ちょいと遅れてしまいましたが、クリスマスのお話だそうです
また閑話ですって
本編とは関係ないので飛ばしても問題ありません
「なぁ、ルーミア。クリスマスって知ってるか?」
何と言うか、その日は朝起きた瞬間からどうにも悪い予感ばかりがした。
「ううん、知らない」
冬至も過ぎ、これから日は長くなるはずだけど、寒さは増していく。あの子は寝てしまい春になるまで起きることはないらしい。つまり、この家にいるのは実質私とアイツの二人だけ。そりゃあ、嫌な予感の一つくらいはするはずだ。
「そかそか、じゃあクリスマスって奴を教えてやるよ」
「別にいい。興味ないし」
そして厄介なことに、今日のアイツはやたらとテンションが高い。何を考えているのかわからないけれど、鬱陶しいなぁ。
“くりすます”ってのが私にはわからない。でも、どう考えたって面倒なことに巻き込まれる。アイツが何処かで勝手に何かをやるのは気にしないけれど、私を巻き込まないでほしい。
「まぁ、聞けって。そのクリスマスだけどさ、サンタクロースって言う奴が可愛い女の子にプレゼントを配る日なんだよ」
さんたくろーす? また知らない言葉。そして随分と物好きな奴もいたものだ。プレゼントを配ることで、そのさんたくろーすは何を得ることができるのだろう。少なくとも私にソイツの気持ちをわかることはない。
ん~……くりすますって言うのはなんとなくわかったけれど、それがどうしたのだろうか?
「んでだな。残念ながらこの幻想郷にはサンタクロースがいないんだ。だから俺が代わりにサンタをやろうって言う話」
うん……要は暇だったんだね。あの子が寝てしまったせいでコイツを構ってあげる奴もいなくなっちゃったし。
話はわかった。わかったけど……私は関係ないよね? くりすますだかなんだか知らないけど、私は静かに過ごしたいんだけどなぁ。
「そして、ルーミアにはその手伝いをしてもらいたいんだ」
詰まるところ、今回はそう言うお話らしい。
――――――――――
「うむうむ、やっぱりルーミアは何を着ても可愛いな!」
全身茶色のフード付きの服。そのフードには2本の角があり、首元には大きな鈴。何故かそんな服を着ることになった。動きにくい……
アイツ曰く、これはさんたくろーすの相方である“となかい”って言う奴の格好らしい。
「この服はどうしたの?」
「瀟洒なメイドさんに土下座して頼んで作ってもらったんだよ」
何をやっているんだコイツは……
そしてどうしてサイズがピッタリなのだ。このやろー、私が寝ている間にまた何かやりやがったな。
一方アイツの格好は、全身赤色の服に白色の付けヒゲ。そして大きな袋を担いでいた。たぶんその袋の中にプレゼントが入っているんだろう。
「プレゼントはどうやって配るの?」
「寝ている間に配るのさ」
寝ている間かぁ。とは言え、今の時刻はまだ正午を少し過ぎたくらい。寝ている奴なんて……ああ、そっか吸血鬼の姉妹の所へ行くのかな。吸血鬼と言うくらいだし昼間は寝ているんだろう。
「さて、やりますか」
アイツはそう言ってから手を軽く振り下ろした。
その瞬間、はらはらと空から真っ白な雪が舞い降り始めた。上を見上げると、雲一つない空。そうだと言うのに雪は止みそうにない。だからこれはアイツの能力なんだろう。
普段の態度からは全く想像できないけれど、アイツの実力だけは確かなもの。幻想郷中に雪を降らせるなんてなかなかできるものじゃない。それを簡単にやってしまうコイツは……いや、まぁ、尊敬なんてしないけど。
「うむ、これでホワイトクリスマスだな。いや、積もらなきゃダメなんだっけかな?」
私は知らないって。
「ま、とりあえず行くか」
そう言ってから私の手を握るアイツ。
こんなにも寒い日だというのに、アイツの手は暖かかった。
吸血鬼の住む館を目指し飛んでいると、アイツの降らせた雪が顔にぺしぺしと当たり、どうにも鬱陶しい。それにしても、雪を降らせる意味はあったのかな?
そして霧の湖を越えると、直ぐに見えてきたあの真っ赤な建物。それは雪で悪くなった視界でもはっきりとわかるほどに目立っていた。
その館の門へ降りるとそこには一人の女性の姿。たぶん門番的な人だと思うけれど、こんな寒い日は大変そうだ。
「おや? こんにちは青様。それと……えと、そちらは?」
「や、こんにちは美鈴。紹介しよう。俺のお嫁さんだよ」
ぶん殴っておいた。
「え、えと、それで今日はどうされたのですか? なんだか面白い格好をされていますが」
苦笑いを浮かべる門番。それにしてもなんで門番はコイツを様付けなんかで呼ぶのだろうか? そんな偉い存在ではないはず。絶対に。
「今日はサンタクロースとして皆へプレゼントを配りに来たのさ」
全力でぶん殴ったのにも関わらず、何事もなかったかのように立ち上がってから言葉を落とすアイツ。相変わらず耐久力もおかしいらしい。
「はぁ、さんたくろーすですか。よくわかりませんが、どうぞお入りください」
「うん、ありがとう。雪降ってて大変だろうけど、美鈴も風邪ひかんようにな」
その雪を降らせているのはあんたでしょうが。そう思うなら止めれば良いのに。
「大丈夫です! 体だけは丈夫ですから」
――でも、やっぱりちょっと寒いですね。
なんてあの門番ははにかみながら言葉を落した。風邪ひかないようにね。
真っ赤な館は外だけが赤いだけじゃなく、中も真っ赤だった。こんな場所で生活していたら疲れそうだ。私はもう少し落ち着いた色の方が良い。黒色とかがすごく好き。
「いらっしゃいませ、青さ……うっわ、なにその格好」
あの元気な門番と別れ、館の中へ入って直ぐ、紅魔館のメイドが急に現れた。急に現れたからちょっとビックリ。
「こんにちは咲夜。今日は皆へプレゼントを配りに来たんだよ。あと、この服を作ったの君でしょうが」
ああ、この人が私たちの服を作ってくれたんだ。余計なことを……
「プレゼント……それはお嬢様と妹様にですか? 変な物はちょっと……そのお気持ちだけで十分です。お帰りは後ろの扉ですよ」
うん、やっぱりそう思うよね。コイツからのプレゼントとか悪い予感しかしない。
「いや、そんな変な物じゃないんだけど……とりあえずこれはレミリアに渡してくれ。枕元に置いておくのがベストだと思う」
そう言ってアイツは担いでいた袋の中をガサゴソとあさり、何かを取り出してからメイドへ渡した。紙で包まれているせいで、それが何なのかはわからない。
「これは?」
「納豆」
そのプレゼントは予想外だ。
てか、そんなもの渡すな。しかも枕元に置くとか嫌がらせにしか思えない。何を考えている。
そうだと言うのにあのメイドは――
「あら、これはありがとうございます。お嬢様も喜ぶかと」
マジかよ。どうなってんだ。それで良いのか吸血鬼。
「んじゃあ、レミリアの方は頼んだ。俺はフランドールに渡してくるから」
「はい、わかりました。因みに妹様への贈り物は?」
私からしてみれば、なんとももらっても嬉しくなさそうなプレゼントだけど、たぶんコイツなりに考えているのかなって思う。普段の行いが行いだけに、まともな行動するコイツに対しての違和感がすごい。
「絵本とか本をいくつか用意した。本なら此処にも沢山あるけど、どれもこれも読み難いのばかりだしさ。そして、はい。これは咲夜へのプレゼント」
「あら? 私もいただけるのですか?」
「クリスマスは可愛い女の子へプレゼントが来る日だしな。そりゃあ咲夜だってもらう権利があるだろ」
ただ……少しでも良いことをするだけで、コイツが良く見えてしまう。そんなはずがあるわけないのに。ずるい奴だなぁ。
「ふふっ、懐中時計ですか。ありがとうございます。大切にさせていただきます」
「そうしてもらえると嬉しいよ。ああ、あとプレゼントは俺からじゃなくてサンタクロースからって伝えといてくれ」
「はい、承りました」
まぁ、だからと言ってコイツの評価がこれ以上上がることはない。馬鹿で変態。私のコイツへの評価はそんなものだ。
メイドと別れてからは、吸血鬼の妹の所へ行き、その次は図書館にいる魔女の所だった。魔女はアイツの顔を見ると露骨に嫌そうな顔をしたけれど、プレゼントを渡すと素直に感謝していた。
因みに魔女へのプレゼントは万年筆とそのインクらしい。アイツが、これで文字書くの上手くなれば良いな。なんて魔女に言うと、火の玉が飛んできた。どうしてコイツはいらんことを言う。
そして真っ赤な館から帰るとき、あの門番にもプレゼントを用意していたらしく、外套を渡したアイツ。そのプレゼントには門番も喜んでいた。
何も考えていないように見えるけど、多少は何かを考えているらしい。てか、プレゼントが予想以上に良い物で私は驚きっぱなしだ。
アイツがずっと雪を降らせていたせいか、地面は薄らと白くなり始めていた。この色を見ると、またあの寒い季節が来ると思い、少しだけ嫌になる。
「プレゼントはどうやって用意したの?」
「お金だけならあったから、ほとんどのプレゼントは人里で買ったんだよ。本当はもっと珍しい物でも用意できれば良かったけど、外の世界へ俺だけじゃいけないしなぁ」
なるほど、そうだったのか。今までのプレゼントがどれくらいするのかわからないけれど、安い物ではないと思う。心の底では何を考えているのか知らないけど、良くまぁ、そんな物好きなことができるね。
「さて、次の場所だけど……まだ昼間なんだよなぁ。夜になるまでちょっと待たないと。一度家に帰るか」
「うん、わかった」
別に昼間に渡しても良いと思うけど……たぶん拘りでもあるんだろう。
家に帰り、とりあえず夜まで仮眠することに。どうせプレゼントを配るのは深夜になるだろうし。
私一人で寝ると確実にアイツから襲われるだろうから、仮眠はあの子の隣ですることにした。アイツは何故かあの子にだけ容赦ないけれど、変に遠慮するところがある。例え元が熊だとしてもあの子の抜群に可愛い。昔に色々とあったらしいけれど……アイツとあの子の関係は何だかおかしなものだ。
まぁ、私が言えたものじゃないけれど。
あの子を抱きながら、そんなことを考えていると思っていたよりも早く私の意識は途切れた。
――――――――――
パチリ目が覚めると、明るかったはずの世界は暗くなっていた。
近くにアイツの気配はない。うむ、やっぱりこの子の近くで寝たのは正解だった。これからは毎日そうしようかな。ただ、この子の眠りを邪魔するのも……
ぐしぐしと目をこすり、のそのそと起き上がってから、あの子の部屋を出る。時間的には丁度良いくらいかな。
「おっ、起きたか。そろそろ出発しようと思ってたんだけど大丈夫?」
「……うん、大丈夫」
居間へ行くとアイツの姿。私やあの子と違ってアイツは寝ることがほとんどない。たぶんずっと起きていたんだろうなぁ。
アイツと一緒に外へ出ると、月明かりに照らされた其処には真っ白な世界が広がっていた。寝る前はほとんど積もっていなかったというのに、今じゃ数糎ほどにもなっている。
世界を白く変えた物を踏みつけると、しゃくりと心地良い音。はぁ――と息を吐き出すと、また一つ世界に白色が加わった。
「……寒そうだ」
「んじゃあ、俺が抱きしめて――」
ぶん殴っておいた。
「まずはどこへ行くの?」
「霊夢のところかな。アイツは寝るのも早いし」
日が沈んでしまったせいか、寒さはいっそう増しているはず。そうだと言うのに、それほど気にならないのはこのへんてこな服のおかげだろうか?
アイツの言っていたように、博麗の巫女は既に寝ていたらしく、神社は真っ暗に。そんな神社の縁側へ、アイツはガサゴソと袋から取り出した何かを置いた。なんだろうか?
「お茶っ葉と野菜だよ」
そうなのかー。
博麗の巫女の次は白黒の魔法使いの家だった。近さ的にこっちを先に来れば良かったのに。
「いや、野菜が重かったから早めに……って、あら。鍵がかかってて中へ入れんわ」
普通鍵くらいかけると思う。私たちの家は鍵かけてないけど。たぶん私たちの方がずれているんだろう。
「ん~……しゃーないか。扉の外へ置いておこう」
良かった。無理矢理家の中に入るんじゃないかと心配だった。流石のアイツでもそんなことはしないか。いつもこれくらい慎重になってほしいところ。
「この前、魔理沙の寝顔が見たくて無理矢理入ったらトラップが発動して酷い目にあったんだ」
死ねば良いのに。
あと、プレゼントの中身は?
「鍋」
どうして鍋なのよ……もっと良い贈り物はあったと思う。
「キノコでも贈ろうかと思ったけど、どのキノコが重要なキノコなのか、俺にはわからなくてさ。だから鍋にした。鍋ってなんか魔法使いっぽいし」
随分と適当な理由なことで。ま、まぁ、もらって困るような物ではないし良いのかな? それをもらって嬉しいかはわからないけど。
白黒の魔法使いの次は人形使いの家らしい。
その人形使いの家も白黒の魔法使いと同じ魔法の森にあった。ただ、困ったことに人形使いの家には明かりがついていて、どうやらまだ寝ていないらしい。
アイツが担いでいたアレだけ大きかった袋はもう既にぺしゃんこ。これでほぼ最後と言っていたもんね。
「おお、煙突あるじゃん。これなら丁度良いな」
何が丁度良いのだろうか。
そんな私の疑問に答えることなく、アイツは屋根へ上り、躊躇なく煙突の中へ飛び込んでいった。
「うおぉぉおおお!! メリィィィイイイ! クリスマァァアアアッス!!」
聞きたくもなかったけど、そんなアイツの声が聞こえ、すぐ後に女性の叫び声が聞こえた。心中お察しします。今までの行いが全部台無しだ。
いや、まぁ、なんとなくこうなるとは思っていたけど。
人形使いの家からする騒がしい音を数分ほど聞いていると、ボロボロな姿のアイツが玄関から叩き出されてきた。普通に渡せば良いのに……どうして変にひねくれようとするのやら。
「何を渡したの?」
「シルクの生地」
贈り物は普通なんだ……
「さて、家へ帰るか」
あれ、もう終わりなの? あと一人いるとか言ってと思ったけれど。
「ああ、配り終わるのは終わりだよ」
うん? どう言うこと?
そんなアイツの言葉の意味はよくわからなかったけれど、とりあえず家へ帰ることに。
人形使いの家から私たちの家までの距離は短く、思っていた以上に早く着くことができた。未だに雪は積もっているけれど、どうやら雪を降らせることはやめたらしく、今は何も降っていない。地面へ積もった雪がただただ、月明かりを反射するばかりだった。
う~ん、今日はなんだか疲れたな。アイツと一緒にいるとどうにも疲れてしまう。寝たばかりではあるけれど、今ならまた寝られる気がする。
「さて、それじゃ俺からのクリスマスプレゼントだ。さぁ、受け取ってくれルーミア」
家に帰って直ぐ、私の方を向き両手を広げたアイツがそんな言葉を落した。
意味がわからない。
「……は?」
「あっ、いや、その……だから、俺自身がクリスマスプレゼント……的な?」
全力でぶん殴った。
実のところ、ちょっとだけ期待はしていた。もしかしたら私だって何かもらえるんじゃないかって。今までも、コイツからは色々な物をもらっている。普段はそこまで欲しいとは思わないけれど、どうしてか今日はもらえたら嬉しいな。なんて思う自分がいた。
それは――くりすますって言う特別な日だからだろうか?
まぁ、結局アイツにぶち壊されたが。
なんて言うか……遣る瀬なさだとか、やりきれない想いはあったけれど、アイツなら仕方無いんだ。残念なことにアイツとは随分と長い時間を一緒にいる。
……そんなアイツの性格くらいわかってる。
とりあえず今日は寝よう。最後の最後でなんとも言えない気分にはなったけれど、今日はそれなりに面白かった。たまにはこんな日があっても良いのかなとは思う。
そして、自分の部屋の扉を開けて直ぐのこと。
窓から差し込んだ月明かりに照らされ、机の上に何かがあるのに気がついた。
月明かりだけじゃ少しばかり見え難かったけれど、そこには――ルーミアへ。Merry Christmas.と見慣れた文字で書かれた手紙と紙に包まれた何か。
少しばかり震える手で紙包みを開けると、手編みと思われる毛糸のマフラーとニット帽だった。店で売るのには少々雑な仕上がり。それはつまり――まぁ、たぶんそう言うことなんだろう。
いつの間に用意したのやら……
その二つを手に取ってから首へ巻き、そっと被ってみた。チクチクと毛糸が肌に当たってどうにもむずがゆい。
けれども――
「……暖かい」
全く……どうしてアイツは素直に渡せないのだろうか。お互いに不器用な性格ではあるけれど、普通に渡してくれれば私だって素直に感謝することくらいできる……はず。ちょっと自信ないかも。
だったら、これで良かったのかな。
「おーい、ルーミア。咲夜からケーキもらったから一緒に食べようぜ」
アイツの声が聞こえた。
「うん、行く」
マフラーとニット帽を外してからアイツへそんな返事を落とす。
直接口で伝えるようなことはしないけれど……まぁ、この冬の間くらいは使ってあげよう。
ケーキを食べるため、アイツの所へ向かおうとしたけれど、少しだけ気になってあの子の部屋を覗いてみた。すぴすぴと気持ち良さそうに眠るあの子。
その枕元には何処かで見たような紙で包まれた何か。
うん、予想通りだ。
そのことを確認してから、そっと扉を閉めた。ホント素直じゃない奴だ。
「ふふっ、ひねくれ者」
そんな何処か楽しそうな声が冬の夜にぽそりと落ちた。
なんだかんだで主人公に付き合ってくれるルーミアさんは良い子だと信じています
と、言うことで第閑話でした
最近閑話を書いたばかりな気がしないでもないですが……
ま、まぁ、せっかくのクリスマスですし、こう言う楽しみ方も悪くはないのかなぁって思いながら書かせていただきました
次話からは本編を頑張る予定です
では、次話でお会いしましょう