東方想拾記   作:puc119

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第5話~その一言が聞きたくて~

 

 

 アイツと別れた途端、妖精たちの攻撃が始まった。

 むぅ、面倒臭い。これならアイツが居てくれた方が……いや、それはないか。例え妖精の攻撃がなくなろうが、アイツが一緒にいるのヤダし。

 

 襲いかかってくる妖精を適当に蹴散らし、自分の勘を信じて進んでいると、突然一人の人間が目の前に現れた。

 また新しい奴か。面倒ね。

 

「止まりなさい。全くこんなに暴れまわって……あとで掃除する身にもなってほしいわ」

「あんた? この鬱陶しい霧を出しているのは」

 

 メイド服を着ているし、たぶん違うだろうけど一応聞いてみた。この霧を出しているのは、たぶんこの館の主だろう。

 

「私じゃないわよ」

 

 でしょうね。わかってた。

 

「帰ってと言ったら帰ってくれるかしら?」

「この霧を止めてって言ったら止めてくれるの?」

 

 お互いにため息を一つ。

 言って止めるぐらいなら始めからやらない。それはお互いに同じこと。もう引き下がることができないところまで来てしまった。

 

 言ってダメならやることは一つ。それがルールってものでしょ?

 

 

「奇術――」

 

 ジャラリと何処にしまってあったのかわからない量のナイフを取り出すメイド。

 当たったら痛そうだなんて、我ながらのんきなことを思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 ちょいと出遅れたが、どうにかこの赤い霧を出している奴がいるっぽい館へつくことができた。どうせ霊夢の奴はもう着いているんだろうな。

 

 空にはまん丸の真っ赤に染まった月。

 

「んで、お前が犯人か?」

 

 そしてその月を背に空に浮かんでいる奴が一人。

 

「なぁんだ。もう見つかっちゃったのね。でもダメでしょ? 順番はちゃんと守らないと。ゲームだって最初からラスボスと戦えたら面白くないもの」

 

 いや、だって何処からこの館へ入ろうか考えていたらお前がいたんだもん。

 それに普通に門から入ったんじゃあ面白くない。

 

「ゲームの楽しみ方なんて人それぞれだろ? クリアできればそれで良いのさ」

「ふふっ、それもそうね。でもレベルも上げず来た貴方じゃ、私に勝つことはできないわよ?」

 

 そしてどうやら見つけたコイツがこの異変の主犯だったらしい。私にしては珍しいこともあるもんだ。霊夢ならそれくらいやりそうだけどさ。

 

「安心しろ。レベルならとっくにカンストしているよ」

「打ち止めじゃなくて?」

「同じだろ」

 

 さて、とは言うもののホントに雑魚としか戦ってこなかったからなぁ。ちょいと厳しいかもしれない。

 どうせコイツは私よりも強い。だって、お前吸血鬼だろ?

 

 私の周りにいるのは強い奴ばかりだ。

 

 だからこそ――勝ちたいんじゃあないか。

 

「人間様をあまりなめるなよ?」

「なめはしないわ。吸いはするけれど」

 

 そんじゃ、ま。始めるか。

 凍りついた湖のせいでどうにも肌寒い。

 

 こりゃあいくら弾幕ごっこをしたところで涼しい夜になりそうだ。

 

 八卦炉を構える。先手必勝。一撃必殺。

 

「恋符――」

 

 そして、得意技を打ち込もうとした時、あの赤い館の方から轟音が響いた。

 

 な、なんだ? 霊夢の奴が暴れているのか?

 

 

「禁弾『スターボウブレイク』」

「あ~もう、ちょっとは手加減をだな!」

 

 恐ろしい量の弾幕をまき散らしながら館をぶち壊した金髪の小さいのと、以前博麗神社で見たアイツが飛び出してきた。

 

「えっ? ちょっ、どうしてフランが?」

 

 慌てたような声が届いた。

 いや、私は知らないって。

 

 アイツの前に氷の壁が急に現れる。けれども弾幕によってそれも直ぐに破壊される。そしてまた現れる氷の壁。

 お互いに空を飛びながら弾幕と氷の破片が飛び散らす。氷の破片は赤い月の光を反射し、キラキラと僅かに光った。

 

「あはっ、すごい! これも防いじゃうんだ!!」

「いや、ちょっとこれ強すぎませんか? あの熊畜生もびっくりだよ。こっちはスペカすら考えてないってのに……」

 

 ――禁弾「カタディオプトリック」

 

 小さいのの声が響いた。

 

 ……何がどうなってんだか、全然わからん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 一緒に遊ぼうって言って何をするのかと思ったら殺し合いだった。

 マジ笑えない。

 

 俺は死ぬことがないから、こと殺し合いにおいて俺は無敵だ。けれども、それ以前に大きな問題が一つ。俺じゃあフランドールに攻撃することができない。可愛い女の子に霊弾なんて放てない。

 

 つまりこの勝負は始めから結果が見えている。引き分けか、俺が降参するかのどっちかだ。

 でもそれは良いのだ。俺の目的は勝負に勝つことではなく、フランドールの記憶を取り戻すことだから。とは、言ってもねぇ……

 どうすれば良いのか全くわからん。

 

 だから決めました。

 逃げます。

 

 俺じゃあフランドールの攻撃を避けるか、防ぐことしかできない。それだとこの狭く暗い部屋じゃあ部が悪い。

 霊力を強化し、入口の扉を蹴り開けて全力で逃げる。

 

「あはっ」

 

 後ろでフランドールの可愛らしい声が響いた。

 けれども、振り返っている場合じゃない。とにかく今は外へ出なければ。

 

 

 ――禁忌「クランベリートラップ」

 

 

 また声が届いた。

 うわ……ホント容赦ないな。

 

 顔を掠らせながら飛んでくる妖弾。流石にこれを喰らったら、気持ちが良いじゃ済まなそうだ。

 飛びながら途中途中で氷の壁を造り出し、申し訳程度に足止め。

 

 飛んでくる妖弾は床を抉り、壁に穴を開ける。

 俺だって霊力が少ないとは思わないが、如何せん無から水を創造しさらに凍らせると莫迦みたいな量の霊力を持っていかれる。こりゃああまり持ちそうにないな……

 

 フランドールが開けた穴から外へ。せめてあの湖の水を使えればもう少し粘ることができる。そしてフランドールの妖力が切れてくれれば最高だ。

 

 

「禁弾『スターボウブレイク』」

 

 外へ飛び出した途端、先ほどより近くから声が聞こえた。

 

「あ~もう、ちょっとは手加減をだな!」

 

 あと少し、あと少しで湖の水を使える。

 さらに氷の壁を造ってなんとかやり過ごす。あとどれくらい霊力残っているかなぁ……こんなことになるのなら、調子に乗って湖なんて凍らせるんじゃなかった。

 

「あはっ、すごい! これも防いじゃうんだ!!」

「いや、ちょっとこれ強すぎませんか? あの熊畜生もびっくりだよ。こっちはスペカすら考えてないってのに……」

 

 ホント勘弁して欲しい。どうしてこうなった。

 争いごとは苦手だと言うのに。てか、フランドールの奴、普通に外へ出てきたけど大丈夫? 一応俺の傘は持っているみたいだけど……

 

 ――禁弾「カタディオプトリック」

 

 再び、視界を埋め尽くす弾幕が放たれた。

 俺はもう泣きそうです。此処まで絶望的な状況はあの熊畜生と戦った時以来だ。

 

 しかし、漸く湖まで辿り着いた。

 これで一々水を創造する必要はなくなった。

 

 とりあえず大きな壁を造って弾幕をやり過ごす。壊れても水ならいくらでもあるから、直ぐに直すこともできるし完璧だ。いや、完壁って言うべきか?

 

 凍った湖の上はなかなかに寒い。荒くなった呼吸から吐き出される息は、全てが白へと変わる。こりゃあそろそろ限界だ。

 

「なぁ、フランドールちょいと提案があるんだ」

「なあに?」

 

 手足に力が上手く入らない。

 久しぶりに疲れました。

 

 

「続きはまた今度にしない?」

 

「……QED『495年の波紋』」

 

 

 ダメですか。そうですか。

 空に浮かびながら放たれた円形の低速弾幕。本当ならこれラストスペルだよなぁ。でもこの勝負にそんなことは関係ない。

 

 こりゃあ、詰んでるな。

 

 霊力を振り絞る。たぶんこれが俺のできる最後の抵抗だろう。

 

 右手と左手を凍った湖に当てる。そして、二つの大きな龍の氷像を創り出し宙へ浮くフランドールへ向けてぶっ放した。

 この龍の氷像の名前は決まっている。“たかし”と“けんた”だ。

 昔よりもよっぽど龍に見えるようになってくれたと思う。俺だって成長するんです。

 

 

「きゅっとして――」

 

 

 あっ、ダメだわ。勝負にならんわ。

 

 

「ドカーン」

 

 

 見事に砕け散る“たかし”と“けんた”。

 そして防ぎきれなかった弾幕が俺に直撃した。

 

 ま、しゃーないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……すごいね。まだ動けるんだ」

 

 倒れこみ、薄れ始めた視界。手足に力はもう入らない。

 そんななんとも情けない俺の前に、ふわりとフランドールは降りてきてから言葉を落とした。

 

「……なぁ。フランドール」

 

 もう今すぐにも意識が飛ぶところ。

 それでも、なんとか声を絞り出してみる。

 

「なあに?」

 

 ここで意識が飛んだら、せっかく凍らせた物が全て元の姿へ戻ってしまう。そうなれば、動くことのできない俺は湖へ落ちていくしかない。

 だからその前に聞いておきたいことがあった。

 

 次、いつ会えるのかなんてわからないしさ。

 

 

「楽しかったか?」

 

 

「……うん。楽しかったと思う」

 

 

 そんな答えを聞いたところで俺の意識は落ちた。

 

 


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