【主人公】戦場起動【喋らない】   作:アルファるふぁ/保利滝良

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随分とお久しぶりな感じがします、いろんな意味で



【白銀】

 

「ぅうう~!さっぶ!」

狭い鋼鉄のコクピットの中で、シェリーはそう呟いた 機体のカメラが映し出すモニター映像に、延々と広がる白い大地があるここは世界最大面積の北国、ロシア だだっ広い土地と極寒の気温が特徴の国だ

そして現在、ドラグ小隊が所属するユーロユニオンと戦争をしている国でもある その物量や強さは、歯が立たないほどではないが厄介だった

だが、ロシアは地理上ヨーロッパの目前だ

防衛が面倒な広い国土もあって、侵攻された首都モスクワは既に陥落 ゆっくりとユーロユニオンに侵食されている

「初戦場がこんなんだなんて・・・兵隊ってやっぱりキツいわ・・・」

今文句を言っているシェリー・フォード曹長も、そのロシア侵攻に参加している だが、銀世界の土地では進んでいるのか戻っているのかハッキリとしない

暖房がある足下は快適だが、温風は上半身にまで届かない コクピットエアコンの故障ではなく、北国の寒気がそれを阻んでいるのだ これでいざというとき上手く操縦悍を動かせるか、シェリーは心配になった

数十メートル先を進む仲間を見やる 二人とも軽快な足取りで進んでいた

 

 

 

 

 

灰色と白に塗られたHMMASの部隊が、頭部を巡らせながら歩いている ドラグ小隊だ

設立から間もないので、彼らは現在簡単な偵察任務からやらされている

最前方にドラグ8、その後ろにドラグ6、さらにその後ろに装甲指揮車、そして一番後ろにドラグ7

人型機動兵器にはそれぞれのパイロットが、装甲車に指揮官のサクラと運転手が乗っている サクラ少尉が同行しているのは、レーダー官とオペレーターとして働くためだ 小規模な偵察には本来そんなものは必要ないが、何もせずにほっぽりだして全滅するよりはと本人が希望した

「ドラグ6」

鋼鉄の箱、一人の男が上司からの通信を受けた パイロットスーツのフルフェイスヘルメットからは、表情が見えない

「わかっているとは思うが、お前はドラグ7とドラグ8の援護を最優先としろ 二人とも未熟だ、早々に死ぬ可能性もある」

サクラ少尉はそう言ってため息をついた

そんなふうに忠告しているドラグ6だって、この間までは新兵だったのだ いや、今もその範疇かもしれない

「お前の機体ならどちらのサポートもできるだろう、頼んだぞ・・・なんだ?この反応・・・」

サクラの凛とした声に焦りが混じった 明らかに困惑し、動揺している

台詞から、レーダーか何かに予期せぬ何かを見付けたらしい

辺り一面戦場というこの場合は、答えは一つしかないだろう

「全機傾注!十一時方向、十キロメートル地点に敵HMMAS確認、数は不明!」

レバーを握り直し、フットペダルを踏む ドラグ6がバージニアのモニタを見た なにも見えない

今度はレーダーを確認する HMMASの低スペックなものでは、まだ見えない

いや、流石に十キロ先の敵機は低スペックのレーダーでも確認できるはずだ だが、コクピットにあるレーダーでは敵の存在を知ることができない

「レーダー障害か!各員陣形を崩すな、気を付けろ!」

「了解!」

「了解しました!」

通信機から仲間の声が聞こえる 緊張と高揚の入り交じった声だ 同時に、死と隣合わせだという状況ゆえの緊張感も感じられた

レバー先端のボタンを操作し、両手のライフルのセーフティを外す これで引き金は引けるようになった

あとは狙いを定めるだけだ

 

「見えました、数は十!ロシア軍の機体です!」

シェリーの報告が聞こえる

敵の数はドラグ小隊の三倍以上 囲まれたら終わりだ

一気に数を減らさなくてはならない

「じ、十機も!?」

「ドラグ8、ビビってる暇は無いわよ!」

「くっ・・・自分が先行します!」

エリックのスターライトが脚部のホバークラフトを起動させ、陸地からわずかに浮遊する 雪に足を取られたままではHMMAS特有の陸上機動力が活かせない

だがホバーを使って長時間は戦えない 手早く片付けなくてはならない もっとも、こちらが片付けられる可能性も高いのだが

ドラグ6もコクピットの機器を操作する 背中のブースターに火が灯る

ドラグ8がブースターとホバークラフトを併用して高速で直進する 敵もドラグ小隊の存在に気付いたのか、いくつもの砲弾が三機に向かって飛んでくる

ドラグ6はドラグ8の機体の上を距離を離して飛行していた そちらにもミサイルやらが突っ込んでくる

ブースターの噴射口の向きを変える 強引な軌道変更でGがパイロットを襲う 決して軽くない圧力

右側を通りすぎるミサイル 装甲を掠める弾丸 見えてくる、敵機

その敵機の胸部へ、一つの物体が突き刺さった 矢のように見えたそれは、ドラグ7が撃ったスナイパーライフル

人型機動兵器サイズの巨大な銃を持っていた敵は、胸に大穴を開けて仰向けに転んだ 確殺したかはわからない だが、あの敵はもう戦闘不能だろう

バージニアが両手のライフルを二発ずつ連続で放つ 計四つのマズルフラッシュと共に飛び出した特殊弾丸は、ブースター移動をするロシア部隊には当たらない

眼下でドラグ8がサブマシンガンを乱射しているが、やはり高速移動するロシア機にはかする程度だった

敵機の反撃がスターライトに命中した エリックの機体だ やや離れた位置からの散弾銃

命中時の反動で転倒しなかったのは僥倖としか言いようがない

だがバランスを崩したことは事実だ 敵方のスナイパーの狙いがエリックへ向かう

角張ったデザインのロシア機が、細長い銃をスターライトに突き出した 引かれるトリガー マズルフラッシュ

弾丸はコクピットには至らなかった 左腕のシールドが、エリックを守ったのだ

スターライトがサブマシンガンを撃つ その弾幕に焦ったか、ロシアのHMMASが散開した

その内の一機の頭が吹き飛んだ 同時にシェリーが別の機体をロックオンする だが、高速で動く敵相手に照準が定まりきらない

こちらがプロなら向こうもプロだ ドラグ小隊は攻めあぐねていた

「ドラグ8は囮になれ!ドラグ6は敵の動きを抑えろ!」

サクラ少尉が無線機に吠えた

「ドラグ7、仕留めろ!」

 

 

 

 

 

頭上のバージニアがライフルを乱れ撃ちし始めた それに倣い、サブマシンガンのトリガーを目一杯押し続ける

ロシアの寒い空気をコクピット越しに感じながら、エリックは汗をかいていた 一瞬の油断が命取りだから、冷や汗が止まらない

そしてそれを拭う暇もない 自機を右に左に動かしながら弾を避けなければ、待つのは落命のみだ どこから来るかも、いつ来るかもわからない戦場で、エリックは目を血走らせていた

「マシンガンが当たらない!」

延々とトリガーを引き続ける人指し指が、だんだんと疲労に固まる フルオートで数えきれないほど撃ちまくった弾丸は、掠りこそすれども直撃はない

だが牽制にはなっている 正面に形成した弾の壁は、敵に下手な回避を許さなかった

ロシアのHMMASがサブマシンガンの回避に集中すれば、ドラグ6のライフルが敵を貫き、ドラグ7がトドメを刺す

敵の数は七機にまで減っていた そしてドラグ7の狙撃が敵をまたも撃ち抜く これで残り六機

その時、エリックが引くトリガーに違和感が生じた 操縦悍のボタンを何度引いても、スターライトが握るサブマシンガンが火を吹かない

「ぐっ・・・弾切れッ!? チクショ、このタイミングでか!」

視界の上側で白煙の糸を引いて飛行物体が飛んでいく 対地ミサイルの小雨に敵が逃げ惑う隙をついて、エリックはデッドウェイトになった銃を捨てる 他の射撃武器はない ならばどうする

逃げるしかない

それを通信機に伝えようとした だが、頭上で爆発が起きた

隊長機ドラグ6が被弾したのだ 右腕の欠片がエリックの機体に落ちる

攻勢を止めれば全滅だ

エリックが弾を切らし、弾幕が切れたせいで、敵の動きが阻害されなくなった

反撃が一層強くなる

視界の端を次々と鋼鉄の流星が駆け抜け、時折それが自分に向かって飛んでくる ブースターを限界まで噴射させながら避けると、今度は別の方向から来る

被弾して隙を見せればさらに弾を叩き込まれる まさにジリ貧といったところか

ふと見れば、シェリーとサクラのいる後方へも砲弾やら何やらが飛んでいっている

だが、どう焦ってもエリックには武器がない 遠くの敵に決定打になる武器が、ない

そう、遠くの敵の話だ

「俺の得意なのは、こんなチマチマしたガンバトルか・・・違う!俺が本当に得意なのは!」

ホバークラフトの出力を上げ、ブースターを限界以上に吹かす その瞬間、ドラグ8のスターライトが矢のように素早く飛んだ

ミシミシと鳴っているのは、機体か、自分か わからないがただ一つ、アドレナリンが脳を染めているのは認識できた

銃をこちらに向けている一機に飛び込む このままでは撃ち殺されるだろう

ロシアの機体が砲弾を撃ってきた

だが、僅かに機体位置をずらして、避ける すぐそばを通り抜けた弾頭は空気をビリビリと揺らしていた

一発を越えた先は、敵の懐

「こなくそぉおおおおおおおッ!!」

左ストレートが敵を打つ 左手に付けたシールドが敵に食い込む そして、シールドに内蔵したパイルバンカーが敵を貫く

綺麗にコクピットに刺さった 即時引き抜く

杭の先端には目を向けないようにした

やられた味方ごと打ちのめそうと、ミサイルが複数飛んできた いくつかは避けられるだろう だが、一発は当たる

それがどうした

「ぐぅうあうううおおおおおおおお!」

鋼鉄の死体の後ろに引っ込む 飛び込んだミサイルはいくつかロシア機を粉砕した

そして、そのうちの一発が、スターライトの右腕を捉えた

コクピットの中で激しくシェイクされる 痛みが体を襲う

アラートが鼓膜を叩く 生きている

混乱しそうになる思考を冷やした 浮き足立った敵がコクピットディスプレイ越しに見える

視線と銃口を一身に向けられる このままでは蜂の巣だ

だが、エリックは一人で戦っているのではない

一機のHMMASが頭を砕かれ、直後にコクピットを砕かれた 別の一機は胸部に一発だけ貰ってダウンした

雪の上に屑鉄となった者共が寝転がる

残り三機

手近な奴を見計らう エリックはもう一度、無茶な操縦をした アーチを描くように地上を駆け抜ける

敵はそこへマシンガンを撃ってきた 下手くそな弾道だ 緩いカーブで回避する

脇腹が目の前だ スターライトが左腕を引く

アッパーカットが胸部に決まった 吐き出された杭が特殊合金を食い破る

残り二機

エリック機へ、別のロシア機がミサイルランチャーを向ける ロックオンされた だがミサイルは撃たれない

頼れる同僚のスナイパーライフルが、その敵の胴体を撃ち抜いたからだ

残り一機

あまりにも早い全滅に硬直する最後の一機 そこへ、二発の弾丸が飛び込んだ

一発目は装甲を貫通し、二発目は表面で爆発 銃創へ爆炎が雪崩れ込む 高熱に内部機器を焼かれ、ロシアのHMMASは崩れ落ちた

「・・・終わった」

最後の敵が倒されたのを確認し、数秒の静寂が来た エリックは周りを見渡した

鋼鉄の屍が、白い雪原に倒れていた そのどれもが文字通り死んでいて、動かなかった

そこに味方はいない

「終わった・・・!」

エリックはガッツポーズした 笑みが綻び、呼吸が乱れる 勝利の味に酔いしれる

地面に着地したバージニア 後方のドラグ7 サクラ少尉の装甲車

どれも中の人間は無事だ これほど綺麗な勝利があるだろうか

「敵全滅を確認 直ちに基地へ帰投する 全速でだ」

「了解です!」

「了解!」

サクラ・ラークロスタの声が聞こえる 通信機だ

誉め言葉か、労いか、はたまた唐突な格闘戦実行に対する叱咤か エリックはそれが続くと思った

だが違った

「今の奴らは斥候だ 本命が来るぞ」

シェリーが息を呑み、エリックが目を見開いた

この戦闘が、予兆である その可能性を見逃すほど、新米二人は経験不足だった

ドラグ6のバージニアが、雪の上に佇んでいた

 


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