東方想拾記   作:puc119

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第59話~この特等席は譲れない~

 

 

 

 何処までも青く澄み渡った空はまるで吸い込まれるんじゃないかってくらい、綺麗に見えた。秋晴れ。まさに、天高く馬肥ゆる秋。

 それは、最近まで暮らしていたあの外の世界じゃもう見ることのできない景色。何かを得たために何かを失った。それが良いことなのか、悪いことなのか。そればっかりは今の俺が考えたところで分かりやしない。それでも、何かを失うってのはやはり寂しく思ってしまうものだ。

 

「準備できた。いつでも行ける」

 

 自宅から出て直ぐ。そんな場所で秋の空を眺めていると、そんな声をかけられた。その声の方を向くと、ルーミアと熊畜生の姿が。

 

「あいよ。そんじゃま、行くとするか」

 

 手土産に持つは猪肉と少しのお酒。それが喜ばれるかどうかは分からんが、まぁ、何も持っていかないよりは良いだろう。

 

 守矢の神々がこの幻想郷へ来たことにより起きた異変から暫く。その異変の詳しい結末は聞いていないが、無事収まってくれたことは確からしい。

 そんなわけで、今日も今日とていつも通り、異変が終わったことによる宴会が博麗神社で開かれることとなった。

 俺はその宴会に呼ばれているわけでもないが、今回は俺も関わってしまった異変なんだ。そんな俺が参加するのもおかしいことではないはず。いやまぁ、例え関わっていなくとも参加するつもりだったが。可愛い女の子たちと一緒にお酒が飲めるんだ。参加しない理由はない。

 

 

 

 

 ルーミアと熊畜生を連れ博麗神社へ向かうと、予想通り宴会は始まっていたらしく、随分と賑やかな景色となっていた。

 博麗神社に住む霊夢はもちろん、魔理沙やアリス。紅魔館組に白玉楼、そして守矢神社組や永遠亭組などなど、オールスターといっても良いくらいだ。てか、まだ昼間にも関わらずレミリアがいるのだが大丈夫なのだろうか。

 

「おっ、青じゃないか。やっと来たんだな」

 

 博麗神社へ着いて直ぐ、今回の異変の主役ともいって良い神である神奈子がそんな声をかけてくれた。俺が宴会へ行くと、だいたい『うっわ、なんでコイツがいるんだよ……』みたいな反応をされる。神奈子の優しさには感動した。そんな貴方が大好きです。

 

「今回くらいは参加しておきたかったんだよ」

 

 神奈子からお酒をもらいつつ、返答。

 因みに、ルーミアと熊畜生は博麗神社へ着いて早々に俺から離れ、料理の方へ走っていってしまった。ルーミアったら未だに皆の前だと俺から離れようとするんだ。俺としてはもう堂々としていれば良いと思うんだが、難しいものだ。

 

 神奈子からもらったお酒に口をつけ、周りの様子を確認。

 境内のど真ん中で何故か早苗は倒れているし、相変わらず妖夢はよく分からない踊りをし、それを見て笑う幽々子。空ではレミリアと輝夜が弾幕ごっこをして遊び、神社の縁側では霊夢、魔理沙、咲夜の自機組が談笑中。つまりは、まぁ、いつも通りの宴会といったところ。参加するメンバーが増えたところで、この宴会が変わることはないんだろうな。可愛い女の子がいっぱい。なるほど、これが楽園というやつか。

 

「諏訪子の姿が見えないけど、今回は参加してないのか?」

 

 せっかく幻想郷へ来たんだ。倒れている早苗は仕様が無いとして、諏訪子ともお喋りくらいはしたい。

 

「いや、参加しているはずだけど、そういえば見当たらないわね。はぁ……どうせまたひとりで何かを考えているんでしょ。青、諏訪子のことよろしく頼むわよ」

 

 もちろんだとも。一生面倒を見てやるくらいの覚悟はある。てか、此方からお願いしたいくらいだ。

 

「あいよ。そんじゃ諏訪子を探してくるわ。神奈子は早苗をどうにかしてやりなよ」

「あー、見事に倒れているわね……」

 

 これで宴会のことが嫌いになってしまっても可哀想だ。頼んだよ。それと、お酒の飲みすぎには注意しましょ。

 

 

 

 

 神奈子と別れてから、さして広くもない博麗神社の中、諏訪子を探してフラフラと動き回ってみる。その途中で、萃香に一緒にお酒を飲もう、なんて絡まれたりもしたが、それは断腸の思いで断ることに。

 俺に対していつだって辛辣な扱いをしてくれる幻想郷の少女たちだが、萃香だけは優しい。そんな萃香さんのことも大好きです。ただ、ゴメンな。今はちょいとやらなければいけないことがあるんだ。

 

 そして、博麗神社の屋根の上にいるひとりぽっちの神様をようやっと見つけることができた。そんな諏訪子の元へふわりと飛んで移動。

 神社の屋根の端へ腰掛けていることもあり、もしかしたらスカートの中を見ることもできるかと思ったが、残念ながらその願いは叶わなかった。流石は神様だ。ガードが硬い。まぁ、幻想郷の少女たち全員がそうなんだが。あの熊畜生なんかは例外ではあるものの、アイツのじゃなぁ……いや、嬉しいといえば嬉しいが、アイツのパンツは素直に喜べないんだ。ルーミアのパンツならお祭りを開いて盛大に祝うくらいはできる。

 

「こんな場所にひとりでどうした?」

 

 下では愉し気な空気が流れている。けれども、その空気はこの屋根の上まで届いていない。

 

「あっ、青じゃん。んー……なんだろうね。なんとなく今はこうしていたかったんだ」

 

 そう言ってから諏訪子は、ただプラプラと足を振った。そんな諏訪子の隣へ俺も腰掛けることに。

 

 ……表向きは幻想郷へ行くことへ賛成していなかった諏訪子。きっと何かしら思うところがあるのだろう。

 外の世界では忘れられ、もう存在すらも消えかけていた。けれども、この幻想郷へ来たことで、その存在がまた戻ることに。そのことを俺は素直に喜ぶことはできるが、諏訪子がどう思っているのかは分からない。

 けれども、忘れられてしまうよりは絶対に良いと俺は思うんだ。

 忘れられてしまうのは辛いものだから。失って初めて気づくことは多いが、失ってからでは遅いことばかり。難しい人生ですよ。

 

「そういえば、青って此処では何処に住んでいるの? こっちへ来てから全然見かけなかったけど」

 

 外の世界から諏訪子たちと一緒に幻想郷へ戻ってきて直ぐ、あの熊畜生を守矢神社へ近づけさせないため、俺は離れてしまった。そんなわけで、こうしてゆっくりお話をするのは幻想郷に来てから初めてだ。

 

「諏訪子たちの神社のある山の麓……の方かな。まぁ、口で説明するのも難しいし、今度案内するからウチに来てみれば良い。そしたら、一緒にお風呂入ろうね」

「そっか。ちゃんと家もあるんだ。其処にはひとりで住んでるの?」

 

 お風呂のお誘いは見事に無視された。俺にとって諏訪子は家族のようなものだし、きっと諏訪子にとって俺もそうなはず。それなら一緒にお風呂へ入るのも別段おかしなことではないと思うのだが……

 だいたい、俺の周りには可愛い女の子たちがこんなにも大勢いるというのに、どうしてそういうイベントが起こらないのだ。前作を含めてもう100話を超えているんだぞ。それなら間違いでも何でも、そういうイベントの一回や二回くらいあってもおかしくはないだろう。

 

「いんや。ひとりじゃなく、彼処で美味しそうに料理を頬張る女の子ふたりと住んでいるよ」

 

 最初は俺とルーミアだけが住む愛の巣だったんだがなぁ……あの熊畜生のせいで全てが壊れた。最近じゃ俺が除け者にされることも多いくらいだ。今だってそうだし。

 そして、俺の落とした言葉を受けた諏訪子は少しだけ驚いたような顔をした。

 

「青と一緒に暮らしてくれる奴、本当にいたんだ……」

 

 傷ついた。

 以前、諏訪子には俺がどんな生活を送っていたのか話したはずだが、どうやら信じてもらえなかったらしい。

 

「そんな奴、私と神奈子くらいだと思ってた」

 

 まぁ、うん。自分で言っていて悲しくなるが、俺と一緒に生活をしてくれる奴なんて、ルーミアに萃香。妹紅に地霊殿組、紅魔館組と……あれ? 思っていたより多いぞ。

 

「なんだ? 嫉妬か?」

「違う、と思うけど……なんだろうね。ちょっとモヤっとするんだ。私もよく分かんないんだけどさ」

 

 冗談めかして落とした言葉。そうだというのに、返って来たのは諏訪子の本音。そんな諏訪子の言葉に少しばかり面食らう。

 ひねくれ、ネジ曲がり、嘘を積み重ねてきたこの人生。そういうのは本当に苦手なんです。ホント、もう少しだけ素直になることができていれば、もっと上手く生きてこられたんだろうけどな。

 とはいえ、そんな人生も嫌いじゃなかったりするのだから手に負えない。

 

「青は皆のところへ行かなくて良いの?」

 

 自分のことを置き、俺の心配をしてくれる諏訪子。純粋な優しさにはやはり慣れない。

 

 諏訪子の言葉を受けてから、視線を神社の境内にいる幻想郷の少女たちへ移してみた。

 

「……最近、気づいたんだけどさ」

「うん」

 

 料理を頬張るルーミアに熊畜生。弾幕ごっこを終え、満足気な様子のレミリアに輝夜。呆れながらも早苗の介抱をする神奈子。美味しそうにお酒を飲む萃香とアリス。酔っ払い踊る妖夢を楽しそうに見つめる幽々子。仲良く談笑中の霊夢に魔理沙。

 

 

「どうやら俺はこうやって少し離れた場所からあの少女たちを見ているのが好きらしいんだ」

 

 

 そんな幻想郷の少女たちの様子。それを見ているのが好きだった。その景色の中に俺はいなくとも、こうして少しだけ離れた場所から見ているのが好きらしい。

 それは嘘だらけの俺には珍しい本当の気持ち。いつもはそんな気持ちを心の何処かへ追いやってしまっているが、今ばかりはその気持ちが素直に出てきてくれた。それはきっと、今話している相手が諏訪子だからなのだろう。俺にとって、諏訪子や神奈子っていうのはそういう存在なんだ。

 

 もちろん、あの幻想郷の少女たちと絡むのは好きだ。バカやって、ぶん殴られて、呆れられるいつもの俺の行動は嫌でやっていることじゃない。

 けれども、俺が本当に好きなのは、こうしてあの幻想郷の少女たちの極々普通な様子を見ていることなんだろう。

 

「なぁ、諏訪子」

「どうしたの?」

 

 さて、とはいうものの、今の俺はひとりじゃなく、こうして隣にひとりぽっちになってしまっている神様がいるんだ。

 その神様だって俺にとっては大切な幻想郷の少女のひとり。そうだというのなら、このままじゃあやはり寂しい。

 

「弾幕ごっこ、楽しかった?」

 

 今の諏訪子の気持ちは分からない。この幻想郷に来て良かったと思えているのか、そうではないのか。

 けれども、この幻想郷に連れてきたのは他の誰でもない、俺なんだ。だったら、精一杯楽しんでもらいたいって思うんだ。

 

「……そうだね。うん、たのしかった」

 

 ふふっ、そりゃあ良かったよ。

 

 そんな言葉を聞けたところで、立ち上がってから諏訪子に向かって手を伸ばしてみた。

 こうして、離れた場所からあの少女たちを見ているのは良いものではあるけれど、それは俺の特権。この場所だけは譲れない。

 

「あの外の世界じゃできなかったんだ。その分、精一杯騒いでやろうぜ」

 

 ひとりぽっちの神様の手を取り、ふわりと飛んで幻想郷の少女たちの元へ。それはこの神様と再会してからずっとずっと俺がしてあげたかったこと。

 

 幻想郷へは来たばかり。まだまだ慣れないことばかりだとは思うが……まぁ、時間はあるんだ。のんびりやっていこう。

 

 

 







諏訪子さんたちとのお話もこれで一段落といったところでしょうか
エピローグ的な感じなのでちょいとだけしっぽりとした感じに

次話は決めていませんが、これで主人公も自由に動かせそうです
日常的なお話とか書きたいですね

では、次話でお会いしましょう

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