【主人公】戦場起動【喋らない】   作:アルファるふぁ/保利滝良

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マジで長くなってしまった・・・
お待たせしました!
今回は、竜ちゃん頑張ってます!



【閃光】

 

機械に囲まれた狭く複雑な空間 コックピットの中で、ナイト小隊は各々佇んでいた

あるものは浮かれ、あるものは油断せぬよう気を引き締め、あるものは呆気なさに驚き、あるものはレーダーを覗き込み、あるものは小隊各機の様子を見た

「よぉし、これなら・・・行ける!」

隊員の一人が興奮を押さえきれず、束の間の勝利を口にした

「カーペンター軍曹、落ち着け 私語は禁物だと教わったろう」

しかしナイト小隊の隊長は、それを軽く諭した

「軍曹の気持ちはわからないでもない 数も質も此方が僅かに上とはいえ、我々は無傷で敵部隊を撃破してみせた・・・しかし、戦いはまだ終わっておらずましてやここは戦場だ、喜ぶのはまだ早いぞ」

落ち着いた、それでいて優しい声音でジョンはそう言った

カーペンターはそれに対して赤面してしまう 自分の軽率な行動を深く恥じたのだろう

「も、申しわけありませんでした、隊長」

「気持ちはわからないでもないと言った むしろ、その勢いでここから先も頼む」

そう言うと、ジョンは自分のHMMASのカメラアイを動かした 頭部が動くのに連動して、コックピット内部のモニターの景色もずれるように変わっていく

拡大をして、森の隙間を覗く

敵の拠点と思わしき建造物群が、モニターに写った

「さて、再現率17%の偽物でどこまでできるか、だが・・・」

通信機に拾えない声で、ジョン・ジャックマン隊長は皮肉をこぼす

あるいは、それは彼の脳内の台詞だったのかもしれない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

油と鋼鉄とその他諸々の物体の臭いが入り交じる約3~400平方メートル程度の建物 機械の稼働音と怒号と指示する大声と外からの銃声がそこには蔓延していた

最悪な香りと耳をつんざく騒音の中で、一機のHMMASがあった

ユーロユニオンが共通で運用する、H08-F・スターライト

この一機は前線基地の整備ドックにて、只今戦闘準備の途中である だがその準備は凄まじいものだった

この一機は何故か不思議な形の銃らしきものを持っている 更にこの一機は何故か腕の銃と連結された、所々コードや中身がはみ出てるような何かを背中にくっ付けている

その銃は、ビームガン 名前の通り光線を放つ前代未聞の武装だ

そしてそれに繋がっている機器は、冷却装置や制御装置、ジェネレータなどをまとめて収めたビームガンの付属品だ

とどのつまりこのスターライトは、ビームガンを使うためだけにとんでもないゴテゴテ仕様となっているという訳である

ジェネレータやらエネルギータンクやらの弾が当たったら危険なところが殆ど剥き出しなのはこのビームガンが試作品だからだ

そんな試作品を引っ張り出さなければ、ドラグ分隊を壊滅までに追い込んだあの部隊は恐らく倒せない それほどまでにあのHMMAS部隊は強い

少なくとも、ドラグ分隊の最後の生き残りである新人隊員には、彼らを倒すのは不可能とすら言える

そのパイロットは狭い空間で機器のチェックをしていた 少しでも何かしらの故障があれば、それは彼自身の死に直結する

だから念入りにやっていた

「ドラグ6、聞こえるか」

通信機から、上司の美しい声が聞こえた

「この整備ドックから北西へ約一キロ離れた地点にて、そのビームガンで敵HMMASを狙撃しろ 他の仲間からの連絡は・・・途絶えた、実質お前一人の任務だ」

愚かな事だと、サクラは一瞬思った 不可能に決まっている 自分がもっと上手くやっていれば、この新人だけでなく散ったドラグ分隊の四人も救えたかもしれないのに

だが、それでも、彼にはやってもらわなければならないのだ 引いて欲しいのだ、その引き慣れないトリガーを

さもなければ、死に飲み込まれるのみ

「恐れるな、勇気を持て、私が付いている・・・ドラグ6、出撃!」

己と部下の双方を叱咤するように、サクラは告げた

それに応えるように、スターライトが一歩を踏み出す 機械の作動音と装甲が僅かに擦れる音が一緒になって響き渡った

ゆっくりと歩むドラグ6 やがてその乗機に陽の光が差す

整備ドックから出たスターライトは、向いている方向を変え、ブースターを起動した

数十トンの全備重量を飛ばすために、ブースターノズルから光と炎が溢れだした

空中へ飛ぶスターライトを、整備班が見守っていた

「機体の準備がもう少し早かったら、アイツは今頃死んでたのか?」

そのうち一人の独り言には、誰も答えなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全機移動を再開、基地を一気に攻略する!」

「了解」

「了解!」

「りょーかいっ」

「了解です!」

ジョンの呼び掛けに部下達が応えると、死神の群れは歩き出した

否、死神のなどという高尚な物ですらない

ナイト小隊が駆るのは新型HMMASヒュプノスだ

端から見れば最強の人型機動兵器と変わらぬ見た目だが、その性能は本物よりも遥かに低い

しかしユーロユニオンの最高性能機体スターライトよりも高いポテンシャルはあり、外見によるハッタリも強力 兵器としての面子は保たれている

それに乗るパイロットの士気もまた、保たれている

「Y陣形だ カーペンターが左前で前衛へ、右前に私、グレン、シャックスは間に来い ファーストは殿と援護射撃を頼む」

ジョンが早口で指示を出した

「ヘマしないでよシャックス!」

「しねえよ!また私語かカーペンター」

各機はその指示通り、迅速に互いの位置を変える 陣形を変えたナイト小隊が、やはり迅速に移動を再開する

彼等は今、森の中にいた この森を突破すれば敵部隊の基地を抑えられる

そうすればこの戦闘、勝利も同然だ

「ム・・・!12時方向、レーダーに敵影だ 用心しろ」

だが興奮に身を任せることなど自殺行為だ 冷静にならなければ、敵に殺される

ジョンの一言に最初に反応したのはカーペンター軍曹だった ヒュプノスに持たせたガトリングを前方へ素早く向けた

 

それが彼女の最期の行動となる

 

一筋の光がガトリングごとヒュプノスを貫くと、装甲は一瞬にして溶けてしまった 装甲に覆われたコックピットさえも

「クッ!散開!」

「軍曹!?」

「カーペンターが・・・」

前方へ倒れ込む黒いHMMAS ジョンはそれを見ぬ内にその場から離れた

ブースターが光を放った 乗用車では絶対に追い付けない早さで地上を滑るように移動する

「私が狙撃を」

「ああ、頼んだ!」

ファーストと呼ばれた女性パイロットの進言を、隊長はすぐに受諾する カウンタースナイプで一気に勝負をつける算段だ

「隊長、敵が移動する可能性は」

「まだ動いていない レーダー情報だが・・・」

冷静に言い、光線が飛んできた方向を睨む 敵パイロットの狙撃の腕が低いのか、別の理由があるのか、次弾は飛んでこない

「グレン、シャックス、散開したまま突撃し敵HMMASを叩く!行くぞ!」

「「了解」」

そして敵は単機だ 包囲して一気に畳み掛ければ撃破できる

別々の方向にいる仲間たちがブースターで移動するのがレーダーに写る ジョンも、ブースターの出力を上げる

先程は不覚を取ったが、絶対に撃破してみせる ジョンはそう断じた

「カーペンター軍曹の仇だ・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵部隊、散開したまま高速接近!」

ラークロスタがそういうや否や、スターライトは冷却の終わったビームガンを構えた 森の木々にシルエットが隠れているものの、敵部隊の姿は視認できるまでに近づいている

この距離の時点で、タナトスならスターライトを粉砕できている あの人型機動兵器はそんな化物だ

逆に言えば、今対峙しているのは偽物の可能性が高い それならば確実に勝てると言うわけではないが、希望は出てきた

「狙わせるなっ!」

ラークロスタが叫ぶのと同時、ドラグ6はトリガーを引いた

既に二機目の目標は、木々の間から捉えていた

ビームが迸り超高熱の光の矢が森へ伸びる スターライトのスコープは、タナトスモドキの持つ長い筒型の武器が溶断されたのを捉えた

さて、冷却時間を稼ぐとしよう

「よし、スモークトラップを作動させる!ポイントを変えろ!」

スターライトは両足を素早く動かして走り出す ブースターと比べればのろい移動方法だが、目立たないため今回はこれでいい

ドラグ6がいる地点とは真逆の位置から、白い煙が出された 出来立てスモークはゆっくりと空へ登っていく

「11時方向!」

不気味なドラムロールが鳴り響き、マシンガンの弾がスモークへと飛んでいく

スターライト自身がスモークを炊いたと誤認したようだ

「てぇッ!」

瞬時に位置把握を終えたスターライトは、再びビームガンを発射する

光線は射線上の木々を根こそぎ焼き、死神の偽物の腰部を貫通した その機体の上半身と下半身は別れてしまった

「今だ!速効冷却を!」

金属的な鈍い音と、肉が焼けるような音が重なった それはビームガンから出たものだ

冷却スピードを無理矢理上げる機構を作動させたのだ

一回しか使えないのが玉に瑕の代物だが贅沢は行ってられない 敵はビームガンの弱点たる冷却タイムを狙うだろうが、そうは問屋が卸さない

このまま畳み掛ける

「3・・・2・・・1・・・今だ、そいつをやれッ!!」

一機の黒い影が森からスターライトの正面へ躍り出た

 

 

 

 

 

 

 

「ぐわあああああ!?」

「・・・!」

ジョンは真っ二つになるグレン機から視線を引き剥がした スターライトがスモークを射出したと考えたグレンは、勝負を決めるために独断で攻撃をしかけ、返り討ちにあった

位置がバレたのだ

その前に撃たれたアリス・ファーストのヒュプノスはロングキャノンを失うだけで済んだが、戦闘続行は不可能だ

アリスに退けと一言言った矢先に、グレン機がやられた

そして、シャックス機が今、台詞を吐きながら森を抜けようとした

「皆の仇が!ぶっ殺し」

待ち構えていたのは、出迎えたのは、奇妙な形の銃口だった

閃光が一瞬でシャックスをコクピット諸共蒸発させる ヒュプノスの背中から抜けたビームがシャックスが薙ぎ払った木々を焚き火に変えた

怒りで我を忘れ、敵が移動する可能性を無視してしまったのだろう さっき死んだカーペンターの言う通りだ、シャックスはヘマをした

屍になってしまった部下とは別地点から、ジョン機が森を抜ける

小規模な軍事基地を視界に写したが、刹那に満たぬ速さで視線を移した シャックスの亡骸となったヒュプノスの残骸からも目を離した

 

そこにはスターライトが一機

そいつはこちらを見ていた

 

(ドラゴンのエンブレム・・・!?)

ガトリングを撃つ 稲妻が幾度も走ったようなサウンドが耳を叩く

そして回転するいくつもの銃口から出た弾も、敵を叩いた

敵機体がブースターで高速で移動する ガトリングの弾幕から逃れたスターライトに、ジョンはバズーカを向けた

放たれた一発はビームガンに直撃した 砕かれた銃身と爆風に吹っ飛ばされ、スターライトが地を転がる 堅い地面と堅い金属が擦れ合い、不快な音をたてていた

だがスターライトは、宙へ登る ブースターで空へ向かったのだ

壊れたビームガンのグリップと背中のユニットを同時にパージ 空から投げ棄てるように落ちていく

「逃がすか!」

追撃するために、ジョンもブースターを点火した 爆炎を噴射して、背中のユニットから推進力が生まれる 鉄の塊であるヒュプノスにスピードを与える

「キサマが部下をッ!!」

吠えるような一言と共に、ジョンは両手の武器を放った それは自由落下しているビームガンとその付属品に直撃し、爆発を起こした

一瞬の煌めきの直後煙が吹き出て、最後に衝撃波 巻き起こる爆風がスターライトとヒュプノスを打ち据え、二機はバランスを崩した

 

 

 

 

 

 

オーバーロードしたビームガンのジェネレータがとてつもない爆発を起こした 新人の乗るスターライトはそれに巻き込まれてしまう

「ドラグ6!無事か!?」

ゆらゆらと頼りない機動をしながら、スターライトが一機煙から飛び出てくる ドラグ6の機体だ

ラークロスタは胸を撫で下ろした だが今はそんな場合ではない すぐさま気を引き締める

「ドラグ6、味方部隊が来た 彼らに任せて後退を」

レーダーには、戦闘に勝利した味方HMMASが多数接近している様子が写されていた ドラグ6のスターライトは、ブースターで基地の方へ戻っていった

視界の端に、敵機体も撤退していく様子を見ながら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちら本隊 ナイト小隊撤退せよ、繰り返す・・・」

コクピットに野太い男声が届く それはまぎれもなく『敗走』の証明となる言葉だった

「・・・ッ!」

歯を思いきり食い縛った 悔しさに拳を握った だが涙は流さなかった そして死ぬわけにはいかなかった

「隊長・・・」

「ファースト準尉、撤退する ブースターで至急このエリアを離れよう」

「了解しました それから、グレン曹長を回収しました」

「何ッ!?」

アリスの一言は、ジョンを驚かせるのは充分だった

「曹長!無事なのか!?」

「すいません、隊長 ヒュプノスを一機・・・カーペンターとシャックスも見殺しに・・・」

「それなら俺も同じだ、早く戻って怪我の手当てを受けよう 奴等はどんな部隊か特定したんだ、次こそは・・・」

そう言いながら、ジョンはヒュプノスのブースター出力を最大に上げた

「許さん・・・」

その重々しい呟きは誰の耳にも届かなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天にまします我らが神よ・・・」

従軍神父が読み上げる何かしらの詩 死してしまった仲間へ贈るものだが、ラークロスタは知っている

神なんて都合の良いものはこの世にはいないと

その最たる例が戦場だと

「・・・ロバート、ショーン、ジェイキンス、アダムス・・・」

ドラグ分隊のメンバー四人が、その命を散らした 戦場では珍しくないことだ むしろ当たり前だとすら言える

冥福を祈るなんて軽々しく言えない 彼らは死んだ瞬間から意志も概念も全て消えたのだから

「・・・お前か」

ドラグ6が、サクラの隣へ立った

パイロットスーツとヘルメットを脱がぬままだった

二人は黙って、死体袋に入れられていく戦友達を見守った

サクラの黒髪が、風にたなびいた

 




やっと1章終わったぜチクショー!
竜ちゃん活躍させたよチクショー!
この武装予想できたろチクショー!
とりあえず言いたいぜチクショー!

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