とある武偵の未元物質   作:victory

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第五弾 新たな武偵 中編

  ~~~東京武偵高・応接室~~~

 

現時刻16:00

 

「垣根・・・確かに私は近いうちに来いとは言ったぞ?言ったな?言ったが・・・」

 

綴はこめかみに手をあてながら言う。

 

前回会った時と同様、煙草のようなものをくわえている。

どうでもいい事なんだが、綴はヘビースモーカーだったりすんのか?いや、っつーかよくよく見て見りゃ煙草みてぇな何かじゃねーのか?アレは・・・明らかに非合法な匂いがぷんぷんしやがる。まぁ、俺にはあまり関係ねぇけどよ。

 

 

「なんつーか、似合わねぇな・・・その仕草。どうでもいいんだけどよ」

 

 

 

「放っといてくれ。あと、どうでもいいなら言わなくていいでしょ」

 

 

 

俺の発言が不満だったのか、ややむくれた顔つきの綴だったが一度溜息を吐くと言葉を続ける。

 

 

 

「じゃなくて、確かに私は近いうちとは言ったが・・・何故今日来るんだ?アレから一日(・・)しか経ってないぞ」

 

 

 

綴は呆れたような口調で相変わらずこめかみに手をあてながら言う。

 

 

確かに綴の言った通りあの話を受けてから一日しか経っちゃいねぇが・・・何か問題あんのか?

 

 

「近いうち、じゃねぇか」

 

俺はおかしな事なんてしちゃいねぇし、言ってもねぇぞ。綴の『近いうちに来い』という言葉通りにしただけだ。この場合悪いのは俺か?否、綴じゃねぇか!

 

 

 

「いくらなんでも近過ぎでしょ・・・」

 

 

 

 

「いいじゃねぇか。『思い立ったが吉日』、『善は急げ』って名言があるのを知らねぇのか?いい言葉だぜ、アレは」

 

 

 

「別に知ってるけど・・・垣根こそ『急がば回れ』という名言がある事を知らないのか?」

 

 

    

「まぁ、そうだな。だが、本当なら朝来ても良かった所をあんたや学校側の事情やらなんやらを配慮した結果、放課後のこの時間まで待って俺はここに来たんだぜ?なら十分急がば回ってもいるはずだ」

 

 

 

   

                        

 

「配慮した結果がこれなのか・・・まだ見知って一日程しか経ってないけど・・・大分、垣根がどんな奴か分かってきたよ、私は」

 

 

「嬉しいお言葉、ありがとよ」

 

 

 

「思ってもない事を言うな・・・全く」 

 

 

ぶつぶつと呟きながら綴は諦めたかのようにフッと溜息を吐くと再び言葉を紡ぎ始める。  

 

 

 

「まぁ・・・近いうちとしか言ってなかったのは私だ。仕方ない、と思う事にするよ。納得はいかないけど・・・昨日別れた後、垣根の事は学校側には伝えてあるし、特例の編入試験も許可が出てるから問題はないよ。」

 

 

 

「そりゃ助かる」

 

 

 

「全科の試験は用意はしてある。分かっているとは思うけど、受験可能な科は一つだけだぞ?」

 

 

「分かってんよ、んな事。しかし、アレだな。全科の試験用意とは随分と気前が良いじゃねぇか」

 

 

 

「まぁ、特に試験内容も考える必要はなかったってのが大きいね。垣根が受ける試験は今年の入試内容と同様のものだからね」

 

 

綴は気のない声で言う。

今更だが、やる気ねぇのなこいつ。

 

 

しかし・・・

 

 

 

「入試、ねぇ」

 

 

入試ってのは学校にもよるが、2月~3月に行われるのが、一般的な訳だ。中には例外もあるんだろうが・・・

そして、今は4月って訳なんだが・・・どうも慣れねぇな。

 

まだ、俺の感覚ではまだ学園都市にいた時のまま・・・10月のままだからな。

 

綴と出会ったり武偵の話をしたりで一旦は脇に置いていたこの違和感、俺とこの世界との時間の齟齬・・・それを含めた元凶や手掛かりを俺としては出来る限り早く掴みたいものだが、武偵になったとしても直ぐにはそれらが見つかると思う程俺もこの件に関しては楽観視しちゃいねぇ。何せ分からねぇ事が多すぎるからな。

 

最もその分からねぇ事を知る為に武偵になろうとしてんだがな。

 

なんにせよ、恐らくこの世界には暫く世話になるんだ。不服だがこの不快な違和感には慣れるしかねぇ。

 

 

そんな事を考えていると、綴は口にくわえていた煙草に似た非合法的な何か(もう煙草じゃねぇ口に出せねぇ非合法なものと俺は判断した。本人に聞く気はねぇ)を灰皿に置くと、さっきまでのやる気のねぇ面はどこにやったのか、綴には似合いもしねぇ真剣な面構えをした上で口を開いた。

 

 

 

「垣根、あんたには幸いな事に多くの選択肢が提示されている。その選択肢の中からどの学部、どの学科を選ぶかであんたの人生は大きく変わる事は分かっているな?」

 

 

 

「あぁ」

 

 

 

「なら、問うぞ垣根。あんたはどの学部、どの学科を志望する?」

 

 

「俺が志望するのは                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                【強襲科(アサルト)】だ」 

 

 

 

 

 

武偵高の資料を目に通した俺が選んだ学科、それが強襲科だ。

 

強襲科ー平たく言えば、名の通り強襲逮捕を習得する学科。危険度全学科の中で断トツらしい。犯罪組織のアジトへの突撃も依頼さえあれば行うとの事だ。

 

そんな強襲科を俺は志望した訳だ。

 

 

 

「なんとなくだけど、あんたは強襲科を志望しそうな気はしてた」

 

綴は表情を変える事なく淡々とした様子で言う。

まぁ、別に驚く様な事は言った覚えもねぇし、過剰な反応されるのもウゼェだけだ。

だが、こいつに『なんとなくそう思ってた』って言われんのはなんかムカつくな・・・

 

 

「少し悩みはしたが、強襲科に決めた」

 

 

「即決じゃなかったのか?」

 

 

「あぁ」

 

 

実際、俺も資料を見て即座に強襲科と決めた訳じゃねぇ。少しばかり・・・具体的には2分~3分程熟考した結果、一番俺に適した(・・)学科だと判断したまでだ。

 

 

「ふ~ん・・・まぁ、いいけど。一応聞いておくけど・・・ちなみに何と悩み、何故強襲科に決めた?強襲科は【明日無き学科】とも言われているぞ?」

 

 

 

「貰った資料に目を通して目についたのは【強襲科】【探偵科(インケスタ)】【超能力者捜査研究科(SSR)】だったな」

 

 

捜査という意味では探偵科にも惹かれたが、よくよく資料を読んで見ると探偵科に来る依頼は・・・アレだった。行方不明者の捜索や未解決事件のプロファイリング等もくるらしいが、大抵は迷子探しだの浮気調査だの・・・挙げ句の果てには猫探しだのなんつーか、他の連中がどう思うかは分からねぇが、俺的にはシケたもんばかりだったな。一応猫探しをしている俺を想像してみたが、驚く程似合わねぇ!シュール過ぎんだろ・・・俺はくそったれの悪党、垣根帝督だぞ!?ってな理由で却下。

いや、マジでねーよ

 

 

超能力者捜査研究科、通称SSRにも惹かれるものはあった。超能力ってのが学園都市から来た・・・いや、学園都市にいたというべきか?ともかく文字通り超能力を持っている俺に適したもんだと思った訳だが・・・よくよく考えてみたら学園都市じゃねぇし、超能力を今更研究するつもりもねぇ。

 

それに学園都市以上のものを期待出来るかも正直怪しい。また、資料には霊地での合宿を行うとも書いてあったのを見て一気に熱が冷めた。科学の街学園都市出身の俺が霊地、いわばオカルト的な場所で合宿?なんだそれ・・・っつーかSSRの連中には悪いが正直胡散臭せぇ・・・SSRが一般的に行う事はサイコメトリーだのダウンジングだのといった超能力者捜査が主だったものらしい。俺の超能力・・・【未元物質】も一応そういった類の事は出来るっちゃ出来るが・・・最も(・・)した活用方法だとは言えねぇ。それ等の要因を踏まえて却下。

 

その点、強襲科は魅力的であり俺に最も適した学科だと言える。強襲科に来る依頼は学科の名の通り強襲逮捕だ。犯罪組織への突撃だのなんだのと色々あるらしい。捜査よりも壊す事に適した俺の未元物質を最大限に活かせる学科と言えんだろ。最も不殺ってのは気に食わねぇが・・・依頼で金を貰って合法的に犯罪者(バカ共)でストレス発散も出来ると考えりゃ文句はねぇ。三下をどうこうするつもりはあまりねぇが・・・強襲科に依頼が来る位の奴なら少しは骨のある奴もいるだろうよ

なんにせよ・・・ここが学園都市であろうとなかろうと、俺は壊す事が本職だ・・・この道は変えるつもりはねぇし、変えられねぇ・・・

 

 

そんな理由で俺は強襲科に決めた訳だが・・・

 

「・・・アレだな、アレがこうしてああなって強襲科に決めた」

 

綴が俺に時折向ける訝しむような視線、思惑を探るような視線を受けた事や正直に理由を言うのはマズイと思った俺はこんなアホみたいな事を言っていた。

 

なんだよ、アレがこうしてああなったって・・・

 

「・・・垣根、何一つ情報が伝わって来ないぞ?」

 

 

 

「色々考えた結果そん中で一番俺に適したのが、強襲科だと思った。・・・そんだけだ」

 

 

「ふ~ん。でもいいの?さっきも言ったけど、明日無き学科だぞ?」

 

 

 

「明日無き学科、ねぇ」

 

 

明日無き学科に関しては資料の強襲科の情報欄にも要注意事項として載ってはいた。

 

なんでも、卒業時の生存率がおよそ97.1%・・・つまりはおよそ3%の生徒が死亡するらしく、強襲科を志望する学生やその家族には自己責任やらなんやらの所謂【念書】を書かせるらしい。つまりは、死ぬかもしれんから気をつけろよって事だ。

それでついた俗称が、明日無き学科って訳だ。

 

だが、そんなもん気にはならねぇ。

暗部時代・・・学園都市にいた頃も生と死との隣り合わせの日常を送ってた訳だ。最も死ぬ気は一切しなかったがな、あん時以外は・・・

むしろ、3%しか死亡しないと考えてみれば生存率は高い方だ。

 

 

「明日無き学科に関しちゃ問題ねぇ。俺に死ぬ予定はねぇし、誰も俺を殺せねぇよ」

 

俺は学園都市だろうが学園島だろうが・・・どこにいようが死ねねぇ・・・少なくとも一方通行の野郎を殺すまではな!

 

「そこまで自信過剰だと逆に清々しいもんだね」

 

綴は苦笑しながらそう言うと、どこかに電話をかけ始めた。

 

 

詳しい事は綴が電話中なので分からねぇが、恐らく一連の話の流れからして強襲科の関係者だろう。試験について話てんのかもな・・・

にしてもアレだな、時折電話先から『殺す!』だの『ぶっ殺す!』だの物騒な声が聞こえるのは気のせいか?気のせいじゃねぇな。世紀末過ぎんだろ武偵高・・・そして強襲科・・・

っつーか誰だか知らんが、うっせぇよ!

 

 

正確な時間は分からねぇが、5分位電話を終えた綴はフッと溜息を吐くと俺を見て口を開く。

 

 

 

「30分後、強襲科特別編入試験を行う」

 

 

こうして俺の武偵への第一歩が始まろうとしていた。

 

 

 

続く




最初はこのお話を後編とし第一章、つまりは新たな武偵編を終える予定だったのですが、急遽中編という形になりました・・・

次話で第一章は終わり、第二章からはキンジやアリアが出てきます。

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