東方想拾記   作:puc119

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第42話~余興~

 

 

「少しは落ち着いたか?」

「……うん、ごめんなさい。もう大丈夫」

 

 フランドールが泣き出してしまってから10数分ほど。ようやっとフランドールが落ち着いてくれた。

 そんなフランドールだが、未だに俺の腕の中。そして、フランドールさん超良い匂いがする。正直、宴会とかもうどうでも良いからずっとこうしていたい。

 なんて本音はさておき、問題なのは此処からだ。

 

「宴会、行けそうか?」

「……自信はないけど、頑張ってみたい」

 

 ふむ、それならなんとかなるのかな。

 とは言え、このままフランドールを宴会が開かれている博麗神社へ連れていけばどうなるか分かったものじゃない。フランドールがいきなり暴れだすことはないだろうが、問題なのは他の奴らだ。紫なんかにはまず怒られるだろうし、レミリアにだって怒られるだろう。

 まぁ……それくらいで済むのなら俺は動かなきゃいけない。それでこの可憐な少女の世界が広がるとなればお釣りは十分。動かない理由は何処にもない。ちょっと俺が幻想郷の少女たちからボコボコにされるくらいだ。

 

「それじゃ、行くか」

「うん」

 

 相変わらず、不安そうな顔のフランドール。500年もの間、外へ出なかった奴がいきなり外へ出るんだ。そりゃあ不安にもなるか。

 

「そんな心配すんなって。レミリアや咲夜もいるし、俺だって傍にいてやる。だからちょっとだけ頑張ってみようぜ?」

「……ありがとう、青」

 

 涙の後はまだ残るものの、そう言ってフランドールは可愛らしく笑ってくれた。

 此処で“ごめんなさい”じゃなく、“ありがとう”と言えるようになったのもフランドールが成長した証なのかな、なんて思った。

 

 消えることが分かっていたから、あの時はフランドールの手助けを続けることができなかった。もし……もしあの時、もう少しだけフランドールの世界を広げる手伝いができていれば、フランドールだってもっと前へ進めていたんじゃないかって思う。

 フランドールは俺のことを忘れてしまった。けれども、またこうして再会することができたんだ。だから、もう一度フランドールの手助けをしてあげたい。続きと言うには離れ過ぎてしまったが、もう一度フランドールのため動いてみるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フランドールの手を取り、紅魔館を出て月明かりの下、博麗神社目指してふたりで空中をお散歩。

 やはり緊張しているのか、俺の手を握るフランドールの手にはやたらに力が込められているのがわかる。それでも、握手を求めたら手を握り潰されたあの時ほどじゃない。

 

「……外って本当に広いんだね」

 

 月明かりだけでは心許無いはず景色。それでも、それはフランドールが初めて見るものばかり。あの狭い部屋にも、あの広い館の中にもないものが広がっている。

 

「外ってさ、どれくらい広いのかな?」

「さあな、そればっかりは俺にもわからんよ。ただ、わからないからこそ面白いんだ」

 

 本当なら霧の湖や魔法の森、迷いの竹林や人里なんかにも連れて行ってあげたいところ。けれども、今ばかりは博麗神社を目指してみよう。

 

 

 

 

 ゆっくりと、けれども確かにフランドールは前へ進んだ。

 紅魔館からふたりで飛び立ち、どれくらいの時間が経ってしまったのかは分からないが、ついに宴会の開かれている博麗神社へ到着。その博麗神社へ近づくごとに、緊張しているのかフランドールの口数は減り、握った手に加わる力も強くなっていった。

 けれども、フランドールは逃げようとしない。恐る恐るでも、前へ進もうとしているのがわかる。

 

 

「なんだ、結局あんたも来たのね。って、また珍しい奴を連れてきたじゃない」

 

 博麗神社へ到着してまず俺たちへ声をかけてきたのは、その神社の巫女である博麗霊夢だった。

 そんな霊夢の言葉を聞き、フランドールはさらに握る手に込める力を強めた。心配すんな、大丈夫だよ。

 

 そして、霊夢だけじゃなく、他の少女たちも俺たちのことに気づき、宴会の空気が少しだけ変わったように感じた。その中でも、レミリアや咲夜などの紅魔館組はかなり驚いたらしく、なんとも面白い表情だ。

 

 フランドールはフランドールでどうして良いのか分からないらしく、おどおどした様子。ま、最初なんてそんなもんだって。少しずつ少しずつ慣れていけば良いんだ。

 

「……どうして妹様が?」

 

 そんな言葉を落としたのは紅魔館のメイド長である咲夜。怒っている……と言うよりはどうして良いのかがわからないと言った感じ。

 

「俺が連れてきたんだよ。やっぱり仲間はずれは可哀想だしさ」

「なるほど。そうでしたか」

 

 フランドールも慣れてない相手じゃ大変だろうし、咲夜も手助けをしてくれると嬉しいかな。

 

「ね、ねぇ、青。私はどうすればいいのかな? こんなこと初めてだからどうしたらいいのか……」

「ん~……とりあえず美鈴やパチュリーのところへ行ってみたらどうだ? 料理やお酒を楽しみながらおしゃべりでも楽しめば良いと思うぞ」

 

 後は、弾幕ごっことかするのもありかもしれない。いくら月の綺麗な晩とは言え、少女たちが彩る弾幕ごっこは良く映えるのだし。

 

「あっ、うん。わかった。青も一緒に来てくれる?」

「ああ、ちょいと用事が終わったらな」

「用事……?」

 

 そ、用事。それも大事な大事な。

 

 フランドールと俺が着いて直ぐは多少ざわついた空気も、今は元通り。そもそもフランドールのことを知らない奴も多いだろうし、まぁ、そんなものなんだろう。

 

 とは言え、それはひとりを抜かしたらって話。

 

 

「……上に来なさい。青」

「デートのお誘いか? 喜んでお受けするよレミリア」

 

 俺を睨みつけるようにレミリアはそう言った。分かっていたことではあるけれど、レミリアのこの視線はちょいとキツい。嫌な汗が吹き出してくる。いくらレミリアが可愛い女の子と言え、相手はあの吸血鬼。

 さて、どうなることやら。

 

「フランドール。ちょっとその傘借りるぞ」

「えっ、あ、うん。で、でも、青とお姉さまは何を?」

「余興、かな」

 

 俺の言葉に対し、こてりと首を傾げたフランドールだが、傘はちゃんと貸してくれました。

 数百年ぶりにその傘を握ったわけだが、長い間お世話になったおかげか、やはりしっくりくる。幽香に頼んだらまたもらえたりしないだろうか。

 

 さて、そんなことは良いとして、誘ってくれた女性を待たせるのはマズい。俺もさっさと上へ行くとしよう。

 

 そして、しっかりとフランドールの傘を握ってから、レミリアの待つ夜の空へ。

 

 

「……別に貴方を恨んでいるわけではないし、感謝だってしているの」

 

 静かに……しかし、此方を威圧していることがはっきりと分かる口調でレミリアは言葉を落とした。

 

「きっと、私の力だけではフランを連れてくることはできなかった。だから、青には本当に感謝しているわ」

 

 レミリアの出す妖気に反応したのか、再び和やかになったはずの宴会の空気は一気に引き締まり、多くの視線が空中にいる俺とレミリアに集まってきているのがわかる。レミリアが言葉を落とす度、その身体から漏れ出した妖気が空気を震わせた。

 

「けれどもね、それだけで済ませるわけにはいかない。済ませられはしない」

 

 まぁ、そりゃあそうでしょうね。

 本音だろうが建前だろうが、結果がどうであれ過程がどうであれ、俺がやったことを簡単に許すことなどできるはずがないのだから。俺みたく、プライドや誇りを捨てていれば違うだろうが、レミリアは違う。

 

 吸血鬼。妖怪最強種。夜統べる女王がそんなことを許せるはずがない。

 それに、こちとらそれくらいの覚悟はできている。フランドールがアレだけ頑張っているんだ。俺だって多少は頑張らなきゃいけない場面だろう。

 

 

「だから、一発だけ……全力でやらせてもらうぞ」

 

 

 瞬間――レミリアの妖気が爆発した。

 

 殺気は感じない。けれども、その純粋で膨大な力はきっとどんなものよりも理不尽で暴力的だ。

 

「……ああ、望むところだよ」

 

 純粋な力比べで勝てるはずはなく、これはあの可憐な少女たちが繰り広げるごっこ遊びでもない。しかし、一発だけで終わらせてくれるのはきっとレミリアの優しさって奴なはず。

 

 さて。

 さてさて。この身体なら、攻撃を受け蒸発したところでどうせ生き返る。

 

 ただ――そんなシナリオ、誰も望んじゃいないだろう。

 用意された舞台で、整えられたこの場所で精々踊ってみるとしましょうか。

 

「萃香」

「ほい、こんな機会なんだ。全力でやってみなよ」

 

 ありがとう。ちょいと厳しいかもしれんけど、できるだけやってみるよ。あと、ちょっと危ないから離れててくれ。

 投げつけられた瓢箪を受け取り、その中身を喉へ流し込む。神酒を使い霊力の底上げ。手なんて抜けない。やれることは全部やる。

 

 手に握っている傘へ力を込め、その先端をレミリアの方へ。

 

 

「……許多の鎧盾を穿ち」

 

 

 三枚目の道化を演じる大根役者にこんな美味しい場面を準備してもらったんだ。決して二枚目になんてなれやしないが、最後までやらせてもらおうか。

 

 

「幾多の剣矛を砕きその名と為せ!」

 

 

 レミリアのその右腕へ、膨大な妖力が集まっていくのがわかる。

 そして、その妖力が密集し、ついに真っ赤な槍の形へと変わった。

 

 短く呼吸をして、目を閉じてから集中。一瞬だけで良い。その一瞬だけに全ての力を使わせてもらおう。

 水を創造し、フランドールの傘を覆うように構える。霊力はまだ込めない。我慢して、我慢して……

 

 

「神槍!」

 

 

 何よりも真っ赤に見える回避不能の神の槍。

 その槍から出る妖気でピリピリと震える空気。気持ちの悪い汗が吹き出す。もうちょっと、もうちょっとだけ我慢して――

 

 

 ――Spear the Gungnir !!

 

 

 大妖怪からもらった雨の日に開くなんとも不思議な一輪花。生憎、今宵は月の綺麗な晴れ空だけど、せっかくの機会なんだ。ちょいと咲かせてもらおうか。

 

 槍がレミリアの手を離れた瞬間に傘を開き、全力で霊力を流し込んだ氷壁を創造。

 

 そして、真っ赤な光に飲み込まれてから、巫山戯てるほどの衝撃が俺の身体を突き抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……正直、驚いたわ」

 

 俺を貫いた衝撃が終わって直ぐ、そんなレミリアの声が聞こえた。

 無理やり霊力を絞り出したせいか、身体中から出血しているし、きっと中身の方だってボロボロだろう。傘を掴んでいた右腕の感覚はなく、霊力も空っぽ。今にもぶっ倒れそうだ。

 

 それでも、レミリアの攻撃を防ぎ切ることができたらしい。

 幽香からもらったフランドールの傘はパッと見無傷だし、俺の後ろにあった博麗神社にも被害は特に見られない。これで神社に被害をなんかを出してしまったら、霊夢から何を言われるのかわかったものじゃないから一安心と言ったところ。

 

「ま、アレくらい余裕だよ」

 

 どうやら本当に驚いているらしく、ポカンと口を開けているレミリアへそんな戯けたような言葉を送ってみる。

 1500年以上鍛え続けた霊力と能力に、神の酒、大妖怪からもらった強靭な盾。そんなものを全て余すことなく使ってこの有り様。まぁ、レミリアと俺との間にはそれほどの差があるってことなんだろう。とは言え、まだまだ修行が足りないねぇ。

 

 なんとも格好のつかない結果となってしまったが、三枚目役者の俺にはきっとこれくらいが丁度良いのだろう。

 なんて、言い訳してみたり。

 

「フフッ、よく耐えて見せた。見事よ、人間」

 

 心から嬉しそうに……しかし、妖艶に笑うそんなレミリアの姿は見蕩れてしまうほどに美しいものだった。

 これはまた俺なんかにもったいない言葉なことで。

 

 さてさて、それじゃあこれで余興も終わったことだし、宴会へ戻って幻想郷の可愛い女の子たちときゃっきゃうふふと洒落込みましょうか!

 

 と、いきたいところであるけれど……流石に限界です。クスクスと笑うレミリアの姿を見ながら俺の意識は其処で途切れた。

 最後までちゃんと頑張れよって思うところだが、今ばかりはちょいと休ませてもらうとしよう。

 

 

 






フランドールさんを残してアイツ、離脱しちゃいましたね
それで良いのか主人公……

と、言うことで第42話でした
可愛いレミリアさんも好きですが、私はカッコイイレミリアさんが好きです
そして、とりあえずこれで一段落と言った感じでしょうか
次話からはアイツもまたいつもの感じに戻りそうです

では、次話でお会いしましょう

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