東方想拾記   作:puc119

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第48話~たまにはこんな異変も~

 

 

 ……自分で言っておいてアレだが、普通に手を繋ぐことに成功してしまい、驚いている。

 あれなに? 映姫さん俺のこと好きだったの? 伏線とか何もなかったような気が……

 

 ま、まぁ、こうして可愛い女の子と手を繋ぐことができたんだ。今はそれだけで充分だろう。

 

「それで、青は此処へ何をしに来たんですか?」

「此処に来れば映姫にも会えるかなって思ったんだよ」

 

 他のメンバーは会おうと思えば何時でも会うことができる。けれども、映姫は今くらいしか会うことができないから、優先度はかなり高かった。

 文ともまだ会っていないが、文の場合は風神録があるしきっと大丈夫だろう。

 

「はい? へっ? わ、私にですか?」

 

 いや、そんな驚くようなことじゃないと思うが……

 人里に現れることもあるそうだが、俺は見たことがない。映姫にレアキャラの自覚はないのだろうか。

 

「し、失礼。取り乱しました。その……相手から私に会いたいなど言う方はいないので……」

 

 まぁ、そうだろうな。俺はいくらでも付き合ってやるが、映姫の説教を聞きたい奴は少ないだろう。閻魔って職業も大変なんだな。趣味ってのもありそうだが、映姫の説教は相手を思ってのこと。少なくとも俺はやりたいなどと思わない。

 幻想郷で死んだ者の半分は映姫に裁かれることになるだろう。そのせいで、映姫だってかなり動き難いはず。

 

「ん~……じゃあ、暇な時は俺のところでも来れば? 俺なら映姫から何をされようと関係ないし」

 

 ああでも、ルーミアが嫌がりそうだな。あの畜生はどうでも良いが、ルーミアが嫌がるのはちょっとマズい。

 そうなると会う場所でも決めておいた方が良いか? うむ、それが良いかもしれない。なんかデートっぽくて気分も良いし。

 

「むぅ、別に気を遣わなくても大丈夫ですよ」

 

 そう言った映姫は頬を膨らませた。かわいい。抱きしめちゃおうかな。

 いや、気を遣ったってのもあるが、純粋に俺が映姫と会いたかっただけなんだが……まぁ、良いか。こうして一度出会うこともできたのだし、これからは普通に出会える気がする。

 

「そういえば、青は以前、小町と会ったそうですね」

「ああ、昨年の秋、彼岸花を見に行った時にな」

 

 あれから小町とは会っていないが、こうやって花々が狂い咲いてしまったってことは結局、仕事をサボっていたってことだろう。

 その時、幽香とも会ったわけだが、今日は会えるんかねぇ? できれば新しい傘をもらっておきたい。誰かと戦う予定はないが、あの傘があるとやっぱり便利なんだ。

 

「んじゃ、とりあえず小町のところへ行こうか。良い加減、霊を運んでもらわないとだし」

「はい、そうですね」

 

 この景色はこの景色で良いものだが……花ってのはやっぱりその季節季節で咲くからこそ綺麗だと思うんだ。今の季節は春なのだし、春らしく桜木の下、のんびりお花見といきたいところ。

 

 それにしても……よく映姫は手なんて繋いでくれたな。

 自分でいっていて悲しくなるが、俺と手を繋いでくれるのなんてあの畜生とフランドールくらいだ。そして、他の奴らなんて手を差し出せば絶対に払い除けられる。

 うむ、可愛い女の子と手を繋ぐってのは、やっぱり悪い気分じゃない。今度、ルーミアにお願いしてみるとしよう。

 

 

「あら? これはまた……珍しい組み合わせね」

 

 満開の彼岸花たちの中、映姫と手を繋ぎ歩いているとそんな声。

 

「風見、幽香……」

 

 ぽそりと落ちた映姫の言葉。

 ふむ、映姫の次は幽香だったか。今日はやたらと大物と出会う日だな。まぁ、此方としては有り難いが。よし、まだ俺の左手は空いているのだし、其方は幽香と繋ぐとしよう。まさに両手に花といったところだ。

 

「仲良くお手々なんて繋いじゃって……こんな中、貴方たちは何をやっているのよ」

「見て分からんのか、デートだよ」

 

 絶対に断られるだろうと思いながら提案したら、その提案が通ってしまったんだ。俺だって困惑している。

 

 さてさて、幽香と出会ってしまったってことは……残念ながらデートも此処までだろう。この異変の中、幻想郷の少女たちが出会った時に始まるものはひとつしかないのだから。

 残念ながら俺のような野郎にごっこ遊びは似合わないが、可憐な少女たちの弾幕ごっこはよく映える。

 

「はぁ……どうせ貴方にも私の言葉は届かないでしょう」

 

 繋いでいた手を解き、映姫は幽香に対して言葉を落とした。それは寂しいことであるけれど、まぁ、しゃーなしだ。デートの続きはまた今度ってことで。

 因みに、先程俺が言ったデート発言は華麗に無視されるらしい。悲しいね。

 

「私は私の好きに生きる。それだけよ」

「その生き方が良くないのです」

 

 これはもう止まらないだろう。

 こうなると分かっていたことではあるが……暇になってしまいますね。今更後悔したところで遅いが、こんなことになるのなら、もう少し早く動き出せば良かったのかもしれない。

 

「ふふ、丁度良いわ。この幻想郷で誰が一番強いのか、白黒はっきりつけてあげる!」

「白黒つけるのは私の仕事。そして私は幻想郷の者ではありません。貴方じゃ私に届きませんよ?」

 

 そして始まる弾幕ごっこ。

 ホント、皆して弾幕ごっこが好きだな。弾幕ごっこができない俺にその気持ちは分からんが。

 

 

 

 

 それから、狂い咲いた花々を下にして始まった弾幕ごっこを眺めていたが、どう頑張ってもスカートの中は見えないし、『やめて! 俺のために争わないで!』とか叫んでいたら、幻想郷の開花とラストジャッジメントが飛んできたので逃げることにした。

 ちょっと巫山戯ると直ぐこれだ。

 まぁ、あのふたりとはこの異変が落ち着いたらまた会うとしよう。ただ、あのふたりとはどうすれば会えるんだろうか……

 

 逃げ出してしまったものは仕方無いので、今度はひとりでぽてぽてと満開の彼岸花の中を歩くことに。

 そして、暫く歩いていると遠くの方で、色とりどりの弾幕だったり、ぶっとい光の柱のようなものが見えた。多分、小町のいる場所だと思うが……ふむ。どうやら向こうの方でも弾幕ごっこが始まっているらしい。自機組辺りも到着したってことだろう。

 そんじゃ、ま。俺も其方へ行くとしようか。

 

 散蒔かれる色とりどりの弾幕を目指し、飛んで移動。

 小町のところまで来ることができたということは、この異変の解決までもう少し。これで小町が働き出せば、ゆっくりゆっくりと解決へ向かうだろう。

 とはいえ、せっかくの異変なんだ。幻想郷の少女たちと関わるのには丁度良い機会。

 

 

「ああ、もう! あたいを倒したところで意味なんてないんだって!」

 

 弾幕ごっこをしている場所まで行けば、涙目になりながら戦う死神と、それを狙う紅白の巫女と白黒の魔法使いがいた。

 いや、まぁ、確かに小町を倒したところでこの異変が解決するわけじゃないけれど、小町がサボらなければ此処まで酷い状態にもならなかったことだしなぁ。

 

 そして、俺がその場所に着いて直ぐに、弾幕ごっこの決着はついた。

 

「ほら、負けたんだから、さっさとこの幽霊たちを運びなさいよ!」

「だから、こんな量は許容オーバーなんだってぇ……」

 

 全部の霊を彼岸まで運ぶのにどれだけかかるのやら……小町はもちろんだけど、これから暫くは映姫も忙しくなりそうだ。

 

「さて、それじゃあ、この異変もこれで……うわ、なんで、お前が此処にいるんだよ」

 

 俺のことに気づいたらしい魔理沙がものすごく嫌そうな顔をしながら、そんな言葉を落とした。相変わらず、魔理沙からは嫌われっぱなしだ。魔理沙の好感度はどうしたら上がるんだろうか。昨年の秋も茸のおすそ分けはよくやったんだがなぁ。

 

「せっかく花々が狂い咲いたからさ、ちょいとお散歩をしていたんだ」

「……相変わらずのんきな奴だな」

 

 そんな言葉を落としながらも臨戦態勢は崩さない魔理沙さん。少しでも変なことをすればマスパが飛んでくるだろう。

 

 ん~……この後はどうすれば良いんだ? 映姫はまだ幽香と戦っているだろうし……ああ、そういえば、まだメディスンとも会ってないじゃないか。もう少し此処にいれば、まだ会っていないメンバーと会えたりしないかね。

 

「まぁ、いいか。それじゃ、私はこれで帰るとするぜ」

 

 あら、もう魔理沙は帰っちゃうのか。此処にいればそのうち映姫も来ると思うんだが……

 そして箒に跨り、帰ろうとする魔理沙へ、今度宴会を開く時は俺も誘ってくれよ、なんて言葉を落とすと、それに片手を挙げて応えてくれた。季節は春。お花見には丁度良い季節なのだし、ルーミアとあの畜生も連れて行くとしようか。

 

「霊夢はまだ帰らないのか?」

 

 そして、お祓い棒でペシペシと小町の頭を叩いている霊夢へ声をかけてみる。何やってんだ、お前は。

 

「うん? なんだ、あんたもいたのね。んー、なんか此処にいた方が良い気がするのよね」

 

 良すぎる勘。此処までくると怖いな。

 幻想郷なんて変わった奴ばかりだが、この霊夢が一番ぶっ飛んでいる気がする。

 

「まぁ、そうだな。そのうち此処に、其処の死神のボスが来ると思うよ」

「げっ。も、もしかして映姫様が近くにいるのかい?」

 

 ペシペシと霊夢に頭を叩かれながら、小町がそんな言葉を落とした。

 

「ああ。映姫とはさっきまで一緒にいたんだ。弾幕ごっこも終わった頃だろうし、直ぐ来るんじゃないか?」

「へー、お前さん、本当に映姫様と知り合いだったんだね」

 

 知り合いっていっても、さっき再会したばかりだけどな。

 それに言葉を交わしたのだってまだ2回目。それじゃあ仲が良いとはいえないだろう。

 

「……何というか、異変の原因って全部あんたなんじゃないかって気がするんだけど」

 

 んなわけあるか。

 今までの異変だって、俺が原因だったことは……あーまぁ、なくもないが、ほとんど関係ないぞ。少なくとも今回は全く関係ない。

 

「そんなことないよ。ちょいと知り合いが多いってだけだ」

 

 全くの無関係とは流石にいわないが、俺はただのモブキャラです。それに、この先も俺が異変を起こすことに関わることはないと思う。

 ……自分でいっておいてアレだが、今のはなんかフラグっぽいな。

 とはいえ、俺が異変を起こしたところで、弾幕ごっこもできないしなぁ。それに俺が異変を起こす理由もない。

 

 

「はぁ……やっぱり小町はサボっていたのですね。最初はもっと真面目な奴だと思っていたのに……」

 

 幽香との弾幕ごっこの結果は分からないが、どうやら本当に来てくれたらしい。

 その声が聞こえた方を向けば、弾幕ごっこの影響か、先程より少しばかり疲れた様子の映姫の姿。

 

「……あんたがボスね? この異変の原因はあんたらってことでしょ?」

「今年は三精、四季、五行が交わる六十年に一度訪れる生まれ変わりの年。丁度良い、貴方には言っておかなければいけないことがありそうですね」

 

 さてさて、これでこの異変もクライマックスといったところ。

 結局俺は、狂い咲いた花々を楽しむだけとなってしまったが、まぁ、満足できている。たまにはこんな異変も悪くはないだろう。

 

 そんじゃ、ま、最後くらいは狂い咲いた花々にも負けない、少女たちが彩る弾幕ごっこをのんびり見学といきましょうかね。

 

 

 


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