とある武偵の未元物質   作:victory

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詐欺


第七弾 新たな武偵 後編 II

~垣根side~

 

廃墟内に入り暫くすると、標的はすぐにこちらにやって来た。

こちらに向かって来る二名の生徒・・・つまりは犯罪者役だが、二人との距離はまだ少しある。

一人はバタフライナイフを振りかざしながら、もう一人には何かを手にしている様子はない。

 

・・・アレか?考えなしで突っ込んで来てんのか?

それとも俺を舐めてんのか?

 

「まぁ、どちらにせよ現実的とは言えねぇな・・・」

 

無策に突っ込んで来る二人の頭の出来具合を心配しながら、スタングレネードを投げつける。

スタングレネードが炸裂し、行動不能に陥っている二人に急接近しボディーに強烈な一撃を食らわせる。

 

強烈な一撃を食らった二人の生徒に激痛が走りそ  のまま意識を失った。

 

 

二人の生徒を無力化した垣根に一発の銃弾が放たれる。

垣根は簡単だと言わんばかりに交わすと、銃弾が放たれたであろう場所に向かって走り出す。

 

銃弾を放った狙撃科の生徒は垣根に向かって何度も銃弾を放つが当たる気配はなく、徐々にだが生徒の顔に焦りの色が見えはじめる。

 

そうこうする内に垣根は接近し・・・両者は対峙する。

 

 

「見~つけた」

 

こちらを馬鹿にするような、挑発するような垣根の物言いに思わず怒りで我を忘れ不得手とする接近戦に持ち込む生徒だが、不得手な接近戦技(CQC)は通用する筈もない。

 

「オイオイ・・・怒りで我を忘れたか?短絡的だな」

 

垣根はそう言うと生徒が全力で放った拳をあっさり交わし、放った拳が交わされ身体が前のめりになっている生徒に足払いをかける。

足払いをかけられた生徒は前方に倒れ込むのだが、倒れ込んだ次の瞬間には垣根によって顔面を地に押し付けられる形で後頭部を踏み付けられ意識を手放した。

 

 

 

 

 

「さて、こっからどうしたもんか・・・」

 

自身の足元に転がる狙撃を行った生徒の脇腹を足で突きながら呟く。

 

 

この三下共は都合良くやられに来てくれたが、残りの連中がこいつらみてぇな馬鹿ばかりとは限らねぇ訳だ。

っつーか、強襲科志望の俺としては切実にそう願いたい。

 

強襲ってのは、一発で決めなきゃ意味がねぇ。

この三下共はそれを分かってなかったのか、あるいは分かっちゃいたがテメェの力量と相手の力量を見極められなかったのか・・・どちらにせよ無能の一言に尽きる。

 

さて、もう一度言うがどうしたもんか・・・

残りの連中を一人一人探し回るのもありっちゃありな訳だが、わざわざ時間をかけて探すのも面倒臭ぇ。

 

 

【武偵は疾くあれ。先手必勝を旨とすべし】

武偵憲章5条にそんなのがある。

そして、これは強襲科の試験であり強襲に必要な要素が試されるもんだ。

強襲・・・強襲ってのは攻撃の予告を与える事なく"不意"に襲撃する事だ。

 

"不意の襲撃"

 

そして、蘭豹の奴は不殺以外なら"何をしてもいい"

と言った。

 

"何をしてもいい"

 

ならここは・・・

 

 

「いいぜ、三下共・・・本物の強襲って奴を見せてやるよ」

 

言うと同時に能力を発動させる。

周囲の空気が一変する。

 

舞台は整った。

これから始まるのはまともな武偵が行う強襲とは大きく掛け離れたもの。

垣根帝督による強襲である。

 

そして、余談だが今から垣根が行う強襲は後に伝説として語り継がれる事となるのだが・・・当然、この時の垣根には知るよしもない。

 

 

 

~蘭豹side~

 

さて、第二試験が始まって2~3分が経った。

中にいる忍び込ませている諜報科から情報を収集していると、こちらに一つの足音が近づいてきよった。

足音がする方に目を向けると、平素と変わりなくやる気の無い様子の綴センセがそこにはおった。

 

 

「お~、第二試験始まってるのか」

 

 

「始まったばっかやで」

 

 

「そーか。で、中の様子は?」

 

 

「中に忍び込んでいる諜報科の服部センセからの報告やと垣根は三人を無力化したらしい。容赦ないやり方らしいけどな」

 

諜報科の教師、服部瞬蔵センセ。

名前はなんか古臭いが21歳とウチと年齢はあんま変わらん男。基本ええセンセやけどちょっと癖があるというか、アレやウザい。尋常じゃなくウザい。主に喋り方がウザい奴や。

 

 

 

そのウザい服部センセから聞いた容赦ないやり方はともかく、この短時間で三人を無力化する辺りは大した奴やとは思う。銃火器の扱いといい報告といい戦闘スキルは高そうやな、垣根は。

 

 

「そーか・・・大した奴なんだなぁ垣根は」

 

綴センセの台詞は感嘆したような物だが、相変わらず表情といい声色といいやる気の欠片も感じへんな。

ウチが綴センセのやる気の無さに呆れていると・・・

 

 

廃墟内からありえない音が鳴り響いた。

銃声でも発光音でもない・・・垣根や犯人役の生徒に持たせた武装品からはおおよそ発生しないであろう、

爆発音が鳴り響き・・・そして、廃墟内からは何かが崩れる音が聞こえる。

これらが意味する事・・・それは廃墟が破壊されている、という事だ。

 

 

「おぉ・・・なんだ?」

 

異常な事態やのに驚いている様な台詞を平素と変わらずやる気の無い表情&声色で言う綴センセにイラッときつつも今は状況を掴む為に中にいる服部センセにインカムを使い連絡を取る。

 

 

『服部センセ!!何があったんや!?』

 

 

問うと、返ってきたのは爽やかな声。だが、ウザい!

 

『おぉ!!その声は蘭豹先生じゃないですか!ん~・・・いやぁ、相変わらず素敵なお声だ!ん~』

 

 

『くだらん事言うなアホンダラ!!何があったんか聞いとるんや!!』

 

綴センセにしても服部センセにしても緊張感がないんかいな!

 

『ん~、くだらん事ってツレないですねぇ・・・ん~、受験生君がやりましたよ?ん~』

 

服部センセは淡々と言っているが・・・廃墟の破壊はともかくとして爆発を起こせる武装品なんか誰にも持たせてない!!

 

『センセ・・・垣根が何をしたんか教えてくれんか?』

 

爆発音及び廃墟の破壊・・・一つの推測がある。

だが、確証を得る為に確認しておく。

恐らく、恐らくやけど垣根は・・・

 

 

『ん~、この服部瞬蔵・・・感嘆いたしましたよ!ん~、いやねぇ・・・彼が二、三何かを呟いたと思ったら・・・ん~ドカーンですよ?ドカーン!そして彼は彼で正体不明の爆発と同時に消えちゃいましたし!ん~、もう今週一番のびっくりドッキリですよ!!』

 

 

・・・ん~、が多過ぎるんと頭の悪そうな説明でイマイチ情報が伝わりにくい。

せやけど、その伝わりにくい情報の中からでも分かった事はある。                             

 

やはり垣根は・・・

 

 

超能力(ステルス)使いって所か」

 

一連の話を聞いていたのか、

綴センセはやる気の無い顔をややキリッとさせそう言った。

 

超能力・・・使用出来る人数は少ないが武偵や犯罪者の中にも使用者がいる。超能力を使う武偵を【超偵】と呼ぶ。ウチの学校にも優秀な超偵がいるが・・・垣根もその類とはなぁ。なるほど、絶対的な自信の裏にはそんなもんがあったんか・・・中々面白いやないか!

 

『服部センセ、垣根はなんて呟いたんや?』

 

 

『ん~、それがですねぇ・・・【逆算】だとか【本物の強襲】がどうとか呟いてましたよ?ん~訳が分かりません!服部、気になります!!』

 

相変わらずのテンションの服部センセにイラッときつつ、爆発音が鳴り響き続ける廃墟に目を向ける。

『逆算』はともかく、『本物の強襲』・・・か

本物・・・はっ、こら面白いやないか!

あんたの強襲・・・しかと見届けたる!

 

                                                          

 

 

~廃墟内~

 

 

廃墟内は阿鼻叫喚と化していた。

内部に妙な違和感、悪寒が走ったと同時に壁が・・・床が・・・天井が破壊されていく異常事態に加え、砂埃の先に突如として現れる凶悪な笑みを浮かべる茶髪の男。

 

ある生徒は異常な事態に極度の混乱に陥り意識を失い、ある生徒は崩壊した壁の先から突如として現れた

茶髪の少年、垣根の放つ異質な雰囲気に腰をぬかし戦意を失った所、意識を刈り取られ無力化。またある生徒は果敢に垣根に挑むが異常事態に冷静さを欠き容易く敗れる・・・

 

そうこうする内に残りの生徒は一人になっていた。

そして、その生徒は今垣根と対峙している。

 

「な、なんなんだお前は!?それにこんな崩壊聞いてないぞ!?」

 

生徒は垣根が放つ異質な雰囲気と崩壊が続く廃墟の様子に戸惑いながらも、垣根になんとか銃口を向ける。

 

「なんなんだとは失礼な奴だな。聞いてないだ?当たり前だろ。これは強襲だぜ?クソボケ」

 

垣根は溜息をフッと一息吐くと拳銃を取り出した。

拳銃を取り出した垣根を見て対峙した生徒に緊張が走る。

 

「動揺は隠せてないが、そんな中でも銃口を俺に向けられる辺りテメェは三下の中でもまぁマシだな」

 

垣根はつまらなさそうにそう言うと、ゆっくりとだが生徒に近づいていく。

近づいて来る垣根を見て生徒は銃弾を放つが、恐怖という感情から手は振るえ狙いは定まらない。そして垣根を正確に捉える事は出来ず、無情にもあらぬ方向に銃弾は向かう。

入っていた弾薬を切らし焦りはますます酷くなる。

 

大丈夫だ・・・まだ奴との距離は少しある。

落ち着け!!落ち着け!!落ち着け!!

 

恐怖や戸惑いから手が振るえてしまい中々銃弾は上手く補充出来ず時間は思った以上に掛かってしまう。

チラリと垣根の様子を見た際には・・・既に垣根は生徒の目の前から消えていた。

 

「目の前の敵から目反らすなよ。ド素人か?テメェは」

 

突如背後からする垣根の声。

いつの間にか・・・垣根から意識を離した数瞬の間に垣根は生徒の背後を取っていた。

その事実に生徒は驚嘆したと同時に後頭部をグリップで殴られ気絶した。

 

        残り生徒数0名

 

 

 

~垣根side~

 

『ん~ん~』ってうっせぇ監視野郎がいる前で能力使用は気が引けだが、結果としては正解だったな。

 

能力で三下共の大体の位置を把握した後は・・・未元物質による建物内の崩壊を狙う。

パニックを起こした奴程仕留めやすいもんはねぇ。

移動時には壁を破壊、上層に行く時には天井を破壊し時短で標的の元に向かう。

 

後は・・・冷静さを失った馬鹿を刈り取るだけ。

 

廃墟の破壊を狙い未元物質を使用したが・・・まぁ、三下相手に直接使った訳じゃねぇし、良心的だろ。

 

 

 

どちらにせよ・・・これで蘭豹も文句はねぇ筈だ。

十名を無力化したんだ試験はクリアだ。

クリアなんだろうが・・・気掛かりな事が一つある。    

 

『ん~』の野郎とは違う存在がこの廃墟内にいる。

 

廃墟内に入った直後から感じる奇妙な視線・・・

敵意でも殺意でも無ければ、好意でもない。

ただ単にこちらを見ているだけ、といった視線。

そして、その視線は今も俺に向けられている。

 

武偵か?

だが、この奇妙な視線は人間染みたものじゃない・・・

だったら、一体なんなんだ?

 

正体不明の視線についてアレコレ考えるが、答えは出ない。

 

「最近、分かんねぇ事ばっか増えてんな」

 

首の関節をコキコキ鳴らしながら呟く。

 

ともあれ試験自体は終わった。

正体不明の視線に違和感や疑問を感じつつも外にいる蘭豹の元に行くため、元来た道に引き返す。 

 

増えていく謎に思わず溜息が漏れてしまう。

 

 

そんな時だった。

一つの銃声が廃墟内に鳴り響いたのだ。

 

放たれた銃弾は謎の光を帯ながら、垣根の頬を掠る。

そして、垣根の頬から滴り落ちる一筋の鮮血。

 

間もなくして、一つの声が聞こえてくる。

 

「油断大敵って言葉を知らないのか?受験生。武偵になるのであれば一つの油断が命取りになるぞ?」

 

少し低めのこちらを威圧するような声は垣根にドンドン近づいてくる。

 

間もなくして、スーツにサングラスを着用した20代前後の男性が姿を現した。 

 

続く




というわけで・・・まだ一章は続いちゃいます・・・
5弾辺りから終わる終わる言い続毛ているのに終わらない一章・・・どうしてこうなった・・・

次回の更新は少し空きますが、次回こそ必ず終わります!終わらせます!今回がいわばクライマックスです!

早くキンジやアリアを出したいなと思いつつ次回に向けて頑張りますので応援よろしくお願いします。

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