真っ直ぐに、一途に
他の何でもない、ただただ私のためだけに死んで
手に、足に懐かしい感覚がする。
それは何回も何回も繰り返し続けたあの感覚。
最初は匂いに誘われただけだった。すごく美味しそうな匂いがした。そしてその匂いのする場所へ行くとアイツがいた。
元々私は弱い存在ではなかった。でも、アイツを食べればもっと強くなる気がしたから、私はアイツを食べた。その時の味は今でも覚えている。身体の内側から力が湧いてくるあの感覚。
本当に――美味しかった。
だからまたアイツを食べたくて、またアイツと会いたくて……
アイツはちょっと変わっていて、例え私が食べてしまってもまた生き返った。何度食べてもまた生き返った。そんなちょっと変わった奴だった。
いつの日からか、アイツから私に会いに来てくれることが多くなった。どうしてアイツが私の所へ来てくれたのかわからなかったけれど、とても嬉しい。
それが嬉しかったから私はその嬉しさをアイツにぶつけた。
アイツが私の所へ来てくれるようになってからは、毎日のようにアイツと遊んだ。そしてアイツと遊べば遊ぶほど、私の力が増えていくことがはっきりとわかった。
ちょっと嬉しい。
でも、そんな日は突然終わった。
アイツは何処かへ行ってしまった。
ちょっと悲しい。
アイツと会いたかった。また一緒に遊びたかった。だって私はアイツのことが好きだったから。
殺したいほど好きだから。
「お前、前より強くなってないか?」
口から血反吐を吐き出し、動かなくなった右腕をぶらりと下げながら、アイツが声を出した。
「……青は知らなそうだから教えてあげる」
「何をだよ?」
クスリと自然に笑が溢れる。今、この瞬間がすごく面白い。一度は諦めたものが戻ってきてくれた。それがすごく嬉しい。
ああ……ああ、やっぱり私は青のことが好きなんだ。
「……恋は人を成長させるの」
「お前は人じゃないだろ」
……いじわる。
でも、いいの。そんな青も好きだから。
そして、私はもう一度上から青を叩き潰した。
これでもう何回目だろう?
でも大丈夫、時間はまだいっぱいあるから。
楽しい時間はまだ終わらない。
――――――――
魔理沙を巻き込むわけにもいかず、全力で飛び霧の湖を目指した。
あの畜生が飛べないことを期待はしたが、俺の全力飛行を普通についてきました。そう言えばお前も空飛べたもんな。
可愛い女の子に能力を使用するのは少々気が進まなかった。それでも霧の湖に着いてからは能力を全力で使用して、どうにか畜生の動きを止めようとした。でもね、困ったことに熊さん超強いの。全く持って歯が立たない。
放った水弾は全て蹴散らされ、造り出した氷は全て砕かれた。規格外。レベルが違う。
容姿だけは随分と可愛らしくなりやがったが、力が弱くなったと言うことはなかったらしい。
もう乾いた笑いしか出てこない。
この畜生が俺を殺そうとするのはわかる。俺はそれほどのことをしたのだから。しかしだ。そもそも、どうしてこの畜生は復活したんだよ。あの時、確かに俺はこの畜生を殺した。畜生の中にある水分を消し飛ばしたのだ。いくら丈夫な妖怪だろうと、流石にアレで生きているとは思えない。
なぁ……じゃあなんでお前は生きているんだよ?
そして俺は畜生からの重い一撃を喰らい、湖へ叩き落とされた。
それは本日24回目の死。
そろそろ霊力だって切れる。
そうだと言うのに、全く持って明るい未来が見えてこない。
「なぁ」
「……なに?」
本当に上手くはいってくれない人生だ。俺の周りには障害が多過ぎる。これじゃあ身動きなんて取れやしない。
「どうしてお前、生きてんの?」
「……青に会いたかったから」
はぁ、そうですか。
これがもしルーミアとかに言われたのなら感動できるが、言った相手がコイツじゃなぁ……
いや、確かに容姿は抜群に可愛い女の子だ。しかし、中身がダメだ。熊怖いよ、熊。
「……あの時は伝えられなかった。だから今度はちゃんと伝える。私は青のことが――好き」
……はい?
今、コイツなんて言った?
今までそれなりに長い人生を生きてきたが、告白されたことなど一度もない。しかし、今確かに俺は『好き』と告白された。だから本当なら喜ぶ場面。
「だから――」
でも――
「殺してあげる」
これじゃあ、喜んでなんていられないよなぁ……
難しいね。好きって。
湖の水を使い“たかし”と氷弾を創り出し、畜生へぶっぱなす。
そんな全力で霊力を込めた俺の攻撃を、畜生は片手で蹴散らした。そして、勢いそのままに顔面へ良いのを一発。
これで25回目。霊力もほとんど残っていない。
こんなのどうすりゃ良いんだよ。例え神便鬼毒酒があったとしても勝てる気がしない。いつの間にそんな強くなったんだか……
水面から顔を出す。楽しそうに笑う畜生の顔が見えた。超カワイイ。
困ったな。せめて容姿が変わっていなければ、もう少しどうにかできた。けれども、これじゃあ手なんて出せるはずがない。
俺を好きと言ってくれたことは良いが、ちょっと重すぎる。お互いもう少しプラトニックな関係を目指したい。
「これからお前、どうすんの?」
「……青と一緒にいたい」
俺は一緒にいたくないんだがなぁ……
だいたい、俺を好きってどう言うことだよ。俺を恨んでいるとかならわかるが、俺に好意を向ける理由が全くわからない。
「それを俺が断ったら?」
「……大丈夫。無理矢理言うことを聞かせるから」
全然大丈夫じゃない。やめてください。逆らえません。
そりゃあ、コイツは可愛い。ルーミアに負けないくらい可愛いさ。でもコイツはあの熊畜生だ。俺のことを数万回と殺してくれたあの畜生だ。そんなことを考えると変なプライドが邪魔をした。
いっそ、嫌いって言ってくれた方がよっぽど気は楽だったんだけどなぁ……
「あっ、あーっ! あんたたち、あたいの湖でなに勝手に遊んでいるのよ! 青も遊ぶならあたいを呼んでよ!」
氷にしがみつき、これからどうしたものかと考えていると、あの元気な氷精の声が聞こえた。いや、別にこの湖はお前のものではないだろ。
「……だれ?」
「あたいはチルノだよ! そう言うあんたこそ誰さ。やんのか? おっ、やんのかー」
あー、こらこらチルノ。ソイツと関わるのはやめとけって。洒落にならんほど強いから。
「……やらない。別に興味ないから」
はぁ……そろそろ腹括るとしよう。
どうしてこの畜生が生きているのか知らないが、どう考えたって俺が原因なんだ。それなら知らない振りなどできはしないのだから。
「おい、熊畜生」
「……その畜生って言うの嫌い」
知るか。それに他の呼び方なんてないだろうが。
「……それで、なに?」
「俺の負け。降参。お前の言うこと聞いてやるから、とりあえず俺の家へ行かない?」
「……うん、わかった」
楽しい宴会から帰ってきたら、自分の家に化物が居たなんて、ルーミアの奴驚くだろうなぁ……
俺は疲れました。もうどうとでもしてください。
「えっ? もう帰っちゃうの?」
悪いなチルノ。また今度遊んでやるからさ。今日は帰らせて。
本当に疲れたんです。
――――――――
「……ここが青の家?」
「正確に言うと、俺とルーミアの家だな」
飛ぶ体力もなく霧の湖から自分の家へ歩いて戻る頃には、すっかり夜になってしまっていた。きっとルーミアは今頃、博麗神社で宴会を楽しんでいる頃だろう。
こんなことになるのなら俺も宴会へ行けば……いや、そんなことをしていたらこの熊畜生が神社へ来て大変なことになっていたか。
「……るーみあ?」
「ああ、俺のお嫁さんだよ。超カワイイんだ」
ルーミアの目の前でそんなことを言ったらぶん殴られるだろうが、今ばかりは言い放題だ。まぁ、例えルーミアがいたとしても言うと思うが。
「それで私はどうすれば良いの?」
帰ってください。
なんて言いたいところだが、口にしたら殺される。しかし、どうしてあの畜生が此処まで可愛くなったのだろうか? 今だって、ちょこんと首を傾げる姿が滅茶苦茶可愛い。この世界では実力と見た目が比例するとかそう言うことか?
「お前の好きにすれば良いんじゃねーの? 別に違う場所へ行っても良いし、この家に住んでも良いし」
俺はお前に負けたんだ。それに逆らえるほどの実力もない。どうせ止められないんだ、もう好きにしてください。
しっかし、俺を殺したいとか一緒にいたいとか、コイツ本当は何がしたいんだろうな?
「……じゃあ私も此処に住む。いい?」
「ああ、勝手にしろ」
ま、時間はあるんだ。
焦る必要など何もない。
「……うん、ありがとう」
そう言って笑った畜生の顔は、憎たらしいほどに可愛かった。
これからどうなるのかねぇ。
クマさんの想いもいつかちゃんと書いてあげないとですね
と、言うことで第12話でした
クマさん強いっぽいです
野生の力は偉大ですね
これからツッコミ役は彼女にやってもらいましょう
そろそろルーミアさん過労死しそうですし
次話からはだらだらと日常編を書く予定
私が満足したら春雪異変でしょうか?
では、次話でお会いしましょう