちゃんはいつも黒い服を着てるイメージがありますね」

 

蘭子「そうだ。なのでそれと対極に位置する“純白の光”に焦がれるときも無くはない」

 

杏「良いじゃん、真っ白なゴスロリ。それに合わせたストーリーを作ってみなよ」

 

蘭子「し、しかしそれでは我のイメージが……」

 

杏「イメージが強いからこそ、それを破壊したときの印象が強くなるんじゃない。大丈夫だって、蘭子ちゃんなら絶対に似合うから」

 

蘭子「そ、そうか……」

 

加蓮「つまり結論から言うと、今のところはゴスロリ以外は頭に無いってことだね」

 

奈緒「まぁ、確かに凄く似合ってるからな。――それじゃ、最後の質問」

 

 

『漆黒の波動うけし凶鳥。その身に宿し力は常世を覆いつくすもの。その力解き放ちし呪文を我は求めん』

『ライブで出演していた可愛い女の子は、新しいアイドル候補かなにかですか?』

 

 

奈緒「おぉっと、これは……」

 

菜々「今ライブで蘭子ちゃんと一緒に出演してる、語り部兼進行役の女の子のことですね」

 

杏「確かにみんな気になるところだね。でもまぁ、彼女のことについては、ライブで蘭子ちゃんが紹介してること以上の情報は言えないね。色々と事情もあるし」

 

加蓮「あはは、そんな含みのある言い方をしたら、みんなますます気になるんじゃない?」

 

杏「もちろん、気になるように仕向けてるからね」

 

加蓮「せめてそこは隠そうよ……」

 

奈緒「というか、何だかレベルの高いファンがいないか?」

 

蘭子「うむ、実に完成度の高い呪文である! 我の放つ魔力に上手く適応しておるようだな!」

 

加蓮「良かったね、蘭子ちゃん。自分の言葉を理解してくれるファンの人がいて」

 

蘭子「実に機嫌が良いぞ! アーッハッハッハー!」

 

杏「何だかんだ言って、自分の言葉を理解してくれるのが嬉しい蘭子ちゃんなのでした」

 

 

 *         *         *

 

 

加蓮「んじゃ、次はいよいよ杏さんの番で――」

 

杏「ん? いや、別に加蓮ちゃんとか奈緒ちゃんがやっても良いんじゃない?」

 

奈緒「えぇっ? でもアタシ達はあくまでMCだし――」

 

杏「“トライアドプリムス”のときには、こんなファン交流とか無かったでしょ? 良い機会だから、みんなからの質問に答えちゃいなよ」

 

奈緒「そ、そうか……? それじゃ、少しだけ……」

 

 

『奈緒ちゃんに質問です。アニメなどサブカルが大好きな奈緒ちゃんですがそっち方面のお仕事に興味はありますか? また、やれるならどんなお仕事に挑戦したいですか?』

 

 

奈緒「あれっ、なんでバレてんだ! “トライアドプリムス”のときには隠してたのに!」

 

杏「いや、今日の遣り取りで結構その顔出てたし」

 

加蓮「というか、ユニットのときにも全然隠せてなかったよ? 1人だけノリとか質問の返しが少し違ったから」

 

奈緒「えっ、そうなのか! マジかよ、恥ずかしい!」

 

杏「んで? 何かやってみたい?」

 

奈緒「うーん……、確かに興味はあるっちゃあるけど……。あくまでそういうのは観る側だから良いんであって、そこに自分が参加するのは少し違うんだよなぁ。そもそも自分みたいな素人が参加して、その作品に迷惑を掛けるって考えると――」

 

杏「あっ、これガチのヤツだ」

 

奈緒「アニメのゲスト声優で芸能人が参加してるのとか時々あるけど、アタシとしては何とも言えないものがあるんだよ。確かにそれで話題を呼ぶことができるし、確かに舞台出身の人とかで本職に引けを取らないくらいに上手い人もいるけど、そうじゃないのに呼ばれるっていうのは、純粋にその作品を楽しみたい人からしたら――」

 

杏「加蓮は、そういうアニメとか観る?」

 

加蓮「私はあまり観ないかなぁ……。小さい頃に、日曜朝にやってるような女の子向けのアニメを観てたくらいで」

 

菜々「だったら奈緒ちゃんにお勧めを訊いてみたらどうですか?」

 

杏「奈緒ちゃん、最近観たアニメは何?」

 

奈緒「――えっ? そうだなぁ……、こういうのって作品名出さない方が良い?」

 

杏「うーん……、じゃあ、とりあえず伏せる方向で」

 

奈緒「分かった。最近観たのは、普段悪ガキの幼稚園児が戦国時代にタイムスリップする映画かな?」

 

加蓮「あっ、それは聞いたことある。泣ける映画だって話題になってたよね」

 

奈緒「アタシはそっちも良いけど、昔の方のヤツもお勧めなんだよ。時代劇とSFが高いレベルで融合してるし、純粋に物語として面白いし」

 

加蓮「へぇ、そうなんだ。ちょっと観てみようかな」

 

杏「んじゃ、そろそろ次の質問に行こっか」

 

 

『加蓮ちゃんに質問です。幼少期は病院生活を余儀なくされたそうですが、普通の人よりは注射やお薬、もしくは病院自体に恐怖を感じなかったりしますか?』

 

 

輝子「フヒ……、加蓮ちゃんって、そうなのか……?」

 

加蓮「うん、まぁね。今は全然平気なんだけど、昔は結構体が弱くて入院と退院を繰り返してたよ」

 

菜々「それが今では、思いっきり体を動かすアイドルの仕事をしてるんですから、本当に世の中って分からないもんですよね」

 

加蓮「まぁ、そんな子供時代を送っていたから、病院とか注射とかが普通に日常生活の中にあってね、だから質問にもあるように特に苦手意識とかは感じなくなっていったよ」

 

小梅「そ、そうなんだ……。私は注射とか怖い……」

 

菜々「小梅ちゃん、普段から注射なんて目じゃないくらいに痛々しいシーン観てますよね?」

 

小梅「映像で観るのと、実際に見るのでは全然違う……」

 

杏「確かに」

 

輝子「フヒ……、わ、私も苦手だな……。注射自体は別にそんな痛くは感じないけど、実際に受けるまでの恐怖感がもの凄い……」

 

蘭子「奴は邪悪なるグングニールよ! けっして我と相容れることはない!」

 

菜々「相変わらずの口調ですけど、蘭子ちゃんが如何に注射を嫌ってるかは分かりました」

 

杏「確かに杏も注射は苦手だなぁ……。あ、でも確か346プロには献血が趣味って子がいるんだよね?」

 

奈緒「あぁ、周子だっけか? さすが杏さん、よく知ってるな」

 

菜々「献血が趣味、ですか……。随分と変わってますね……」

 

加蓮「ここに移籍する前に、周子が献血に行くって言うから興味本位でついていったことがあるの。それで『せっかくだし一緒に献血しよう』って思って検査を受けたんだけど……、検査した看護師さんに『むしろ輸血してください』って言われて拒否られたときがあるんだよね」

 

奈緒「あっはっはっ! マジかよ!」

 

加蓮「いくら体が良くなったとはいえ、そもそも入院ばかりして運動とかやってこなかったから、体力は人より無いんだよね」

 

奈緒「そのくせ負けず嫌いな性格だから、レッスンしてるときもアタシに張り合っては倒れるってのがしょっちゅうなんだよ。だから加蓮が倒れやしないかっていつもハラハラしててさ……」

 

加蓮「奈緒は過保護なんだよ。それに倒れたのだってデビュー前後の話でしょ? 今はそんなことないから大丈夫だよ」

 

小梅「で、でも加蓮さん……。この前、貧血起こして倒れてた……」

 

加蓮「あっ、小梅ちゃん。それ奈緒には内緒にしてって――」

 

奈緒「おい加蓮、どういうことだ!」

 

加蓮「えっ? いやほら、あの……あぁ! ほら、次の質問に移らないと!」

 

奈緒「……まぁ良い、後でたっぷり聞かせてもらうからな」

 

杏「仲良きことは美しきかな。――さてさて、次の質問はー?」

 

 

『奈緒ちゃんに質問です。サブカルチャーが好きなようですが、コスプレとかもしますか?』

 

 

杏「で、どうなの?」

 

奈緒「コスプレかぁ……。アタシはもっぱら“見る専”だな。というか、そういうのって菜々さんの方が詳しいんじゃないのか?」

 

菜々「ナナですか? 確かにメイドさんの服は好きでよく着てますけど、だからってコスプレそのものが好きな訳でもないですよ?」

 

加蓮「でもせっかくこうして杏さんの事務所に移籍したんだしさ、何かのコスプレをしてライブしたりもできるんじゃない?」

 

奈緒「いやいや、アタシがやったって全然似合わないだろ? そういうのって、アニメに出てくるような綺麗な人がやるから絵になるんだよ」

 

加蓮「そんなことないって。奈緒、凄く可愛いんだし」

 

奈緒「なっ――! 急に何言い出すんだよ、加蓮! 別にアタシなんて、全然可愛くないだろ! 未だにどうしてアイドルになれたのか不思議で仕方ないんだからよ!」

 

加蓮「いやいや、そんなことないって。そうでしょ、杏さん?」

 

杏「うんうん。奈緒ちゃんはすっごく可愛いよ」

 

菜々「胸を張ってください、奈緒ちゃん! とっても可愛いんですから!」

 

輝子「フヒ……、奈緒さん、顔真っ赤にして可愛い……」

 

小梅「奈緒さん、可愛い……」

 

蘭子「“恥じらい乙女”のオーラが(ほとばし)っておる!」

 

奈緒「何なんだよ、みんなして! というか蘭子、何かその呼び方すっごい恥ずかしいから止めてくれ!」

 

杏「視聴者のみんなも、奈緒ちゃん可愛いって思うよね?」

 

 

『可愛いよ!』

『奈緒ちゃん可愛い!』

『太眉可愛い!(訳:太眉可愛い)』

『奈緒ちゃんの太眉をペロペロしたい』

 

 

奈緒「ちょっ――! 何なんだよ、みんなして! ってか、何だよ『太眉可愛い』って! しかも挙げ句の果てに、ペ、ペロペロとか! 変態か!」

 

杏「あっはっはっ。奈緒ちゃん、これが“トライアドプリムス”をやっていたときには聞こえなかった世間の声だよ」

 

奈緒「嘘だろ! ファンのみんなって、こんな変態なこと考えてたのかよ!」

 

杏「まぁ、ここまで変態かどうかは置いとくとしても、奈緒ちゃんに対して魅力を感じているからファンになった訳なんだしさ、そこは素直に受け入れていこうよ」

 

加蓮「そうそう。あんまり自虐的すぎると、却って嫌味っぽく聞こえるよ?」

 

奈緒「別にそういうつもりじゃ……。まぁ、気をつけるよ」

 

杏「加蓮ちゃんの言葉を真面目に受け取る奈緒ちゃん可愛い」

 

奈緒「ちょっ、杏さん!」

 

杏「あっはっはっ。さてと、そろそろ最後の質問かなぁ?」

 

 

『お2人に質問です。杏ちゃんの事務所に期間限定の移籍をしたけど、驚いたことはありますか? 答えられる範囲内で教えてください!』

 

 

杏「それじゃ、まずは加蓮ちゃんから」

 

加蓮「色々と驚いたことはあるけど、一番驚いたのは“フットワークの軽さ”かな? 346プロでは何か新しいアイデアを実現するためには、何回も会議を重ねて色々な人の許可を取らないといけないけど、ここだと杏さんに話して杏さんがゴーサインを出せばすぐでしょ? それはビックリしたかな」

 

杏「まぁ、あれだけの大企業だし仕方ないよね。でも杏が現役の頃の346プロは、今の杏達みたいに“思い立ったらすぐ行動!”って感じだったよ?」

 

奈緒「それってもしかして、346プロがまだビルに間借りしてた頃の話?」

 

杏「うん、そうそう」

 

奈緒「当時のアタシ達ってまだ小学生なんだけど、そのときの346プロの勢いって凄かった記憶があるわ。いや、今の346プロも凄いんだけど、何だろう、あの突然現れて瞬く間に芸能界を上り詰めていく感じ? あれが小学生ながらにもの凄く強烈な印象でさ、あっという間にファンになっちゃったよ」

 

加蓮「私も憶えてるよ。とにかく10人全員が眩しくてさ、こんな凄い人達が同じ事務所に所属してるってのが信じられなかったよ。それで当時のドキュメンタリーか何かで346プロの事務所にお邪魔する映像があったんだけど、そんな人達が所属しているとは思えないくらいにみすぼらしくて」

 

杏「ちょっと、みすぼらしいって何さ」

 

菜々「いや、でも確かにナナも当時から不思議に感じてましたよ? だって天下の美城グループが立ち上げた芸能事務所ですよ? そんな芸能事務所が、なんであんなに小さなビルに間借りしてたんですか?」

 

奈緒「そう考えると、今の346プロの方が自然といえば自然だよな」

 

杏「まぁそこら辺はね……、“大人の世界”というか“社内政治”というか……」

 

輝子「おぉ……、何か一気にキナ臭い雰囲気になってきたぞ……」

 

杏「確かに色々とやりづらい環境ではあったと思うよ。杏達が売れれば売れるほど、それまで業界で幅を利かせていた色々な人達から嫌がらせを受けてきたし。――でもまぁ、だからこそみんな頑張ったってところはあったと思うよ?」

 

奈緒「杏さんも、頑張ってたのか?」

 

杏「失礼な。杏だって、やるときはやるんだよ。――それに何だかんだ言って、だからこそ色々なしがらみを気にしないで思い切りできたってのもあるよ。杏も割と楽しかったし」

 

加蓮「それでみんなの頑張りもあって事務所が大きくなっていったけど、杏さん自身はその前に引退しちゃったんだよね?」

 

杏「うん、そう。だから2人から346プロの話を聞くと、何だか知らない事務所の話を聞いてるみたいで新鮮なんだよね」

 

奈緒「へぇ、そういうもんなのかぁ……」

 

杏「それで、奈緒ちゃんが208プロに移籍して驚いたことは何?」

 

奈緒「アタシ? そうだなぁ……。みんなと杏さんとの距離感かな。何だか杏さん達の遣り取りを見てると、どう見ても“社長と所属アイドル”って感じじゃないんだよな。むしろ“仲の良い友達同士”って方がしっくり来るかも」

 

小梅「た、確かに……、杏さんと話しても、緊張しないかも……」

 

輝子「フヒ……、ほ、本当は私より9歳も年上なのにな……」

 

杏「まぁ、この見た目だからね」

 

加蓮「本当、そこもビックリだよね。テレビで観たときの姿とまったく変わってないんだよ? 他の人達が大なり小なり成長してる中で、杏さんだけは時が止まったままみたいに同じなんだもん」

 

蘭子「彼女は“怠惰の妖精”だからな!」

 

奈緒「あぁ、成程。そういう意味も込めて“妖精”だったのか。さすが蘭子だな」

 

蘭子「えへへ……」

 

加蓮「そういう関係性って、狙ってやってたりするの?」

 

杏「いや、別にそういう訳じゃないよ? 杏自身が敬語で余所余所しく話し掛けられるのが苦手とか、杏がこの見た目で偉そうにするのも似合わないなって思ったのはあるかもしれないけど」

 

奈緒「確かに最初の頃はアタシ達も敬語だったし遠慮とかしてたけど、1週間もしない内にタメ口になってたもんな」

 

加蓮「やっぱりそれって、つかさ社長の影響?」

 

杏「うーん、どうなんだろう……。でも確かにつかさも、杏達に対しては同年代の友達って感じで接してたかな。でも相手を軽んじてるわけじゃなくて、ちゃんとお互いにリスペクトしてる部分も持ったうえで親しくなっている感じだったよ」

 

加蓮「ふーん、成程ねぇ……」

 

奈緒「何だよ加蓮、随分と含みのある笑顔じゃんか」

 

加蓮「いやいや、別に大したことじゃないよ。――ふふ、成程ねぇ。だから208プロはこんな雰囲気なのかぁ」

 

杏「えぇっ? 何々、凄く気になるんだけど」

 

奈緒「あぁ、成程。そういうことか」

 

杏「え? 奈緒ちゃん、何が“成程”なの?」

 

輝子「フヒ……」

 

小梅「くすくす……」

 

蘭子「ふふふ……」

 

杏「な、何さ、みんな急に……」

 

菜々「いえいえ、ただ杏ちゃんも可愛いところがあるなぁって思っただけですよ」

 

杏「…………何なんだ、まったく」

 

 

(後編へ続く)


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