東方想拾記   作:puc119

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第60話~花言葉~

 

 

 癒しが欲しい。

 

 そう願ったのが今朝のことだ。

 最近まではずっと外の世界で暮らしていたため、平和な日常を送ることができていた。だって、外の世界の熊は俺を襲ったりしないし。しかし、そんな日常とは別れることとなり再び幻想郷へ。幻想郷には可愛い女の子がたくさんいる。そのことに一切不満はない。

 

 そして戻ってきてしまった非平和な日常。

 とはいえ、幻想郷だってそこまで危険な場所ではないはずなのだ。そりゃあ、外の世界と比べれば危険な場所に違いはないだろう。けれども、常に死と隣り合わせなというわけではないはず。

 じゃあ何が問題かっていうと……あの熊畜生なわけだ。

 

 ここ数日のアイツはちょっとヤバい。外の世界にいたせいで俺の動きが悪かったってのもあるが、とてもむしゃむしゃされる。其処に容赦や慈悲なんてものはなく、一方的な虐殺があるだけだ。

 アイツにとってはただの食事で遊びなのだろうけれど、俺にとっては文字通りの命懸け。俺だって死にたくはないから全力で戦っている。そうだというのに、命というのは儚いものだ……

 思ってたのと違う。もうヤダこの幻想郷。

 

 そんなわけで、今の俺のメンタルはボロボロなんです。そんな状態なのだし、癒しを求めてしまうのも仕方の無いことだと思う。

 そして、俺にとっての癒し担当といえば、真っ先にルーミアが思い当たる。そんなルーミアへ極々自然な流れでお風呂に誘ってみたものの、見事に拒絶された。取り付く島もない。

 まぁ、ルーミアに頼りっぱなしというのもアレだ、此処は違う幻想郷の少女の元へ向かおうと決めた。じゃあ、誰の所へ行くかって話だが……

 

「これから妹紅のとこ行って焼き芋でも一緒に食べようと思うんだが、ルーミアはどうする?」

 

 妹紅さんに決めました。

 妹紅とはかなり長い間一緒に旅なんかをしたが、俺の記憶が戻ってからはまだ2度しか会っていない。それでもって前回はかなり酷い別れ方となってしまった。なんだか会ってくれないような気もするが、動かないよりは良いだろうさ。あと、妹紅って焼き芋が似合うイメージなんだ。どうしてなのかは俺もよく分からんが。

 ただ、残念なことに俺じゃあ、あの迷いの竹林の中で妹紅を見つけることができない。そんなことや、一緒にいたいっていうことがあり、ルーミアにも来てもらいたいのだが……

 

「……今回はひとりで行け」

 

 断られてしまった。

 ただ、ちょっと拗ねているっぽい表情がとても良い。思わず抱きしめてあげたくなる。

 ルーミアと妹紅の仲は良いはず。それは確かだ。けれども前回――俺がひとりで妹紅に会いに行き、怒った妹紅に殺された時もルーミアはこんな感じだった。

 

 ……ふむ。

 

「ふふっ、安心しろって。ルーミアのことはちゃんと愛しているからさ」

 

 ぶん殴られた。ルーミアの愛がこもった懇親の右ストレート。

 俺の求めているものとはちょっと違うけれど、これはこれで有りだ。

 

「……お土産、おねがい」

 

 あいよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて。ふむ……いや困ったな、おい」

 

 ルーミアに断られてしまったものは仕方無い。ひとりで来たわけだが……まぁ、当然のように迷子になった。何処だよ、此処。どれだけ歩いても見えるのは同じ景色。困ったものだ。

 ふたりだけじゃ絶対に食べきれない量のサツマイモと、焼き芋を作るためのヤカンを持って竹林で迷子。何このシュールな状況。

 

 前回来た時はどうにかなったのだし、今回だってどうにかなるだろうと思っていたらこれだ。全く……いくら他人と関わるのが苦手だからって、妹紅ももう少しくらい分かりやすい場所に住めば良いというのに。まぁ、それも難しいことなんだろうけどさ。

 

 ふらふらと竹林の中を進む。目的地は分かっているが、たどり着ける気はしない。それもまた人生というものなのかねぇ。

 

 なんてことを考えていた時だった。

 

「あら、貴方は……」

 

 そんな言葉が聞こえてきた。

 残念ながら妹紅の声でないことは確か。けれども、このどう仕様も無かった状況を変えるには十分すぎる声。

 

 声のした方を向いてみる。

 そこにいたのは――

 

「や、こんにちは。なよ竹のかぐや姫」

 

 変わることのない月の姫。蓬来山輝夜だった。

 

 まさか此処で輝夜と会うことになるとは思っていなかったため面食らう。そりゃあ輝夜だって出歩くことくらいはあるだろうけれど、遭遇する確率は絶対に低いだろうから。

 

「ええ、こんにちは。それにしても……貴方はこんな場所で何をしているのかしら?」

 

 無意識に強ばる自分の身体。

 輝夜とは色々とあった。けれどもそれは1000年も前のことで……何よりそのことを輝夜は覚えていない。ホント、切ないものですよ。ただ記憶がなくなったってだけで、あの物語はなかったことになってしまうのだから。

 

「暇だったからな。誰かと焼き芋でも一緒に食べようと思い歩いていたんだよ。んで、輝夜はこんな場所で何を?」

 

 輝夜と会話をしたのはあの異変の時だけ。まぁ、アレを会話といって良いのかは微妙なところだが。宴会でも何度かその姿を見ることはできたが、会話はしていない。

 つまり、俺と輝夜の関係はほぼほぼ初対面といったもの。

 なに、なんてことないさ。ただ、たった1000年の時が過ぎ、スタート地点に戻っただけなのだから。そんなものもう慣れた。

 

 ……なんてね。

 

「焼き芋って……また随分と変なことを考えたものね。それで、私だって、貴方と同じように暇だったからフラフラと歩いていただけよ。この辺りを歩いていると丁度良い相手も現れることだしね」

 

 丁度良い相手っていうと……妹紅のことだよなぁ。そして、妹紅と出会ってしまったらきっと殺し合いが始まってしまうんだろう。このふたりにとってそれが大切なことだってのは分かるが、目の前でそれをやられるのはちょっとねぇ。

 最初の目的とは大きく変わってしまうが、今ばかりは妹紅と出会わないことを願おう。

 

「とはいえ、貴方と会えたのだし、今はそれで満足するわ。ほら、焼き芋やりましょうよ」

 

 まるで新しいおもちゃを与えられた子どものようにはしゃぐ輝夜。分かっちゃいたけどマジ可愛い。

 

「ま、それもそうだな。こうして輝夜とも会えたのだし」

 

 そんじゃ、焼き芋するぞ焼き芋。

 

 

 

 

 そんなわけで輝夜と一緒に焼き芋をすることになったわけだが……火を起こせない。

 当初の予定だと火は妹紅に起こしてもらうはずだったため、火を起こすための道具などはない。また俺の能力は火を消すことに特化しているが、火を起こす方はさっぱりだ。いやぁ、困りましたね。これは少々時間がかかるかもしれない。

 

「ねぇ、青。まだかかりそうなのかしら?」

「もうちょい待ちなさいって。今、頑張ってるんだから」

 

 一生懸命木の棒を両手で回転させ、摩擦熱を利用しての火起こし。いわゆる、もみぎり。ルーミアはこういうことが得意なんだが、残念ながら俺は得意じゃない。むぅ、煙は出ているからもう少しだとは思うんだが……

 

 そして、そうやって頑張っている俺を楽しそうに見ている輝夜。そろそろ疲れてきたし、代わってもらいたいところだ。

 

 てか、あれ?

 

「俺って輝夜に名前、教えたっけ?」

 

 ちょいと気になることがあり、手が止まった。もう少しで火を起こすことだってできたのかもしれないというのに。

 ただ、火を起こすことなんかよりもずっと大切なことだったんです。完全に諦めていたことが、直ぐ手の届く所へ現れてくれたのだから。

 

「ふふっ、また会う日まで、と言ったのは貴方でしょ?」

 

 しばしの別れ。

 短い恋。

 そして――また会う日まで。

 

 それが、あの時、1000年以上も昔、輝夜へ渡した花に込められていた言葉。

 

「覚えて……いたんだ」

「いえ、最近までずっと忘れていたわ。でも、思い出したのは本当のことよ」

 

 まぁ、それもそうか。あの異変の時の輝夜の反応は明らかに初対面のソレだったのだし。けれども、こうして思い出してくれたことは本当に嬉しいことだ。

 永遠亭のメンバーとも是非仲良くなりたいとは思っていたが、如何せん繋がりがないせいでどうしたものかと思っていた。しかし、こうして輝夜が思い出してくれたというのなら、繋がりができる。いやまぁ、例え繋がりがなくとも乗り込むつもりだったのだが。うさみみ大好き。

 

 さて、さてさて。

 こうして輝夜が俺のことを思い出してくれたというのなら、聞かなきゃいけないことがあるだろう。

 

 焼き芋のために火を起こそうとしていた手を完全に止め、輝夜の方を真っ直ぐと向いてみる。なんとも急な展開のせいでまだ頭はついて来てくれはしないが、それでも言葉を落とすことくらいはできるはず。

 ひとつ、大きく深呼吸。

 

 そうしてから、ゆっくりと言葉を落としてみた。

 

 

「1000年間ずっと君のことを想っていました。お返事を聞かせてもらえるかな?」

 

 

 思い起こせば遠く、振り返れば短い。1000年なんてそんなものだ。けれども、今こうして君と出会えたのだから、これだけは聞いておきたかったんだ。

 例え、その答えが俺の満足するものになるはずがないと分かっていても。

 

「……そうね。そういう約束、だったものね。永い永いこの人生、一度くらいは……なんて考えてしまうことも私だってあるわ」

 

 俺みたいな中途半端者とは違う、完全な不老不死者。輝夜がそのことをどう思っているのかは分からないが、正直、それを羨ましいとは思えなかった。俺だって、一応不老不死ではあるものの、ホントいつ消えてしまうのか分からないような身体だからなぁ。

 けれども、だからこそできることってものがあると思っているんだ。

 

 そして、この輝夜にとって人生ってものはどんな感じなんだろうな?

 

「だから、貴方のことを受け入れるのも良いのかなって思う自分もいるの。別に貴方のことを嫌っているわけでもないのだし」

 

 好き、と言ってもらえないのは少々悲しいことであるが、予想以上に良い反応。なんか、このままゴリ押せばいけそうな気もする。

 

 でもまぁ、そんな上手くいくはずがないってことくらいよくよく分かっているわけですよ。

 

 

「ただね。もし私が貴方を受け入れた時、貴方は――青は私だけを見てくれると約束してもらえるのかしら?」

 

 

 優しく微笑みながらも、強い意志の乗る言葉。そんなものを輝夜は投げかけてきた。

 つまりはソレが輝夜と付き合う条件ってことなのだろう。他の幻想郷の少女たちへ余所見をするのではなく、輝夜だけを見る。そんな条件。

 

 そりゃあ、もちろん――

 

「無理だな」

 

 即答した。

 

「でしょうね」

 

 そんな俺の答えに輝夜はやはり笑った。

 

 確かに輝夜のことは好きだ。全力で愛してあげられると誓うことはできる。けれども、その愛を他の幻想郷の少女たちに向けてはいけないってなると……そりゃあ、無理ってものだ。残念ながら、そんなことができるほど器用な性格はしていない。

 1000年前のあの時、輝夜にも紹介したが、そもそも俺にはもうルーミアというお嫁さんがいる。そうなるともう目指すことのできるのはハーレムルートだけ。欲張りだとか強欲だとか言われようが、個別ルートなんて狙っちゃいない。

 

 と、いうことで、結局のところ1000年越しの俺の想いは叶うことなく終わってしまったらしい。いくらフラグを立てておいたところで、上手くいかないことだってあるってことなんだろう。人生なんてきっとそんなものだ。

 

 それから、輝夜と他愛ない会話を交わしながら、焼き芋作りを再開することに。

 輝夜も言っていたが、どうやら本当に嫌われているわけではないらしく、1000年前のあの時と同じようななんとも良い雰囲気。フラれたばかりだというのが嘘みたいだ。

 

 そして、俺の頑張りもとうとう実を結び、火を起こすことに成功。

 あとは、その火を消さないよう気をつけながらヤカンの中に入っているサツマイモを温めるだけだ。その調理にどれくらいの時間がかかるのかは分からないが……まぁ、のんびりやれば良い。その間は、また輝夜とゆっくりまったり会話を交わしてみようか。なに、1000年もの時間が空いたんだ。お互い、話す話題には尽きないはず。

 

 さてさて、まずは何から話をしてみようか。

 

 なんて時でした。

 

「むっ、なんだか騒がしいと思ったら輝……え?」

 

 あらやだ、妹紅さんじゃないですか奇遇ですね。洒落にならん。

 

 ……もしかして、修羅場?

 

 

 







修羅場にはならないことを願います
本当はもう少し輝夜さんとお話をさせたかったのですが、文字数が増えてきたのでそれはまた今度ってことで
1000年振りですもんね、きっと色々と話したいこともあるのでしょう

次話は妹紅さんメインのお話になりそうです

では、次話でお会いしましょう

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