学園黙示録~とんでもない世界に迷い込んだんですけど~ 作:富士の生存者
今回は主人公と宮本さんのお話です。
主人公SIDE
モトクロスバイクを颯爽と風の様に走らせる。
後ろにはしっかりと俺の胴体を両腕でホールドし密着している宮本さん。
7.62mm弾すら受け止める
抱き付かれ確かに嬉しいといえば嬉しい。しかし、現在は宮本さんと2人きりである。
これは夢に違いない!
そうだ、これは夢なんだ。
今頃、マイクロバスの助手席で居眠りをしているんだ。
目覚めろ俺!
いや、待て。取り乱すな。
冷静になれ。
順を追って整理しよう。
順番を考えるのは大切なことだ。
それは、今に意味を与える行為なのだから。
自分がこの状況からどこへ向かうべきなのか―――順番はすべてを教えてくれる。
だから、ここで改めて順番を整理してみようと思う。
どの様にしてこの俺が2人きりで宮本さんにホールドされるに至ったのか。
全ては、
いつの間にか多数決でリーダーになるという話になりそれによってなんと
その時、助手席に戻ろうとしていた俺はまたもや段差に躓き鞠川先生に触れてしまった。
最近では肩に手が触れただけでもセクハラにされてしまうシビアな世の中である。
俺のチートボディーは段差すら躓くのか!
もっと足上げて歩こうぜ!
急いで鞠川先生に謝ろうと頭を下げようとすると鞠川先生の満面の笑みが見えた。
見る人によっては女神の様に微笑んでいる様に見えるが、今の俺にとっては死刑宣告を下す死神の笑みであった。
『なに、人の肩勝手に触ってんだ。訴えるぞ。宮本さんが外に出ていったから追いかけろ。これ、お願いじゃなくて命令だから』
そんな感じの事を言われたような気がしてすぐさまマイクロバスから飛び降り宮本さんを追った。
「宮本さん、バスに戻るんだ(俺の社会生命のために)」
「嫌です! あんな奴と一緒に居たくない!」
確かに
仕方ない
「わかった。それでは、こうしよう俺が……走れ!!」
「え!?」
俺はすぐさま宮本さんを連れ走り出す。
マイクロバスの後方の道から猛スピードの大型バスがこちらに向かってきているからだ。
大型バスは路上に無造作に止められていた車輛を避けることなくそのまま突っ込み、宙を舞いながら横転し道を塞ぐ形でようやく止まった。
マイクロバスは道の脇の少し開けた場所に止まっていて巻き込まれずに済んだが、道は大型バスから漏れ出た燃料に引火してしまい通ることはでいない。
確かバイオなゲーム2でもこんな感じのシーンがあったな。
こうゆう感じのアクシデントは主人公が遭遇すべき分岐点であって、俺の様に脇役Fあたりがいるべきではない気がする。
しかも、爆発の破片が肩にぶっ刺さっているよ!
流石、脇役Fのポジション分岐点で怪我を負うなんて。
この先怪我じゃすまなくなりそうだ……。
肩の破片を一思いに引き抜く。
痛ッた!!
痛いけど俺泣かない。だって男子だし。
女の子の前ではカッコいいところを見せたいそれが男です。
こうして俺と宮本さんは孤立したのである。
すぐさま移動手段を確保し、集合地点まで向かっている。
言っとくがちゃんとバイクの免許は持ってるぞ。
ヘルメットは宮本さんに貸してしてないけど……。
市街地に入ると道路にはゾンビは確認できなかった。
その代り警察車両を見つけた。
これ、俺アウトじゃないかな。
目出し帽、防弾ベストに迷彩服。
トドメには”銃”!!
はい、銃刀法違反。
ごめんなさい。
いざ警察車両が停まっている交差点まで行くと、車体半分が大破していた。
バイオなゲームでもよく目にする光景である。
警察車両は、なんらかのアイテムが手に入る可能性が高い。
救急セットやあわよくば拳銃、予備の弾を入手できる可能性がある。
バイクから降りて警官がゾンビでないか確認をする。
こういう場合は、警官が持っている鍵とか拳銃を拝借する際に動き出すんだよな。あの動き出しそうで怖いのが心臓に悪いんだよ。
ナイフを目に突き立てるとか残酷だけど、自分がゾンビの仲間になるよりは100倍マシだ。
自分だけで物色しようと思っていたが宮本さんが自分から手伝ってくれると自発的に動いてくれた。
彼女は本当に勇気があるな。
俺だったらできる限り誰かに押し付ける。
もちろん男性限定で。
女性が助けを求めていれば俺はすべてを投げ出しても助けに行くだろう。
豆腐メンタルだろうが関係ない。
世の中の男性諸君、女性には紳士になるべし。
見事、いろいろと調達することができた。
警棒に手錠、さらには警察が正式配備している拳銃『M37 エアウェイト』が手に入った。
『M37』は比較的反動も少なく小柄な女性でも難なく扱える銃である。
装弾数は5発。弾丸は38スぺシャル弾という38口径の弾を使用する。俺が所持している銃には38口径を使うものがないので補給が効かないが。もう一人の巡査が持っていた拳銃の弾があるから10回は撃てる。
簡単に宮本さんに銃の撃ち方を教えて持っててもらうことにした。
俺は既に銃を持ってるし、もしもの時は宮本さん自身を守るために役立ててほしい。
バイクの燃料もなくなってきたのでガソリンスタンドに来たのはいいが、財布を持ってない。
強盗ミッション開始である。
事務所でお金を拝借し、自動販売機で飲み物を購入する。
間違って購入したトマトジュースを空いていたマガジンポーチに入れて事務所を後にした。
事務所を出てそれは突然に起きた、突然の衝撃を胸に受けさらに耳を突き刺さってきた炸裂音が鼓膜を殴りつける。
地面にうつ伏せで倒れて自分に何があったのかを知る。
俺、誰かに撃たれたね。
◆
宮本麗SIDE
ある出来事がその人の人生にとって偶然であるのか、それとも必然であるのか。当事者がどう捉えるかによってそれはまったく意味をちがえていくだろう。
誰かに強制されたわけではない。
ただ、抑えがたい不安を少しでも消化する代償めいた行為。
彼に抱き付いた腕にさらに力を込める。
私が飛び出したからだ。
彼は私を連れ戻すためにバスから降り、怪我をし私と一緒に孤立した。
私を追いかけてくれた。
それが、嬉しかった。
破片で怪我をして孤立しても、彼は悪態をつくことなく今も真っ直ぐ前を見ている。
『仕方がない』
『君は悪くない』
そんなに私に優しい言葉を掛けないで。
私はあなたに優しくされる資格なんてないのに。
抱き付いていると彼の暖かさがよくわかる。
彼の体温が私の中の黒い何かを薄めてくれる。
本当に彼に頼ってばかりだ私は……。
ようやく市街地に入った。
町には誰もいない。
事故を起こした車両。
滅茶苦茶になっている飲食店。
道路には大きな血だまりとそこに落ちている子供用のバック。
バイクのエンジン音だけが聞こえ、不気味なほどの静まり返っている。
「!? 篠崎さん、あれ!」
交差点に見覚えのある車が見え私は指を指し示す。
白と黒の色をした車体の上部に赤色灯をつけた車。
パトカーだ。
篠崎さんはゆっくりとパトカーのいる交差点までバイクを走らせ停める。
「そんな……」
ここで私は世界の終わりを改めて気づかされた。
パトカーは車体後部を大型トラックに押しつぶさていた。
前方の運転席、助手席はシートが前に押し出されそこに座っていた警官が圧死している。
篠崎さんはバイクを降りるとそのまま大破したパトカーに近づいていく。そして、大ぶりナイフではなくシースーナイフを抜くとそれを息絶えた運転席の巡査の目に突き立てた。助手席の巡査も同様にナイフを突き立てる。
彼はナイフで今度こそ、永遠に眠らせた巡査の腰のベルトから何かを取り外しボンネットに乗せる。
それは、拳銃だった。
「私も手伝います!」
私も気が付けば息絶えた巡査から拳銃と警棒、手錠などまだ使えそうなものを取っていた。
篠崎さんの役に立ちたいそのことだけが今の私を突き動かした。
結局、拳銃は1つしか手に入らなかった。
もう1つは、持つ部分が折れていて使い物にならなかった。
警棒や手錠は使えそうなのでそれぞれが持つことになった。
篠崎さんは警官の拳銃を渡してきた。
「私なんかよりも篠崎さんが持ってたほうがいいんじゃ…」
「いや、君が持っているんだ」
確かに篠崎さんは、既に自分の銃を持っている。
簡単に銃の構え方、撃ち方を教えてもらいスカートのポケットに入れその場を離れた。
途中バイクの燃料がなくなりそうになったためガソリンスタンドによることになった。
そのガソリンスタンドはセルフ式で現金を入れなければ給油はできない。でも、篠崎さんも私も現金の持ち合わせがない。
仕方なくガソリンスタンドの事務所のレジで現金を調達することになった。
バイクは私が見ているから事務所のレジをお願いしたのだが、私も一緒に付いてくるように言われた。
彼が言うには敵は〈奴ら〉だけではないらしい。
私は彼の指示に従い、一緒に事務所に向かった。
事務所の中は荒れていたが〈奴ら〉の姿はなかった。
レジには鍵が付いたままだったので、大きな音を立てずにすんなり開けることができた。
篠崎さんはどうもレジを操作することに慣れている気がする。私の気のせいなのかもしれないが……。
自動販売機から買ったスポーツドリンクを受け取った。
よく冷えていて、乾いた喉を潤してくれる。
お金を持ってバイクに給油をしようと篠崎さんを先頭に入り口を出ようとするとスタンド内に銃声が鳴り響いた。
響く銃声も、どこか現実感を失っていくようだ。
「え?」
さっきまで私の前に立っていた篠崎さんが地面に倒れている。
なぜ?
彼の倒れている地面に赤い液体がたまっていく。
目の前の現実を遠ざけるように、思考だけが異様なまでに冷静だった。
「嫌あぁぁぁぁぁぁ!?」
また、私は大切な人を無くしてしまうの。
ご意見やご感想があればよろしくお願いします。