学園黙示録~とんでもない世界に迷い込んだんですけど~   作:富士の生存者

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お待たせしました。
今回は主人公SIDE、冴子さんSIDE、麗さんSIDEをお送りします。



第12話 『とんでもないアパート』

 主人公SIDE

 

 

 

 とんでもない世界に来て初めての夜を迎えることになった。

 

 自分の部屋でなく他人の部屋で夜を迎えるなんて思ってもみなかった。世界がゾンビだらけとなりつつあるのにお泊り会みたいとワクワクを感じている俺は既にこの世界に染まってきているのだろう。

 女性陣のキャッキャ、ウフフとはしゃぐ声をBGMに聴きながら銃を弄る姿は更にこの世界に染まりつつあることを確信させられる。

 

 散弾銃(ショットガン)―――『イサカ M37』の動作確認を行う。

 

 『イサカ M37』は、スライドアクション式の散弾銃(ショットガン)である。特徴は、薬室への弾薬の装填と空排莢の排出を同じポート(=機関部の底に開けられた穴)から行うことである。

 機関部側面に排莢口(エジェクションポート)が無い為、側面の強度が上がり更に細身で軽量化を実現することができた。

 

 

 両脇では男性陣の孝君とコータ君が弾倉(マガジン)にライフル弾を詰めているところだ。

 

 ここまで共にこの世界で生き残ったのだ。名字で呼ぶよりも、下の名前で呼ぶ方が団結を図ることができるといった考えだ。他の女性陣も同様に下の名前で呼んでいいか確認をして呼ばせてもらっている。

 

 

 

 それにしても静香先生のご友人―――南リカさんは今の俺ぐらいヤバい人だったな。

 

 一般住宅が密集しているアパートの一室に『散弾銃』は、まあクレー射撃や猟銃の資格を持ってれば納得できるが『軍用銃』を置いてあるのだからヤバいだろ。

 

 ロッカーの中身を某RPG勇者の如くいただいた訳だが……。

 

 コータ君のテンションが大変なことになった。

 なんか空中とか飛べそうなぐらい。

 本当に銃が好きなのだろう。

 何か自分の好きな事があるのはとてもいいことだ。嫌なことを一時ではあるが忘れさせてくれる。

 

 

 浴室の声がここまで響いてくる。だいぶ盛り上がっているようだ。

 羨ましい。

 せめて人生の最後は女性に見守られながら安らかに死にたいものだ。

 

 

「流石に騒ぎ過ぎかも」

「大丈夫だろう。橋の方がこっちよりも騒がしい」

 

 

 浴室の声を聞いたコータ君がそう言うと孝君がそれに答え、橋の方に視線を向ける。

 俺はバルコニーに出て自分の双眼鏡で橋の状況を確認する。

 

 酷いの一言を通り越して終わっている。

 避難者が出す音にゾンビたちが引き寄せられ避難者がゾンビに襲われゾンビとなり、また違う避難者を襲う。

 

 さらには、これは政府の陰謀などとシュプレヒコールを叫んでいる頭がお花畑の連中までいる。

 

 テレビを点けると丁度、橋の下で生中継を行っていた。

 橋を封鎖している警官の1人が頭がお花畑の連中のリーダーに解散する様に説得を行っているようだが、頭がお花畑の連中はそれを拒否した。

 

 警官は自然な動作でホルスターから拳銃を抜くと、リーダーの頭部に発砲した。

 

 テレビの中継も橋の混乱により止まってしまった。

 そろそろこの安全地帯(セーフゾーン)も不味くなってくるだろう。

 

 

「すぐに荷物をまとめるんだ」

「でも、暗いままでは〈奴ら〉にいきなり襲われた時に大変じゃないですか?」

 

 

 確かにコータ君の言うこともわかる。しかし、橋の方に引き付けられていたゾンビがこちらの方に戻ってくるかもしれない。そうなったら脱出は容易ではなくなる。

 

 

「ッ!?」

 

 

 いつの間にか後ろには静香先生がいた。

 しかも、バスタオル1枚という超軽装備で……。

 最初の犠牲者は孝君だった。

 

 静香先生は孝君の頬にキスをすると、次の目標に近づいてくる。

 

 

「じゅっんっやっく~ん」

 

 

 どうやら静香先生はお酒を飲んでしまったらしい。

 下の名前で君づけで呼ばれたのはいつ頃だろう。

 両頬に静香先生の柔らかな唇の感触を誤魔化すようにどうでもいいことを考える。

 

   

「あっ、コータちゃん」

「ちゃん? えと、あと、あは」

 

 

 嬉しそうだなコータ君。

 静香先生がコータ君の頬にキスをした瞬間。

 

 空中に鮮血が飛び散った。

 コータ君の鼻血だ。

 

 でも、量がヤバい。

 誰か、衛生兵(メディック)を!!

 

  

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 毒島冴子SIDE

 

 

 

 入浴を済ませた私はキッチンで夜食を作っている。

 

 隣の包丁で食材を切り分けている人物に視線がいく。

 彼は手際よく食材の下準備をしている。

 

 頼んでもいないのに料理を手伝ってもらっているが、それにしても彼は随分と料理が得意なようだ。

 

 

「お料理は、よくなさるのですか?」

「それほど料理はしないな」

 

 

 調味料を取ろうとして彼が代わりに取ってくれる。

 私がどの調味料を使おうとしているのかわかる事が彼が料理をよくすることの理由の一つでもある。

 

 

「いつまでそのままでいるつもりだ?」

「ん? これの事ですか?」

「…そうだ」

   

 

 私は今、彼のシャツを借りてその上からエプロンを着けている。下着は下しか履いてないが見えていないので大丈夫だと思う。

 

  

「だめ、でしょうか?」

「はぁ…好きにしてくれ」

 

 

 それにシャツを貸してくれたのは彼だ。鞠川校医を寝室からリビングに運んだ際に私の姿を見て嫁入り前の娘が肌を曝すのはよくないと言って貸してくれたのだ。

 私はエプロンだけの格好でもいいと言ったのだが。 

 

 あまり感情を表に出さない彼だが常に周りの事を気にかけてくれている。その中に私のようなモノが入っていると思うと複雑な気持ちになる。

 

 彼は私の心のもう1つの一面を知っている。

 それなのに接し方は変わらないままだ。

 

 彼なら理解してくれるのではないかと……思ってしまう自分は己惚れているのだろう。

 

 

「淳也さ~ん、聞いてくださいよ~」

 

 

 階段の方から宮本君の声が聞こえてくる。

 彼も気づいたようで料理の手を止めている。

 

「いってあげてください。ここは、私1人でも大丈夫です。女とは時にか弱く振舞いたいものです」

「…わかった。ここは、任せる」

 

 

 彼に何かを任せてもらうことに私の中にちょっとした満足感が生まれる。

 ここまで頼ってばかりなのだ。私たちも彼にほんの少しでもいいから頼ってほしい。

 

 まずは美味しいものを食べてもらうことからかな。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 宮本麗SIDE

 

 

 

 彼は、何も言わないで私の隣に腰を下ろす。

 料理をしていたのは知っていたがどうしても彼が近くにいてほしかった。

 沈黙が続く中で彼がそれを破った。

 

 

「…井豪(いごう)君の事を聞かせてくれないか?」

 

 

 彼は永の事について聞いてきた。

 その理由が彼が永を撃ったためなのか、私の恋人だったからなのかはわからなかったが、私は永の事を篠崎…淳也さんに話しをした。

 お酒を飲んでいた為、フワフワした気持ちになっていることもありいろいろな事を話した。

 

 八つ当たりの様な事を言っているのも判っているが、どうしようもできない。それでも淳也さんは黙って聞いてくれていた。 

 

 

「どうしてこんな事になっちゃったんですかね……」

 

 

 もう気持ちがごちゃ混ぜになって涙が出てくる。

 

 お父さんに会いたい。

 お母さんに会いたい。

 

 これが夢だったらどんなに良かっただろうか。

 

 

「ワン! ワン、ワン!!」

「わんこが吠えてる?」

 

 

 それもすぐ近くでだ。

 彼は鉄砲を手にして、すぐさま階段を駆け上がる。

 

 私は、彼に手を伸ばすが途中で止めてしまう。

 

 そばに居てほしい。

 そう思ってしまう私はやはり我儘なのだろう。

 

 あの人は掴んでなくてはどこか遠くに行ってしまいそうな気がする。 

 

 もう寂しいのは嫌ッ!

 

 もう誰かが死んじゃうなんてもっとイヤッ!!

 

 強くならなくちゃ……もう失ってばかりなんて御免だわ。

 

 

 




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