やはり俺の日常は酷くまちがっている。   作:あきさん

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・のっけからいちゃいちゃ。
・お風呂でもいちゃいちゃ。
・ベッドでもいちゃいちゃ。
・やりたい放題。


めぐりさんと同棲を始めたんだが、この人ちょっと意味わかんないくらい可愛すぎて無理ですごめんなさい。

  ×  ×  ×

                

「あっ、おかえりなさいっ」

 と、社畜帰りの俺を迎える、ほんわかぱっぱとした明るい声。めぐりさんは絶賛料理中だったようで、新妻感溢れるエプロン姿がどちゃくそ眩しい。

「……た、ただいま」

「今日も一日お疲れさまでした!」

 このシチュ未だ慣れねぇなぁでも可愛いなぁと今日もまごつく俺を、今日も変わらずにこにこぱっぱとした笑顔で労ってくれるめぐりさん。あぁ、マジっべーわめぐりんスマイル……今日も浄化されるるるるる……。

 なんてターンアンデットを食らったどこぞのリッチーみたいな心境でいたら。

「……ひ、比企谷くんっ」

「……あ、はい、なに?」

 めぐりさんは突然むんっと意気込むと。

「ご、ごはんにする? お風呂にする? そ、それとも……わ、わた……」

 わた? ののワさんかな? どっちも天然っ子だしね! などと思いながらラストフレーズを待っていると、めぐりさんはなぜかやんやんもじもじと身じろぐ。

「……や、やっぱ無理ぃ……恥ずかしい……」

 は? ……いや、は?

 ちょっと待ってなにその新妻ムーブ、じゃあなんでやったの可愛すぎて俺のほうが無理可愛い。やだこの人可愛すぎて無理なの、無理ぃ……。マジてぇてぇ……。

 語彙力を失って固まる俺に、めぐりさんがふふっとはにかむ。

「ごめんね、こういうの、一回くらいやってみたくて」

「めっちゃよかったんで定期的にっていうか継続的にっていうか毎日ぜひ」

「……そ、そっか……」

 食い気味に反応したらちょっと引かれてしまった。ちょっと傷ついた。

 にしても、この人はもうちょっといろいろ自覚したほうがいいな……。その反則的な尊さで一体何人の野郎共を骨抜きにしてきたんですかねぇ……と見事骨抜きにされた俺が言ってみる。どうも、骨を抜かれたアンデット野郎です。

 と、この微妙な空気に耐えられなくなったのか、めぐりさんがはたと手を打つ。

「あっ、ご飯はまだだけどお風呂はもう入れるからね! 準備万端!」

「いつも悪い。ほんと助かってる」

「ううん、いいのいいの」

 普通であれば家事を任せっきりな俺に文句の一つでもありそうなものだが、めぐりさんは嫌そうな顔一つせずに、大丈夫大丈夫と両手をふりふりしてくれる。それどころか「疲れてるんだからちゃんと休まなきゃ、めっ」って……。はぁ、めぐりんマジめぐりっしゅ……。

「俺も何かお返しできたらいいんだけどな……」

 なので、こんな感じのことを、ときどき言ってみるのだけれど。

「もぅ……だから、そういうのは言いっこなしだってば。比企谷くんはお仕事を頑張る、わたしは家事を頑張る、二人でそう決めたでしょ?」

 とまぁこんな具合にぷんすかぷんと怒られてかわされてしまうのだ。いや確かにそうなんだけどさぁ……うーんこの甲斐性なし……。

 でもなぁ、やっぱり何かしてぇよなぁ俺もなぁ〜と脳内で唸っていると。

「……あ、いっけない!」

 たたたとなにやら大慌てな様子で、めぐりさんがキッチンに戻っていく。間もなくぱちんと音がした。どうやらコンロの火を点けっぱにしたままだったらしい。そういうとこやぞ! 話ぐだらせた俺のせいだけど。

 そんなこんなでようやく靴を脱いだのも束の間、ひょこっと顔だけ覗かせためぐりさんは、気まずそうにてへっと苦笑し、ぽしょっと呟く。

「ちょっと焦げちゃった」

 ……ああもう! ほんとそういうとこやぞ!

 

  ×  ×  ×

 

 湯の張られた浴槽に浸かりながら、ふーっと大きく長い息を吐く。男の入浴シーンなんざと言いたくなるだろうが、読者諸兄はあと二行だけ我慢されたし。

 そんなメタいことを思う一方で、めぐりさんやっぱ可愛いなー天使だよなーと全力でのろけてはニヤけていると。

「比企谷くん、お湯加減、どう?」

 浴室のガラス戸越しにラブリーマイエンジェルの声。

「あー、ばっちり……」

「……なんか、今日はだいぶお疲れだね?」

 染み入る心地よさと温かさにぼーっとしたまま返してしまったからか、彼女の優しいトーンに少しだけ湿っぽさが加わる。

「そういうわけじゃないけど……でもなんかそういう時、ない?」

「……あー、わかるかも?」

 実際、疲れているには疲れているが、疲労困憊というわけではない。なんとなく身体が重いとか気だるいとか、その手のやつだ。

「そっか、そういう時か……。じゃあ、いいよね……よしっ」

 めぐりさんがなにやら意味深に呟いたけれど、今は思考のスイッチが完全に切れているのもあって、なんのことだかさっぱり妖精である。

 しかし、それでも。疲れと心地よさで、何もかもがぼんやりしていても。毎日めぐりさんが俺を癒してくれる。だから毎日頑張れる。

 そう、このほんわかもぞもぞしゅるるとしている彼女が……もぞもぞしゅるる?

「えい」

「……ちょっ」

 違和感に気づいた時にはもう遅く。目の前には、胸元や下腹部を中途半端に手で隠しつつ突撃してきためぐりさんの姿が。心臓に悪い……あとエロい……。

「へへー……一緒に入るの久しぶりだから、ちょっと恥ずかしいや」

「いやほんと急になに、どしたの……」

「んっと、たまにはお背中流してあげようかなーって」

「え……う、ううむ……」

 思わず材木座みたいな唸り方をしてしまった。

 そんな俺の反応に、めぐりさんが目に見えてしゅんとする。

「……だめだった、かな」

「あ、いやダメとかじゃなくてね? なんつーの? 俺も恥ずかしいだけ的な? マジそんな感じ。マジ卍」

「何言ってるの比企谷くん……」

「悪い、ふと頭が狂った。忘れてくれ……」

 動揺しすぎて今度は唐突に戸部ってしまった。しかもドン引きされた。よし、戸部のことは絶対に許さないリストに入れておこう(理不尽)。

 俺はこほこほけぷこーんと咳払いして、未だ残る羞恥心を誤魔化しながら。

「まぁ、その、なんだ。……お願いします」

「あ……う、うんっ!」

 

 ――そうして。

 ごっしごっし……ごっしごっし……とめぐりさんに背中を流してもらった後、俺は彼女を抱きかかえる形で再び湯船に浸かる。端的に言うなら混浴である。

 ちなみに割愛させていただいたシーンで起きたことといえば、めぐりさんがときどき「やっぱりおっきぃね……」とか「んー……かたぁい……」とか吐息交じりに囁いていたくらいで、R的なイベントは一切なかったことをご理解していただきたく。

「えへへ……気持ちよかった?」

 ……念のため繰り返しますが、R的なイベントは本当にマジで何一つなかったことを改めてご理解していただきたく。……嘘じゃないよ?

 このモノローグの合間にも「ねぇ、ねぇ」と嬉しそうにボディタッチしてくるめぐりさんに頷きを返してから、俺はほうっとした吐息を漏らす。

 ああ、幸せだなぁ……。

「……ん、わたしも」

 と、見透かしたように答えるめぐりさん。

「え……俺、口に出してた?」

「ううん。でも、なんとなくわかったから。比企谷くんが考えてたこと」

「……マジ?」

「うーん、なんかね、……笑い方がいつもとちょっと違った?」

 笑い方ねぇ……。「フッ……」と格好つけたつもりが、実際は「ふひっ……」だったみたいな感じだろうか。っべー、思い当たりありすぎるわー。それ超あるわー。

「……一応言っておくけど、変な笑い方のことじゃないからね?」

「お、おう……」

 少しだけ振り向いて、めぐりさんがくすりと笑う。やだ、この人もエスパータイプなのん? あくタイプ捕まえてこなきゃ!

 しかしまぁ、あれだ。真面目に言えばふとした時に出てしまうクセや仕草、口数や言葉の違いなんかでわかるんだろうが……めっちゃ見られてんのな、俺。

 そう実感した途端、無性に恥ずかしくなり。けれど、彼女は自分以上に俺のことを見てくれているのだと無性に嬉しくもなり。

 なんとなく、本当になんとなく、ほんの少しだけ、抱きしめる力を強めた。

 すると、めぐりさんは自身の両手を、俺の腕にそっと添えて。

「んー……ふふ、こんな幸せでいいのかなぁ……」

 ちらりと俺を横目に見て、赤くほてった顔で満足げに微笑みながら、めぐりさんがもたれかかってくる。

 彼女の濡れた髪がぺたりと頬にくっつく。同じシャンプーを使っているのに、どうしてこうも違うのか。どうしてこうも甘くいい香りなのか。

 そして何よりもこの、もちもちですべすべで、やわらかくて綺麗な肌……。

「あ、こらっ……やんっ! …………もぅ」

 うん……超やわらけぇ……超ふにふにだぁ……。

 が、すぐに「めっ」と軽く手をつねられ、止められてしまう。

「そういうのは、またあとで、……ね?」

 え、マジか。

 おいそれマジでか。

 ……よーし、パパ今夜は頑張っちゃうぞー!

 

 とまぁ、それっぽい描写が出てきたところでもう一度言うが、この作品にRタグがついていない時点で察しろください。たぶん。知らんけど。

 

  ×  ×  ×

 

 めぐりさん、ごちそうさまでした。とてもおいしかったです。

 ふぅ……ん? ご飯の話だよ? 変な意味じゃないよ? 残念だったね! と懲りずに即メメタァして七行前を回収しつつ、場面は(全然まったくこれっぽっちもエロくない)ベッドシーンへ移り変わりまして。

 俺の胸元で、めぐりさんがもぞもぞもふもふ。

「ん~……」

 どうやら今はどすけべするよりも甘えたいらしい。俺はどすけべしたい。

 だがしかし、彼女の気持ちを無視して事に及ぶなどできようか。否、できるはずもない。そんなものはただの可哀想な自慰だ。いや、相手を巻き込んでいる以上、自慰よりもタチが悪い。そんなものに愛などない。アルファベットの並びだってHとIは隣どおしあなたとわたしさくらんぼなのだから、愛がなければエッチは……ああついうっかりエッチって言っちゃった。まぁここ目が滑るし大丈夫でしょ(適当)。

「……どうしたの? ……撫でるの、飽きちゃった……?」

 だいぶ長い間なでなでを止めてしまっていたらしく、めぐりさんが上目遣いで尋ねてきた。うるり揺れる瞳が不安や寂しさを主張している。いかん、冗長すぎた。

「あぁいや悪い、そういうわけじゃないんだ。……ちょっと考え事が長引いてな」

「……ふーん? その考え事って、わたしよりも大事なことなんだ?」

 と、わざとらしく眉根を寄せるめぐりさん。

「んなわけないでしょ……ていうか、めぐりさんのことだから……」

「……ふふ、知ってる」

「えぇ……じゃあなんでわざわざ拗ねたの……」

「ほっとかれたお返し~」

 うっわ、めぐりさんめんどくさっ……。出たわね、めんどめぐりん……。

「あ、今わたしのこと、めんどくさいなぁって思ったでしょ」

「だってめんどくさいし……」

「もうっ! そこはフォローしてよぉ!」

 当たり前だがご満足いただけなかったようで。俺の胸をぺちぺち叩いてくる彼女をはいはい可愛い可愛いと撫で返しつつ、かつて言われたことを思い返す。

 ――めんどくさくない女の子なんていない。

 ただでさえ人間自体がめんどくさい生き物だってのに。いろいろな方向にもっとめんどくさくて、どうめんどくさいかもそれぞれで、それぞれが十人十色な魅力で。

 ――ちょっとずるいくらいのほうが女の子らしい。

 ちょっとどころじゃない。本当にずるい。そのめんどくさい部分が自分一人に向けられているというだけで、こんなにも可愛く思える。こんなにも愛しく思える。

 だから――女の子は、とにかくめんどくさくて、本当にずるい。

「めぐりさん」

 理由も理屈もなく、ただ、そうしたいなと思ったから、俺にとっては世界で一番めんどくさい女の子の名前を呼んで。

「……ん?」

 そして、そのまま、ゆっくり顔を近づけて。

 俺の知る小さな世界の中で、誰よりもずるくなった女の子に――口づけた。

「ぁ……んっ……」

 瑞々しくてやわらかい唇の感触。果てしなく甘い彼女の吐息。ぼんやりと心地よい酩酊のような状態。それらは俺の心から悪感情だけを消していく。俺の心をひたすら幸せ色で塗り潰していく。それこそ魔法のように。

 だが、どんな魔法も必ず解けてしまうもの。約束の0時が差し迫ったシンデレラの如く、めぐりさんは唇を離してしまう。

「ふうっ……あ、もぅ、そんな物欲しそうな顔しないの」

「俺を生殺しにしてるのあなたなんですが……」

「わたし、何もしてないよ? 胸さわってとか、キスしてとか、言ったかな?」

「……今になってそれを言うのは、ちょっと、ずるいのでは」

「んふふー……だから、し〜らないっ」

 なんて露骨にすっとぼけて、めぐりさんは楽しそうに脚をぱたぱた。

 こ、こいつぅ……すました顔しやがって……! 昨日ベッドであれだけ乱れてたくせに……! 昨日あんなに「もっと……して?」っておねだりしたくせに……! いや昨日は普通に仲良く寝たけど。でもする時はこうだけど。言っちゃったよ。ちなみにそのシーンは本文に存在しません。

 などと最後をメタで結びながら恨みがましく見つめていると、めぐりさんはしょうがないなぁと言いたげにくすり笑って、よいしょと身体を起こす。

「さ、ほら、おいで〜」

 お? お? ……よーし、今日はスケベしようやぁ! と先走る違うはやる気持ちを我慢汁、いや我慢して、両腕を広げためぐりさんを身体ごと迎えにいく。

 そうして、彼女をハグハグしつつ、ふーむと唸る。

 普段は言わないことを言おうとしたり、突然一緒に風呂に入りたがったり、甘え方がいつもよりめんどくさかったり、やたら焦らしてきたり。

 だから、俺が不在の間に何かあったのかと思い、言葉を選んで聞いてみる。

「今日のめぐりさん、なんか、その、……いろいろと変だな」

 言葉を選ぶとは。

「変ってひどいなぁ……こういう甘え方するわたしは、いや?」

「全然。でも、なんでまた急に」

「んー、なんかね……」

 そこでめぐりさんは、再び、んーと一拍を置くけれど。

「……やっぱり、ないしょっ!」

「えぇ……」

「だってこんなこと言うの、恥ずかしいんだもーん」

 なにそれめっちゃ気になる……。しかし、姫がそうおっしゃるなら仕方ない。これ以上の言及は諦め、しょうがねぇなぁと一つ笑ってから、彼女の腰に手を添える。

「ね、いっぱい我慢させちゃった?」

「超した。正直きつかった」

「えへへ、ごめんね。……じゃあ、そのぶん……」

 そこでわざとらしく言葉を区切ると、めぐりさんは、糖分を濃縮したような、最大級の甘え声でおねだりしてくる。

「……いっぱい、してね?」

「……任せろ、専門分野だ」

「あっ……んぅ……」

 愛情を交換こしながら、俺は、最愛の人をゆっくりと優しく押し倒した。

 今、答え合わせはできないけれど。

 内緒は、内緒のままだけれど。

 彼女の言からして、おそらくそれは、めぐりさんにとっての――。

 

 と、ここで本作お馴染み、描写のミュートをもって結びとさせていただきたく。

 誰だって、最愛の人の乱れ姿は他人に見せたくないでしょう? 独り占めしたいでしょう? ……というわけで、これにて閉廷! 以上! みんな解散!

 

 

 

 

 




Pixivからの転載です。いろはすバージョンは下記リンクに。
https://syosetu.org/novel/78982/

ではでは、ここまでお読みくださりありがとうございました!

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