綴の言葉を受けて垣根は腰掛けていたベッドから起き上がると、窓の側まで行きカーテンを勢いよく開ける。
遮る物がなくなった窓の先に見えたのは、ビルが建ち並ぶ外の景色。ビルが建ち並ぶ姿は垣根が暮らしていた学園都市となんら代わり映えのない景色だった。
ビル群までは学園都市と代わり映えしない・・・
だが、その遥か先にうっすらと見える『ある景色』を見て垣根は自身が感じた違和感や綴の言葉が真実である事を理解する。
ここは学園都市ではないのが、事実だと・・・
ビル群の遥か先に見えたものが、学園都市ではありえない物なのだから
学園都市・・・東京西部気位置するあらゆる教育機関や研究組織の集合体である。学生が人口の8割を占めておりら外部より数十年進んだ最先端科学技術が運用されている科学の街だ。また、その進んだ科学技術荷より、人為的な超能力開発が学生全員に実施され、実用化までに至っている。その進んだ科学技術や超能力開発は秘匿性が高い。その為、外周さ高さ5m以上、厚さ3mの『壁』に阻まれ外部とは完全に『隔離』されている。
海に浮かぶようなビル群の遥か先に見えるのは、外部と完全隔離された学園都市に存在しえないもの・・・
【レインボーブリッジ】そして青の景色、【海】。
レインボーブリッジの南に浮かぶ人工浮島、通称【学園島】。学園島では、これらの景色は見慣れたものなのだが、垣根にとっては見慣れない景色であり、微かな希望をも打ち破る残酷な景色に見えた。
オイオイ・・・どうなってんだ!?
気がついたら身体に痛みはあるが傷一つなく生きてるし、俺の記憶と現実の時間に齟齬がある・・・それに加えて学園都市ですらねぇだと・・・!?
どういう事だ・・・オイ!?
明らかに動揺した様子でフラフラとベッドまで戻り座り込む垣根。
「・・・・・・」
「・・・そういう事か」
綴が俺を見て何やら呟いたが、正直どうでもいい。
目が覚めた時は違和感や現実、事実の確認は裏の連中にすれば良いと思ってはいたが、ここが学園都市でないとすれば不可能だ。
「ちっ」
今自分がおかれている状況をいくら考えても答えは出る筈もなく、苛立ちから思わず舌打ちが出てしまう。
「なるほどね・・・思ってたよりは良かったんだけどね・・・」
そんな苛立ちを隠せない俺を見て綴は何やら呟く。
「あ?どうした?」
苛立ちを隠せない為か、やや荒い言葉遣いになってしまうが、仕方ねぇだろ・・・
「いや、私の懸念が外れて良かったと思ってね。でも・・・垣根、あんたの状況は深刻そうだ」
懸念ね・・・綴がこの病室に入ってきた時から訝しむような視線を送ってきたが・・・先程のいくつかの綴の言葉を思い返すと、察っしはついた
「はっ、テメェの懸念ってのはアレか?武偵殺しだの模倣犯って奴に俺が関与してるかもしれねぇ・・・って感じか?」
「まぁ、大体そんなところだね。武偵殺しは捕まったけど、その模倣犯が最近出てきる中で見知らぬ人間が路地裏で『血まみれ』で倒れているんだ。それも『無傷』でね・・・なんらかの事件か武偵殺しの関連の筋で疑うのはおかしな事じゃないでしょ」
綴は俺の返しに驚く事もなく、淡々と語る。
「疑っていた割には妙に馴れ馴れしい口調と露骨な武偵殺しに関する話があったのは?」
「もし模倣犯が意識を取り戻した直後に武偵殺し関連の話をされたら、動揺すると思ってね」
まぁ、するかもしれねぇな・・・
「目が覚めた早々に疑ってかかられるのは気が悪い話だ」
綴を睨む。
綴の言葉尻からして例の武偵、あるいはそれに近い職にあるのだろう。
捜査の一環であれば綴のやっている事はおかしくはねぇ。最も、武偵殺しって奴がなんなのかは知らんが
だが、こっちは目が覚めたら見知らぬ土地で時間のズレな何やらで自分の置かれた状況にパニくってんだ
「悪い事はしてないと思うぞ?」
半ば開き直るような口調の綴。
まぁ、そんな怪しい奴は疑ってかかるのが妥当だわな
「はっ、中々ふてぶてしい奴だな、テメェは」
「で、あんたの様子から懸念はなくなったけど、あんた自身がマズイ状況にあると分かって頭を痛めてるんだよ、私は」
「・・・頭を痛めてるようには見えねぇぞ・・・」
「失礼な事を言うね垣根。あんたは、武偵すら知らなかったり、『ここは学園都市か?』みたいな事を言い出す・・・」
一縷の望みをかけて聞いたんだが、その望みをぶち殺したのテメェだ、綴。
「残念な奴に見えたか?」
「まさか。ただ、残念な結果になったのは事実だけどね・・・」
「あん?」
「記憶喪失とかの類ならどうにか出来たかも知れない。対策は取れた。けど、あんたの様子や口振りはそんな生易しいものじゃなさそうだ」
「それはどういうこった?」
「あんたは・・・まるで違う世界から来たかのような口調、雰囲気、動揺だった」
こいつ・・・ラリった見た目に反して中々の曲者じゃねーか・・・
「その表情・・・どうやら私の予想は間違いなさそうだ」
「・・・これは演技って線は考えねーのか?」
「私はこうみえて武偵高で尋問科の教師もやっている尋問のプロだ。挙動や言動、表情から相手が述べた事が真実か虚言か位見分けられる。
口調や表情からあんたが虚言を吐いてない事は既に分かっている。あんたは珍妙な事を言い出した。今更そんな演技をしても無駄だし、演技してるつもりならあんたは大した大根役者だ、垣根」
尋問科ってなんだよ?
教育機関が教える事じゃねーだろ!?
尋問のプロってなんだよ、大根役者じゃねー
だの突っ込みたいことは色々あるが、このアマ・・・思っていた以上にやり手のようだ。
「何があったか言えるか?」
さて、どうしたもんか・・・
学園都市の事や事実を全て話すのは気が引けるが、現状分からねぇ事だらけだ。
見知った人間がいねぇここで今唯一の情報源となる奴はこいつしかいねぇ・・・幸いこいつは今の俺の現状を少しは把握している・・・と、なると
俺は綴に事情を話す事にした。
話した所でこいつにどうこう出来るとは思わねぇが、今はそれしか打てる手がねぇからな。
俺が科学の街、学園都市にいた事。
一方通行と殺り合った事は伏せ、とある抗争に巻き込まれ、気を失い目が覚めたらここにいたと話す。
俺の話を聞き終えた後の綴は狐につつまれたような表情にはなったものの、俺の話は信じたようだ。
一方、俺は綴から情報を聞き出す。
学園島や俺が学園島で発見された時の事、武偵の事・・・そして、学園都市の存在について・・・
そして、綴から聞き出した話をまとめるとこうなる。
1-ここはレインボーブリッジの南に浮かぶ人工浮島であり、通称【学園島】。学園島は武偵を育成する総合教育機関である。
2-武偵、武装探偵とは凶悪化する犯罪(どの程度凶悪なのかは知らねぇが)に対抗して新設された国際資格。これを取得すると警察に準ずる活動が出来るらしい
3-超能力開発と科学の進んだ街、学園都市は【存在しない】。綴の携帯電話を使い検索をかけても、『教育機関の集合体』やら『●●学園都市』だのといった情報しか出てこねぇ。いくら、俺がいた筈の学園都市が外部とは隔離されているとはいえ、ある程度の・・・出しても差し支えない程度の情報は開示されている筈だ。科学の街、学園都市が検索に全く引っかからねぇ、なんて事は本来ありえねぇ。
4-俺は5日前に学園島のとある路地裏で血まみれで倒れていたらしい。無傷だったそうだ。それを【トーヤマ】って奴て【ミネ】って奴が発見し武偵高や医療機関に連絡わや入れたらしい。たまたま連絡に出たのが、綴だったそうだ。
5-綴は東京武偵高で教師をやっているらしい。尋問科らしい。また、武偵高は世界各地にあるらしく日本にもいくつかあるらしい。
6-今日が2009年4月8日である事に間違いはない
「・・・・・・」
言葉が出てこねぇってのはこういう事を言うんだな。
ある程度の覚悟はしていたが、これはキツいぞ・・・
学園都市が存在しない事が絶望的だ。
学園都市が存在してりゃ、まだ打開策は考えられたかもしれねぇが、分からねぇ事の方が多い現状で頼みの綱が無くなってしまうなんてよ・・・
「・・・・・・」
綴は綴で俺をジッと見つめ何やら考え込んでいやがる。まぁ、奴の事情も分かるっちゃ分かるがな・・・
武偵殺しとやらの模倣犯に関連する人物と疑ってた奴が、『存在しない場所から来ました』なんて宣ってよだ、そうなるわな・・・
だが、実際どうする?
今の俺に出来る事なんざほぼ皆無だ。
見知らぬ土地で見知らぬ人間ばかり・・・知らない事ばかりなのが、今の俺の現状だ。
学園都市じよら大抵の事はどうにかしてきた、捩じ伏せてきたが・・・ここで俺に何が出来る!?
そもそもの元凶を知ろうにも知る為の手段がねぇ!?
どうする!? どうする!? どうする!?
焦燥感や絶望に駆られていると、先程まで黙り込んでいた綴が口を開いた。
「垣根・・・」
「あ!?」
どうしようもない現実から出る苛立ちを隠せず荒い言葉遣いになるが、知ったこっちゃねぇ!
「今から言うのは決定的な打開策とは言えないぞ?だが、今のあんたが元凶を知る、学園都市とやらに戻る方法を知るにはこれしか手がなさそうだから言うぞ。いわばあんたが打てる最善の手だ」
「勿体ぶってねーで話せ」
要件を中々述べず御託を並べる綴に苛立ち、その最善の手とやらを話せと綴に促す。
俺の言葉を聞いた綴は俺を真っすぐな目で見つめると最善の手とやらを言う。
「あんたが今打てる唯一の手、最善の手は・・・武偵になる事」
・・・・・・このアマ、何言ってやがる・・・?
続く