いろはす色な愛心   作:ぶーちゃん☆

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今回から、ようやく沈黙のオリキャラがアップを始めました。





一色いろはは相談されるっ

 

 

 

二月に入り約一週間。

あと一週間もすれば、恋する乙女が勇気を出せるきっかけを貰える日がやってくる。

 

わたしはその日が待ち遠しくもあり、また、このまま来なければいいのにという思い、そんな相反する気持ちを抱えながら、あの一緒に過ごしたお昼休みから数日間をもやもやと過ごしていた。

 

告白したい……けど、どうせまだ勇気が足りないんだろうな。

そんな情けない自分を真正面から見つめるのが嫌で嫌で仕方ない。

 

 

「失礼しまーす」

 

「いろはちゃんやっはろー!」

 

「こんにちは、一色さん」

 

「結衣先輩やっはろーです。雪ノ下先輩こんにちは」

 

今日も当たり前のように奉仕部の扉をくぐり、いつも通り挨拶を済ませながらちらりと先輩に視線を送る。

目が合うとようやく声を掛けてくれた。

 

「おう」

 

まったく!この人は目が合わないとわたしに挨拶してくれないんだもんなぁ。

しかもあからさまに「またきやがった」って顔しちゃってますよコイツ……

 

「ちょっと先輩!可愛い可愛い後輩が失礼しまーす!って入ってきた時点で、『いらっしゃい!良く来たな。ずっと待ってたよ!』って爽やかな笑顔でウェルカムするくらいが常識じゃないですかぁ?」

 

「誰だよそのキモい爽やかキャラ……そういうのは葉山に頼めよ。俺が笑顔でそんな風にお前を迎え入れたらキモすぎて通報されちゃうから」

 

確かに先輩がそんな風に歓迎してくれたら、たぶんこの場の女子三人組は自然と携帯に手が伸びるかも知れませんね。

 

「まぁ確かにキモいんで通報はしちゃうかも知れませんけど。……だからって普通に挨拶くらいしてくれたっていいじゃないですかー……」

 

ぷくっと頬を膨らまして、わたし怒ってますよアピールをぶちかます。

なんならぷんぷんっ!って口で言ってあげてもいいくらいのレベル。

 

「……だってどうせ毎日来んだもん」

 

「こんなに可愛い後輩が毎日来てくれてるのにどうせって失礼な……ホントどうしようもない先輩ですねー」

 

そう言いながらいつものように自分の席を用意すると、いつものように先輩の隣に座り鏡を用意する。

なんかこの動作があまりにも自然過ぎて、まるで生活の一部になっちゃってるみたい。

 

「一色さん?時期的に生徒会が忙しくないのは分かるのだけれど、あなたサッカー部のマネージャーの方は大丈夫なのかしら」

 

雪ノ下先輩はごもっともな事を言いながらも、わたしの分の紅茶を用意してくれる。

もう「紅茶要るかしら?」と聞いてこない辺りが、なんだかこの場所に受け入れて貰えてるみたいで心地の良いくすぐったさなんだよね。

 

「だって外寒くないですかー?」

 

「はぁ……まったく。……どうぞ」

 

呆れるようにこめかみを押さえながらも、優しい笑顔で紅茶を出してくれた。

 

「ありがとうございます!」

 

 

紅茶の香りと奉仕部の温かさを胸いっぱいに感じながらふと思う。

わたしは、あと一週間もしたらこの場所を壊してしまうのだろうか?

それとも単にわたしだけが壊れてしまうのだろうか?

 

なーんてね。どうせわたしはまたチョコを渡すのにも練習っていう名のマジカルワードに逃げちゃうんだろう。

あんなに大胆な事したのに。あんなにとんでもない事したのに。

 

それでもわたしはああいう逃げ道がなければ告白ひとつ出来ない臆病者。

繋がりを失いたくないから、失うのが恐いから、完全に失ってしまわないように少しでも逃げ道を用意しておくような、情けない恋愛初心者。

 

わたしはまだ本物の恋をしたことが無かったから、失敗してこの本物の恋を、先輩を失うのがどうしようもなく恐いんだ。

偽物の恋を失うのはなんてこと無かったのにな。

 

なーにがもう一歩だって止まりませんからね、よ。

逃げ道がなきゃ一歩たりとも進んでないじゃん。

 

……違うか。無理やり一歩を踏み出そうとして自らが起こしたあの行為が、逆に自らの首を絞めてるんだ……

あの時、初めて先輩に避けられるかも……拒否られるかもって恐怖を味わってしまったから、逆に次の一歩が恐くて踏み出せなくなってしまったんだ……

 

 

「お前、寒いからとか社会舐めすぎだろ……」

 

 

うっわ……危うくネガティブ思考に支配されるトコだったぁ……

せっかく先輩との楽しいやりとりなんだから、それは一先ず置いとこう。

 

「いやいや先輩にだけは言われたくないですー」

 

「お前も大概だぞ?俺は自覚している分まだマシだ」

 

「自覚しててそれの方がよっぽどたち悪いですからっ」

 

二人で笑いながら罵りあってると、怪訝な表情をしながら結衣先輩が一言釘を刺してきた。

 

「……なーんかヒッキーといろはちゃん、ここんとこ妙に仲良いよねー……」

 

その突然の言葉に抑えていた感情が急に熱を帯びはじめ、一気に顔が熱くなる。

先輩もあからさまに動揺してるからなんとか誤魔化さねば!

 

「そんなワケ無いじゃないですかぁ?先輩とわたしはいつも通りのキモい先輩と可愛すぎる後輩の間柄ですよー!ねーせんぱい?」

 

「お、おう。別になんも変わらんっての。……………っておい。それどんな間柄だよ」

 

「なーんか怪し〜!てかヒッキーなんかキョドっちゃっててキモい!」

 

「いやなんでだよ……」

 

ヤバいな……なんか怪しまれてるぞ?無言の雪ノ下先輩がたまらなく恐いし……

 

 

でもホントの所、わたしと先輩の関係はなんにも変わってはいないのだ。

まるであのデートは……あのキスは無かったか事かの如く、お互い一切あの日の出来事に触れないようにしている。

二人で寄り添ってお弁当を食べたのもあの一度きり。

 

あの日、お互いがデートの事に一切触れなかった事で、暗黙の了解的に今までと変わらずに過ごそうって決まったんだろうね、わたし達のあいだでは。

 

だから分かっているんだ。わたしも先輩も。

もしも次にあのデートに、あのキスに触れる時……それが“その時”なのだと……

それに触れる“その時”が、手遅れになってからでなきゃいいけど。

 

とは言え、現状ちょっとマズい気がするな〜。毎日毎日来すぎたかなぁ……?

それとも、意識なんてしないで先輩と関われているつもりになってたけど、やっぱりこの二人には不自然に見えちゃうのかな……?

 

だってほら!黙って本を読んでいる先輩と、その隣で鏡片手に女磨きに勤しんでいるわたしを、交互にチラチラ見てくるんだもん、この二人!

 

仕方ないっ……明日は奉仕部参加を控えてサッカー部に顔出そうかな?

べ、別に逃げるワケじゃないんだよ?ええ、戦略的撤退ってヤツですよ。

 

 

× × ×

 

 

さっむい!

いやいや真冬にマネージャー業務とかちょっと頭おかしいでしょ!

これだったら実際に動き回る選手の方がよっぽどマシそうだよ……

 

 

今日は数日ぶりにサッカー部の練習に付き合っている。うん。だからマネージャーなのに練習に付き合っているっておかしな話ですよね。

 

それにしても先輩、口を割らされてなきゃいいんだけど……

でもまさか後輩にデートの練習に付き合わされて、別れ際にキスの練習台にされた……だなんていくらなんでも言えるワケ無いですよねー!

 

ガチで耐えてくださいせんぱい!

口を割らされてもせいぜいデートの練習台くらいまでで耐えてくださいねっ!?

アレがバレたらわたし告白する前に消されちゃいますよ!

 

「いろはちゃん!こっちは終わりそ?」

 

そんな事を考えながら胃を痛くしていた時、不意に声を掛けられてビクンっとなってしまった……

 

「……ま、愛ちゃんかぁ……あー、びっくりしたぁ!うん、こっちはもう片付くよー」

 

「さっすがいろはちゃん!………ていうかそんなにびっくりしてどうしちゃったの?」

 

「へ?あ、ちょっと命の危機を感じて人生を振り返ってたと言うか」

 

「もぅ〜!なに言ってるの〜、いろはちゃんたらぁ!」

 

いや割とマジなんです。

 

そんな命の危機に瀕しているわたしの真剣な表情を見て愛ちゃんはくすくすと笑う。

 

ほんっとこの子なんでこんなに可愛いんでしょっ……なんていうか純真無垢?

言ってしまえば戸塚先輩が女の子だったら、まさにこんな感じなのかな?

わたしも愛ちゃんみたいだったら、先輩にあざといとか言われないでもっとたくさんわたしを見て貰えたのかなぁ……?

 

「じゃああっちの陽なたに行って、一緒にボール磨きでもやろっか?」

 

「ボール磨きかー……まぁ陽なたで暖かいからいっか」

 

そしてわたし達は部員が練習で使う程度のボールを残して二人でボール入りのカゴを運び、並んで座ってボールを拭き始めるのだった。

 

 

× × ×

 

 

ったく。美少女二人が汚れたボール磨くとか、なんたる宝の持ちぐされか……

でもこういう地味〜な作業は、絶対にアイツラやんないんだよねー。

 

「やっぱりたまにはボール拭かないと真っ黒になっちゃってるねっ……もっとマメに拭かなきゃダメだよね〜」

 

「でもボール多いもんね。タオル出しも洗濯もしなきゃだし、愛ちゃん一人じゃなかなか手が回らないもんね。……あの子たちは絶対やんないし」

 

そう。あとの二人の女子マネは、こういった地味な仕事はなかなかやろうとはしないのだ。

葉山先輩に直接指示されて見られてる前でだけ一生懸命やって、あとは適当に投げ出すからむしろ手間が増える。

ほんっとにウザい。何の為にマネージャーやってんのよアイツラって、わたしは部活自体サボりまくってますけどもっ!

 

「あはは……まぁ地味な裏方だから仕方ないよね。あの子たちは葉山先輩の近くに居たくてマネやってるだけだもんね」

 

そう言う愛ちゃんはたははと苦笑い。

わたしもちょっと前まではアイツラと目的が同じだっただけに耳が痛いです!

 

あ……葉山先輩か……

そう言えば、こないだ愛ちゃんが珍しく葉山先輩がどうのって言ってきたっけ。もしかしてこの流れって……

 

そう思った時、やはりというかなんと言うか、愛ちゃんが急にモジモジとわたしに話し掛けてきた。

 

「……葉山先輩と言えば、あ、あのね?いろはちゃん……そっ……その、こないだ言い掛けた質問なんだけど……その……拭きながらでもいいから聞いてもらえる、かな……?」

 

「へ?あ、うん……いいけど……」

 

最近色々ありすぎて、すっかり愛ちゃんが相談事ありそうだったってこと忘れてた。もしかしたらずっと話したかったのかも。

 

「いろはちゃんは、その……葉山先輩の事、す、好き……なんだよ、ね……?」

 

おっといきなり来ました。

……えっと、どうしよう……なんて答えたらいいのかな……

こんな質問してくるって事は、つまりそういう事なワケでしょ……?

だったら、もう他に好きな人が居るって答えた方が、いいよね?

 

「う、うん。そうだよ……?」

 

いやだからなんでわたし肯定してるんですかね。

わたしは悪くない……葉山先輩=好きって言わなきゃいけない世間の風潮が悪い。

てか実際は、先輩の事が好きっていざ人に話すのが堪らなく恥ずかしいんだよね……

偽物の恋はペラペラと人に話せたってのに、本物の恋は口にするのが恥ずかしいとか、とんだ乙女思考さんですね、わたし。

 

「だ、だよねー……」

 

ヤバい!愛ちゃんいい子だから勝算が低くても応援してあげたいと思ってたのに、気持ちが萎んじゃう!

ここはやっぱり正直に否定しとかなきゃ!

 

「あ、や、実は…」

 

「だ、だったらさ!なんでいろはちゃんは……他の先輩と……仲良くしてるの……?」

 

 

「はへ……?」

 

びっくりしすぎて変な声が出てしまいました。

きゅ、急にそっち!?

 

「二年生の……比企谷先輩と……その……すっごく仲良いよね……?いろはちゃん……」

 

ひ!ひき!?

まさかここで先輩の名前が出てくるなんて……!?

なんで愛ちゃんが先輩の事なんて知ってるんだろ……?

大多数の人は存在さえ認識してないハズなのに。

意味が分からなくて愛ちゃんの顔を見ると、物凄く不安そうな顔をしていた。

 

 

あ……そうか……先輩って言ったら文化祭の噂か……

もしかしたら愛ちゃんはわたしの事を心配してくれてるのかな……?

友達として、生徒会長として、悪い噂の先輩と仲良くしてる事でわたしに変な噂が立たないようにって。

 

その気持ちはとっても嬉しいんだけど、ちょっと胸が苦しくなる……まさかこんなにいい子にまで、先輩が悪く思われてるだなんて……

 

よし!せっかくの機会だし先輩の誤解を解いておいてあげますかね!

愛ちゃんにまで誤解されてるなんて、いくらしょうもない先輩とは言え、ちょっとだけ可哀想だしねっ。

感謝してくださいね?せーんぱいっ!

 

おっと、でもその前にっと……

 

「ち、違う違うっ!先輩とは……うん。まぁ仲は良いんだけどー……そそそそういうんじゃなくって!生徒会長の選挙の時にちょっとお世話になって、それ以来よく利用……手伝って貰ってるってだけで……」

 

ったく……わたしの恥ずかしがり屋さんめ!

先輩の誤解を解くんならいっそ実は好きって言っちゃえばいいのに、ここにきて守りに入っちゃうなんてね。

 

うう……でもやっぱり恥ずかしいんだもん……

 

 

「そう……なの?」

 

「う、うん!そうだよー?」

 

でもね?って、先輩の誤解を解こうと声を出しかけたわたしは、その言葉を愛ちゃんのあまりにもホッとした嬉しげな笑顔と、そしてこの言葉に遮られてしまった……

 

「……そっか……良かった……いろはちゃんと比企谷先輩って、なんでもないんだ……」

 

あ、あれ……?

なんか様子がおかしくない……?

 

すると愛ちゃんは今まで見た事もないような真っ赤な顔と今にも泣き出しそうな眼差しで、わたしを真っ直ぐに見据えてきた。

 

 

 

 

「……あっ、あの……いろはちゃんっ……!も、もし良かったらなんだけどっ……そのっ……」

 

……え?嘘でしょ……?そんなワケ無くない!?

でも愛ちゃんは、そんなわたしのあり得ない想像通りの言葉を、朱色に染まった恋する乙女の表情そのままに、わたしへと投げ掛けて来たのだった……

 

 

「……わ、私にっ!……ひ、比企谷先輩を……紹介して、もらえない……か、な……?」

 

 

 

 

続く

 







ありがとうございました!

まぁ大方の予想通りだとは思いますが、ベタなラブコメになってまいりました!(笑)
なぜこうなったのかも予想通りなベタ展開だとは思いますが、次回までお待ちくださいませーm(__)m


それではまた☆

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