デート・ア・ライブ  the blue fate   作:小坂井

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約一月ぶりの投稿となります…。
学校の文化祭などがあり、なかなか時間がとれませんでした…。


11話

(十香達の住宅も完成してこれで安心できるな)

 

蓮は自衛隊常装着に着替えながら思っていた。

士道の家の隣に十香達、精霊の家であるマンションが完成した。これで十香達は〈フラクシナス〉の窮屈な空間から解放されるだろう。

蓮もついさっき見てきた。ていうか見てきたから遅刻しているのだが。

 

(隊長さんに何か言われるかねー?)

 

着替え終わり、少し駆け足でブリーフィングルームへ向かう。

 

「すいませーん。遅れましたー」

 

遅刻した者とは思えない程の軽い言葉を言いながら扉を開けて、部屋に入った。しかし、入った瞬間、驚きの表情になった。

 

「真那…? なんでお前が…?」

 

真那も相手の姿を見て驚きながらも無言で蓮の元へ歩いてきた。だんだん部屋の中を緊張感が支配していく。

真那は蓮の目の前にまで歩いてくると…

 

「蓮じゃねぇですか!! 今までどこに行ってやがったんですか! 心配してやがったんですよ!!」

 

いきなり笑顔になり、蓮の両手を握り、ブンブンと大きく振り始めた。

 

「お前もその喋り方は相変わらずだな」

 

「じゃあここの連中は蓮が手伝ってんのに成果を挙げられてねぇんですか!?」

 

「ちょ、ちょっと待って! あんた達、知り合いだったの!?」

 

事態を理解出来ない燎子が2人に聞いてきた。

 

「知り合いっていうか、元同僚みたいな感じ…なのかな?」

 

「まったく、蓮が手伝ってんですからもうちょっと頑張りやがってくださいよ」

 

「なんであんたはそんなに蓮を押してんのよ?」

 

「え? 知らねぇんですか? 蓮は…」

 

そこまで言いかけた所で蓮が真那の口を手で塞いだ。

 

「はいはい、それ以上はダメだ」

 

「隊長! あんな子が本当に精霊を殺せるんですか?」

 

隊員の1人がそう聞いた。どうやら真那に言われた事が相当気に障ったらしい。

 

「大丈夫でやがりますよ。 少なくともあんたよりは強いんで」

 

明らかに挑発と受け取れる言葉に、隣にいる蓮は頭に手を当ててはあ…とため息をついた。

 

「無駄口叩くんじゃないの。前の〈ハーミット〉戦の映像を流すから空いてる所に座りなさい。ほら、蓮、あんたもよ」

 

燎子に言われて真那は渋々席に座った。その場所は偶然か蓮の座る席のすぐ横でその隣には折紙が座っている。

 

「さて…と」

 

燎子が壁際のボタンを操作すると天井からスクリーンが下がり、部屋の照明が落ちた。

〈ハーミット〉戦の映像が流れていく中、蓮だけは他の隊員と映像の見方が違っていた。

 

(よし、ちゃんと誤魔化せているな)

 

自分が映っていると面倒なので、ちょいと映像に細工をしたのだ。これで蓮が映ることはない。

映像が進んで行き、カメラが結界に入っていく士道を映した時、

 

「………っ」

 

隣に座っている真那がいきなり立ち上がった、すると小さな声で

 

「兄様…?」

 

そう呟いた。その言葉を聞いた蓮は…

 

(はぁ…?)

 

間抜けな声を心の中で出してしまった。

 

 

「おい、真那、お前は士道と知り合いなのか?」

 

映像を見終わった後、蓮は真那にそう聞いた。

 

「え? 士道?誰の事ですか?」

 

「お前が『兄様』って呼んだ奴の事だよ。友達だからな」

 

「その話、私も聞きたい」

 

途中に入ってきたのは折紙だ。折紙も真那の隣に座っていたので声が聞こえたらしい。

 

「ほお…鳶一一曽と蓮は兄様とお知り合いなのですか? ふむ…それじゃあ今度の演習に一曽が参加してくれるんなら詳しく話します」

 

今度真那の実力を確かめるという目的で演習がある。折紙にそれに出ろと言ってきたのだ。

 

「どうするんだ? 鳶一」

 

「…わかった。参加する」

 

折紙はそう答えるしかない。

 

 

そして演習の結果は十対一という真那がとても不利な状況で始めたにも関わらず、真那が最後の一人である折紙を倒して勝利した。しかし…

 

「あ・ん・た・ら・ねぇ…」

 

隊長の燎子が額に血管を蠢かせていた。

 

「模擬戦なのに、何貴重な装備を潰してくれてんの!」

 

実践でも無いのに貴重なユニットを壊してしまっては大損害でしかない。こんなのが続いたらASTは精霊を討伐するより、破産が先となるだろう。

 

「蓮! 修理出来そう?」

 

「修理出来ない事は無いけど、新しく作った方が金も時間も少なく済むレベルかな」

 

鉄屑となったCRーユニットを調べながら蓮は答えた。

 

「まったく、予算だって無尽蔵にある訳じゃ無いんだから二度とやるんじゃ無いわよ」

 

そう言った後、燎子はどこかに歩いて行った。

 

「まったく、隊長殿にも困ったものですね。そんなみみっちいから精霊にいいようにされちまいやがるんですよ」

 

「同感」

 

「あ、そうそう。このユニットの弁償代はお前らの給料から引いて…」

 

蓮がそこまで言いかけた時

 

「え、ええ!? そりゃねえですよ! 蓮!」

 

「それは困る」

 

さっきまでの威勢はどこにいったのか、そんな事を言ってきた。

 

「…おこうと思ったんだが、今回は特別に俺が払っておいてやるよ」

 

はぁ…とため息をした後、蓮はずっと気になっていた事を聞いた。

 

「それで士道が『兄様』って呼んだけどあれはどういう意味なんだ?」

 

「うーん。正直私もあんまり覚えてねぇんですけど…」

 

真那はワイヤリングスーツの胸元をまさぐって、銀色の小さなロケットを取り出した。

そこには小さな男の子と女の子の写真があり、男の子は士道に、女の子は真那に似ていた。

 

「これが生き別れた兄様の、唯一の手掛かりです」

 

「確かに…似てるな…」

 

写真を見ると確かに士道に似ている。蓮にはこれが他人の空似とは思えない。真那が普段、このようなものを身につけているのは知っていたが、そこに写っている人物と自分が親しくなるなど、人生は奇妙なものだ。

 

「それで…二人は兄様の事を知っていやがるんですよね? よかったら教えてくれねーですか?」

 

「名前は五河 士道。年齢は十六歳」

 

質問に答えたのは折紙だ。

 

「家族構成は父・母・妹。両親は現在海外出張で家を空けている。家事全般が得意」

 

「うむ…」

 

士道の事を真那に教えていく折紙。ここまでは良かった。ここまでは(・・・・・)

 

「血液型はAO型のRH+。身長は百七十センチ。体重は…」

 

いきなり折紙は士道の身体の情報を話してきた。血糖値などの細かい所なども全てを。

 

「はい…?」

 

真那もポカンとした顔をしてきた。蓮はやれやれといった顔をして

 

(ストーカーめ)

 

心の中で吐き捨てるように言った。一体、どこでこんな事を知ったのだろうか、この女は。

 

「す、ストップストップ! そこまでは聞いてねえーです」

 

「そう」

 

さすがにそれを見兼ねて真那はストップをかけてきた。

 

「…鳶一一曽は兄様とどのような関係でいらっしゃるのでしょうか?」

 

「恋人」

 

折紙は迷う事なく即座にそう答えた。

 

「え!? そうなんですか? 蓮!?」

 

「え? それは…」

 

真実を言おうとした時、折紙は無表情ながら蓮をジッと見つめてきた。

その目は語っていた。『YESと言え』と

 

「…士道のプライベートはそこまで知らないから分かんないけど、本人がそう言ってるんだからそうなんじゃないか?」

 

そう言った時、蓮は自分の心がチクリと痛むのを感じた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

六月五日 月曜日

来禅高校は制服が夏服に移った頃だ。

 

(ふう、やっぱり動きやすい服は良い)

 

教室で蓮は夏服の着心地の良さに感謝していた。

蓮はブレザーなどの動きにくい服装はあまり好みでなく、半袖などの開放感がある服が好みであった。

なので夏服となるこの季節は蓮は結構好きだった。

 

(士道と十香はまだか…)

 

普段ならもう来ている時間を過ぎても2人は学校に来ていなかった。

 

(十香は初めての夏服だし、何か手間取ってるのか?)

 

そう思った時、教室のドアが開いて十香となぜか疲れた様子の士道が入ってきた。

 

「よう、遅かったな」

 

「ちょいと朝からハプニングの連続だったもんで…」

 

「例えば?」

 

「十香が…ブ、ブラジャーを付けて無かったり…」

 

「それはハプニングだったな」

 

顔を真っ赤にしながら言う士道に同情の言葉を送った。

 

「ていうか十香。お前、今までブラしてなかったのかよ」

 

「うむ…しかし、動きにくいぞ」

 

「夏服が似合ってんだから我慢しろよ」

 

不満そうにしている十香の頭を撫でて説得する蓮。ここでちゃっかり夏服が似合っていると褒めるのだった。

十香の頭を撫でているとスピーカーからチャイムが鳴り響く、ホームルームの時間だ。

立っていた生徒が次々に着席して、少しした後教室のドアが開いて小柄な女性が入ってきた。みんな大好き(?)タマちゃんだ。

 

「はい、みなさんおはよぉございます」

 

ほわほわした挨拶をした後、出席をとろうとしてその手を止めた。

 

「あ、そうそう。今日はみんなにお知らせがあるんでした…なんとねえ、このクラスにまた転校生が来るんです!」

 

この言葉にクラス中に地鳴りのような声が響いた。だが、蓮は疑問を抱いた。

 

(転校生…? このクラスにか…?)

 

少し前に十香が転校して来たばかりだというのに早すぎる。

 

「さ、入って来てー」

 

タマちゃんがそう言うと、教室のドアが開いて女子が1人入ってきた。

 

暑い中、冬服のブレザーを着込み、黒い網タイツを穿いている。

髪は黒で右目を隠す程長く伸びており、上から下まで全てが黒で統一されている。

だが、そんなのが気にならない程、少女は美しくクラスの唾液を飲み込む音が聞こえる。

 

そんな中、蓮だけはみんなと反応が違った。

 

(なんであいつ(・・・)がここに…)

 

少女の姿を見た途端、心臓が一瞬、止まったような錯覚に陥った。蓮がその少女の顔を見たのは二度目(・・・)だったからだ。

 

少女は黒板に『時崎 狂三』と美しい字で名前を書くと、クラスに自己紹介をした。

 

「時崎 狂三と申しますわ」

 

そしてこう続けた…

 

「わたくし、精霊ですのよ」

 

この言葉に反応したのは士道、折紙、十香、蓮の四人だけだ。他の生徒には意味が理解出来なかった。

 

「ええと…はい! 個性的な自己紹介でしたね!」

 

タマちゃんは両手を叩き、自己紹介を終わらせる。

 

「それじゃあ、時崎さんは空いている席に…」

 

だが、タマちゃんが全てを言い終わる前に狂三は移動していた。

 

「え? ち、ちょっと? 時崎さん?」

 

タマちゃんの声を無視して歩いて行き、狂三の足は蓮の席の場所で止まった。

 

(まさか…ここでやる気か…?)

 

いつ攻撃されても大丈夫のように心の中で準備した瞬間…

 

狂三は蓮の右手の指の間に自分の左手の指を入れて手を握る…いわゆる『恋人つなぎ』をして、手を壁に押し付けて動けないようにした後、

空いている右手で蓮の右頬に手を添えた後、顔を近づけてきた。

 

だが、クラス中は金縛りにあったかのように動く事が出来なかった。

黒い髪と白い髪、赤い目と青い目、狂三の目には蓮が 蓮の目には狂三しか映されていない。

この光景は言葉に出来ないなにか(・・・)を放っていた。

 

「わたくしと…一つになりませんか…? 身も心も…」

 

そしてクラスの面前にも関わらず、とんでもない爆弾発言をした。

 

『えええええーーーー!!!』

 

クラス中に驚きの声が響く中、蓮本人の表情は変わらない。

 

「そういうのはお互いの事をよく知ってから(・・・・・)の方がいいんじゃないのか?」

 

「いえいえ、あなたの存在はよく知っていますの(・・・・・・・・・・・・)…細かい事はこれから知っていけばいいですわ…」

 

第3者から聞けば少し個性的なの会話に聞こえるだろう。しかし、この質問の答えを聞いて蓮は確信した。

 

(間違いない…こいつは俺の事を知っている…俺以上に(・・・・)…ッ!)

 

「ダダ、ダメですよ!! 高校生なのにそんな事をしては!!」

 

タマちゃんが大慌てで止めに入ってきた。これほど慌てるとは一体何を想像したのだろうか。

 

「フフフ…すみません。 とても素敵な方がいらっしゃったので、ついつい悪戯をしたくなりましたので…」

 

蓮の手を解放してクスクスと、男女共に見惚れるほど上品に狂三は笑った。

 

「も、もう…時崎さんは空いている席に座ってくれますか?」

 

タマちゃんにそう言われて狂三はクラスメートの視線の中、軽やかな足取りで席に座った。

だが、蓮は見逃さなかった。狂三が席に座る直前、自分の方に向いた後、一瞬妖しい笑みを浮かべていた事を…

 

 

 

 


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