連日のように続く宴会。
そんなもののせいで家にあった食料が少なくなってきてしまった。
面倒くさいなぁ。とは思うものの食べなければ生きていけないため、仕方なしに人里へ向かうことに。此処で一気に食料を買い込んでおこう。
それにしても、最近はちょっと宴会が多すぎないかしら? 別に宴会が嫌いってわけじゃないけれど、毎度毎度、私の神社で妖怪が騒いでいるせいで人間の参拝客なんてほとんど訪れない。妖怪なら沢山来るけど、アイツらお賽銭とか絶対してくれないし。
桜だってもうそろそろ散ってしまう。桜がなくなればこの超ハイペースな宴会も落ち着くのかな。でも、なんだかそれだけじゃ終わらないような気がするのは、私の気のせいかしら?
なんだかモヤモヤする。でも、どうしてモヤモヤするのかはやっぱりわからなかった。
そんなモヤモヤとした気分のまま人里へ到着。
お米なんかの重たい物を先に買ってしまうと大変だから、最初は野菜や肉などの軽い物から買うことにしよう。あとお酒。贅沢できるほどの持ち合わせはないけれど、それくらいは許されるはず。
そして、できるだけ安い食材を求めてフラフラと人里の中を歩いている時だった。
「おや? 霊夢じゃん。今日はどうしたの? 食材の買い出しか?」
アイツがいた。
何故人里にいる。いや、別におかしなことじゃないけれど、できれば会いたくはなかった。コイツと出会うと碌なことないし。
そんなアイツの様子を見ると、どうやら何かを売っているらしかった。なんだか良い匂いがするけれど、何を売っているのやら。
「なんで、あんたが人里にいるのよ?」
「氷とか魚を売ってるところだよ」
私の質問にアイツはそう答え、いつものように笑った。
氷や魚、ねぇ。
そう言えばコイツの能力で水や氷を創れたような気がする。夏とかは便利かもしれない。この季節はまだいらないけど。
「んで、霊夢はどしたの? あと結婚してください」
なんてアイツは言ってから、私に串に刺さった焼き魚を渡してくれた。
もらえるのなら有り難くいただこう。
「食料が少くなってきたから買い出しに来たのよ。あと死ね」
もらった焼き魚は丁度良い塩加減でなかなか美味しかった。すごく自然な流れでもらってしまったけれど、良かったのかしら? まぁ、コイツには色々とやられているわけだし、きっと大丈夫。
そして魚に罪はない。だからそればっかりは感謝します。
ごちそうさまでした。
「ああ、やっぱりそうだったのか。荷物とか重くて大変だろうし手伝おうか?」
正直なところ、その提案は嬉しい。でも、相手が悪い。コイツじゃなければお願いするところだけど、コイツの場合は別。どうせ下心とかしかない。
でも、私の言うことなんて聞かないんだろうなぁ……
「別に良いわよ。一人でも運べるし」
「いや、手伝うよ。今日だって元々商売をするつもりなんてなかったし」
ほら、やっぱり。
てか、売る気がなかったのなら何をしに来たのかしら?
そして、無理矢理なことを言ってからアイツは、残っていた焼き魚をその辺を歩いていた人々へ適当に配った。男性には渡さず、女性にだけ。
……いや、わかっちゃいたけど、此処まで堂々としているといっそ清々しい。
悪い奴ではないんじゃないかなって思うときもある。でも、こんな行動を見ればやっぱりダメな奴だって思ってしまうのは仕方無いかもしれない。
「よしゃ、そんじゃ行くか」
色々と思うところはあるけれど、まぁ、荷物持ちくらいにはしてあげよう。
不本意ながらアイツと一緒に食料の買い出し。
でもその前に、まだ食べていなかったお昼をアイツと一緒に食べた。どうしても高くなってしまうから外食はあまりしないけれど、たまには良いかもしれない。そして自分の分のお代を払おうとした時、私の分まで払ってしまうアイツ。
なんとなくそれに腹が立ったから、私の分のお代を渡そうとしたけど、アイツはソレを受け取らない。
さらに――
「未来のお嫁さんに払わせるわけにはいかないだろ?」
なんて言うものだから手に負えない。
やっぱりムカついたから、アイツの脛を蹴っておいた。
お昼を食べ終わった後は、今日の目的のため野菜やら肉やらお米を買うことに。そんな時にわかったことだけ、どうやらアイツはなかなか顔が広いらしい。それがちょっと意外だった。
行く店行く店でアイツは店主から声をかけられるし、更におまけだとか言って私へ少し多めに食材をくれた。でも、そんなおまけをくれるのは男性や年配の女性ばかり。若い女性が相手だと、アイツは滅茶苦茶嫌そうな顔をされた。普段何をやっているのやら……
「そう言えば、あんたって何処に住んでいるのよ?」
ちょっと気になったから聞いてみた。
確か……人里に住んではいないとか言っていた気がする。
「魔法の森の近くだよ。其処でルーミアや熊畜生と一緒に生活してる」
ルーミアってのは……ああ、あの時の暗闇妖怪か。
そして、熊畜生? そっちは何なのかよくわからない。
「熊と一緒に住んでるの?」
「ん~……正確に言うと熊の妖怪だよ。そろそろ冬眠が終わると思うんだけど、ソレが怖いから今日は人里に来たってとこ」
なんでそんな奴と一緒に生活してるのよ……まぁ、私には関係ないことだけど。でも、問題は起こさないでもらいたい。
さて、必要な物も買えたし、そろそろ帰らないと。これだけ手伝ってもらったのだし、流石にお茶くらいは出さないとまずいわよね。
そんなことを考えて帰ろうとした時、此方へ向かってとてとてと走ってくる一人の女の子が見えた。
「あ、あの、ちょっと待ってください!」
その女の子の歳は私と同じくらい。
そして、同性である私から見てもすごく可愛い子だった。
……これはヤバい。
「どうかしたの?」
嫌な汗が出る中、とりあえず何事か聞いてみる。
何の用事か知らないけれど、今、私の隣にはアイツがいる。そしてアイツのことだ、こんな可愛い子を目の前に何もしないはずがない。
……この子が危ない。悪いこと言わないから、逃げた方が良い。
「え、えと、青さんですよね?」
しかも、アイツに用事とは……
これは不味いことになった。人里で騒ぎは起こしたくないけれど、この子のためにも頑張らないといけないかもしれない。
「ああ、そうだけど、どうかしたのか?」
「え、えと……ずっと貴方のこと見ていました。貴方が好きです!」
…………うん?
……この子、今何て言った?
好き? コイツのことが? この子は何を考えているのだろうか……てかヤバい! この子の頭もヤバいけど、そんなことをアイツに言ったら……
「はぁ、そうか。そりゃあ、どうも」
……えっ?
あ、あれ? なんか思っていた反応と違う。コイツのことだから、あんなことを言われたら泣き叫んで喜ぶくらいするのかと思った。
そうだと言うのに、コイツはこの子に全く興味が無いような反応。そしてそれは、今までのコイツのことを考えると絶対におかしい。
「……え?」
どうやら、アイツの反応はあの子も予想外だったらしく、間の抜けたような声が聞こえた。
安心して。貴女の頭はおかしいけれど、アイツを知っていればその反応は普通だから。
「そんじゃ、そろそろ帰ろうぜ。博麗神社で良いんだよな?」
いやいや、ちょっと待ちなさいよ。
え? 本当にどうしたの? 頭打った? こんなのあんたのキャラじゃないでしょ?
「ちょ、ちょっと待ってください! えと、あの……それだけですか?」
慌てたようなあの子の言葉。
うん、私もこれは説明がほしい。
「いや、そんなこと言っても他に言うことはないんだが……」
そして本当にあの子に興味が無いようなアイツの顔。
もしかして異変? 天災の前触れ? 予想外のできごとに頭は混乱。
「……私じゃダメですか?」
今にも泣き出しそうなあの子。全くもって関係のない私も流石にこの子が可哀想になってきた。
それにしてもコイツはどうしたのだろう?
「ダメとかそう言う話じゃないんだけどなぁ……」
ならどう言う話よ。
「せ、せめて私の家でお茶でも飲んでいってくれませんか? 博麗の巫女さんも一緒に……」
「いや、今は霊夢の買い物に付き合ってるんだよ。それ後日じゃダメなのか?」
アイツは本当に興味がない様子だった。
「別にちょっとお茶を飲むくらい良いわよ」
あまりにもあの子が可哀想だったから私はそう言った。
この頭のおかしい子が何を考えているのかはわからないけれど、それくらいはしてあげたい。
「はぁ、霊夢がそう言うなら……」
そしてアイツがそう言うとあの子はパーっと明るい表情となり
「そうですか! それでは私の家へご案内します! 人里の外れですのでちょっと遠いですが、ついてきてください」
なんて元気な声を出した。
本当に嬉しそうなあの子。そんな表情を見るだけで此方も嬉しくなる。
この子には申し訳ないけど、もしコイツがこの子と付き合うようになれば多くの者が救われる。そんな思いもあった。
そうだと言うのに――
「……いや、やっぱりやめておくわ」
あの子が歩き出して直ぐ、アイツがそう言った。
ああん? コノヤロー何言ってんだ。今ぐらいはいつもの調子になりなさいよ!
「どうしてですか? 私の何が……ダメなんですか?」
此方を振り返りあの子が言った。
明るかった表情は一変。その目は潤んでいるようにも見える。
「気に食わないってか……むしろ俺が聞きたい。お前、何が狙いだ?」
「そ、そんな……ただ私は青さんと一緒にお話をしたくて……」
んもう! ホント良い加減にしなさいよ。何を考えているのか知らないけれど、流石にさっきからコイツの対応は酷い。
そろそろ一発くらい殴った方が良いかもしれない。
でも、コイツってこんな奴じゃなかった気が……
「そりゃあ俺は女の子が好きだよ? 人間だろうが、妖怪だろうが、亡霊だろうが可愛い女の子が好きだ」
「……じゃあ、どうしてですか?」
……コイツ、いきなり何を言い出してるんだろ。
わかってはいたけど、これは酷い。この子はそんなコイツのどこに惚れたんだろうか……
「だからさ、お前じゃ――俺の下半身が反応しない」
色々と考える前に全力でアイツをぶん殴った。
いや、これは許してもらいたい。
「痛い。えっ? な、なんで殴ったの? もしかしてそう言うプレイですか? 霊夢さんってば昼間の人里なのに大胆な……」
もう一度ぶん殴った。
なんなんだコイツは。
「ちょ、ちょっと待って霊夢。もしかして気づいてないのか?」
「……何がよ?」
あんたのその歪んだ性格ならとっくに気づいている。
さて……あと何発入れてやろうか。
「ソイツ……てか、そこの妖怪は野郎だぞ? 何を考えてるのか知らんが、どう考えても罠だろ」
え?
「……気づいていたのですか?」
「俺がわからないはずないだろう。言っとくが野郎には興味ないぞ?」
え?
ちょっと待って。全然ついていけない。確かにこの子に対するアイツの行動を考えると筋は通る。でも、いきなり過ぎて何が何だか……
「……別になんでもないですよ。ただちょっと貴方をからかってみようと思っただけ」
「はぁ、さいですか。良いご趣味をお持ちなことで」
なんだソレは。
完全に私だけ置いていかれてる。てか、どうしてコイツはこの子のことに気づけたのよ?
「ふふっ、それじゃあまた会いましょ、青さん」
「俺は遠慮するよ。こちとらぽっと出の新キャラを構っている余裕なんてないんだ。それが野郎ならもっとダメだ。性別変えて出直して来いや」
そんな会話をアイツとするとあの子は消えてしまった。
どうやらアイツの言っていたことは全部本当らしい。いや、ホントどうしてわかったのよ……
「やっとどっか行ったか……ん~それじゃ帰ろうぜ」
やっぱりコイツは変な奴だ。何を考えているのかわからないし、わかりたくもない。
でも、ちょっとだけ見直したかもしれない。
「そうね、帰りましょうか……ねぇ、青」
「うん、どったの?」
「あっ、いえ、なんでもないわ……」
何故かぽそりとアイツの名前が私の口から溢れた。
慌ててなんでもないと言ってみる。何を慌てているのやら……
本当はどうなのか良くわからないけれど、もしかしたら私はそれほどコイツのことを嫌っていないのかもしれない。
いや、それはないか。
新キャラ出ましたが、たぶんもう出ません
野郎とか誰も得しませんし
と、言うことで第24話でした
閑話みたいなのを書こうと思い、なんとなく書いていたらこうなりました
霊夢さんがちょっとデレ始めそうですがたぶん気のせいです
次話は……クマさんとかでしょうか?
起きたっぽいですし
では、次話でお会いしましょう