デート・ア・ライブ  the blue fate   作:小坂井

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最後の投稿から半年以上が経過しました・・。誰が「大学では自由の時間が増える」など言ったのでしょうか?バイトや課題で忙しすぎます_(:3 」∠)_


22話

結局、琴里と士道のデートの場所は〈フラクシナス〉の隊員で話し合いをして、士道の意見である琴里の行きたいと言っていたオーシャンパークが採用されたと令音から連絡が来た。

蓮も気になるかと聞かれればそうなのだが、もし誰かに背中を見られ暴力団と間違われてしまったらデートどころではないし、プール側にも大きな迷惑がかかってしまうのでついて行くのは辞退した。

 

(だからってデートしている日になんでこんな事してんのかねぇ)

 

デート当日、蓮は〈ホワイト・リコリス〉の整備をしていた。周囲には整備士は一人もいない。自分の集中の邪魔になるので休憩してもらっている。

 

「ふぅ…これで大丈夫かな」

 

作業が終わり、小さく息をもらす。動ける状態にしたのはいいのだが、使う筈の真那は狂三との戦闘により、今は病院の世話になっているので動かす人間は誰もいない。もともと真那以外にここにはこれを動かすことのできる人間などいないだろう。

作業を終えた直後、ドアが開いて人が入ってきた。その人物は…

 

「ん?鳶一…?」

 

「神代…蓮…」

 

入ってきたのは鳶一 折紙だった。狂三との闘いで怪我を負って入院していたと聞いていたが、退院したようだ。折紙は〈ホワイト・リコリス〉の前まで歩いて来て機体を見つめる。

 

「これは稼働が可能な状態?」

 

「ん?まあ、さっき作業が終わって動かせる状態だが、お前には動かす資格もないし、技量的にも無理だぞ」

 

理解していると思うが、一応警告気味に言う。仕事はもう終えたので自分も休もうとした瞬間。

 

「ぐうぅっ!!」

 

急に身体をとてつもない重力が襲い、床に這いつくばった。蓮にはすぐに分かった。これは随意領域(テリトリー)によるものだと。

顔を折紙の方向に向けると、そこにはワイヤリングスーツを着ていた。さっきまでは私服だった事を考えると、緊急着装デバイスを使用したのだろう。

 

「ぐっ…一体なにを…」

 

「あなたにはすまないと思う。だけど、私はこれで五河 琴里を…〈イフリート〉を殺さなくてはならない…。それが私の生きてきた意味であり…私の両親の仇…!」

 

折紙の言葉に目を見開く。確かに折紙は言ったのだ、〈イフリート〉と。その名前は精霊である琴里の呼ばれている名称だ。それに両親の仇とはなんなのか聞きたいが、凄まじい重力により動くどころかまともに喋ることすら出来ない。いくら蓮であっても随意領域(テリトリー)の中を動くことは不可能だ。

 

結局、蓮が動けるようになったのは折紙が〈ホワイト・リコリス〉を随意領域(テリトリー)を使って出撃準備を整え、飛びだった後だった。

 

やっと自由になった身体を起こし、じっくり考える。琴里を殺すと折紙は言っていた。だとしたら向かうのは士道とデートしているオーシャンパークだろう。そう考察した蓮は基地の廊下を走りながら、ポケットから携帯電話を取り出して電話を掛ける。幸いにも相手はすぐに電話に出てくれた。

 

『はーい。蓮大好きのミリィですよー。どうしたんですか、蓮。あっ!もしかしてミリィをデートに誘って…』

 

「ミリィ、よく聞け。〈ホワイト・リコリス〉が強奪された。お前は現場の後処理を頼む」

 

『えぇ!?それってどういう…』

 

蓮はミリィがすべて言い終わる前に通話を切った。とりあえず自分のやって欲しい事だけはしっかり伝わったなら、それで十分だ。携帯電話をポケットにしまい、基地の出口に向かっていく。

 

(復讐か。そんな事、前にも言ってたな。どんな想いを抱いてようと、言葉にすれば軽いもんだが…)

 

基地内の廊下を走りながら、まったくとばかりに顔を顰める。ここからは時間との勝負だ。琴里が折紙に殺されるのが先か、それとも自分が駆けつけるかの…。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「折紙!止めろ!止めてくれ!」

 

「ーッ、士道。邪魔しないで」

 

オーシャンパークの遊園地の敷地内で、〈ホワイト・リコリス〉を装備した折紙と士道は対面していた。士道の後ろには霊装を纏った琴里が随意領域(テリトリー)に閉じ込められていて、苦しそうに身を捩っている。

 

「あなたには、言ったはず。私は両親の仇を討つために生きてきた。五年前、あの炎の街を駆け抜けてから、私の人生は…命はこのためだけにあった…炎の精霊、〈イフリート〉を…五河 琴里を殺すことが私の存在理由」

 

「そんなの…そんなのダメだ!その引き金を引いたら…お前はもう戻って来れなくなる…!俺は…そんなお前を見たくない!」

 

「それでも構わない…両親の仇を討てるなら…!」

 

士道の説得を聞かず、鋭い視線を琴里に向ける折紙。

 

その時、どこからか飛んできた巨大な氷の氷柱が〈ホワイト・リコリス〉にぶつかり、機体を大きく揺らした。

 

「くっ!一体何が…!?」

 

折紙がそう呟くと同時に、士道の前に空から人影が降りてきた。その格好は折紙の見慣れたASTの作業着を着て背中に大きな赤い剣を背負った蓮だった。

 

「よっと。士道、悪いな。デートの邪魔して、すぐに終わるから少し我慢してくれ」

 

「来てくれると思ってたよ…でも、琴里を守ってくれるのか?」

 

蓮はAST。精霊を殲滅するのが目的の組織の一員だ。本来なら折紙の味方はしても士道の味方になることはないはずなのだが…

 

「まあな。〈イフリート〉は妹思いのお兄ちゃんと近親相姦ギリギリなデンジャラスなデートをしているところを、攻撃された可哀想な被害者…ってことにしておくよ」

 

「ブウッ…!お、お前!なにを言って!」

 

「士道、お前はどうしたいんだ?この現場をどのように収めたい?」

 

顔を見せず、背中を見せながら蓮は士道に問いかける。もちろん、士道はどのような答えを出すかなど、当然分かっている。だが、蓮は実際に士道の言葉でそれを聞きたいと思ったのだ。

 

「くっ…俺は…琴里に死んで欲しくない…そして、折紙に琴里を殺して欲しくない…だから頼む!俺に力を貸してくれ!!」

 

「いい答えだ!五河 士道!!」

 

蓮は琴里の周囲の随意領域(テリトリー)の温度を下げていくとやがて凍りついていく。凍った空間を強く殴るとバラバラに砕け散って消滅する。士道は琴里を抱えてここを離れていく。

 

「神代…蓮…!」

 

「無駄だと思うが忠告しておく。お前がしている事は立派な軍記違反だ。今すぐリコリスを止めろ。これ以上動かせば、お前の脳は耐え切れない」

 

最後の所は神代 蓮、個人として言わせてもらったのだが、折紙の答えは蓮を睨みつけながら左右の砲門を構えて来ることだった。

 

「あなたにも言ったはず。私はこの瞬間のためだけに生きてきた…。邪魔をするならあなたも殺す!」

 

「そうか…忠告はしたぞ!」

 

折紙はその言葉を聞くと、一切の躊躇いもなく、砲門から魔力の奔流が発射され蓮のいた場所を一瞬で砂煙で見えなくなった。だが、蓮は煙を裂くように飛び出してきた。その腕には機械質な籠手、〈ウィトリク〉を装備して、さらに左手には〈レッドクイーン〉を握っている。

 

(いくらなんでも容赦が無さすぎだろ!いきなり〈ブラスターク〉を撃ってくるとは…)

 

折紙とは装備の整備などをしている仲なのだが、いきなり容赦のない攻撃にショックというより驚きの感情の方が先に出てきてしまった。飛び出した蓮はそのまま折紙の方に向かい、剣を構えて斬りつけようとするが、折紙は手にある巨大なレイザーブレイド〈グリーフリーフ〉を前に出して防御する。

 

「チッ!」

 

舌打ちをした後、折紙は腕を思いっきり振り払い、蓮との距離を空ける。

 

〈ホワイト・リコリス〉は性能から見れば、精霊を倒すことができるほどの力を秘めているが、その性能ゆえ使用者の脳にとても大きな負荷がかかってしまう。それはDEMの専属魔術師(ウィザード)を三十分で廃人にしたほどだ。そのデメリットを理解している蓮は時間を稼ぐ…すなわち折紙の活動限界を狙っていたのだが…

 

(どうも、それが有効とも思えないな)

 

まるで雨のように降ってくるミサイルを避けながらそう考える。折紙は初めて動かしたとは思えないほど〈ホワイト・リコリス〉を使いこなしていた。この調子で三十分は流石に厳しいかもしれない。

 

(それなら…攻めるかっ!)

 

そう考えた蓮は、急に回避を止め、大量のミサイルの爆発の中に消えていった。倒したかと思い、攻撃を止める折紙だがその考えは煙が晴れた瞬間、すぐに消え去った。氷のような壁に囲まれて無傷でいる蓮を見て。

 

「っ!その能力は…」

 

折紙は過去に似たようなものを見た事があった。四紙乃…〈ハーミット〉の見せた力に酷似している。そう思ったのだ。

壁に囲まれている蓮は籠手が装備されている右手を折紙の方に伸ばす。すると、折紙の周囲の空間から、ナイフのように鋭く尖った氷が大量に現れて、折紙を囲った。

 

伸ばした手を握った瞬間、周囲の氷が一斉に折紙に向かった行き、衝突して、視界が白い煙で埋め尽くされる。一つ一つは大した事ないのだが、これだけの数になると大きなダメージとなり折紙を襲う。

 

(くっ…ここから離れなければ…)

 

この場に留まるのは危険と判断し、煙を裂いて飛び出す。だが…

 

「遅すぎるんじゃないか?そう行動するのは」

 

いつの間にか〈ホワイト・リコリス〉にしがみついていた(・・・・・・・・)蓮を見て、折紙は目を見開いた。

右手で機体を掴んでしがみつき、左手に持った剣を逆手に持って振り上げている。

 

「防性随意領域(テリトリー)展開!」

 

折紙がそう言ったのと蓮が剣を振り下げたのはほぼ同時だった。当たる瞬間、随意領域(テリトリー)が折紙と〈ホワイト・リコリス〉を包み込み、〈レッドクイーン〉を中程にまで侵入させた所で止まった。

 

だが、それだけでは終わらなかった。蓮は剣のグリップを捻る。すると、エンジン音のような音が鳴り、炎が吹き出すと、

随意領域(テリトリー)を削り、折紙の脳に大きなダメージが襲ってくる。

 

「うっ……くっ…うぅ……」

 

「うぉっ!無茶苦茶だな、うわっ!」

 

取り付く蓮を落とそうと、全速力で機体を動かす。すると、偶然にも電灯にぶつかり、その衝撃で振り落とされた。

 

「これで…」

 

すぐに機体の向きを変えて、〈ブラスターク〉の砲門を向ける。今は振り落とされ空中で姿勢が崩れているので避ける事は出来ないだろう。砲門に魔力の光が集まり始めた時、

 

「させるかッ!」

 

紫の水着の上に薄く光る霊装を纏った十香が手に持った鏖殺公(サンダルフォン)で右の砲門を切断した。折紙は十香の姿を見ると顔を歪める。

 

「夜刀神…十香…!」

 

「ナイスだ!助かったぞ。十香」

 

落下中に姿勢を整え、着陸すると別の方向から光線が放たれてた。折紙はそれを上空に飛び立ち、回避する。誰が撃ったのかと思い、その方向に顔を向けると。

 

「蓮さん…大丈夫…ですか…?」

 

『うっひゃー。危機一髪だったねー?』

 

そこには兎のような形をした天使、〈氷結傀儡(ザドキエル)〉とその背中に霊装を纏った四紙乃が張り付いた。四紙乃も十香と同様、精神が不安定になった事により、霊力が逆流したのだろう。

 

「レン!ここは私達に任せてシドーと琴里の所に行け!二人が心配だ!」

 

「そうしたいが…でも…」

 

十香と四紙乃は完全な力を取り戻していないのに対して、折紙は理論的に精霊を殺せる兵器を装備している。それがどうしても心に引っかかってしまう。

 

「私達なら…大丈夫…です。だから…早く…!」

 

「くっ、すまない。あとで二人の好きなものを買ってやるよ!」

 

『蓮くーん。よしのんの分も忘れたらダメだよー?』

 

よしのんの言葉苦笑いしつつ士道が琴里を連れて逃げた方向に走り出す。二人は少し離れた所にある、無人のアトラクションの陰にいた。琴里はまだ、苦しそうに身を捩っていた。士道は蓮の姿を見ると、驚いた顔をする。

 

「蓮?、折紙は…」

 

「十香と四紙乃が抑えてくれている。司令官殿の様子は?」

 

「さっきからずっと苦しそうにしているんだ。一体どうすればいいのか…」

 

蓮は苦しそうにしている琴里をじっと見つめる。まだある(・・・・)まだあるのだ(・・・・・・)。自分が、この仲の良い兄妹にしてやれる事がまだある(・・・・・・・・・・・)。そう考え、無言で右手の籠手を解き、〈バスター〉を纏う。

 

「これから、お前達にしてやれる最後の事をする。だから…頼むぞ。士道」

 

「頼むって…まだ、好感度が封印出来る所にまで達しているかすら不明なのに…」

 

「俺には妹はいないが、お前達二人は仲の良い…愛し合っている兄妹っていう事は見ているだけで分かった。だから、妹を救え!士道」

 

〈バスター〉が琴里に触れると青い光が溢れ出して、琴里の身体に吸い込まれていき、琴里は落ち着きを取り戻す。だが、蓮は地面に手をついて今にも倒れそうになってしまった。

士道は思わず駆け寄りたくなるが、蓮はそれを手で制した。士道には大切な妹を救わなければならない。そのためには自分は放っておけ、そう言いたいのだ。

 

「琴里!お前は俺の妹だ!この世で一番の、大切な妹だ!もうどうしようもなく…愛している!大好きだ!琴里、お前は俺の事は好きか!?」

 

琴里は士道の言葉に目を丸くし、顔を真っ赤にしながら聞いている。蓮も今は大笑いするのような体力はないが、力無く笑っている。士道も顔が真っ赤だ。

 

「ええっと…急にそんな事を言われても…」

 

だんだん背後の音が大きくなっていき、隠れているアトラクションに鉄の礫が当たる。そろそろ十香達も限界のようだ。蓮はなんとか立ち上がろうとするが、足が命令を拒否してるかのようにうまく立てない。そんな足の状態を見て舌打ちを漏らした。

 

「ああっもう!私も好きよ!世界で一番愛している!おにーちゃん大好き!」

 

それを聞き届けると士道は琴里の唇に自分の唇を合わせる。すると、琴里を包んでいた羽衣や帯が光の粒子となって消えた。封印が成功したのだ。安心して小さく息を吐く。そしてまた、右手が自分の意思とは関係なしに動き、琴里の肩に触れる。

 

「ギィッ…クッ…!」

 

意識がどこかに飛んでいくような衝動に襲われるが、歯を食いしばり、必死に耐える。今、ここで意識を失う訳にはいかないのだ。それと同時に身体に力が溢れてくるのを感じる。まるで、乾いた砂漠に大雨が降り、大地を潤していくように。

 

「っ!三人共!そこから離れろ!!」

 

十香の声が聞こえると、こちらに向けて小型のミサイルが飛んでくる。おそらく、折紙の発射したものがこちらに飛んできたようだ。

蓮は身体を動かし、士道達の前に立つと、左手がいきなり燃え出した。燃え出した炎は掌に集まっていき、火の粉を散らしながら一つの剣に姿を変えた。

 

剣は日本の薙刀状のフォルムをしており、それが柄頭が接続し、両剣のような形の作っている。刃の部分は焼いたように茜色に輝いており、その周囲には炎が回っていた。

 

〈トナティウ〉

 

熱と炎を操る事が出来る剣。

刃の部分に熱を集めて鉄すら簡単に切り裂ける温度を出せたり、炎で周囲を包む事も可能。

剣の柄を分離させ、両手に持つことが出来る。

 

 

蓮は手に持った〈トナティウ〉を手首で回転させながら上に振り上げる。すると、士道達を中心に炎で出来た竜巻が発生して、ミサイルを絡みとり、上に吹き飛ばして爆破させた。

折紙、十香、四糸乃はこれを食い入るように見つめていた。

 

「あなたは…その能力は〈イフリート〉の…一体なのが…」

 

「…十香、四糸乃、よく頑張ってくれた。あとは俺がやる。下がっていてくれ」

 

折紙の質問には答えず、十香達にそう頼む。二人は互いに目を見合わせたが、任せて大丈夫と判断して折紙から離れる。

 

「もう五河 琴里は〈イフリート〉じゃない。これ以上の戦闘は無意味だ」

 

「…あなたが〈イフリート〉とだとでも言いたいの?」

 

折紙は蓮の奇妙な発言に眉を顰めるが皮肉を込めてそう言い返した。だが、蓮は顔を横に振り、自分は違うと言った。

 

「なら、そこを退いて」

 

「そいつは聞けないなっ!」

 

蓮は折紙の正面から懐に一気に潜り込んでくる。ほぼ反射に近い反応で蓮に向かって〈クリーヴリーフ〉を斬りつける。蓮はそれを受け流し、身体を前に一回転させて、折紙の頭を踏み台にさらにジャンプして機体の上に乗る。

 

機体に取りついた後、手に持った〈トナティウ〉を両手で持ち、大きく振り上げると、刃の部分が茜色になり、熱を放ち始める。そして、熱を蓄えた剣を〈ホワイト・リコリス〉へ突き刺す。刃は装甲を熱で切断して機体に大きなダメージを与えた。

 

これを見た折紙はせめてもの抵抗とばかりにウェポンコンテナからミサイルを一気に発射する。ここで〈随意領域(テリトリー)〉を使用しなかったのは、折紙の頭を頭痛が襲い始めて、それを使うほどの余裕がなかったのだ。

発射されたミサイルは辺り一面に着弾し、その1発が士道と琴里の隠れているアトラクションの上部に被弾した。

 

「士道!そこから逃げて!」

 

それを見た折紙はそう叫ぶ。崩壊はしなかったが、当たった衝撃により、飛び散った鉄屑が士道と琴里に降り注いだのだ。しかし、士道は逃げようとはせず、琴里を守るように覆い被さる。降り注いだ鉄屑は士道の背中に突き刺さり、真っ赤に染め上げる。

それを見た折紙は顔を真っ青にして士道の元に移動する。蓮はそんな折紙を攻撃しようとは思わなかった。

 

「士道…!く、医療用ではないけど、何とか…」

 

その台詞は途中で中断された。その理由は士道の背中を焔が這い、傷を治癒させ、刺さった鉄屑が地面に落ちる。これには折紙だけでなく、蓮も驚愕したが、同時に理解した。四月にほぼ即死の傷を負っても自分の目の前に現れた理由を。

士道は背中に手をやり、肌があるのを確認してゆっくり立ち上がる。

 

「…さっき蓮は言ったよな。もう琴里は〈イフリート〉じゃないって。今は…今は俺が〈イフリート〉だ!狙うなら俺を狙え!」

 

「そんな…一体これは…」

 

「でも、その前に話を聞いてほしい!五年前の火災。これは琴里が…〈イフリート〉が引き起こしたものだが、思い出したんだよ…あの場には琴里をこんな目に遭わせた精霊がいた!琴里は人を殺してなんかいなかったんだ!」

 

「そんな言葉を…信じろというの?」

 

「もし信じられないなら、俺を…〈イフリート〉を討てばいい。だけど琴里は…琴里はもうただの人間なんだ…」

 

士道の言葉に迷うような反応をする折紙。だが、次の瞬間、折紙にとてつもない頭痛が襲い、〈ホワイト・リコリス〉が重力に従い地面に落下する。活動限界がきたのだ。

 

「ぐっ…こんな…ところで…」

 

顔を苦悶に歪めつつ左足のホルスターから拳銃を抜こうとするが、抜く前に蓮が取り押える。

 

「これ以上はもう止めておけ。話し合いなんて、これから納得するまで出来る。ここでの戦闘は本当にもう無意味だ」

 

その言葉を聞いて、折紙は蓮を強く睨みつけた後、気を失った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

夕日が沈み、闇夜が街を包む込む。その中には屋上の縁に腰を掛ける黒髪の少女がいた。ただ、その少女の背後には数名の人間が倒れており、左目の瞳の中にある黄金色の時計がくるくると逆回転に回っている。

 

「ふぅ…まだまだ足りませんわね…刻々帝(ザフキエル)

 

気怠そうに少女…狂三は呟くと背後に巨大な時計が現れ、時計の短針である短銃が手の中に収まる。

 

「【八の弾(ヘット)】」

 

狂三の声と同時に左目の時計が少し回転して、『Ⅷ』の場所から影が滲み出し、銃口に吸い込まれていく。狂三はその銃を自分のこめかみに突きつけて、躊躇いなく引き金を引く。すると、狂三の身体が二つに分かれてもう一人の狂三が生まれ、狂三の影に吸い込まれる。

 

「まったく、燃費が悪いですわね。…まあ、蓮さんの力を使わせて頂いているだけ文句は言えませんけど」

 

今の狂三は〈バスター〉は発現できなくなったが、狂三の身体には蓮の力がまだ残っている。それを分身体の生成に使ったため、狂三の時間の消費が少なく済んだのだ。

狂三はそれを使い、琴里との戦いで使用した"時間"の補給を行っていた。

 

「わたくしの目的のためにはまだまだ時間が必要ですわ…士道さん、次こそは絶対にいただきますわよ。そして…蓮さん、待っていてくださいまし。わたくしがあなたの呪われた運命を壊して…自由に差し上げますわ…」

 

狂三にはある目的がある。その目的の為に精霊の力を有する士道を『喰べる』必要があった。そして、蓮の力もその例外ではなかったのだが、狂三は力ではなく対話を選んだ。目的にチェックメイトをかけるために、蓮は特別な存在だったからである。

 

そこで狂三は背後に気配を感じ、後ろを振り向く。その正体を確認して肩をすくめる。

 

「ああ、あなたですの」

 

そこには映像を見ている訳ではないのに、実像を見取るのが困難なほど解像度が粗いモザイクのようなものがいた。それは男か女か分からない声で狂三に話しかけてくる。

 

【…どうだった?彼は】

 

「教えてもらった時は信じられませんでしたけど… 素晴らしかったですわ。彼は」

 

【そう…それで、あの子(・・・)は見つかった?】

 

そう聞かれると狂三は不機嫌…というより露骨に嫌そうな顔をする。この事はあまり他の者の教えたくない事であった。特に素性も分からない者には。

 

「…それはどうしても言わなければいけませんこと?」

 

【これは約束だったでしょ?君の探しているあの子がいると思われる場所を教えるから、その結果を教えるってことは】

 

「…ええ、あなたの言葉通りに彼はここにはいましたわ。場所が分かっていたのならご自分で探せば良かったのではありませんこと?」

 

【私は今は派手に動けないからね。利害の一致で君に教えただけだよ】

 

実際、狂三にとってこの情報は貴重な手掛かりだった。それゆえにその約束を承諾し、士道を喰べるのと蓮を探すためにこの天宮市に来た。

 

【時間遡行の弾…君はそんなものを使ってどうするつもり?】

 

「なぜその事を知っておられますのか気になりますが…わたくしの目的はそれを使い、三十年前に飛び、全ての精霊の根源となった『最初の精霊』をこの手で殺す事…それがわたくしの悲願であり…彼の救済(・・・・)ですわ」

 

【そう…君は意外と優しいんだね。だけど、君のしている事はあまり人道的とは言えないんじゃないかな。その目的にあの子を利用するつもりなんでしょ?あの子の正体は…】

 

そこまで言いかけたところで手に持っていた短銃を『何か』に向けて引き金を引く。しかし、その弾丸が届く前に『何か』の身体は闇夜に溶けるように消える。

 

(…わたくしの悲願を達成した後、最後は彼と共に…)

 

狂三は目を閉じて夜空を見上げる。それはまるで何かに祈りを捧げるかのように…

 

 




実はPSO2やってたというのは内緒ですよ

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