いろはす色な愛心   作:ぶーちゃん☆

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一色いろはは企てるっ

 

 

 

2人で生徒会室へと向かう道すがら、わたしと先輩はチラチラと視線を受けていた。そんな視線を感じる度に先輩は気まずそうに顔を歪めている。

 

知ってますよ?先輩。先輩は自分と一緒に居る事で、生徒会長のわたしに変な噂が立ってしまわないか心配してるって事……

先輩は文化祭以来、校内では中々の有名人になっちゃったみたいだから、わたしに迷惑が掛かるのを気にしてくれてるんだよね。

 

でも、だからこそわたしは平気な顔して先輩と一緒に歩いてるんですよ?たぶん先輩は迷惑でしょうけど。

そんなくだらない噂なんかわたしは気にしないよ?って姿勢を貫く為に。

そして生徒会長であるわたしが一緒に歩いてる事によって、少しでも先輩への悪意が減りますようにって。

 

その願いが叶うんなら、なんだったら校内中を手を繋いで歩きたいくらいにね!

……あ、それは単なるわたしの願望でしたっ。

 

「どうぞー」

 

生徒会室の鍵を開けて、先輩を招き入れる。誰も居ない教室は、その瞬間2人っきりの空間へと変貌する……

字面だけ見るとなんだか意味深っ!今日はまだそういうのじゃないからっ!

 

「お茶淹れますんで、お先にお昼どうぞー」

 

「おう、サンキュー」

 

わたしが備え付けのケトルでお茶を淹れている間に、先輩は食べ掛けのパンをテーブルに広げて食べだした。

こういう時、淹れるお茶が雪ノ下先輩レベルだったらポイント高いんだろうなぁ……緑茶ってあたりが渋すぎてポイント低いですねー。

 

「どぞどぞ」

 

2人分のお茶を用意すると、わたしは数ある席の中からもちろん先輩のすぐ隣の席に腰掛ける。

ふふっ、なんか近くて迷惑そうな顔してますけど、赤くなってるのが誤魔化せてませんよっ?

 

迷惑そうに恥ずかしがってる可愛い先輩をニマニマと横目で見ながら、わたしもお弁当の準備をば!

へへ〜!先輩と一緒のランチタイム、結構憧れだったんだぁ!

 

「なに?お前もまだ食ってなかったの?」

 

「そーなんですよぉ。職員室に鍵取りに行ってたんでまだなんですよー。面倒くさいから、今度合鍵作っちゃおっかなー」

 

先輩は愕然とした表情でわたしを見てるけど、割と切実に合鍵作りたい。いや犯罪ですけどね?

だってこの先、もし毎日先輩とお昼を一緒に過ごす関係になれたとしたら、誰も居ない生徒会室は2人のイチャイチャパラダイスになるわけじゃないですかー?

そんな幸せ時間を、わざわざ職員室に行く時間なんかに潰されたくないじゃないですかー?

 

ふへへへ……先輩に毎日あーんしたり膝枕したり〜!

そ、それどころか……っ!

 

 

「で?何の用だよ……」

 

おっと!先輩とのイチャイチャ妄想に水を差されてしまった上に、夢も希望も色気もない相談催促の一言……まったく!ちょっとはこの状況楽しんでくださいよ先輩っ!

 

「まぁまぁ、とりあえずはお昼にしましょうよー!あ、なんか食べたいのありますー?」

 

でもつれない先輩はほっといて、わたしは楽しんじゃうよー?

だってせっかくの初めての2人きりのごはんなんだもんっ。

でも先輩はわたしの提案をあっさり断りやがった!

 

「むー……せっかく可愛い後輩の手作り弁当が食べられるチャンスだっていうのにー……」

 

ホントに先輩のばーかっ!

頬っぺた膨らんじゃってるけど、これは素なんだからねっ!?

 

「なに?これお前が作ったの?……一色って料理出来るんだな」

 

「なんですか失礼な。わたしお菓子作りとかも超得意で、なにげに女子力超高いんですよー?はいあーんっ♪」

 

わたしは自信作の甘めな玉子焼きをあーんしてみた。

どうせ恥ずかしがって食べてくんないだろうけどね。

 

「いらんっつうの……なに?俺を恥ずかしがらせて悶え苦しませたいの?」

 

「……先輩、なに言ってんですか……マジでキモいです……」

 

てかホント可愛いすぎです先輩……その真っ赤な顔も泳ぎまくってる目も……

 

なんなんですか先輩こそわたしを萌え死にさせる気ですかわたしが先輩を残して死ねるわけ無いじゃないですかわたしは先輩とずっと一緒に居たいんですごめんなさい。

 

 

× × ×

 

 

せっかくの間接キスっ……!のチャンスは阻まれたものの、先輩の可愛さに悶えているといつの間にか食事が終わっていた……

あざと八幡恐るべし!

 

「んで?結局なんなんだよ……わざわざウチのクラスまで来たって事は、なんかそれなりに急ぎの用なんじゃねぇの?」

 

食べ終わったかと思った途端に早速の質問ですか。

ま、今日の目的はソコだし、とっとと言質とっちゃうぞー!

でもその前に……

 

「別に急ぎってわけじゃないんですけどー……てか先輩わたしの依頼の件てちゃんと覚えてますかぁ!?」

 

……やっぱり……なんでそんなに不思議そうな顔してんですかねーこの人は。

 

「もーっ!やっぱりですよこの人!……デートの件ですデートの件!ストレスの溜まった葉山先輩が気軽に遊べるリラックスデートプランを考えて下さいってお願いしたじゃないですかー!」

 

「あ、あー、そういやそんな話あったな」

 

「ちゃんと真剣に考えてくださいよー!わたしずっと楽しみに待ってたんですよー!?」

 

まぁホントはそこんとこは折り込み済みなんだけどっ!

雪ノ下先輩と由比ヶ浜先輩が居る前でこの話題だされちゃっても困るしねー。

 

「だから聞く相手間違ってるっての……デートなんかした事ないのに、そんなプラン考え付く訳ねぇじゃねーか……」

 

いーえ、聞く相手なんて……先輩しか居ないですから。てか先輩以外から聞いたってなんの意味もない。

だからこそわたしは声を大にして言ってやった。

 

「だ・か・ら!だからこそ先輩に聞いてるんじゃないですかー!先輩ならどんな風にすれば気軽に楽しめますか……?どんな風にすればリラックス出来ますか……?ありきたりなデートプランじゃなくて、先輩だったらどうなのか、それが聞きたいんです!」

 

わたしが知りたいのはそれだけ!それを聞きたい為だけの作戦なの!

すると先輩は面倒くさそうに、でも真剣に考えてくれる。

ふふっ、まったく……そういうトコ、本当にあざといですっ!

 

「あー、学校帰りに……適当にゲーセンでも寄って……腹が減ったらラーメン屋の開拓……とか?」

 

「学校帰りにゲームセンター寄ってお腹空いたらラーメン屋さんですかー……まあ確かに制服デートって所はポイント高いかも知れませんけどー……」

 

ホントにムードとかは一切無いですよね。

初めてのデートで女の子をラーメン屋さんに連れてくとか……でも……

 

「確かにデートとは呼べないくらいにムードもへったくれもないプランですねー。さすがは先輩と言うべきか……」

 

でも……放課後デートってところは……うまく利用出来るかも!

 

「いやだからさ…」

 

「まぁ先輩ですしねー……分かりました!それじゃあ仕方ないので、早速今日にでもそれを試してみましょう!」

 

「そ、そうか……まぁ頑張れよ」

 

「は?なに言ってんですか。そんなの先輩と一緒に行くに決まってるじゃないですかー」

 

そうなのだ!放課後デートって事は、ヤツに逃げ道なし!

 

「……………は?」

 

やっぱりその顔ですか先輩。でも今日は逃がしませんよー?

 

「だって、そんなムードの無いデートコースなんて、わたしに分かるわけ無いじゃないですかー。だったら練習しなきゃダメですよねー?」

 

「なんでだよ……俺関係なくない?」

 

うふふ、だから逃がさないって言ってるじゃないですかぁ?

だからわたしは先輩取り扱い説明書の1ページ目に書いてあるあの言葉を放つ。

 

「……だってー、先輩依頼受けるって約束しましたよねぇ?はっきりと口にしましたよねぇ?それともその約束は本物じゃないんですかぁ?」

 

たぶんわたしはすっごい悪い笑顔で先輩を見てるんだろうな。

でもね、わたしがこんな顔を見せるのは先輩だけなんだよ?

あなたは、こんなわたしもあざといわたしも、全部受け止めてくれるから……どっちの一色いろはも、分け隔てなく接してくれるから……

 

「て、てめえ……!」

 

「と!いうわけで今日の放課後よろしくですー♪」

 

そしてわたしは思いっきりあざとく思いっきり小悪魔的に、先輩に必殺の敬礼ポーズを贈るのだった。

先輩には全然効かないんだけどねー!

 

 

× × ×

 

 

「どうしたの〜?いろはちゃん。そんなに嬉しそうな顔しちゃって」

 

「へ?そ、そんなことないよ愛ちゃんっ」

 

うっわ〜……あぶないあぶない!わたしそんなに緩んでたのか〜!

せっかく真面目に午後の部活出てんのに!

 

「ふふっ、ホントに〜?……それにしても今日はいろはちゃんが朝練も午後練も出てきてくれたからホント助かっちゃったぁ〜!生徒会の方は大丈夫なの?」

 

「うん。今日は休みにしたんだー」

 

ホントはここんとこ、ほぼ開店休業状態なんですけどもね……

 

いつもだったら奉仕部に行くんだけど、この後デートが待ってると思うとちょっと行き辛いんだよね。

だってわたしと先輩で2人して意識しあってたら、絶対あの人たちにバレちゃうし!バレてついて来られたら最悪だもん!

 

「でも結局は今日も早めに上がっちゃうからゴメンね!」

 

デートだから部活早退するとか、あまりにもヒドイ。

 

「いいよいいよ。なにか大切な用事があるから葉山先輩に早退のお願いしてたんでしょ?あとは任せといてっ」

 

そう言うと愛ちゃんはエヘンと胸をポンと叩く。

 

愛川愛《あいかわまな》ちゃん。この子はホントにいい子なんだよね。

 

わたしを含めた1年女子マネ3人が葉山先輩目的で入部したのに対して、この子だけは真剣にマネージャーをしたくて入部してきたみたい。

どうやら大学生のお兄さんが子供の頃からサッカーをやってるみたいで、サッカーをしている男の子を応援してお手伝いするのが好きみたいなんだよね。

 

しかも見た目もすごい可愛いくて、サッカー部男子の間では愛派といろは派に分かれてるらしい。

 

え?あと2人の女子マネ?

うん。興味ないです。

 

 

 

よし!そろそろ時間かな?サッカー部はまだまだ終わんないけど、奉仕部ならそろそろ終わりにする時間のはず。

 

うっわ〜!超ドキドキニヤニヤしてきちゃった!

練習名目とはいえ、初めての先輩とのデートだっ……

 

「それじゃあゴメン、今日はお先に上がるねっ」

 

「は〜い!お疲れさま〜」

 

じゃあ葉山先輩にも挨拶してから帰りますかね?とその場をあとにしようとした時、愛ちゃんが遠慮がちに話し掛けてきた。

 

「……あっ、いろはちゃん……あの……」

 

「どしたの?」

 

「ちょっとだけ前から聞いてみたいな〜……って事があったんだけど……」

 

どうしたんだろ……?愛ちゃんがこんなにモジモジと話し辛そうだなんて、初めて見るかも……

 

「あの……いろはちゃんって……その……は、はやません……ぱい……の、こと…」

 

…………へ?は、葉山先輩!?

 

「…………う、ううん!?な、なんでもないっ!……あ、そうだ!タオル洗濯しなきゃっ!……バイバイいろはちゃんっ」

 

 

………へー、意っ外!

愛ちゃんはそういうミーハー的な興味って無いかと思ってた……

でも、間近でサッカー頑張るあんなイケメン見てたら、そりゃ惚れちゃうものかもねー。

 

もしかしたら今後は愛ちゃんの恋愛相談なんかにも乗る事になんのかな?

応援してあげたいけど葉山先輩の難易度は先輩クラスだもんなぁ。

うーん……なんか面倒なことにならなきゃいいけど……

 

 

でもそれはそれこれはこれ!

今は人の心配よりも自分の心配しなきゃだよねっ。

 

 

わたしは葉山先輩に断りを入れてから帰宅の準備をし、ウキウキわくわくドキドキで校門へと辿り着いた。

 

あーっ……やっばいやっばい!超嬉しい!

鏡を覗きこんだわたしは、前髪を弄ったり緩みきってる目もとと口もとを手でグニグニしてなんとか整えようと超必死!!

朱く染まった頬っぺたは、もうすぐ暗くなるから誤魔化せるよね。

えへへ〜……早く来い来い比企谷八幡!

 

 

 

せーんぱい!あなたの可愛い可愛い後輩が首を長くしてお待ちかねですよ〜っ♪

 

 

 

 

続く

 

 





ありがとうございました!

次回で短編分は終わりですね。
次次回からこのエピソードの後日談+αを始めます!

そして次回は問題のあのシーン!
短編の八幡視点の時より、じっくりとゆっくりと心の描写してますよ〜。


それではまた次回(^_^)ゝ

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