デート・ア・ライブ  the blue fate   作:小坂井

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ISに集中していたのと最近忙しくてこちらが遅れてしまい申し訳ないです!
これからはだいぶ不定期になると思いますがまあ、投稿されてたら見てやる。的な気持ちで待っててください


17話

真那と琴里が話し合っている時と同刻の四時三十分、士道は狂三に放課後来る様に言われていた屋上にいた。

 

この事は蓮には言っていない。まだ容疑が晴れていない事もあるのだが何より真那と狂三の悲しい関係を知った今、もう真那には狂三を殺して欲しくないし狂三にももう人を殺して欲しくない。これを自分の力で叶えたいと思ったからだ。

 

「お前のやってきた事は許される事じゃねえよ。一生かけて償わなきゃならねえ!でも…お前がどんなに間違っていようが、狂三!俺がお前を救っちゃいけない理由にはならない!」

 

今、人間を衰弱させる広域結界が学校を中心にこの辺りを覆い尽くしている。これを解除してくれるように…そして狂三自身を救うため士道は必死に狂三に語りかける。

 

「わ、わたくし…わたくしは…」

 

士道の言葉に狂三は混乱したかのように目をぐるぐると泳がせ、狼狽している。

 

「士道さん、わたくしは…本当に…」

 

そう言いながら狂三は戸惑うように右手を士道へ伸ばした時、

 

 

「駄ァ目、ですわよ。そんな言葉に惑わされちゃあ」

 

 

その声が聞こえると同時に目の前にいる狂三の胸から一本の赤い手が生えた。正しく言えば狂三の後ろにいた狂三(・・)が体を貫いたのだ。狂三が胸から手を引き抜くと胸を貫かれた狂三は崩れるように地面に倒れる。

 

「まったく、彼という人が居ながら(・・・・・・・・・・)惑わされるなんて…この頃のわたくしは若すぎたかもしれませんね」

 

反省気味に呟き、血塗れの右手を払うと死体となった狂三は影から出てきた手によって影に引きずり込まれる。そんな光景を見ていた士道には何がどうなっているのかがまったく分からず、狂三が狂三を殺した(・・・・・・・・・)という矛盾した事にただ混乱している。

 

「く、るみ…いっ、一体…どうなって…」

 

「ああ、でも、士道さんのお言葉は素敵でしたわよ?ですが、わたくしには必要ありませんわ。わたくしを救ってくれる方はもういますので(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)…」

 

狂三が可笑しそうに笑うと士道の足元から手が生え、両足をがっちり掴む。

 

「なっ…?」

 

「もう、間怠っこしいのはやめにいたしましょう。あなたの力…いただきますわよ、士道さん」

 

そして士道に近づいて来ると右手を伸ばして頬に触れた瞬間、二人の間に割り込むように影が降ってきたと同時に士道に触れていた狂三の右手が切断されて宙を舞った。

 

「…あら、あら」

 

痛みを堪えるように眉をひそめながら、狂三は身を翻し後方へ飛び退く。そしてもう一度前を見ると、そこにはワイヤリングスーツを見に纏い両手に巨大なレイザーブレイドを装着した真那が士道の前に立っていた。

 

「真那!」

 

「まったく…また危ねーとこでしたね兄様。本当、随分と派手にやってくれやがったようですね、〈ナイトメア〉」

 

「ひひひ、いつもながらさすがですわね。わたくしの霊装をこんなに簡単に切り裂くなんて」

 

剣を構え直す真那を見て、右手を切り裂かれたにも関わらず狂三は面白そうに笑う。そしてステップを踏むように両足を地面に打ち付ける。

 

「でぇ、もォ…わたくし(・・・・)だけは、殺させて差し上げる(・・・・・・・・・)わけには参りませんわねぇ。さあ、さあ、おいでなさい、〈刻 々 帝(ザアァァァァァフキェェェェェェル)〉」

 

狂三がそう叫ぶと背後から狂三の倍はあるであろう巨大な時計が姿をみせる。奇妙なことに時計の長針と短針に当たるパーツは細緻な装飾の施された古式の銃で、文字盤から短針の銃が外れて狂三の左手に収まる。きっとこれが狂三の『天使』なのだろう。

 

「何をするつもりかしらねーですけど、またいつもみてーに殺してやりますよ」

 

「きひひひ、残念ながら今回は絶ェェェェェッ対にわたくしを殺すことは出来ませんわ」

 

「すぐにそんな事すら言えなくしてやりますよ!」

 

そう言って剣を構えて真那は狂三に飛び込んでいく。天使によって攻撃される前に狂三本体を倒すつもりなのだろう。だが、狂三は動こうとせず、切断された右腕を前に差し出した(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「士道さん、あなたにとても素晴らしいものを見せて差し上げますわ」

 

ニヤリとした表情をしながら狂三がそう言うと同時に目の前に真那の剣が迫ってくる。当たると真那が確信した時、狂三の体が急に眩いほどの赤い光を放ち始め反射的に目を瞑ってしまう。そして、次に真那が感じたことは巨大な拳に殴られたような(・・・・・・・・・・・・)凄まじい衝撃だった。

 

「がはっ…一体、何が…」

 

原因不明の衝撃に思いっきり吹き飛ばされ、屋上の床に転がった真那はクラクラする頭を押さえて視線を狂三に戻す。だが、もう1度見た狂三には視線を引く異様なものがあった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「くっ…一体何が…」

 

狂三から放たれた光に真那と同様に士道も目を瞑ってしまう。光が収まったのを感じてゆっくりと目を開けた士道は狂三の姿を見て自分の目を疑った。

 

狂三の右腕が黒っぽい皮膚のようなものに変わっており、ルビーのような赤いラインが輝きながら刻まれていた。

それは色に違いはあれど間違いなく蓮の〈バスター〉を右腕に宿していたのだ。

 

「く、狂三…な、なんでお前が…それを…」

 

「フフ…どうですか?士道さん、とても…とても美しいでしょう?少し彼から失敬させてもらったのですが、ああ…イイですわ…」

 

狂三は自分の右腕を士道に見せつけるように前に差し出した後、恍惚とした表情で〈バスター〉を優しく撫でながら自分の頬を摺り寄せる。

 

「なんですか…その気味の悪い腕は?」

 

「あらあら、彼のことをそんなに悪く言うものではありませんわよ。ひひひ」

 

立ち上がった真那は嫌味ったらしくそう言ったが、狂三は余程機嫌がいいのか真那のそんなに言葉を少しも気にした様子を見せない。

 

「さあ、真那さん。こちらからいかせてもらいますわよ。〈刻々帝(ザフキエル)〉ーー【一の弾(アレフ)】」

 

狂三が左手の短銃を掲げると時計の文字盤の『Ⅰ』の部分から影が染み出し、短銃に吸い込まれていく。そしてその短銃を自分の顎に当てて引き金を引く。その瞬間

 

「ぐっ…ッ!?」

 

狂三の姿が消えると同時に真那の体をとてつもない衝撃が襲い、横に吹き飛ばされた。

 

「あッははははは!わたくしの動きが見えましたかしらァ?真那さぁん!」

 

しかし真那は空中で方向を転換して虚空を蹴るように狂三に猛進する。あと少しで狂三に剣が届く、その時。

 

「なっ…!?」

 

真那の体が空中で止まった。いや、正しく言えば止められた(・・・・・)という表現が合っているだろう。

なぜなら真那の体を赤い、半透明な手が掴んで空中で止めていたからだ。

 

「きひひひひッ!甘いですわよッ!!」

 

「がはっ!」

 

赤い手は掴んだ真那をものすごい力で屋上の床に叩きつける。いきなりの出来事に随意空間(テリトリー)を展開して衝撃を和らげる暇すら無かったようで叩きつけられた瞬間、真那は口から赤い血を吐血した。

 

「真那!」

 

士道は叫ぶと地面に倒れた真那に駆け寄る。吐血したということは真那の臓器にかなりのダメージが襲ったのだろう。

 

「兄…様…危険…です…早く離れ…やがって…ください…」

 

「馬鹿、何言ってやがる!」

 

これほどの重傷を負っても真那はゆっくりと立ち上がるがフラフラとしていて今にも倒れてしまいそうだ。

それにこの状態の真那がこのまま狂三に挑んでも、勝てないとは士道にも分かった。

 

「素晴らしい!!素晴らしいですわ! 彼がわたくしの身体の中で一つになっていくのを感じますわ!!」

 

勝ち誇ったかのように興奮し空を仰ぐ狂三を真那は睨みつけながら見る。蓮の強さは士道もよく知っていた、その力は精霊である十香と戦い圧倒したほどだ。その力が狂三に渡った今、止めることができるのは誰もいないとさえ思えてしまう。それこそ蓮以外の者には…

 

その時、士道の後方からバン!と扉を開け放つ音が響き、

 

「シドー!」

 

「士道」

 

霊装を纏った十香と、ASTのワイヤリングスーツを着た折紙が姿を現した。

 

2人とも士道を見て無事を確認した後、真那と狂三の姿を見て驚きを露わにした。

 

「なっ!? 狂三!貴様がなぜその腕を持っているのだ!?」

 

「時崎 狂三 なぜあなたがその腕を?」

 

やはり、狂三の腕の〈バスター〉について二人は問いかける。だが、狂三は答えずただ妖しい笑みを浮かべるだけだ。

 

「…狂三! 答えないのなら容赦はしないぞ! 貴様、レンに何をしたのだ!?」

 

「士道に危害を加えるなら時崎 狂三、あなたを排除する」

 

二人は鋭い視線を狂三に向ける。だが、狂三は敵意など感じてないかのように楽しげに身体を回転させる。

 

「ああ、怖いですわ、恐ろしいですわ。こんなか弱いわたくしを相手に、こんな大勢で襲いかかるなんて」

 

だが、本人は恐れているどころか負けるとすら思っていない様子でくすくすと笑う。そして、自分の右腕の〈バスター〉を撫でて何かを語りかけ始めた。

 

「ですが、あなた(・・・)は負けませんわ。あなたは絶対に…。負けませんけど、ここはあなた達に任せましたわ、わたくし達(・・・・・)

 

狂三が奇妙なことを言った瞬間、屋上を覆い尽くしていた狂三の影から白い手が大量に顔を出した。だが、今までは肘程度までしか姿を見せなかった手が徐々にその本体を現していった。

 

その白い手の正体は全て『狂三』であり、何人もの狂三が広い屋上を覆い尽くさんとばかりに影から這い出してきた。

 

「こ、れ…は…ッ」

 

真那はこの信じられない光景を目を見開いて見ている。

 

「これはわたくしの過去、履歴。様々な時間軸のわたくしの姿ですわ。とはいえ彼の力はおろか、わたくしほどの力すら持ってない再現体なのでご安心下さいまし」

 

狂三は士道達に分かりやすいように説明してくる。おそらく真那が狂三を殺し続けていたのもこの能力が原因だったのだろう。

 

「さあ…終わりにしましょう」

 

狂三がそう言うと分身体の狂三が群がってくる。必死に抵抗しようと、もがくが実力以前に数が違いすぎる。士道、真那、十香、折紙の四人は五分も満たずにその場で押さえつけられて制圧された。

 

「ああ、やっと士道さんをいただくことができますのね。ああ、そうですわ」

 

何かを思い出したかのように呟くと、左手を天に掲げる。すると一度は解除された空間震警報がまた鳴り響いた。

 

「狂三ッ! 何を…」

 

「先ほどとまったく同じ事をして差し上げますわ。眠っている皆さんはこのままじゃあ…たくさん死んでしまいますわねぇ」

 

「や、やめろ! やめないならこのまま舌を噛んで…」

 

そこまで言った時、士道を押さえていた狂三が口の中に指を突っ込んで舌を噛めなくさせた。これは自殺を防ぐためでもあったが、分身体の狂三のように誑かされるのを防ぐためでもあったのだろう。

 

「これでもう自殺出来ませんわねぇ。さあ、絶望しなさい、士道さん」

 

その瞬間、来禅高校の周囲が地震のように空気が大きく震えた。

 

 

だが、それだけだった。

耳障りな音が響き、空気が震えたがどこにも被害はなく、周囲にはいつも通りの街並みが広がっている。

 

「これは…どういう事ですの…?」

 

「空間震は発生と同時に同規模の空間の揺らぎをぶつけると相殺できるのよ。もしかして知らなかった?」

 

空から凛とした声が聞こえてきて、その方向を向いて見ると炎の塊が浮遊していてその中に和服のような格好をした女の子がいた。

風になびく袂は半ば炎と同化しているかのように揺らめき、腕に絡みつく炎の帯はまるで天女の羽衣のように見えて頭部には無機質な角が2本生えている。

 

そして、その少女は…

 

「琴、里…?」

 

士道の妹にして〈ラタトスク〉の司令官である五河 琴里であった。

 

「少しの間、返してもらうわよ、士道」

 

琴里がそう言うと、彼女の周りに炎が生まれ、巨大な棍のような円柱形のようなものを作った。そして、その棍を手に持った瞬間、その側部から真っ赤な刃が出現して戦斧となった。

 

「さあ…私たちの戦争(デート)を始めましょう」

 

 


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