東方想拾記   作:puc119

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第20話~春を追いかけて~

 

 

 空を飛び、色とりどりの弾幕を放ち始めた少女たちを見ながら、考え事をしてみる。どうにかしてパンツが見えないだろうか、と。

 

 この終わらない冬の異変を起こしたのは西行寺幽々子だ。決して満開になることがなくなってしまった桜を咲かすために、幻想郷から春を奪った。

 そのことは別に良い。俺の記憶が正しければ、幻想郷の春だけではあの桜が満開になることはないはずだから。

 

 それは良いのだ。ただ不安なのが幽々子のこと。

 もちろん今の幽々子は俺のことを覚えてはいないだろう。それは痛いほど理解している。

 

 生前の幽々子とは幾度も言葉を交わした。その記憶は今でもはっきりと覚えている。しかし、幽々子は妖怪桜が満開となったあの日に死んだ。

 その後、どうにか魂だけは留めることができ幽々子は亡霊となったが、生前の記憶を幽々子は覚えていない。そして亡霊となった幽々子と俺は一度しか会話をしなかった。

 

 俺が何を不安に思っているかと言うと……

 

 

 幽々子の奴、普通に俺のことを忘れたんじゃないか?

 

 

 そんな不安があった。

 生前の幽々子と仲はかなり良かったと思う。それこそ膝枕をしてもらえるくらいには。けれども、亡霊となった幽々子とは会話なんてほとんどしていない。幽々子もあの後直ぐに何処かへ行ってしまったため、会うこともできなかった。

 膝枕はしてもらったが、1000年も前に一度会話をしただけ。そんな奴を覚えているとは考え難かった。いや、まぁ、忘れちゃったのなら仕様が無いんだけどさ。

 それに、忘れたとしても、また0から関係を作っていけば良いだけなのだから。

 

 ただ少しだけ俺が落ち込むだけだ。

 

 

「それで? 春度って何よ?」

「っつー……相変わらず貴女は乱暴ね。春度ってのは貴女の持っているソレよ」

 

 どうやら少女たちは決着が付いたらしい。

 まぁ、どうせ霊夢が勝ったんだろうな。スカートの中身ばかりが気になったため、真剣に見ていたわけではないが動きがすごかった。見ていて弾幕など当たる気がしない。

 

「この桜の花びらのこと?」

「ええ、そうよ。わかっていて集めていたんじゃないの?」

「えっ……ああ、うん」

 

 わかっていなかったのか……

 本当に自分の勘だけで異変を解決しようとしていたのだろう。すごいな、おい。

 

「お疲れ様」

「別に疲れてなんかいないわよ」

 

 弾幕ごっこを終え、降りてきた霊夢へ労いの言葉をかけた。

 疲れていないって、アリスだって弱いことはないと思うが……なるほど、これが博麗の巫女の力か。本気で怒らせたら怖そうだ。

 

「んで、この後はどうするの?」

「そうね……って、何? あんたまだついてくるの?」

 

 相変わらず辛辣だった。

 正直なところ、別に霊夢について行く必要はない。白玉楼の詳しい場所はわからないが、たぶん上を目指し暖かい場所の方へ飛んでいけば着くだろうから。

 それでも、霊夢が異変を解決していくところを見たかった。まぁ、ステージ1と2では置いていかれたが。

 

「ダメ?」

「はぁ、別に良いわよ」

 

 そりゃあ良かったよ。

 

「さて、それじゃ行きましょ。もういい加減、この寒いのも白いのも飽きてきたし」

 

 そんな言葉を落としながら、霊夢は上を向いた。

 空は分厚い雲に覆われ、未だ雪が散らついている。それでも、春の香りは確かに広がり始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

「そう言えばあんたなら、この雪を止めることができるんじゃないの?」

 

 空を覆った分厚い雲の先を目指し飛んでいると、霊夢がそんな質問をしてきた。

 

「まぁ、できないことはないと思うけど、滅茶苦茶疲れそうだからやりたくない」

 

 雨を降らせることはそれほど疲れない。けれども元々降っていたものを止めるとなると、少々勝手が違う。それにこの雪を止めたところで、根本的な解決にはならないだろう。いくら雪を止めたところで、春になるわけではないのだから。

 

「何よ、使えないわね」

 

 そんなことを言われても、疲れるものは疲れるのだ。

 チルノを吹き飛ばすため、考えなしに霊力を使ってしまった。これ以上、無駄に消費するのは避けたいところ。

 いや、まぁ、この先霊力を使うのかわからないが。

 

 そんな会話をしながら、分厚い雲を一気に突き抜けた。そして、その雲の先は暖かな空気が広がっていた。

 なるほど、雲の上はもう春だったのか。きっとあの分厚い雲が春を遮ってしまっていたのだろう。

 

「随分と暖かくなったわね」

「此処はもう春ってことだろ」

「そうなの?」

 

 たぶん……。正直なところ、自信はない。

 さて、まだ見えてこないが白玉楼は何処にあるのだろうか? 雲の上まで来ればわかると思ったんだがなぁ。

 

 

「なんだ、霊夢も来ていたの…………なんでお前が居んの?」

 

 声の方を向くと、箒に跨った魔理沙がいた。

 そして、パッと見でわかるほど不機嫌だった。まだ前回のこと怒っているのかね? 俺は魔理沙とも仲良くしたいんだがなぁ。今度、仲直りの印に茸を持っていこう。

 

「コイツが勝手についてきたのよ。壁くらいには使えるかなって思ったけど、何の役にも立たない」

 

 ああ、俺って壁だと思われていたのか……。でも霊夢なら必要ないだろ。襲いかかってきた妖精たちなんて一瞬で倒していくし。

 

 さて、これで自機組が二人か。もう一人のメイドさんは何をしているのやら。

 

「そう言えば、どうしてあんたって私についてきたのよ?」

「霊夢のことが好きだからだよ」

「そう、私はあんたが嫌いよ」

 

 しまった。タイミングを間違えたか。

 いや、そもそも好感度が足りていなかったのか? 好感度ってどうすりゃ上がるのだろうか。

 

「……それで? あんたの目的は? もしかしてこの異変を起こしたのってあんた?」

 

 此方を真っ直ぐと見ながら霊夢はそう言った。その視線は少々キツイ。

 そして、そんな霊夢の言葉を受けてか、魔理沙は帽子の中からミニ八卦炉を取り出した。その顔は非常に嬉しそうだった。そんなに俺を吹き飛ばしたかったのか……

 

 ふむ、どうにも穏やか雰囲気ではない。

 

 しかし、やはりアレだな。こう……可愛い女の子二人に責められるこの状況は

 

 

 ――興奮する。

 

 

「ふふっ、バレてしまっては仕かt……あぶなっ!」

 

 容赦なく飛んできたマスパを、氷の壁を作りなんとか防ぐ。魔理沙の舌打ちが聞こえた。

 あと少し反応が遅ければ、チルノと同じ目にあっていたところだ。本当に勘弁してください。

 ちょっと巫山戯るとコレだよ。せめてセリフくらい喋らせて欲しい。

 

「どうして魔理沙の技を普通に防げるのよ……」

 

 それなりの鍛錬を続けてきたからな。君たちに負ける気はしない。

 勝てる気もしないが。

 

「あんたがこの異変を起こしたとは思えない」

 

 そんな霊夢の声。じゃあなんで聞いたんでしょうね?

 嫌がらせだろうか。嫌がらせなんだろうな……

 

「でも、あんた何か知っているでしょ?」

「そりゃあ知っているさ。この異変を誰がどうして起こしたのかくらいは」

 

 霊夢が戦闘態勢へ入ったのを確認。

 さてさて、どうしたものか。当たり前だが、俺は霊夢や魔理沙へ攻撃することはできない。それに此処で戦ってしまえば彼女たちを邪魔してしまう。それはあまりよろしくない。

 どうせ、今更謝ったところで彼女たちは止まってくれない。それくらいはわかっている。

 

 それならできることは決まっているか。

 

 能力を使用。

 いつかの博麗神社でやったように、バケツをひっくり返したような雨を降らし、湿度を限界まで高くする。そして溜まった水蒸気を凝結させ、深い深い霧を発生させる。

 

 本当はこのまま最後まで一緒にいたかったところだが、やってしまったものは仕方無い。暫くの間、別行動にしよう。

 

 

「そんじゃ、桜の吹雪の下でまた会おうぜ」

 

 

 届いているのかはわからないが、そんな言葉を二人に投げかけてから全力でその場を離れた。

 逃げるが勝ちとは言わないけれど、今ばかりは惨めたらしく行かせてもらおう。

 

 

 

 

 霊夢と魔理沙から離れ、暫く飛んでいると天へと続く長い長い階段が見えてきた。

 きっとあの階段先に幽々子の住む白玉楼があるのだろう。そしてあの妖怪桜も。霊力はまだまだ余裕がある。それでも心の準備くらいはしておいた方が良さそうだ。

 

 ペシリと何かが顔へ当たった。確認してみるとどうやら桜の花びららしい。

 その花びらからは春の香りがした。

 

 春の訪れまでもう少し。

 

 






騒霊三姉妹にごめんなさい
きっといつか書くので今回は飛ばさせてください

と、言うことで第20話でした
春雪異変はまだまだ終わらなそうです
こんなペースで大丈夫なのかな……

次話は妖夢さん登場でしょうか?
では、次話でお会いしましょう

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