デート・ア・ライブ  the blue fate   作:小坂井

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なんとなく見てくれが悪いので全話投稿とします。文章力が無く、何がどうなっているのか分かりにくい内容と思いますが、暇つぶしにでもなれば幸いです。


番外編 2話

その後、レオノーラはなぜASTの隊員を襲撃した理由をすぐに自白した。それは明日空輸されてくる新型顕現装置(リアライザ)アシュクロフトを輸送機ごと強奪するため、護衛のAST隊員を減らすのが目的だったらしい。

 

アシュクロフトを強奪する事が目的ならその考え方は別に間違っている訳ではない。しかし、蓮にはどうしてもその考え方が浅はかに思えてしまっていた。聞いてみると、痛みによる尋問をした訳でもないし、アシュクロフト強奪の細かい計画を聞き出したという事でもない。

 

痛みによる尋問は爪を剥いでも何も喋らない人間もいるが、流石に敵の情報の鵜呑みはどうかと疑問も覚えてしまう。

だが、戦闘隊員でもない蓮は口出ししようとは思わなかった。

 

 

そうして、強奪が起きるその日。真那と燎子が輸送機の護衛に勤めている頃、蓮は呑気にも資料室で紙と睨めっこをしていた。

 

(うーん…やっぱり、修理費が重くなってるな)

 

真那と折紙の模擬戦で、CRーユニットの修理費が大きな負担になっているのが悩みの種だ。

最初の模擬戦で装備を大破させたのを注意して以来、壊す事はもうなくなったのだが、少なくない損傷を毎回装備に与えてくるので修理費が大きくなってきてしまう。

 

(しかし、手加減して戦えなんて言えないし、どうしたらいいか…)

 

資料室を退室し、予算書を見ながらどう言うべきか考えながら、日の差し込む通路を歩く蓮を見つめる人間がいた。

その人物は向かいの建物の屋上からスナイパーライフルを構え、照準器(スコープ)越しに捉え続けている。

 

その正体は特別室から脱走したレオノーラであり、蓮の姿を見つけると下唇を噛んだ。そのまま進まれてしまうともうすぐ突入してくる仲間のセシルとアシュリーの姿を見られる危険があるため、排除するのが望ましいのだが、相手は非武装。しかも多少の恩がある相手となると躊躇してしまう。

 

だが、このまま進ませる訳にはいかないので仕方なしに照準を肩に向けた。肩なら死にはしないうえに足止めも出来ると考え、引き金を引く。

バン!と大きな音を立てて弾丸が空気を裂きながら蓮に向かって飛んでいく。

当たったか確認するため、もう一度照準器(スコープ)を覗くが、次の瞬間レオノーラは眉を顰めた。

 

確かに蓮の足は止まっていた。しかし、表情には苦痛の様子はなく、平然と書類に目線を向けていた。しかし、一番気になったのは右手が何かを掴んだように(・・・・・・)空中で握り締めていた事だ。

 

蓮はレオノーラの疑問が通じたようにゆっくり右手を開くと開いた右手からは小さな鉄の塊がこぼれ落ちる。小さな弾丸(・・・・・)が。

 

レオノーラは自分の心臓が大きく跳ねたのを感じた。そんな事はあり得ないと。しかし、それは目の前の光景とは矛盾していた。

息を詰まらせ、二発の弾丸を蓮向けて発射する。恐怖や動揺を抑えるための反射的とも言える行動だったのだが、蓮はまるで見えているように右手を素早く動かし指の間に弾丸を挟んでいた。

 

(最初は肩狙いで一発。次は乱射とも言える狙いで二発か…)

 

そしてレオノーラの動揺はしっかり蓮にも伝わっていた。それが分かっていながらあえて通路を逆戻り(・・・)した。非武装である自分を撃ってきたという事は戦闘隊員でなくてもここから先に行かれたら困る事があるという事だ。

 

指に挟んでいた弾丸を捨て、通路を引き返していく蓮をレオノーラは恐怖のあまり涙目で見ていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

結局、空輸されてきた四機のアシュクロフトの内三機が強奪され、その圧倒的なまでの性能にピンチに陥ったが駆けつけた美紀恵が最後のアシュクロフトである『チェシャー・キャット』を起動させ、ほかの隊員を救った。

 

だが、他のアシュクロフトの奪還は出来ず敵の逃走を許す事となり、それは天宮駐屯地の信用を暴落させる結果となってしまった。

 

 

「これが最後だ。どうだミリィ、認証出来たか?」

 

「ふえぇー、やっぱりダメですよー」

 

蓮とミリィは美紀恵が守った最後のアシュクロフト、『チェシャー・キャット』を起動させようと基地の隊員全員が試しているのだが結局誰も動かす事が出来なかった。

 

「認証機能を制御している所はあるらしいのですが、アクセスを拒否されたらミリィにもお手上げです」

 

両手を上げ、降参というポーズをとるミリィの脇から蓮は画面をジッとみつめる。

 

「アクセスを拒否されたら流石に何も出来ないか」

 

「蓮がそんな事言うなんて珍しいですね。ミリィの中では何でも出来るようなイメージでしたのに」

 

珍しく弱音を吐く蓮をミリィは目を丸くし意外そうに見る。

 

「俺にだって出来ない事ぐらいあるさ。後始末はやっておくから、ミリィはもう休憩してていいぞ」

 

「はーい、じゃあお言葉に甘えて休ませてもらいますよー」

 

身体をクネクネ動かしながら最後に認証した隊員と共に格納庫を出て行く。これで残ったのは蓮一人だけとなる。

周囲を見渡し自分以外誰もいないのを確認した蓮は机の上に置いてあるノートパソコンを持ち、コードで『チェシャー・キャット』と接続する。

 

端末が繋がっているのを確認した後、キーボードをピアニストのように指が凄まじい速度で叩き始める。画面ではたくさんのウィンドウが出現と消滅を繰り返しており、蓮は画面だけを凝視して手元は一切見ない。

 

(自分専用の端末を使ってないとはいえ、これほどのロックの厳重さは異常だ…)

 

網の僅かな隙間を狙うような集中力を使う作業に瞬きすらも忘れそうになる。時間の感覚すらあやふやになってきた時、同じ光景を表示していた画面に突如変化が現れた。

 

『私とこれほど互角に渡り合えるとは、貴方はすごいですね』

 

急に画面に出現したメッセージに蓮は驚きとも警戒とも言える表情になった。

 

『お前は何者だ。どこからメッセージを出している?』

 

『自己紹介します。私は『チェシャー・キャット』に搭載されているナビゲーションAI、『ベル』という名前です』

 

『アシュクロフトにAIが搭載されているとは知らなかった。それじゃあ他のアシュクロフトにもお前みたいなのがいるのか?』

 

『いえ、AIが搭載されているのはこの機体だけです。私は装着者の戦闘をサポートするのが役目です』

 

AIのくせに随分とこっちの聞きたい事を効率よく答えてくれる。AIということは美紀恵と共に戦い、彼女の命を救ったということになるので警戒する必要はないだろう。

 

『私が貴方にこのように対話したのは頼みたい事があるからです。どうか他のアシュクロフトを奪った三人を救ってほしい(・・・・・・)のです』

 

『救ってほしい?…他の三人っていうのはレオノーラ達の事か?』

 

『それを知っているのなら話は早いです。どうか頼まれてくれませんか』

 

『救うにしろ倒すにしろ、ただの整備士に力仕事を依頼するのは人選ミスってやつじゃないのか?』

 

『私もそう感じます。しかし、理屈が無いのにも関わらず、あなたに頼む事が正解のような気がするんです。だから…どう…か、あの子…た…ちを…』

 

画面に表示された文字が、なんの異常もないにも関わらず、途切れ途切れになる。一体なんだと思い、蓮はキーボードを叩くが、そのメッセージを最後に、いくら呼びかけても反応は無かった。言いたい事を言った後は完全スルーなど、人間らしい行動をするAIがいたものだ。

 

相手が答えないのを感じ小さく舌打ちをした後、『チェシャー・キャット』の前に立ち、ゆっくりと右手を触れさせる。

そのベルというAIは信じていいのか分からない灰色の存在だが、救ってくれという言葉がずっと頭の中に残っていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

それから数日はアシュクロフトを巡った争いもなく、美紀恵も真那の特訓を受けゆっくり『チェシャー・キャット』の戦い方に慣れていった。その間も隙を見つけては、あの時のように機体にアクセスをしているが相手が反応したのはあの時だけで今は何も言ってこない。

 

(ふあぁ…暇だな…)

 

やることも無く、大きな欠伸をしながら蓮は理由なく通路を歩いていたある日。何か面白いことが無いかと考えながら一つの扉の前を通り過ぎた瞬間。

 

「いい!?最後のアシュクロフトである『アリス』は絶対にあの三人には渡せないわ!何としても護衛任務を成功させるわよ!!」

 

部屋の中からドア越しでもはっきり聞こえるほど、燎子の大きな声が聞こえてくる。それを聞いた途端、さっきまでの退屈な気持ちは消え去り興味心だけが心に浮かぶ。

ドアを開けると奥の机に燎子、手前に折紙、美紀恵、真那と立っている。

 

「何やら面白そうな話をしてるようですね。よかったら俺も混ぜてくれません?」

 

「蓮、あんた、聞いてたの?」

 

「あれだけ大きな声出されたら嫌でも聞こえますって。それで…話の内容はアシュクロフト関連ですよね?最後の一機を守るための護衛任務」

 

アシュクロフトは全部で四機だと思っていたのだがまさかもう一機あったのは意外だった。燎子達も最後の一機をみすみす見逃すつもりはない様子だ。もちろんそれは蓮も同じだ。

 

「俺も連れて行ってくれませんか?最後のアシュクロフトにも興味がありますし」

 

「はあ!?当日襲撃がある可能性があるのに整備士のあんたを連れて行ける訳ないでしょう!」

 

「怪我をしても自己責任で構いません。それに…俺を連れて行って後悔はさせませんよ」

 

綺麗に整った顔をニヤリと歪め悪魔のように微笑む。燎子はそれを見て何故かダメだとは言えなかった。

 

 

 

 

 

「ほおお…ここが岡峰重工特別イベントホールでやがりますか!めちゃくちゃ広いじゃねえですか」

 

「真那、あんまりキョロキョロするな。素人だと思われるぞ」

 

白いドレスに身を包んだ真那が珍しそうに周囲を見渡すのを、タキシードを着た正装姿の蓮が注意する。

しかし、真那がそうしてしまう気持ちはなんとなく分かる。今までこんな所に来たことすらないのだから驚きがあるのだろう。

後ろには真那の他に折紙、燎子、美紀恵がおり、全員ドレスを着ている。だが、美紀恵だけが気のせいか元気のないように見える。

 

「蓮は気になんねぇですか?こんな所、もう来れないかもしれねえんですよ」

 

「世界は広いんだからこんなのでいちいち驚けないさ」

 

少しも興奮の様子を見せないで『AST後一行様』とあるテーブルに腰掛ける。他の三人も腰掛けるが美紀恵だけが嫌がっている様子だ。

 

「当会場へようこそいらっしゃいましー!イ、イギリス産、ブランデーなどいかがでしょうか…」

 

席につくとやけに前髪が長いウェイトレスが恥ずかしそうにしながら酒を勧めてくる。

 

「ああ、この子ら未成年だし…グァバジュースを「ああ、頼むよ」って蓮!あんた未成年でしょ!」

 

燎子の言葉を遮って、ブランデーを注文したのは蓮だった。

 

「お恥ずかしながら少なくともジュースよりは飲み慣れているものなので」

 

「つっこみたい所がいろいろあるんだけど、日本じゃ未成年は酒は飲んじゃいけないの!」

 

大きな声で注意する燎子を無視してウェイトレスはグラスにブランデーを注ぐが、その手つきは危うく明らかに手慣れていないのが分かる。

 

さらにブランデーは手のひらで温め、香りも楽しめるようにブランデーグラスというものに少量のブランデーを注ぐのが一般的だが、入れ物は普通のグラスだし、液体を半分以上注いでしまっている。これでは温まるのに時間が掛かる。

 

役目を終えたウェイトレスは逃げ出すようにこの場を離れる。その行動を横目で見ながらブランデーを少し口に含む。

香りを楽しむのは諦めているが味は自分の祖国を思い出させる懐かしい味だった。

 

「あの!私ちょっとトイレに…!」

 

さっきから落ち着かない美紀恵がそう言って席を立ち駆け出すが前を見てなかったせいで人と衝突して床に尻餅をつく。

 

「いたた…すみません。前をよく見てなかったもので…」

 

そう言って顔を上げるがぶつかった相手の顔を見た途端、美紀恵の驚愕に染まった。

 

「お父様…!?」

 

「…何故お前がここにいる?」

 

美紀恵のぶつかった相手は眼鏡をかけた三十代ほどの男性なのだが、すごい威圧感があり、美紀恵のような気の弱い人間なら睨みつけるだけで竦ませる事が出来るほどのプレッシャーを放っている。

 

「しょ…紹介します…。この方は私の実の父…岡峰重工代表取締役社長…岡峰虎太朗です…」

 

ガタガタと震えながら紹介する美紀恵の怯えようは、明らかに家族に向けるような態度ではないと蓮にも分かる。そんな美紀恵に追い打ちをかけるかのように虎太郎は問いかけた。

 

「お前が何故ここにいる…?岡峰の関する場所には近づくなと言ったはずだ」

 

「あの…お父様…私…私…ASTに入隊したんです!人の役に立ちたくて…!それで今日は護衛の任務で!」

 

「ASTに入隊しただと…?」

 

大声を出している訳ではない。しかし、そんな事をしなくても目つきを鋭くしただけで美紀恵を涙目にしてしまった。

 

「どこへなりと行けと言ったが、ここまで愚かな娘だったとはな。よりにもよってそんな役立たずの部隊に…」

 

「役立たずなんて…!聞き捨てならないわ!この子も含めて全隊員が命を懸けて任務に当たっています!」

 

平然と言った虎太朗の言葉に燎子が食ってかかる。命を懸けているというのに役立たずと言われればそうもなるだろう。

 

「ほう、我々の血税を浪費しながら精霊打倒の成果を何一つ挙げてない部隊が役立たずではないと?」

 

そう言われてしまうと燎子は何も言えず悔しい顔をする。社会は結果を求めてくる。その結果に答える事が出来なければ役立たずと言われても仕方のない事だろう。すると、ずっと座っていた蓮が動き出した。

 

「ASTが役立たず…という言葉は受けましょう。結果を出せていないというのは真実ですから。ですが、ご自分の娘さんにそこまで辛辣な言葉を言う必要はないのではないですか?」

 

倒れていた美紀恵に近寄り、手をとって立たせる。虎太朗が自分の姿を見た途端、僅かに表情を変えたのを蓮は見逃さなかった。

 

「君は……?」

 

「自己紹介します。私は神代 蓮という名で美紀恵さんの同僚です」

 

「レン…だと…」

 

蓮は美紀恵と違い、威圧感などには全く怯えず自己紹介をしてお辞儀する。

 

「結果を出せていない以上、ASTは役には立っていない。そんな所に入隊した美紀恵もだ。過程など問題ではないという事ぐらい君も分かるだろう」

 

そう言って虎太朗は背中を向けて離れていく。美紀恵は父のいう事に何一つ反論出来なかった。本当は燎子の言った事は自分が言わなければならなかったはずなのに。

 

「美紀恵、お前は父親に会いたくなかったから…」

 

「…父の数々の暴言失礼しました。蓮さんもすみません。では私、お手洗いに行ってきます」

 

涙を拭きながら走り去る美紀恵の背中を蓮はジッと無言で見つめていた。

 

(あれほど似ない親子もいるのか…。でも、俺とあの人程じゃないな。親子っていう結果だけを追求すると)

 

笑える状況ではないのは理解してる。だが、何故か二人に対して変な意地を張ってしまうのが不思議なところだ。

 


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