「病室で騒ぐとか暴れるとかあんた、馬鹿なの?常識がないの?どっちなの?」
ノックの返事も聞かずに扉を開け中に入ってきた女性はそう言った。
垣根は入ってきた女性を一瞥する。
誰だ・・・こいつ?
女性なのは間違いないが、女性らしさはあまり感じられない・・・言葉は悪くなるが、どこかラリったような雰囲気が漂っている。また、この場に不釣り合いというか、こういう場ではまず見かける事がないであろう、煙草のような物を口にくわえている。
少なくとも垣根が見知った人間ではない。
だが、どれくらいの事を知っているかは分からないがこいつは俺を知っているような口振りだ。
「・・・・・・」
さて、どうしたもんかと垣根は考える。
少なくとも裏側の人間ではねぇな・・・
俺を含めた裏側の人間独特の雰囲気はしねぇ・・・
表側の人間だろうが、俺を少しは知っているみてぇだ・・・全てを探り出す必要はないが、こいつから何かしらの情報は掴めるか?
「病室で暴れるとか常識がないの?」
「待て待て!?病室で煙草(?)くわえてるテメェに常識どうこう言われたかねぇ!?」
「何言ってんの?くわえているだけで火はつけてないから問題はないはずだけど・・・大丈夫?」
このアマ・・・今の大丈夫ってのはアレか?
頭大丈夫って意味か!?ムカついた!
「まぁ、そんだけ口聞けるようなら大丈夫そうだね」
その女性はそう呟くと椅子に腰掛ける。
垣根は椅子に腰掛けた失礼な女性とどうしたもんかと考えるが、今はとにかく情報が欲しいとの結論に至り
女性に合わすようにベッドに腰掛け女性と対面する。
「あんた・・・俺の事知ってんのか?」
「いや、詳しくは知らないけど?あんたの名前が垣根帝督ってくらいしか知らない。あと目上の人間に向かってあんたとは口の聞き方がなってないぞ」
「いやいや、あんたの名前知らねぇから仕方ねぇだろ!?」
「あぁ、そうだったね・・・私は綴、綴梅子だ」
「そうかい、綴さんよ。何故俺の名前を知ってたんだ?」
「あんたが唯一身につけていた持ち物、財布の中にあった学生証を勝手ながら見させてもらったからね」
「・・・ほぅ」
学生証ねぇ・・・そういや、そんなもん入れてたっけな・・・学籍だけ入れてあり通いもしない学園都市でもトップクラスの高校、【長点上機学園】の学生証。
ロクな情報が記載されている訳でもねぇ。
記載されているのは、俺の名前と顔写真、高校名や学区名と記号で記載された所在地だけの簡易な学生証。
綴の口振りからすると、こいつは第一発見者あるいはその関係者、または医療機関の人間か何かか?
っつーか・・・俺が唯一身につけていた持ち物ってこいつが言ったって事は携帯はないって事じゃねーか・・・
ちっ、携帯さえありゃ【
やや平静さを取り戻した俺がこの女から聞きだすべき情報を整理していると
「しかし・・・長点上機・・・垣根帝督ねぇ」
綴はそう呟くと何か訝しむような目でジッと俺を見てくる。
マズッたか?いや、高校名や名前だけじゃ何も裏の情報は掴めねぇ筈だ。だが、この女の訝しむような目はなんだ?
「どーした?」
やや生じた動揺を隠しなるべく平静を装い綴に問い掛ける。
「いや・・・何も。身体は大丈夫なの?」
「あ、あぁ・・・身体は問題なく動く」
「そ。何があったか覚えてる?」
「いや・・・気がついたらこの病室だったからな。正直、今一分かっちゃいねぇな」
覚えているような覚えてないようなそんな感覚だが、正直に『一方通行と殺りあったところまでは覚えている』と言えば、こいつは身構えるだろうし、情報を聞き出せなくなると判断し、曖昧に答える。
最も嘘は言っていないがな。
今一分かっていないの事実だからな・・・
というよりも正直、こいつから聞きたかったのはそれ
等の情報だ。
「ふーん・・・まぁ、最近は【武偵殺し】やらその模倣犯やらもあるしね。そんな中で路地裏で倒れているあんたが発見されたときて、少し気になってね」
「そうか」
そうかと流したものの・・・よく分からねぇ。
【ぶてーごろし】ってなんだ?
言葉から察するに【ぶてー】と【殺し】なんだろうが、【ぶてー】なんて言葉聞いた事がねぇ。
路地裏で倒れていたのは、一方通行と殺りあったのも似たような場所だ、今は気に泊める必要はねぇ!
いつからこの病室にいるかだとかも気にはなるが・・・
今は聞き覚えのない【ぶてー】という言葉が気になる。
聞き覚えのない言葉に戸惑っている垣根を知ってか知らずか、マイペースに綴は言葉を続ける。
「今朝も【武偵高】の生徒が【武偵殺し】の模倣犯らしき奴に狙われたらしいし。もしかしたら、あんた・・・垣根も巻き込れたかなにかだと思ったんだけど」
待て待て・・・【ぶてーごろし】やら【ぶてーこう】?
さっきから聞き覚えのない単語がホイホイ出てきやがる。どうなってんだ!?
「待て待て、【ぶてー】だの【ぶてーごろし】だの【ぶてーこう】だのなんなんだらそれは!?」
綴にそう問い掛ける。
俺はガキの頃から・・・記憶の中じゃ10年以上前から学園都市にいるが、【ぶてー】だの【ぶてーこう】だの聞いた事がねぇ。にも関わらず、この女・・・綴はさも当たり前のように使っている。
先程から・・・目が覚めた時から感じていた違和感が殊更強まってくる。
綴にそう問い掛けると、先程まで訝しむような・・・何かを探るような目を止め、どこか呆気に取られたような表情に変わりやがった。
なんなんだ?
「その目・・・挙動・・・反応・・・そうか、あんたは無関係か」
「あ?」
「いや・・・何でもないよ。武偵っていうのは・・・【武装探偵】の事だけど・・・本当に大丈夫なの?顔色悪くなってるぞ?」
【武装探偵】・・・略して【武偵】
なるほど・・・言葉の意味はなんとなくだが、分かったが・・・やはり聞き覚えがねぇ・・・
そもそも学園都市に探偵なんていんのか?
いねぇだろ・・・【
能力による周囲の状況の確認時に感じた妙な違和感、嫌な予感が確信めいたものに変わってくる。
少し前から出始めた冷や汗が止まらなくなってきやがった。綴の言う通り、俺の顔色は本当に悪いのだろう。鏡がないので顔色等分かりゃしねぇが・・・寒気と吐き気がし始めた今の俺の精神状態を考えりゃそういう事なんだろうよ・・・
だが・・・僅かばかりの・・・一縷の望みをかけて綴に女は問い掛ける。
「綴・・・一つ確認だ。ここは・・・学園都市でいいんだよな・・・?」
今まで抱いていた疑問・・・
一方通行に敗れた筈の俺が何故無事でいられたのか・・・無傷でいたのか・・・俺の記憶と現実の時間に齟齬がある事等はこの際構わないが・・・この嫌な予感・・・違和感だけは勘違いであってくれ・・・確信めいたのも俺の思い過ごしであってくれ・・・
柄にもなく縋るような思いで綴に問い掛ける。
「学園都市って・・・何言ってんの?垣根・・・ここは人工浮島・・・【学園島】でしょ?」
そんな俺の思いと現実は酷く掛け離れ、返ってきた言葉は残酷で非情なものだった。
学園都市じゃない、だと・・・!?
続く
特に深い意味はないのですが、垣根は長点上機に籍を入れてた設定です・・・
原作では垣根の高校について記載がないので・・・