デート・ア・ライブ  the blue fate   作:小坂井

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タグにもあった番外編ももう少しで終わりです。漫画を文字にするのは大変でしたねぇ・・、今となってはいい経験です(*・ω・)ノ


番外編 5話

「うーん…スッキリ、よく眠れた」

 

二十分後、寝たおかげで体力回復が完了した蓮はググッと身体を伸ばしリラックスする。人間の三大欲求の大きさが身にしみてよく分かった。そして、その間蓮の枕となっていたミリィはというと…

 

「も、もう…蓮ったら…言ってくれればさせてあげましたのに…」

 

顔を赤くし、何やらモジモジといった仕草をし、独り言をブツブツと呟いており、それは外から見ると明らかに精神異常者にしか見えない。

 

「どうせならベッドの上で…ああん、もう綺麗だなんてミリィは照れちゃいますって。どうせなら一緒に寝てあげますよ、あっ、そんな所触っちゃもうお嫁にもらってもらうしかありませんってぇ…」

 

自分の世界に入り浸るミリィ。まあ、妄想や夢見る事は自由のため、水を差す事はないだろう。そんなミリィを横目で見ていると正面から見知った顔がやって来た。それは『チェシャー・キャット』を装備した美紀恵だ。

 

「あれ?どうしたんだ、こんなところに?」

 

「蓮さん、襲撃犯の護送任務の事なんですが…」

 

「あれあれ?あなたはたしか新人の…」

 

そこで自分の世界から帰ってきたミリィが会話に参加してくる。まだ二人は初対面だったらしい。

 

「岡峰 美紀恵です!よろしくお願いします!」

 

堅苦しく敬礼するが、ミリィ相手にそんなのが必要とは思えない。しかし、まあ、上下関係は大切という事だろう。

 

「ミリィは整備士の『ミルドレット・F・藤村』ですよー。それでご用件は何ですかー?」

 

「襲撃犯の輸送と一緒にワイヤリングスーツも護送するから、持ってこいと隊長さんに言われまして…」

 

少し前にセシルの処遇が決定し、イギリス本国に送還となった。その後の結末はASTの知ることではないのだが、蓮の予想では最悪の場合は処刑、それを免れてもまともに太陽を拝むことも叶わない人生になるだろう。

 

美紀恵が言っているのはそれについてだ。

 

「護送リストにそんな物は入ってなかったはずだが…」

 

ミリィは別に何も疑問に思ってないらしいが、蓮はしっかり確認していたから分かる。セシル本人以外に何か持ってこいという命令は無かったはずだ。その言葉に美紀恵は肩を震わせたのが見えたのだが…

 

「まあ、そうだな。もしかしたら(・・・・・・)必要になるかもしれないし、渡しておくよ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「なんでここで礼を言うんだ?命令(・・)なんだろ?ミリィ、渡していいか?」

 

抜けてるなと心で思いながらミリィに判断を委ねる。ミリィはここの整備主任なので彼女の許可が必要なのだ。

 

「へ?別に構いませんよー」

 

呆気なく許可が下りたことにより、蓮はセシルのワイヤリングスーツを取りに向かう。ワイヤリングスーツといっても手のひらに収まるほど小さなデバイスで見た目は軍のドッグタグに似ている。

 

蓮はなんとなくそれをジッと眺める。もし(・・)、これがセシルの手に渡ったら随意領域(テリトリー)を展開し、ここから逃げるんだろうと思いながらだ。

きっかり二秒後、そんな思考を中断し、それを美紀恵に渡す。

 

「それじゃあしっかりと渡したからな。頼むぞ」

 

「は、はい。ありがとうございます。蓮さん、ミルドレットさん!」

 

礼を言った美紀恵は小走りで格納庫を出て行く。その姿を蓮は見つめていた。

 

「ミリィ、ちょっと用事を思い出したから、少し抜ける」

 

「さっき休んだばかりじゃないですかー。これ以上はダメですよー」

 

「もし、許可してくれたらキスしてやるよ」

 

「ええっ!?本当ですか!!」

 

「いいや、嘘」

 

期待を膨らませたミリィにさらっと嘘を吐いて格納庫を出て行く。どこに行くかなどもう決まっていた。

 

 

 

出て行った美紀恵の後を追ってみると、向かった先は燎子の元ではなく、セシルの居る第二特別室だった。

鍵を開け、入室するが美紀恵は数分も経たな内に部屋から出てきた。その後はどこかに歩いて行ってしまったのだが、やはり燎子の所に向かうつもりでもないようだ。

 

美紀恵の姿が見えなくなると、扉を開けて室内を見てみる。すると、蓮が格納庫で渡したデバイスが落ちているのが目に入る。

そして、中央にはセシルが座っているのだが、その両目からは涙が流れ落ちていた。

 

「あいつは…まったく…」

 

新人の癖に敵に肩入れとは幾ら何でも甘過ぎる。それに対する呆れのため息混じりに出した声にセシルが反応する。

 

「その声は…美紀恵ちゃんは一体何を…」

 

状況が飲み込めないセシルは困惑した声を出す。蓮はデバイスを拾ってセシルに向かって歩き出す。

 

(やっぱり俺も男なんだな…女に優しくしてカッコいい所を見せようとする…)

 

涙は女の武器とはよく言ったものだ。セシルの近くに寄ると手を開かせてそこにデバイスを握らせる。彼女は握ったその感触でこれが何かすぐに分かった様子だ。

 

「しっかり機能するようにチェックはしておいたから、問題なく動くさ」

 

「あなたはなぜこんな事を…」

 

「それは美紀恵に言え。俺自身はまったく何もしてないさ」

 

人差し指でセシルの顔の涙を拭き、部屋を出て行く。美紀恵が考えもなしにこんな事をしたとは考えにくい。

つまり、美紀恵とセシルの間に何かしらの取引などがされた可能性がある。まあ、『可哀想だから』という理由もゼロではないが。

 

(さあて、美紀恵がどんな考えで逃がそうとしたか…見せてもらおうか)

 

すぐにセシルはここから脱出するだろう。その時に顔を合わせてはマズイ、蓮はすぐにここを離れていく。自分が"傍観者"であるために…

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

セシルの脱走はすぐに発覚し、基地の中にサイレンとセシルを発見して捕獲しろという命令が下された。

隊員が忙しくバタバタ走り回っているなか、セシルはすでに基地の敷地の外まで脱出していた。

 

疲労の色を見せながら基地から離れるべく走り出すセシルを、敷地を隔てる塀を飛び越えてきた美紀恵が後を追って走り出す。美紀恵本人はバレていないつもりだったらしいが、それは蓮から見たら子供騙しのレベルだ。

 

(なるほど、後を追ってアジトを見つけるって事か)

 

計画は甘かったが、その目的は悪くないと塀に腰を掛けたまま、心の中で称賛する。走っていく美紀恵を塀から飛び降りコッソリと後を追う。

 

しばらく走りたどり着いた場所は人気のない廃アパートだった。セシルがその中に入っていくのを見た美紀恵はすぐに後を追うが蓮はすぐには入らず、周囲をチェックしてトラップや監視カメラなどが無いかを入念にチェックして中に入る。

 

すでに二人の姿は見失ってしまったのだが、地下に通じる階段から話し声が聞こえることから地下にいると判断し、コンクリートで出来た階段を足音を立てないようにゆっくりと降りていく。

降りていくにつれ、話し声がハッキリと聞こえるようになってくる。今話しているのは美紀恵だろう。

 

「私は自分の一番正しいと思う行動をしました…それは、あなたを信じて…あの場から逃す事です!」

 

言葉から大きな決意が宿っていると感じる。少し前はオドオドとした少女だったのに今は自分の信じる事のため、行動出来る勇気がある。

『納得は全てにおいて優先すべき事』という言葉があるが、蓮は行動すれば褒めるほど甘くはない。

 

気付かれないようにコッソリ美紀恵に近寄ると頭にそこそこ力を込めた拳骨を不意打ちで落とす。痛みで頭を押さえ、一体誰がしたのかと涙目で後ろを向いた瞬間、まるで幽霊でも見たかのような驚愕した表情に変化した。

それは一緒にいたセシル、アシュリー、レオノーラも同じだ。

 

「れれれっれ、蓮さん!?ど、どうしてここに!?」

 

「それは結構なんだが、人の良いミリィを騙したのは感心しないな。まったく…隊長さん、怒ってたぞ」

 

美紀恵の疑問に答える事なく、やれやれといった様子で周囲を見渡しセシル達に視線を向ける。セシル以外は緊張…警戒した顔だ。

 

「どうするんだよ!?美紀恵はともかく、アジトを知られちまったぞ!」

 

蓮にこのまま帰られるのはマズイ事になってしまった。最悪、殺してでも口封じを…という考えがアシュリーの脳裏を掠めた時。

 

「俺を殺したいと考えるなら、その前にブランデーのまともな注ぎ方でも身につけてからにしな。前髪の長いウェイトレスさん、いや、アシュリー・シンクレアだっけ?」

 

つまらなそうにしながらアシュリーの考えていた事をピタリと言い当てる。それだけでなく自分の黒歴史を言われて顔が羞恥で赤く染まる。

そんな事を言われてもセシルだけは冷静だった。

 

「なぜあなたは私を逃したの?その様子だと美紀恵ちゃんと共犯という様子じゃないらしいけど」

 

「テロ目的じゃないのに、アシュクロフトを奪おうとする目的が気になってたんだよ。それを聞くにはそれなりの善意を見せる必要があると思った。そんな時に美紀恵がお前(セシル)を逃がそうとしているのを感じて急遽その計画に乗った…ってところかな。これは予想なんだが、美紀恵とお前の間にもそんな取引があったんじゃないのか?」

 

「驚いたわね…その通りよ」

 

美紀恵の頭にグリグリと拳を押し付けながら、まるで見ていたかのように取引の内容を言い当てる蓮にセシルは降伏とばかりに声を出す。

 

(私も美紀惠ちゃんも、彼の手のひらの上で踊らされてたってわけね…)

 

だが、そんな彼に自分達の目的を言って、協力してくれればとても頼りになる味方になってくれるだろう。蓮には分からない事が多いが、自分の正義のためならどんな事でもする力と勇気があると感じられる。

 

「そうね…あなた達はしっかりとした善意を見せてくれたわ。話してあげる。私たちの目的を…」

 

「てめえ狂ったか!?ASTは敵だぞ!もしかしたらこれは作戦って可能性も…」

 

「確かに保証は無いわ。だけど、二人は進退をかけてまで逃がしてくれた。なら、私も信じてあげなきゃダメだと思うの」

 

アシュリーが食ってかかるが、セシルの言葉を聞いて床に座り込む。好きにしろという意志表示なのだろう。

 

セシルは側にあったアタッシュケースから、そこそこ厚みのある資料らしきものを取り出して美紀恵に渡す。少し汚れている表紙を見ると、『DEM、Ashcroft、TOP SECRET』という単語が目に留まる。

 

「そこにあなた達の求める事が書いてあるわ」

 

セシルから資料を受け取った美紀恵はページを開いてその内容に目を通していく。すると、顔色が悪くなっていった。

 

「…顔色が悪いわよ。内容が衝撃的すぎたかしら」

 

「い、いえ…だ、大丈夫…です…」

 

美紀恵はそう言うが蓮からは明らかに大丈夫そうに見えない。今もあまりのショックのあまり、資料を床に落としてしまった。

蓮もそれを拾い、内容に目を通していく。確かにこれほどの内容なら美紀恵がそうなるのが分かる気がする。

 

「それを見れば分かる通り…私達のかけがえのない友、アルテミシアを奪った組織の名は…DEM(・・・)…そして…新型顕現装置(リアライザ)アシュクロフトのコアはある魔術師(ウィザード)の脳をベースに作られたもの…」

 

「なるほど…アシュクロフトという名前はただの偶然じゃなかったわけか。五つのアシュクロフト全て…アルテミシア・ベル・アシュクロフトの脳内情報を使って作られたもの…脳情報を吸い取られたアルテミシアは昏睡状態…つまり、アルテミシアはアシュクロフトのための生贄(・・)って訳か」

 

セシルの言葉を蓮が続ける。アシュクロフトが他の機体と比べて性能が高いのも、世界最高峰の魔術師(ウィザード)であるアルテミシアの脳を素材としているからなのだろう。

 

「アルテミシアを元に戻すためには五つ全てのアシュクロフトにメモリーされている脳情報をアルテミシアにフィードバッグさせること…それがアシュクロフトを狙っている理由よ!」

 

セシルの言葉を蓮は資料に目を向けながら聞いていた。その理由に納得しながらも、心のどこかに彼女達が力を求めてアシュクロフトを手に入れたのではない事に安心している自分もいた。

 

「これで分かったはず。美紀恵ちゃん、あなたが戦いを回避し、役に立ちたいというなら…あなたの纏っている『チェシャー・キャット』を私達に手渡すしかない…」

 

少し前の美紀恵だったら拒否していただろうが、事情を知ってしまったことでそれも一つの選択ではないかと思い始めている。そんな美紀恵を見ていると、次に蓮を見つめたセシルが話し出す。

 

「蓮、あなたも話を聞いて協力するというなら、私達と共に『アリス』を奪うのを手伝って欲しいわ。あなたなら基地を内部から混乱させる事も出来るでしょうし」

 

「・・・・・・」

 

蓮は何も言わずに無言を貫く。その間にも資料を捲ってアシュクロフトについての情報を集めている。室内を沈黙が支配する。その沈黙を破ったのは美紀恵だった。

 

「それは…まだできません!ですけど、アルテミシアさんを犠牲にしたままでいいはずがないです!」

 

「でもあなたはアシュクロフトは渡せないと…」

 

「…時間をください!私はここで聞いた事と資料を持って基地に戻ります!この事を知れば絶対に事情を理解してもらえます!」

 

自分の意思を必死に訴える。たった三人だけで戦っていた彼女達を…アルテミシアを救うために…そして、本当の敵を倒すために…

 

「私達が戦う理由なんてなかったんです…本当の敵は…DEM社…!」

 

「残念だが、それじゃあ百点満点はあげられないな」

 

美紀恵の言葉にずっと沈黙していた蓮が言葉を挟む。四人の視線が蓮に集まるが本人は澄ました顔で、相変わらず資料に視線を向けたままだ。

 

「それって…どういう意味なんですか?」

 

「このアシュクロフト計画…現取締役の許可を取ってない非公式の計画だな。まあ、あっちもそのうち裏切りの芽を摘みにかかるんじゃないかな」

 

「裏切り者って…どういう事なの?」

 

「DEMも一枚岩ってわけじゃなくてな。たまにこういう事をするバカがいるんだよ」

 

今のDEM社のトップに対する不満を抱えている社員は少なくない。その理由に傍若無人などがあるが、蓮は無能な愚民共の民主よりも、有能な者の独裁の方が有益と考えているので不満は無かった。

 

分かりやすく言うと、日本には『三人寄れば文殊の知恵』という(ことわざ)があるが、蓮から言わせてもらうと、『バカは百人集まってもバカ』それだけだ。

 

「随分と内部情勢に詳しいのね」

 

「まあ、俺もDEMの人間だからな」

 

さらっと言う爆弾発言に驚きの声が響くが、本人はそんなもの知ったことかとばかりにページを読み進める。すると『エドガー・F・キャロル』という名前を見つけて目を細める。それは知っている名前だったのだ。

 

(こいつは顕現装置(リアライザ)開発部の統括責任者の…なるほど、こいつが元凶か。野心家っていうか、自分が一番じゃないと気が済まないような性格のおっさんだったからな)

 

エドガーとは、DEM本社で数回顔を合わせた事がある相手なのだが、今の立場に明らかな不満を抱えているという雰囲気を隠す事なく発してたような人物だった。それを放置したツケをここで支払う事になるとは流石に予想外だ。。

ある程度中身を見終わった資料をセシルに返す。

 

「話を戻すが、それでも堕とせるほどDEMは簡単じゃない。真那にも勝てないお前だとな」

 

「そんな…証拠はここにあるのに!何事もやってみなければ…!」

 

「DEMには強力な魔術師(ウィザード)がAST以上に揃っているわ。あなた達の部隊の世話になっている崇宮 真那や世界最強と謳われるエレン・M・メイザース。そして、魔術師(ウィザード)ではないけど、裏世界の皇帝とまで言われている技術者の存在もある…。DEMと戦うならそれらとの衝突は不可避だわ」

 

眉間に皺を寄せて話すセシル。一秒でも早くアルテミシアを救いたいと言ったが、冷静に現状を分析出来ていた。そこには証拠があるのに大きく動けない今の悔しさを感じる事も出来る。

 

「俺もそう思う。負けたらそこまでだ。だがDEMもずっとお前達を放置していたわけじゃないだろう?」

 

「ええ…あいつらは『追手』を差し向けてきたわ。そいつに見つかる前にアシュクロフトを揃えなければ…」

 

その直後、美紀恵達がいるビルに斬撃が入り、崩壊を始めて、瓦礫が降り注ぐ。突然の崩落にセシルはそれとは違う驚きで顔を染める。

 

「まさかもう…見つかったの!?」

 

「その通りだ…お前達がどこに行こうと…どこに隠れようと必ず見つけ出す…。会いたかったぞ、セシル、レオノーラ、アシュリー…」

 

崩れたビルの柱に立ち、そう言ったのは全身褐色肌で右目に縦向きの傷痕が特徴的の女だ。

ワイヤリングスーツを着ており、右手にはブレードを持っている。それでビルを崩壊させたのだろう。

 

「も、もしかしてあの人がさっき言っていた追手…はっ!蓮さん、ここから逃げ…」

 

美紀恵は非戦闘員である蓮を巻き込まないように離れるように言い、後ろを振り向くがその瞬間仰天した。

なぜならそこには蓮の姿がなく、まるで幻のように消え去っていたのだ。

 

蓮が急に消えた事に狼狽する美紀恵だったが、女が柱から飛び降りて床に降り立ったのを見て、気を引き締めざる得なくなった。

 

 


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