学園黙示録~とんでもない世界に迷い込んだんですけど~   作:富士の生存者

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皆様、お待たせしました。
無事レポートも終わり、更新することが出来ました。短めですが・・・・・・。
今回はオリジナルキャラが出てきます。


第17話 『とんでもない対象年齢』

 主人公SIDE

 

 

 スコップを野球バットの様に持ってフルスイング。

 ゾンビが飛び、ゴミ置き場に突っ込む。

 

 更に近づいてくるゾンビにスコップを叩き込み、颯爽と路地を進む。

 

 退いてください!

 小学生を背負った兵隊さんが通りまぁぁぁす!!

 

 不審者から兵隊さんにランクアップ出来たことは素直に喜ばしい。

 

 

 背中に背負っているありすちゃんの手が迷彩服をがっしり掴む。

 

 そりゃあ怖いよな。

 小学生がリアルゾンビを目の当たりにすれば。

 俺が子供だったら泣き叫ぶか、気を失う。

 

 対象年齢が18歳以上なんてもんじゃないから。

 対象年齢皆無だよ!

 皆無!

 

 教育に悪すぎだろ。

 一応、仮の保護者だからこそ、そこのところはしっかりしたい。

 

 俺も嫁さんがいれば今頃この年頃の子供がいたのかな。

 

 ありすちゃんには念を押して目を閉じているように言ってあるが血の匂いと音はどうしようもない。

 アパートに着くまでの辛抱だ。

 

 既に麗さんと沙耶さんが荷物をまとめているはずだ。

 事前に自分が何をするかを誰かに伝えることは大事だよ。

 

 特に社会に出てからは……。

 

 報告、連絡、相談。

 これを徹底しとかなきゃ被害受けるのは、自分自身と上司だから。

 

 

 無事にアパートの入り口までたどり着けた。

 入り口には冴子さんが見張りについて、沙耶さんと麗さんが荷物の積み込みを行っている。静香先生は運転席に乗り込んで何やら戸惑っている。

 

 

「ご無事ですか?」

 

 

 冴子さんが料理の時の際どい格好のまま出迎えてくれる。

 無事だよ。無事だけど…。 

 

 エプロンのままなんだね。

 それに荷物の積み込みをやっている2人もとんでもない薄着だ。

 

 君たちの将来が心配だよ。

 

 

「もう少しで荷物を積み終わります。それと…」

 

 

 冴子さんから作業の進捗状況を聞いていると最後の方で口ごもる。

 何かあったのかな。

 

 

「どうかしたのか?」

「はい、孝君が……」

 

 

 これはまた仕事かな…。

 睡眠時間が恋しいな。

 

 

 

 

 ◆ 

 

 

 

 

 

 小室孝SIDE

 

 

 淳也さんが小さな女の子を無事助けていたころ僕は、歪んだ車のドアをバールで開けるのに必死だった。

 事の始まりは双眼鏡でアパートの周囲を警戒していた時だ。

 

 アパートの近くの事故を起こした車に向かって犬が吠えていたので気になりそちらのほうに双眼鏡を向けると必死に車の後部座席の扉を開けようとしている人を見つけた。

 路地の電灯ではその人の顔まではわからなかった。

 

 どうやら事故を起こしたときに後部座席の扉が歪んで開けられないようだ。

 

 今なら淳也さんが〈奴ら〉を片付けてくれたから問題なく行ける。

 平野は淳也さんへの援護で動けない。

 

 冴子さんには荷物の積み込みを守ってもらわなかれなばならない。

 

 

「僕が行くしかない」

 

 

 呟きには、この世界の理不尽さに対する怒り……そして、蹂躙されている無数の命に対する悔しさが滲み出ている。1人でも、多くの人を助けたいという熱意がこみ上げてくる。

 

 

 僕はすぐさま行動に移した。

 冴子さんに事情を説明し、事故車のほうへ向かう。

 懐中電灯を渡され、自分の命が危険だと思ったら救出は諦めてすぐに戻るように、と念を押され送り出された。

 

 無人の街路を移動する。

 自販機、遺棄された車両、電柱の陰や路地に注意して、駆け抜けていく。

 

 懐中電灯で車内を照らすと中には知っている人物が乗っていた。

 

 

中条(なかじょう)さん?」

 

 

 車内にいたのは、僕と同じ藤美学園の生徒だった。

 中条(なかじょう) 早苗(さなえ)

 

 大手企業、中条グループのトップを父に持つ彼女は生粋のお嬢様だ。 

 学校でも知らない者もいない高嶺の花。

 

 彼女は、生まれつき体が弱く度々学園を休んでいた。

 

 この騒ぎが起きた時も学園を休んでいたことで、あの混乱に巻き込まれずに済んだのだろう。

 

 

 お嬢様である彼女と僕は少しばかり関わりがある。

 関わりと言っても階段を下りている途中に、貧血で倒れそうになった彼女を保健室まで付き添った程度の事だ。

 彼女は僕の事は覚えていないだろう。

 

 懐中電灯の光を当てられ中条さんもこちらに気が付く。

 

 

「お願いです、助けてください!!」

「中条さん、落ち着いて。今出してあげるから!」

「ッ小室くん!?」

 

 

 意外な事に彼女は僕の事を覚えていた。

 

 

 素手では歪んだ後部座席の扉は開けることはできなかった。

 彼女の命の行方が、僕の働き一つにかかっている―――そう意識しただけで、息苦しさが襲ってきてやまない。

 

 持ってきていたバールを扉の隙間に差し込み体重をかけると少しではあるが隙間が広がった。

 これなら何とかなるかもしれないと思った。しかし、この世界は牙を剥いてきた。

 

 こちらに路地の放置車両を撥ね飛ばしながら猛スピードで向かってくる車が視界に移る。

 

 その車は青い色をしたゴミ収集車だ。

 車体をボコボコに凹ませながら直進してくる。

 

 恐怖で肌が粟立った。

 このままでは車に閉じ込められている彼女は車ごとゴミ収集車に潰されてしまう。

 

 バールに更に力をかけていく。

 冴子さんの言葉が頭をよぎるそれでも、僕には諦めることができなかった。

 

 

 

 

 

 




久々の孝君の登場でした。
オリジナルキャラ『中条 早苗』ちゃんについては、次のお話で中条早苗SIDEを予定しています。
ご意見やご感想があればよろしくお願いします。

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