ルーミアさんと主人公が喋っているだけのお話となります
年が変わったところで別に何かが変わるわけじゃない。そんなことは分かっている。けれども、この春夏秋冬にある様々なイベントごとを楽しむのは大切なことなんだろう。
ひとも妖怪も、神も妖精も関係なく、皆で騒ぎ散らす。おめでたいから皆で騒ぐのではなく、皆で騒ぐからおめでたい。きっときっとそういうこと。
だらだらと毎日を過ごし、何もないただただ平凡な日常を過ごすのも良いかもしれない。けれども長い長いこの人生、そういう皆で騒ぐイベントは大切にしたいんだ。
自分自身よく分かっていないが、そうすることで生きているって思えるはずだから。
そんなわけで思う存分騒ぎ散らしてやりたいところだが、残念なことに年末年始の幻想郷はかなり静かな様子。普段、それなりの賑わいを見せる人里もこの時期は皆家へ篭ってしまうし、店などもほとんど空いていない。まぁ、こんな時期くらいは家でゆっくり過ごしたいってことなんだろう。
博麗神社や守矢神社へ行けば、参拝客できっとそれなりの賑わいを見せているとは思う。そんなこともあり初詣ということで神社へ参拝に行っても良いのだが……前回博麗神社へ初詣に行った時は忙しいせいか霊夢が全く相手をしてくれなかった。多分、今回もそうなるだろう。
だからまぁ、この年末年始の自分の家でゆっくり過ごそうと考えている。思う存分騒ぎ散らすのも悪くないが、ゆっくり過ごす年末年始ってもの良い物なんじゃないかな。
「だからルーミア、一緒にお風呂入ろうぜ」
「死ね」
今回はそんなお話。
「今年もあと少しで終わりだな」
炬燵へ入り、お茶を飲む。
何をするでもなく、ただただのんびりとした時間を過ごしている俺の口からはそんな言葉が落ちた。喋りかけたというよりも独り言に近い言の葉。
「……そうね」
そんな俺の言葉にぽそりとルーミアが返してくれた。
俺の対面に座り、炬燵の台へ右頬を付け、いかにもくつろいでいます、といった様子。見ていて超癒される。今日も今日とて年末年始でも俺のお嫁さんは可愛い。
熱湯の球を適当に浮かべておけば十分な暖房となる。だから別に炬燵を用意する必要はなかったのだが、炬燵の雰囲気が好きなんだ。そして何より、炬燵に潜り込めばルーミアのスカートの中を見ることもできる。今まで見えたことはないが。
先程も風呂の誘いを断られてしまったし、ルーミアが俺に送ってくれる言葉にはいつだって刺がある。それでも、こうして今も一緒に過ごしてくれている。表情と言葉に出さないだけで心の中では俺にベタ惚れだろう。……そう思うくらいは許してもらいたい。
「……やっぱり起きないのかな」
「熊畜生のことか?」
「うん」
まぁ、起きないだろうな。
昔は冬の日だろうがなんだろうが元気に俺をむしゃむしゃしてくれたが、あの姿となってからはちゃんと冬眠をするようになった。だからこの季節は俺にとって本当に過ごしやすい季節なんだ。
アイツが寝ているせいで少しばかり静かになってしまうのは確かなことではあるが。
「あの子のこと嫌い?」
「……どうだろうな」
多分、それは本音。
ただ、俺がアイツを認めてしまうと何かが壊れてしまうんじゃないかって思うんだ。だから俺はアイツを畜生と呼び続ける。ソレが俺なりの線引き。
外の世界と比べ、時の流れが遅い幻想郷。ゆっくりとした時間が流れる。別に焦っていたつもりはないが、少し急ぎすぎていたのかもしれない。
だから、今のこのなんでもないただただゆっくりと流れる時間がやたらと愛おしく感じた。
なにより……今はルーミアとふたりきりだしな! 超テンション上がるぜ。
「さて、そんじゃ酒でも飲むか。ルーミアはどうする?」
「私も飲む」
萃香に頼めば酒なんていくらでも手に入るが、せっかくってことでちょいと高い酒を買ってみた。正月なんだ。そうやって楽しむのも悪くない。
肴として干し肉を用意し、買ってきたお酒は燗をつける。
温めたことで広がる香り。幸せなひと時。
「そんじゃ、今年もお疲れ様」
「ん、おつかれ」
コツンと当てた猪口ふたつ。贅沢なことをしているって自分でも思う。良い時代になったねぇ。
時計がないため、詳しい時間は分からない。もしかしたらもう日付が変わり、新しい年が始まっているのかもしれない。ま、分からないことを気にしたって仕様が無いんだ。この今を楽しむことができればそれで良いだろうさ。
年が変わったとなれば神奈子や諏訪子たちに挨拶だってしたい。ただ、今ばかりは静かな時間を過ごしていたいかな。
周りからはよく騒がしい奴だと言われているが、俺だってこうして静かにしていたい時もあるんだ。
騒ぐ時は全力で。それくらいが丁度良い。
「初詣とか行く?」
「私は行かない」
そっか。そんじゃ俺もそうするとしますか。こうしてルーミアとふたりきりでのんびり過ごすってのも、あまりないことだしな。こんな日くらいは全力でルーミアと愛を育むことにしよう。
「……年が変わったところで、別に何かが変わるわけじゃないのに」
神仏的なことを考えると、正月は死霊を迎え新しく生まれ変わる重要な季節だったはず。けれども、そんなことを意識しない俺たちにとっては年が変わったところで、何も変わらないのだろう。
だから、正月ってものを意識する必要は全くない。正月もいつも通りの変わらない日常でしかない。でも、それじゃあちょいと寂しく思ってしまう。
新年が明けたところで別にめでたいわけでもない。年が変わったところで何かが変わるわけでもない。でもさ、正月なんて知らんと意地張ってしまうのはもったいない。
イベントなんて楽しんだ者勝ち。そういうものなんだろう。
そうだって言うのなら……あー、ルーミアのスカート中に頭から突っ込みたいな。なんか上手い理由をつけてどうにかできないだろうか。
「真面目な話をするのなら最後までちゃんとやりなさいよ」
いや、最近は本当にルーミア成分が枯渇しているんだ。半年ほど外の世界に行っていたのがかなり効いた。
「ふー、酔ってきたな。ちょっと寝るわ」
「酔ってないでしょ。あとなんで頭から炬燵に突っ込むのよ」
炬燵を通してルーミアのスカートの中を目指そうとしたが、顔面を蹴られた。鼻が痛い。
ルーミアとはかなり長い時間一緒に過ごしているが、素敵イベントは起きたことがない。てか、ルーミアに限らず他の東方キャラともそういうイベントが起きない。よくあるハーレム物語の主人公みたく素敵イベントがポンポン起こるとは思わないが、もう少しくらい何かあっても良いと思うんだけどなぁ……
物語の主人公なんかは、ちょっと微笑んだり頭を撫でるだけで直ぐにヒロインは落ちてくれる。マジ羨ましい。もし俺がそんなことをやってみろ。どうなるか分かったものじゃないぞ。
「なぁルーミア。もし俺がお前に優しく微笑みかけたらどう思う?」
「キモいって思う」
辛いです。
「え、えと頭を撫でたりしたら?」
「死ね」
現実はいつだって無情だ。まさか一話で二度も死ねと言われる日が来るとは……何この言葉のドッジボール。しかも狙いが全て俺の顔面。顔面はセーフだから余計にタチが悪い。
「だいたい、どうせあんたにそんな気はないんでしょ?」
お酒を口に含み、ため息をひとつ落としてからルーミアはそう言った。
……どうだろうな。そりゃあ、モテたいとは思っているし、きゃっきゃうふふな関係には憧れる。とはいえ、俺が一歩引いてしまうのは事実だろう。昔から、ずっと。
「んじゃあ、来年から本気出すわ」
見てろ、ルーミア。来年は青さん覚醒の年となるだろう。
「うっとうしいから出さないでいい。てか、もう年変わったと思うわよ」
あら、マジか。じゃあもう一年は我慢するとしよう。
ふっ、良かったなルーミア。もし俺が本気を出していたらもうアレだ、なんかすごいことになっていたぞ。
さて、新年が明けたというのなら、言わなきゃいけない言葉ってものがあるだろう。そんな言葉だって別に口にする必要はない。
けれども、これからまた一年が始まるというのなら声に出しておきたいんだ。思うだけでは伝わらないこともある。だから口にしてみようか。新しい年が始まったことを伝えるために。
寝ていた身体を起こし、またルーミアの対面へ座り、少しだけ姿勢を正す。
「それじゃ、結婚しよっか」
ぶん殴られた。
新年明けましたのでおめでとう。
こんな俺ではありますが、今年もよろしくお願いします。
せっかくですし、お正月のお話を書いてみました
ルーミアさんがちゃんと登場してくれるのも久しぶりな気がします
もう少し喋らせてあげても良かったかなぁ
では、次話でお会いしましょう