デート・ア・ライブ  the blue fate   作:小坂井

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こちらを約一月ぶりに投稿します。今年もこの作品をお願いします。


15話

「う…うぅん…ん…」

 

朝日が部屋に差し込む中、蓮はそんなうめき声を出して目覚めた。気分はお世辞にも良いとは言えない。

 

(あれ…いつの間に寝てたんだ…確か、昨日は夜遅くまで狂三の事を調べてて…)

 

そこまで思い出した時、蓮は素早く自分の身体を動かしてどこかに痛みや妙なところはないか確認する。しかし、両腕と両足はしっかりあるし、強いて言えば身体がだるく頭に軽い頭痛があるが時間が経てばすぐに収まるだろう。

 

(どこも傷ついて無い…狂三の言った事は本当だったのか…?)

 

もし、狂三が自分を殺すつもりがあったなら寝ている時など大チャンスだったはず。なのに殺すどころか傷一つつけていないという事は狂三の言った事は真実だったという事だ。

 

そして、狂三が言った事の中に気になる内容がもうひとつあった。

 

("今日は士道さんと駅で待ち合わせがありますので"…狂三は確かにそう言った…)

 

偶然口を滑らせたかは分からないが、今日に士道と待ち合わせ…つまりデートがあるという事だ。しかし、蓮は〈フラクシナス〉からそんな事をするとは聞いていない。だとすると考えられる可能性は一つ…

 

(知られたくない(・・・・・・・)って事か……)

 

自分の心の中でそういう結論が出てくる。何故知られたくないのかは分からないが、今思えば、昼休み後の士道の様子が少し妙だった。士道自身は出来る限り違和感なく接してきたつもりらしいがその感じ(・・・・)が蓮に違和感を持たせたのだった。つまり、士道の行動は裏目に出たいうことだ。

 

しかし、流石の琴里もまさかターゲット(狂三)から蓮にデートの事が伝わるとは思いもしなかっただろう。

 

(はあ…なんか、ややこしい事になってきたな)

 

たとえ、〈フラクシナス〉の作戦に参加出来なくても今回は狂三が関わっているのでこのまま放置する事は出来ない。こうなったら蓮単独で行動するまでだ。幸いにも今の時刻は朝の7時でデートを始めるにはまだ早いだろう。

 

(狂三は駅で待ち合わせと言ってたな…ここら辺で駅と言ったら…きっと天宮駅だろうな…)

 

狂三と士道が待ち合わせに使用しそうな駅をすぐに頭の中で検索してそこで張り込むことを決める。

そして、重い身体に鞭を打ちベッドから這い出す。ここで蓮は少し…いや結構重要な事をふと思い出した。

 

(あれ?狂三とデート…確か、十香も士道をデートに誘いにいったような…)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

午前十時を少し過ぎた頃、駅前に待っていた狂三になぜか息を切らした士道がやってきた。

 

「ま…待たせたな…」

 

「いいえ、わたくしも今来たところですわ」

 

約束の時間を過ぎていたというのに狂三は微笑みながら士道を迎える。

そんな2人を少し離れた電灯から見つめる者がいた。

 

(少し遅刻するとは士道らしくないな…狂三の霊力封印が目的のはずだが…)

 

黒色のジーパンと黒色のワイシャツ、そしてパーカーという服装で携帯電話を弄るフリをしながら横目でそれを見つめている。その人物とは蓮である。

 

十香とのデートの件も気になったが今優先すべき事はとりあえず狂三と思い駅前でずっと待っていたのだ。

 

(しかし、やっぱりこれ(・・)を被ってきてよかったな…)

 

蓮は自分の頭にある帽子(・・)を見てつくづくそう思った。家を出る前に自分の白髪が尾行をするのに目立ち過ぎる事に気付いて急いで髪を隠す物がないかと探し回ったら偶然にもこれを見つけたのだ。

 

(役には立っているがやっぱり邪魔だな、けど今は我慢だな…)

 

普段はあまり帽子を着ける事はなく、頭を押し付けられる不愉快な感覚に後先考えずに帽子を外したくなる衝動に襲われるがこれのお陰で目立つ髪だけでなく顔まで隠すことができるので仕方なしに我慢する。こういう事は実践するのは始めてだが尾行は基本的に『根気』と『我慢』が大切だと教えられていた(・・・・・・・)

 

頭の中でそんな事を思い出していると、士道と狂三が何かを話した後どこかへ歩き始めた。しかし、歩き出す瞬間、士道が狂三ではなく別の方向に視線を向けた。何かと思って士道が見ている方向に視線を向けると道路を隔てた広場の噴水の前に微動だにせずに立っている折紙とナンパらしき3人組の男が折紙に話しかけているのが見える。

 

その光景を見て、いろいろとツッコミたい所があるのだが蓮が一番気になったのは何故こんな所に折紙がいるかのか(・・・・・)だった。噴水の前にずっと立っている事と折紙の服装から察するにおそらく誰かと待ち合わせをしているのだろう。そして折紙がデートに誘うと思われる人物は一人しかいない。

 

(なんでこんな所にあいつがいるんだ?あいつが士道以外の誰かと出かけるとはあまり考えられないし…)

 

この瞬間、頭の中に一つの可能性が出てきた。それは士道は絶対にしない…するはずのないことである。だが、士道ではなくあの無茶ぶりの妹司令官だったら本当にやりかねないような事でもあるのだった。

 

(いや、まさかな…そんな事より今は狂三の件が優先だ)

 

自分にそう言い聞かせて頭を切り替える。結局、折紙に話しかけていた三人組は警察に連れて行かれて、折紙は何も無かったかのようにさっきと全く同じ姿勢で立っていた。人を見る目が無かった3人組が悪いのだが、やはり心の中で少し同情してしまう。ただナンパをしただけなのにこんな事になってしまう事に…

 

(おいおい…そう言えば二人は…)

 

はっ…と本来の目的を思い出した蓮は近くのビルの中に入っていく士道と狂三を見つけてこっそり後をつけていく。

この時、蓮は気づかなかった。狂三が蓮のいる方向を一瞬見て微かに笑っていた事を。

 

 

 

ビルの中に入った狂三と士道はエスカレーターで3階のランジェリーショップ…いわゆる下着売り場の店へと入っていった。

士道が自分からこのような所に誘うとは思えないのでおそらく〈フラクシナス〉からの指令によってここを来たのだろうと想像できるが正直、何故ここを選んだのかが蓮にはまったく理解出来なかった。

 

二人が店に入っていくのを見てどうしようかと頭を悩ませる。蓮は女性の下着を見て顔を赤らめるほどウブでは無いのでそこは大丈夫なのだがあの店には客はもちろん店員も全員女性だろう。1番面倒なのは不審者として警備員などを呼ばれる事なのだがそのリスクを抱えても店の中に入らなければ狂三を見張る事は出来ない。

 

(ハァ…面倒な事をさせるな…)

 

こんな事をさせる士道を心の中で恨みながら仕方なしに店の中に入る事を決める。店に入った瞬間の周りからの視線を感じながら店の中を見渡して2人を探す。途中に何回かセクシーな下着が目に入ったがそんなものを気にもせずキョロキョロと辺りを見渡していると試着室の前で何故か亜衣、麻衣、美衣の三人にいろいろと何かを言われている士道を発見出来た。蓮はこっそりと相手からは見にくいであろう位置に身体を移動させる。

 

(なんか…本当に大丈夫か?このデート…)

 

最初からここまでといろいろと心配する所がありすぎるデートに思わずはあ…とため息が出てしまう。まあ、狂三にキスして霊力を封印することが目的な時点でよく考えたらまともなデートとなんか言えないのかもしれない、その時、

 

「あの…すみません」

 

「え?」

 

隣から控えめに声をかけられて顔を向けてみるとそこにはまだ二十代であろう気弱そうな女性がいた。何の用かと思ったのだが彼女の服装がこの店の服である事が分かり、だいたい相手の言いたいことがすぐに理解出来た。

 

「ここは女性の方の下着売り場なので…男性の方はちょっと…」

 

「え、ええ…そうなんですけど…」

 

どうしたものかと必死に考える。よく考えたら自分は女性を連れている訳ではなく一人、しかもさっきからコソコソとした行動をしていて顔は帽子で隠している。他の人間から見たら明らかに怪しい人間にしか見えていないだろう。しかし、いきなり警備員を呼ばれてない辺り、そこは彼女の優しさなのだろう。

 

(どう言ったらいいものか…)

 

狂三が士道の側にいる以上、あまり目を離すのは望ましい事ではない。かと言ってこのままここに居続ければ今度こそ警備員を呼ばれかねない状況だ。本当の事を言おうにも『あそこにいる少年が殺されるかもしれないので自分が見張ってる』なんて言えば警察の前に救急車で病院に連れて行かれるだろう。

 

(やるしかないか…)

 

ここはなんとか誤魔化すしか無いようだ。時間が無いこともあるのだが男性が1人で女性の下着売り場に居ていい理由なんてどう考えても思いつく訳が無い。せめて少しでも怪しさを無くすことが出来るように士道たちがこっちを見ていないのを確認した後、頭にある帽子をとる。

帽子によって押さえつけられていた白髪が空気中にバサッと広がった。

 

「ええ…それは分かっているのですが私にはどうしてもここにいなければ用事がありまして…ここを離れる訳にはいかないのです。ああ、でも、いかがわしい事をしているのでは無いのでどうか分かってくれたらとても嬉しいのですが…」

 

警戒心をなくすように申し訳なさそうに言った後、深くお辞儀をして頼み込む。離れる訳にはいかないとか言いながらもその理由すら話していない…話せないのに相手は納得してくれるはずがないだろうと蓮自身そう思った。ダメと言われると思っていたのだがいつまでたっても相手から反応がなく不思議に思い女性を見てみると、頬を赤く染めながらボーと放心状態でフリーズしていた。

 

「…? どうかしたんですか?」

 

「ひゃい!な、なんでしょうか!私に出来る事であればなんでもどうじょ!」

 

心配して顔を近づけると店員はハッと我に返り、やたらパニックになってしまった。

 

「あ、いや…少しだけここに居させて欲しいと…」

 

「わ、わかりました!しゅ、しゅきなだけここにいてくださって結構です!!」

 

「ありがとうございます! お陰で助かりました!」

 

その答えに蓮は嬉しくて蓮は相手の手を取って顔をさらに近づける。すると店員の顔がさらに赤くなり、もう真っ赤だ。

 

「〜〜っ!! 」

 

すると、突然手を蓮から逃れさせた後、両手で赤くなった顔を隠しながら全速力で走って行ってしまった。いきなりの行動に蓮はなぜそうなったか分からず、あれ?潔癖症だったのか?と勘違いをしていた。

 

(…ってそんな事より士道と狂三は…)

 

視線を戻すとやたらセクシーな下着をつけた狂三がカーテンに開かれた試着室にいて、腹を押さえながら狂三に何かを言った後店を出て行った。まあ、亜衣、麻衣、美衣の三人が走っていく士道の背にものすごい怒声を放っていたのだが。

 

結局、狂三は試着室で身につけていた下着を買って三人組と何かを話した後店を出て行った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

午後三時三十分、狂三と士道がデートを始めて五時間ほど経過したのだが現在、狂三は一人で公園のベンチ腰掛けている。

 

なぜなら士道はまた腹を押さえながらどこかに行ってしまったからだ。ここまでくるとなぜ士道がこんなにデートを抜けているのかが薄々分かり始めてきた。昨日、士道をデートに誘いに行った十香、何故か駅前でずっと待っていた折紙、ここまでくると何しているか想像する事はそう難しくない。

 

(もう3時…士道はまだ帰って来てこないか…)

 

蓮は携帯で時間を確認して退屈そうに欠伸を一つする。狂三から士道が離れればそれほど士道の安全が大きくなるので蓮にとっては嬉しい事なのだが、流石に狂三を放置し過ぎだろうと思う。士道が抜けた回数はもう十回から先はもう数えてすらいないがおそらくもう二十回ぐらいは超えただろうか。

 

ここまでくればもう何もないだろうと思い、狂三に視線を戻して驚愕した。

ついさっきまでベンチに座っていたはずの狂三の姿がどこにも見当たらなかったのだ。

 

(なっ!? ど、どこに行ったんだ!?)

 

一瞬でも目を離した自分を恨みながら周りを歩き回って狂三の姿を探索するもどこにも居なかった。

蓮に冷や汗が流れる。これは油断してしまった自分のミスだった。

 

(どこだ…まさか士道を殺しに…)

 

その恐怖が頭を横切った時、近くの路地裏から大きな音が聞こえてきた。何事かと思い、中を覗いてみると。

 

(うっ…なんだこれは…)

 

路地裏には大量の血がぶち撒けられており、異様な臭気に思わず鼻を手で覆う。だが、奇妙な事に血の量に比例して死体は一つしか無かった。その一つの死体はついさっき士道とデートしていたはずの狂三で地面に力無く横わっている。

 

そして、狂三の死体の近くには1人の少女が立っていた。その少女は…

 

「お前は…真那…?」

 

「蓮? なんでこんな所にいやがるんです?」

 

蓮の同僚であり、友人である崇宮 真那だったのである。

 

 


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