いろはす色な愛心   作:ぶーちゃん☆

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愛川愛の記憶は、ついにあの日を迎える

 

 

 

想像も妄想もしていなかった比企谷先輩の突然のサッカー部訪問に、私はパニックになりかけた。

 

 

な……なんで比企谷先輩がここに居るの!?

葉山先輩が親しげに比企谷先輩の元へ向かって行ったけど、あの二人って仲がいいの!?

でも確か葉山先輩ってあの文化祭での事件で、相模先輩を庇って比企谷先輩を責めた王子様みたいな扱いを受けてなかったっけ!?

だとしたらその時の比企谷先輩の身を挺した作戦のグルって事なのかな!?

 

……お、落ち着いて私っ!……今はそんなことよりもっ…………な、なんで比企谷先輩といろはちゃんが関係してるの……?

どこにも繋がりなんてない……よね……?

なのに、なんで比企谷先輩はいろはちゃんを訪ねてきたんだろう……

 

 

私はあの二人が一体なんのお話をするのかがどうしても気になってしまい、ばれないように、静かに静かに比企谷先輩達の方へと近づいていく。

目が合うと葉山先輩に悟られちゃいそうだから、後ろ向きになって、すすすいっ……と。

 

ほんとは盗み聞きなんかしちゃダメなの!ダメ……なんだけどぉっ……身体が勝手に動いちゃう〜……

 

「なかなか大変そうだな。生徒会に頼まれていろいろやっているんだろ?いろはのことよろしく頼む」

 

葉山先輩のその言葉は、比企谷先輩がなぜここに居るのか?という疑問に次いで、またさらなる予想外だった。

生徒会……?なんで生徒会……?

比企谷先輩が生徒会関係者だなんて、聞いたことも無い……けど……

 

「なんだ、知ってんのか」

 

その一言で、比企谷先輩といろはちゃんが生徒会絡みの知り合いであることは間違いなさそう。

 

「ああ。何をやっているかは言わないけど、忙しいっていうのは匂わせてくるから」

 

「っつーか、わかってんならお前が助けてやれよ」

 

「別に頼まれたわけじゃない。頼られたのは君だろう」

 

どうして比企谷先輩が生徒会関係のお話に出てくるのかは分からないけれど……少なくとも、いろはちゃんは葉山先輩よりも、比企谷先輩の方を頼ってるってことなんだろうか……

 

「うまく使われてるだけだろ」

 

「頼られたら断らないからな、君は」

 

ああ……そういうことかっ……

どうして比企谷先輩といろはちゃんが知り合いなのかは分からないけど、いろはちゃんは比企谷先輩がとっても真面目で優しい人だって理解してるんだ。

だから生徒会のお仕事を頼って手伝って貰ってるのかな。

 

「まなっちー!俺のタオル知んねー?あとスポドリ俺のぶん飲まれちってんだけどー!まじないわー」

 

まだまだこのままお話を聞いていたかったんだけど、どうやらもうタイムアップみたい……。もー!戸部先輩のばかぁっ……!

 

 

まだ続きそうな先輩方のお話に後ろ髪を引かれつつも、お仕事中なのだからお仕事に集中しなくちゃ!と、今にも誘惑に負けちゃいそうな自分を鼓舞して戸部先輩の元へと走り出す私。

 

でも、そのあと戸部先輩に対するタオル出しが雑……というか乱暴になっちゃったのは内緒……っ。

ちなみに飲まれちゃったというドリンクを再要求してきた戸部先輩には、黙って水道へと指を差しましたっ。

 

……ホントはそういうのはいけない事だって分かってるんだけど、ナニタニくんの件といい今日みたいな間の悪さといい、戸部先輩なんて知らないんだから!もう!

 

 

……それにしても……なんでか知らないけども、比企谷先輩がグラウンドに現れてから何回か目が合っちゃったよ〜!

なんで私のこと見てたのかな!?もしかしたら私のこと憶えてたりして!

いや、単純に私が見すぎてたから気になったのかも……う〜、引きつった顔を真っ赤にしてる変な子とかって思われちゃったかなぁ……?

 

 

そんな馬鹿なことを考えて頭の中がぽわぽわしていると、気が付いたら比企谷先輩はグラウンドから立ち去っていた。

 

 

× × ×

 

 

「あぁ〜あ……振られちゃったなぁ〜……」

 

分かってたことだけど、いざ家に帰ってきてから実感すると、やっぱり心に来るモノがある。

それに……いろはちゃんに取られちゃったしな……

 

 

バレンタインデーの夜に一人寂しく、体育座りのようにギュッと身体を抱き締めてお風呂に浸かりながら、玉砕しちゃった事、いろはちゃんに一旦……“一旦!”取られちゃった事を涙目になって思い出してるうちに、それまでの色んな出来事も一緒に頭の仲を駆け巡っていた。

文化祭後の事だったり体育祭の事だったり。

特にあの日、比企谷先輩といろはちゃんの繋がりを初めて知っちゃった時の心の揺らぎを。

 

 

結局あの後は、生徒会のお仕事で忙しそうないろはちゃんとは中々会う機会が持てず、比企谷先輩のことは聞けなかった。

違うよね。顔を合わせられた時も、緊張しちゃって結局聞けず仕舞いだったもん。会う機会が無かったなんて単なる言い訳。

 

 

コミュニティーセンターでのクリスマス会にはいろはちゃんに呼んで貰えて、葉山先輩とのお話を聞いた感じだともしかしたら比企谷先輩も来るのかも!って、すっごく行きたかったんだけど、残念ながらクリスマスは家族でお父さんの実家に帰省するって前々から決まってたから行けなかったんだよね……

 

そのまま冬休みに突入してからも、クリスマスが大変だったからかいろはちゃんは部活には顔を出さなかったし、冬休みが明けてからも部活に出てこなかったから、ずっと悶々としてたっけなぁ……

 

ていうかいろはちゃんてば!

あの頃は生徒会のお仕事大変なんだろうな〜って心配してたのに、実際は単に比企谷先輩の所に遊びに行ってただけなのと、もう葉山先輩には興味が無くなっちゃったからなんだよね!?

もう!信じてたのにっ…………ん、んー……でもその気持ちはすごく良く分かります……

 

 

『……わ、私にっ!……ひ、比企谷先輩を……紹介して、もらえない……か、な……?』

 

 

比企谷先輩への記憶を巡る旅が、ようやく一週間前くらいまで辿り着いたその時、私の脳裏にはほんの少し思い出しただけでも、誰もいないのに恥ずかしくて顔を覆い隠したくなるようなこのセリフへと行き着いてしまった。

 

「……ふぇぇ……恥ずかしいよぅ……ぶくっ……」

 

あまりの羞恥に思わず顔を半分ほどお湯の中に入れてぶくぶくしてしまった。

 

思えば、あのセリフは私の今までの人生の中でも、飛び抜けて色んな決意が必要なセリフだった。

もっともあのセリフを言ってしまって以降は、今日までのあいだ毎日決意のセリフまみれになっちゃったけどねっ。

 

 

あの時のいろはちゃんの驚いた顔……そしてそれから比企谷先輩の事を身振り手振りでとっても楽しそうに、でもどこか苦しげに教えてくれたいろはちゃんの顔は、たぶん一生忘れられないと思う……

……あのとき、初めて自分がこんなにもずるい人間なんだな……って、実感できたから。

 

 

そして私は今ひとたび記憶を巡る旅に出よう。

比企谷先輩との再会のあの日から、今日のみっともない告白劇までの、運命の一週間の記憶へと。

 

 

…………のぼせて全裸のまま倒れちゃわないように気を付けなくっちゃねっ……!

 

 

× × ×

 

 

四時限目終了のチャイムが校内に鳴り響き、私の心臓が破裂しちゃいそうなくらいに跳ね上がる。

 

ついに来ちゃった……この時がっ……

 

「愛ちゃーん。お弁当食べよっ……え?ま、愛ちゃん?」

 

「え!?愛ちゃん!?ど、どしたのこの娘!?」

 

「わ、分かんない……なんか朝から様子は変だったけどね……」

 

私の周りではなんだかお友達が「おーい……?」とかって騒いでるみたいなんだけど……もう私の頭の中はそれどころでは無いのです……ごめんなさいっっっ!

 

どどどどうしようっ……なんか目がぐるぐるするよぉ……

たぶん今の私は、まるで卒業式に臨む卒業生のように、まるで面接に臨む新卒者のように、微動だにせずピシッと固まってるのだろう。

 

そんな時、突然クラスの男の子から声が掛かったのだ。

お友達が私を心配して掛けてくれる声は、まるで自分が水の中にでも居るかのようにグワングワンと頭に響くばかりで全然聞き取れなかったのに、その男の子の声だけは、やたらとはっきり聞こえた。

 

「あの、愛川さん……C組の一色さんが呼んでるんだけど……」

 

「!? ひ、ひゃぁいっ!」

 

がんっ!!

 

びっくりして飛び上がりそうになって立ち上がると、思いっきり机に足をぶつけてしまった。

 

ふぇぇ……痛いよぉ……

とりあえず落ち着こう!と佇まいを整えようとすると、鞄を落としちゃって中身が床に散らばる。

 

は、恥ずかしいっ……

真っ赤になりながら、震える手でなんとか中身を全部拾いあげて、いろはちゃんへと歩を進めようとすると、今度はなんだか歩調がぎこちなくてつまずいてしまう。

 

それでもコケちゃいそうになるのをなんとか耐えぬき、私はようやくいろはちゃんへと辿り着いて笑顔を向けた。

 

 

「いいいろはちゃんっ!……おまおまお待たしぇっ!」

 

私ダメかもしれない……

口がまともに回らないし、顔がすごく引きつってるのも分かる。

 

「ちょっ……ま、愛ちゃん、大丈夫……?今日はやめとく?」

 

「ふぇっ……?い、行くよ?ぜ、全然大丈夫だよっ?」

 

……だ、大丈夫なわけ無いけど……だけどっ……!

……たぶん今日を逃したら、今日逃げちゃったら、私は一生比企谷先輩の隣には居られない気がする。

 

 

そう決心しながらも、いろはちゃんに連れられるままに徐々に比企谷先輩の元へと近づいて行ってるのかと思うと、全身がどうしようもなく震える。

情けないことに、私は隣を歩くいろはちゃんの制服の袖をギュッと握って、涙目で話し掛ける。

 

「……どうしようっ……いろはちゃん……私、なにをお話すればいいのかな……」

 

ていうかお話なんて出来るの?私……

口が回らなくて噛みまくる未来しか見えないよ……

 

「大丈夫だよっ。まずはわたしの友達ですよ〜って紹介して、あとは先輩とわたしで適当に喋ってるから、余裕が出てきたら会話に交ざってくればいいし、無理そうなら今日はまだ顔だけでも覚えてもらえばいいんでしょ?」

 

「う、うんっ!……いろはちゃんありがとうっ」

 

本当にありがとう、いろはちゃん……

震える手も竦む足も、いろはちゃんの袖を握ってると、ほんの少しだけ和らぐ。

 

 

 

ガタガタと震えが止まらないまま、永遠とも思えるほどの長い時間を掛けて連れられていったのは、購買から程近い校舎外。

そこには、あの文化祭の時からずっと夢にまで見ていたあの人が一人で座っていた。

 

 

 

───あの日、初めて男の人を格好良いなって思えてから四ヶ月。

ついに、私と…………初恋の人との邂逅が始まる……

 

 

 

続く

 

 






今回もありがとうございました!


ようやくここまで来ましたよっ(゚□゚;)
ホントはここまでが3話くらいの予定だったんですけどね(白目)



ここに辿り着くまで、愛ちゃんの現在過去未来の記憶が次々と交差してきましたが、ここからはごく一部の愛ちゃんファンの読者さまがずっと気になっていたであろうバレンタインの告白まで、一気に書いていこうと思います!



ではではまた次回お会いいたしましょう!



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