東方想拾記   作:puc119

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第19話~いや、感謝の正拳突きを……~

 

 

 天高く昇っていった最強を見送ってから霊夢の元へ。

 

 弾幕ごっこをする予定などはないが、俺もスペルカードを考えておいた方が良いのだろうか? しかし、俺のような野郎が幻想郷の少女達みたく、色とりどりの弾幕を放ちながら華麗に空を飛ぶことが想像できなかった。

 また“空飛ぶ変態”などと言う不名誉な渾名を付けられるかもしれない。それは勘弁してもらいたいところだ。

 

 ま、そんなことはまた今度考えれば良い。今はとにかく霊夢の所へ行くとしよう。シナリオ通りなら次は橙の住む迷い家のはず。置いていかれたら俺じゃあ辿り着くことはできなそうだ。

 だから霊夢のところへ行きたいのだが……

 

「アイツ、何処に行ったんだろ……」

 

 まいったね、こりゃあ。

 

 何処へ行けば良いのやら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 ――その日は朝から良い予感がしなかった。

 

 家の窓を開けると肌を突き刺すような冷たい空気が、温められた部屋の中へ流れ込んだ。そんな冷たい風とともにひらひらりと一枚の花びら。その花びらを手で包むと、確かな暖かさが感じられた。

 誰が春度を溜め込んでいるのかは知らないけれど、今年の冬は莫迦みたいに長い。私の種族的にそれはど困ることはないけれど、良い加減寒いのにも雪にも飽き飽き。

 

 何だか悪い予感がする。残念なことだけど、悪い予感と言うのは良く当たる。

 けれども何が起こるのかはわからなかった。

 

 このまま家の中に居るとソレが訪れるのか、家の外でソレと出会うのか。それがわからなかった。家の中か外。何方かを選ばなければいけない。

 

 そんな二者択一を迫られた私は結局、後者を選んだ。

 だって、じっとしているよりは良いと思ったから。

 

 まぁ、結果的にそれが失敗だったんだけど。

 

 

 

「おや? アリスじゃん。久しぶりだな!」

 

 

 そんな声を聞いた瞬間理解した。

 なるほど、当たりはこっちだったかと。

 

 自分の運の悪さにため息が溢れる。そんなため息と共に溢れた空気はやっぱり白く染まった。

 

 自分の家を出て直ぐだった。一分も歩いていない。心の準備をする暇さえなかった。本当に勘弁してください。

 私が何をしたと言うのよ……

 

「せっかく会ったんだしさ。ウチでお茶でも飲んでいかないか?」

 

 そう言ってアイツは家を指差した。

 其処は私の家だ。巫山戯んな。

 

「……そこ私の家なんだけど?」

「知ってるよ。でもその内、俺の家にもなるだろ?」

 

 なるわけないでしょうが。

 頭おかしいんじゃない?

 

 

 コイツと初めて出会ったのは秋のことだった。

 秋になり色づいた葉々を眺めながら、山の中を散策しているとアイツと出会った。

 

 少しばかり開けた場所に目を瞑り、集中でもしているのかアイツは座禅を組んでいた。何をしているのか気にはなったけれど、どうしても声をかけることは憚られた。

 やめておけば良かったのに、私は暫くの間アイツの姿を眺めていた。たぶん怖いもの見たさとか、そう言うことだったんだと思う。

 

 そしてアイツは急に目を開け立ち上がり、中腰の状態から一発の正拳突きをした。

 

 それが終わるとまた目を閉じ座った。

 

 色々と意味がわからなかった。まず、何のためにこんなことをしているのかがわからない。例え正拳突きの練習だろうが、どう考えたってやり方を変えたほうが良い。そして何より、どうして下着一枚なのかがわからない。修行だか何だか知らんが、とりあえず服着ろよ。

 そんなアイツの姿を見て私が出した結論は、関わってはいけない奴。と言うものだった。いやだって、流石にアレとは関わりたくなんてないもの。誰だってそう思うと思う。

 

 結論を出し、そっと立ち去ろうとした時、またアイツは目を開けた。さらに運が悪く私と目が合った。

 私は直ぐに反らしたけれど、直感でわかった。

 

 ――これはもうダメだろうと。

 

 私と目が合ったアイツは両手を地面に着き腰を浮かせた。その格好は所謂、クラウチングスタート。次にアイツがどんな行動を取るのかなんて直ぐにわかった。

 

 全身の血液が引いて行く感覚。鳥肌が立った。

 

 そしてアイツは勢い良くスタートを切った。

 

 低い姿勢からスタートをし、両手を必死に振って大きなストライド。しかし、服装は下着一枚。

 

 

 全力で叫びました。

 下手なホラーよりよっぽど怖い

 

 

 その時は全力で魔法を打ち込んだから、危険な目に会うことはなかったけれど、それからコイツは会う度に私へ話しかけてくるようになった。

 いくら話しかけるなとか、近づくなと言っても言うことを聞かない。だから私は諦めました。

 

 

「んで、アリスは何をやっていたの? こんな寒い日に散歩? 好きです。結婚してください」

 

 しまったなぁ。運の良い方ではないと思っていたけれど、これはあんまりだ。だいたいコイツこそどうしてこんな日に出歩いているのよ?

 幻想郷のためにも引きこもっていてもらいたい。ほいほい出歩かれたら防ぎようがないじゃない。

 

「ほ、放置プレイかな?」

「死ね」

 

 はぁ……ホント、コイツは何なんだろう。

 できれば私のことなんて放っておいて欲しい。

 

「それで? あんたは何をしているのよ」

 

 正直なところこんな奴、無視して家に帰りたかったけれど、無視をしたらしたで騒ぎ出すことくらいわかっている。ホント、ひたすらに迷惑な奴だ。

 

「この異変を解決していたんだけどさ。一緒に居た奴とはぐれちゃったんだよ。でも、まぁアリスを見つけられたしなんとかなりそうだ」

 

 なんで私を見つけるとなんとかなるのよ。

 

「私は別にこの異変と関係ないわよ?」

「それくらい知っているさ。でももうアリスは関係してしまっている。多分、逃げることはできないぜ?」

 

 そんなアイツの言葉を聞いて余計にわからなくなった。

 私がこの異変に関わっていないのは確かなこと。そしてコイツもソレをわかっていると言った。じゃあ、どうして私を見つけたら大丈夫なの? それにもう関わっていて、逃げることもできないって言うのは……

 

「この異変を起こしている奴は、ただ一本の桜の木を満開にさせるためだけに異変を起こした。そしてソイツはずっとずっと高い場所に住んでいる。それもわかっている。でもその犯人の所へ行く前に、やらなきゃいけないことだってある」

 

 其処までわかっているのなら、さっさと解決してくれば良い。けれども、その前にやらなきゃいけないことがある。

 

 つまり――

 

「……それが私って言うこと?」

「そのはずなんだがなぁ。たぶんまだ時間がかかると思う」

 

 それは、コイツ自身も理解していないんじゃないかと思えるような、なんとも曖昧な答えだった。やるのなら最後まで頑張りなさいよ。

 

 一本の桜の木を満開にするために起こした異変、か。

 それはなんとも自分勝手な異変ね。

 

「この異変を起こした奴はあんたと知り合いなの?」

 

 私がそんな質問をすると、一瞬だけアイツは悲しそうな顔をしたような気がした。見間違いかしら?

 

「……元知り合いって感じかな」

 

 そして何時ものような顔でアイツは笑った。

 ん……やっぱり見間違いだったのかな。

 

「元って何よ」

「そのままの意味。俺はアイツを知っているけれど、アイツはきっと俺を知らないから」

 

 自分は知っているけれど、相手は知らない。

 

 それってただのストーカーじゃ……

 

 うん、コイツならやりかねない。この異変を起こした奴が誰だか知らないけれど、同情する。可哀想に、貴方も変なのに目をつけられてしまったのね。

 

「……何か勘違いしてないか?」

「し、してないわよ」

 

 ジト目を向けられた。そんな目をされても困る。

 どうしよう。やっぱり此処は私が幻想郷のためにもコイツを殺ってしまった方が良いのかな? さっきの発言からは危ない香りしかしない。今なら上海もあるし、殺ろうと思えば直ぐに殺ることができる。

 

 

「…………辛いよなぁ」

 

 

 魔力を込め、人形を操ろうとした時、アイツが言葉を落とした。

 此方に背を向けているせいで、その顔を見ることはできない。

 

「何がよ?」

「ああ、いや……って、おお。来たか、流石は博麗の巫女。異変解決だけは早いんだな」

 

 私の質問の答えを遮り、アイツはそう言ってから視線を移した。

 

 つられて私も其方の方へ視線を向けると――異変の空気に当てられ凶暴化した妖精を蹴散らしながら近づいて来る紅白が見えた。

 

 ……なるほど、これは逃げることはできなそうだ。

 

 






あっちこっち書いていると、もうよくわからなくなってきます

と、言うことで第19話でした
ようやっとアリスさん登場です
主人公への好感度は皆無ですが、これからも登場してくれると私は嬉しいです

次話もこの続きっぽいです
魔理沙さんや咲夜さんも登場させたいですね

では、次話でお会いしましょう

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